ASD(自閉スペクトラム症)とは?専門機関や診断基準を解説【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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ASD(自閉スペクトラム症)は発達障害の一つです。「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」の2つの特徴があります。
この記事では、診断されるときの基準と、「ASD(自閉スペクトラム症)かも」と思ったときに相談できる専門機関や診断基準、受けられる支援についてお伝えします。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ASD(自閉スペクトラム症)とは? どんな症状がある?

ASD(自閉スペクトラム症)とは

ASD(自閉スペクトラム症)は発達障害の一つです。以前は「自閉症」という診断名が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。

ASD(自閉スペクトラム症)の症状

ASD(自閉スペクトラム症)とは、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもには、言葉の遅れやオウム返しなどの特徴がみられることもあります。
また、特定の刺激や活動に対しての強いこだわりも、多くのASD(自閉スペクトラム症)のある子どもに見られる特徴です。「くるくる回るものをずっと見ている」「決まったおもちゃで遊びたがる」「道順が違うとパニックになる」など、興味を示すもの、こだわりを持つものは子どもによってそれぞれです。
また手をひらひらさせたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりといった「常同行動」も、ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもにみられることがあります。
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ASD(自閉スペクトラム症)の原因

さまざまな議論が交わされていますが、ASD(自閉スペクトラム症)の原因はまだ特定されていません。
何らかの生まれつきの脳機能障害である、というのが、現在もっとも有力な説です。はっきりしているのは、しつけや愛情不足など、親の育て方が原因でないことです。

脳の機能障害の原因としては、一部に遺伝的な要因があるのではないか、と推測されています。何らかの先天的な遺伝要因に、さまざまな環境的な要因が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発言するのではないか、と考えられているのです。研究では、複数の要因や組み合わせが影響している可能性が示されていて、ASD(自閉スペクトラム症)のあるすべてにあてはまる唯一の原因はない、とも推測されています。

ASD(自閉スペクトラム症)スペクトラムの診断

ASD(自閉スペクトラム症)は、2022年に発行されたアメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版改訂版)を診断基準にします。

言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、ASD(自閉スペクトラム症)の特徴となる症状が分かりにくい場合があります。ですから、生後すぐにASD(自閉スペクトラム症)の診断がでることはありません。個人差がありますが、早ければ1歳ごろから症状が現れはじめ、3歳までに何らかの症状が出てくると言われています。一般的には3~5歳ごろに気づくことが多いようです。定期検診の時に医師から専門機関の受診をすすめられる家族も少なくありません。家族が夜泣きや睡眠障害などの症状に気づき、子どもの育てにくさを感じていることが多いです。

ASD(自閉スペクトラム症)はなんらかの症状や困りごとに直面してはじめて障害がある可能性に気づきます。そのため、軽度のASD(自閉スペクトラム症)や家族や本人が気付かない場合、大人になるまで分からないこともあります。また、見過ごされたまま困難を抱える人もいるのです。

ASD(自閉スペクトラム症)と診断されることで、特性にあった工夫をしていくことで困難を解決していくことができるようになります。
参考:「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」P.49|日本精神神経学会(監)2014年 医学書院
http://www.amazon.co.jp/dp/4260019074

ASD(自閉スペクトラム症)の種類と分類

発達障害は大きく3つのグループに分けることができます。ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD・SLD(限局性学習症)、知的障害(知的発達症)
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ASD(自閉スペクトラム症)は発達障害のうちの一つです。発達障害は特性やあらわれる困りごとによって分類され、主にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD・SLD(限局性学習症)の主に3つのグループに分けられます。これらは互いに重なりあっている場合もあり、また知的障害(知的発達症)が併存する場合もあります。

※アメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版改訂版)をもとに障害名を以下のように表記しております。
・ADHD(注意欠如多動症)
以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「注意欠如多動症」という診断名になりました。この記事では以下、ADHD(注意欠如多動症)と記載しています。
・LD・SLD(限局性学習症)
学習障害は現在、「SLD(限局性学習症)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。
・知的障害(知的発達症)
現在、『ICD-11』では「知的発達症」、『DSM-5』では「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と表記されていますが、知的障害者福祉法などの福祉的立場においては「知的障害」と使用していることが多いため、この記事では「知的障害(知的発達症)」という表記を用います。

医療機関や、行政や司法の場で使われる疾病分類のマニュアルには、『DSM-5』と『ICD-10』があります。このマニュアルの改訂により、ASD(自閉スペクトラム症)は診断された時期によって、広汎性発達障害と呼ばれたり自閉症スペクトラム障害と呼ばれたりしています。

ICD-10の分類におけるASD(自閉スペクトラム症)の定義

ASD(自閉スペクトラム症)は、世界保健機関(WHO)の『ICD-10(『国際疾病分類』第10版)』の分類では広汎性発達障害に含まれます。

※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。WHOでの公表・承認を受けて、各国では翻訳やICD-10/11 変換表の作成、疾病分類表、死因分類表の作成などの作業が進められ、審議、周知などを経て施行されていきます。ICD-11への改訂によって分類コードが変化すると、書類上で要求されるICDコードが変わったり、疾病概念やカテゴリー、名称や診断基準も変更になる可能性もあります。
参考:ICD-11 | 世界保健機関(WHO)
https://icd.who.int/en/

DSM-5-TRの分類におけるASD(自閉スペクトラム症)の定義

2023年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、それまでの診断基準であるアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版 テキスト改訂版)における広汎性発達障害の分類に変更がありました。

変更点としては、広汎性発達障害のサブカテゴリーである自閉症やアスペルガー症候群が廃止され、レット障害を除くすべての障害名が自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder、略称ASD)に含まれるようになりました。これらは本質的には同じ1つの障害単位であると考えられており、症状の強さに従っていくつかの診断名に分類されます(そのため、spectrum=連続体と呼ばれています)。

その後2022年に『DSM-5』の改訂版『DSM-5-TR』が出版され、2013年以前に自閉症やアスペルガー症候群に分類された症状は、現在ではASD(自閉スペクトラム症)という診断名に分類されるようになりました。

一方で、すでに自閉症という診断名を受けている人も多くいます。また、発達障害者支援法での障害名が「自閉症」であることから、この障害名を使い続けている人も少なくありません。
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