知的障害(知的発達症)の治療法・療育法は?子どもの力を伸ばす接し方のポイントなど【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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知的障害(知的発達症)はさまざまな原因や合併症があり、対処が難しい障害ですが、治療できるのでしょうか?今回は知的障害(知的発達症)の原因やその現れ方、治療法・療育法についてまとめました。また、知的障害(知的発達症)の子どもに対する療育や、子どもへの接し方のポイントなどをくわしくご紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

知的障害(知的発達症)とは?

知的障害(知的発達症)とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。

知的障害(知的発達症)は発達期の間に発症すると定義され、発達期以降に後天的な事故や認知症などの病気で知能が低下した場合は含みません。この発達期とはおおむね18歳までを指しますが、知的障害(知的発達症)は障害の状態を指すため、障害が現れる道筋は人によってさまざまで、具体的な発現時期も人により異なります。
知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルで表わされる)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる。(AAMR,2002)。

(栗田広・渡辺勧持/訳『知的障害 定義、分類および支援体系』2004年,日本知的障害福祉連盟/刊 p17より引用)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4902448017
知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】のタイトル画像

知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】

知的障害(知的発達症)の原因は?

知的障害(知的発達症)の原因は一つではありません。脳障害を引き起こす疾患や要因すべてが、知的障害(知的発達症)の原因となりうると考えられています。また、知的障害(知的発達症)を発症する道筋も一つではありません。

原因不明の知的障害(知的発達症)の人も多いとされていましたが、最近になって少しずつ原因解明の研究が進んでいます。2014年にも脳内タンパク質の遺伝子変異が知的障害(知的発達症)の原因の一つとなるという研究が発表されました。

知的障害(知的発達症)の原因は十分には解明されていない状況ですが、主な要因は病理的要因・生理的要因・環境要因の3つの面から分類できると考えられています。

病理的要因とは、病気や外傷など脳障害をきたす疾患のことで、これらの合併症として知的障害(知的発達症)が一緒に起きることがあります。この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。

一方、特に疾病などがなくたまたま知能水準が知的障害(知的発達症)の範囲内にあるといった場合、生理的要因と呼ばれます。

環境要因は、直接の原因となるわけではありませんが、脳が発達する時期に不適切な環境であることで知的障害(知的発達症)の症状が悪化したり、脳の発達が遅れる原因になったりすると言われています。
「自閉症の分子メカニズム」中井 信裕・内匠透,生化学 90(4): 462-477 (2018)
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2018.900462/data/

病理的要因となる疾患にはどんなものがあるの?

知的障害(知的発達症)を引き起こす病理的要因としては、主に以下のような病気・けがが挙げられます。

・感染症によるもの(胎児期の風疹や梅毒、生後の脳炎や高熱の後遺症など)
・中毒症によるもの(胎児期の水銀中毒や生後の一酸化炭素中毒など)
・外傷によるもの(事故や出産時の酸素不足など)
・染色体異常によるもの(ダウン症など)
・成長や栄養障害によるもの(代謝異常や栄養不良など)
・その他(早産、未熟児、仮死など)

病理的要因を考え、もしその要因が治療可能であれば、知的障害(知的発達症)の程度を最小限に抑えることができるかもしれません。また、その要因が及ぼす影響を予防したり、支援の方向性を検討したりできます。

出生前・周産期・出生後別の主な原因

知的障害(知的発達症)の原因はどのように発現するのでしょうか?出生前・周産期・出生後の3つの時期ごとにご説明します。この中には、まだ詳しい原因やメカニズムが分からないものもあれば、医学の進歩で一部原因が解明されたり、発症を防げるようになったものもあります。

■胎児期
胎児期に発現する遺伝子変異や染色体異常といった先天的な原因が知的障害(知的発達症)を引き起こす場合があります。また、まれに知的障害(知的発達症)の素因となる遺伝子が親から子へ伝わることもあります。フェニールケトン尿症などの先天性代謝異常やダウン症、脆弱X症候群(FXS)などが胎児期に発現する知的障害(知的発達症)の素因としてよく知られています。

ダウン症などの染色体異常が原因の場合、出生前検査などでその可能性が分かる場合もあります。

また胎児期はお母さんのおなかの中で身体や脳などの器官がつくられる大切な時期です。この頃にお母さんを通じて感染症や薬物、アルコールなどの外的要因が胎児に影響したり、お母さんの代謝異常などで栄養不足になったりして脳の発育が妨げられ、知的障害(知的発達症)を引き起こす原因となる可能性もあります。

■周産期
出産前後の事故などによって脳に障害が現れることがあります。母体の循環障害、へその緒がねじれるなどで赤ちゃんの脳に酸素がいかなかったり、出産時に頭蓋内出血が起こったりして脳に障害が残る場合があります。また低体重や早産などにより、脳が未発達のうちに生まれることも原因の一つとなる可能性があります。

これらの出産前後のトラブルは周産期医療の進歩や充実によって少なくなってきています。

■出生後
脳が未発達なうちはけがや病気の影響を受けやく、乳幼児期の感染症や頭部の外傷などが原因になることがあります。日本脳炎や結核性髄膜炎、ポリオ、麻疹、百日咳などに感染し重篤化して脳炎になると知的障害(知的発達症)を引き起こす場合がありますが、予防接種により感染の危険を減らすことができます。また乳幼児期に栄養不足だったり、不適切な養育環境に置かれることで脳の発達が遅れることもあります。

フェニールケトン尿症は出生後すぐの新生児マススクリーニング検査の対象疾患となっており、そこで自動的に検査されます。疾患が見つかったらすぐに食事療法によって血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで、発症を予防することができます。
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知的障害(知的発達症)って治療できるの?

フェニールケトン尿症など一部の病理的要因は、食事療法や薬物投与といった治療法で発症を防げる場合があります。その他の知的障害(知的発達症)については、今現在医学的治療法は確立されていません。

障害を完治させることはできませんが、対応法を工夫したりすることによって、困難さを軽減し、子どものよい部分を伸ばしていくことは可能です。また、学齢期においては特別支援教育をはじめとする支援をうけることで、その子に合った学びの環境を整えることができます。成人後は就職支援なども受けることができます。知的障害(知的発達症)のある方でも、このようにサポートの活用により職場を見つけ働いている方は大勢います。
次ページ「知的障害(知的発達症)の治療・療育の判断基準は? いつから始めるべきなの?」

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