ADHD(注意欠陥・多動性障害)の原因は?遺伝する確率は?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の原因は?遺伝する確率は?のタイトル画像

ADHDは「多動」「衝動」「不注意」の3つの特徴がみられる発達障害です。ADHDは先天性の障害と言われていますが、原因にはどのようなものがあるのでしょうか?また、遺伝との関係性はあるのでしょうか。

6077ad2b372d5a152de8191d73e3e4480c620035 s
191835 View
目次 医学的にADHD(注意欠陥・多動性障害)の発現時期は分かっているの? ADHDの原因は? ADHDは親から子どもへ遺伝するの? 生まれる前にADHDを検査する方法はあるの? ADHDの治療法はあるの? まとめ

医学的にADHD(注意欠陥・多動性障害)の発現時期は分かっているの?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)は英語でAttention Deficit Hyperactivity Disorderの略で、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の詳しい原因はまだ解明されていませんが、先天性の障害と言われています。

ADHDの症状の発現時期は一人一人異なり、また、なんらかの困難に直面したり症状に気づいたりしてから診断を受けるケースがほとんどのため、明確にはわかっていません。ですが一般論としては、生後すぐには症状の確認はできず、2歳ごろから少しずつ症状がみられるようになると言われています。

保育園や幼稚園に通うようになる3~4歳ごろは、定型発達の場合、自律することを覚えたり、社会のルールを学び始める時期ですが、この頃、集団での行動が難しい、先生の指示を聞くことができない、席に座ることができない、落ち着きがない、癇癪をおこしやすいなどの多動性の症状が同年齢の子どもに比べて目立つようになると言われています。園の先生や、3歳児健診で医師から指摘されて気づくケースもあります。

小学校に上がる7歳ごろになると顕著に症状がみられるようになるため、ADHDの確定診断が下される場合が多くなります。(文部科学省の定義では7歳以前に症状が現れるとされていますが、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)では、診断年齢は7歳以前から12歳以前に引き上げられています。)

他にも大人になってからADHDの診断を受けることがありますが、大人になってから突然ADHDの特性が発現したということではありません。先にも述べたようにADHDは先天性のものなので、大人になってからADHDの症状で悩んでいる場合でも、実際には子どもの頃からADHDの特性はあったが、それまで分かりにくかった、発達障害によるものではないと思っていた、などが考えられます。

※ADHDは2014年に日本精神神経学会により正式には「注意欠如・多動性障害」という名称に改名されました。しかしながら、現在でもADHD(注意欠陥・多動性障害)の名称を使う人が多いので、本記事ではこちらを障害名として使っていきます。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめのタイトル画像
関連記事
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめ

ADHDの原因は?

ADHDの症状が起こる確かな原因はまだ解明されていません。主に「遺伝的要因による脳の機能障害説」「環境的要因の説」があり議論や研究が重ねられています。現在有力だとされている素因は脳の前頭野部分の機能異常です。近年の研究から、ADHDの人は、行動等をコントロールしている神経系に機能異常があるのではないかと考えられています。

前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。この部位は注意を持続させたり行動などをコントロールさせたりします。ADHDの人は、この部分の働きに何らかのかたよりや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。

前頭葉が働くためには、神経伝達物質のドーパミンがニューロンによって運ばれなくてはいけません。しかしADHDの人の場合ニューロンによってドーパミンがうまく運べず、前頭葉の働きが弱くなってしまうと考えられています。それが原因で「多動」「衝動」「不注意」の3つの特徴が現れます。

ADHDの人は五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまう傾向がありますが、それも前頭葉の働きが弱いからだと言われています。思考よりも五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまい感覚を過剰に感じてしまうので、論理的に考えたり集中するのが苦手となる傾向があります。

また、最近の研究では、遺伝的要因とともに、胎児期・発育期の環境的要因も相互に影響を及ぼすといわれています。様々な関連の可能性について、研究が進められていますが、まだはっきりとした因果関係についての結論は出ていません。

まだ明確な原因の解明には至っていませんが、ADHDには複数の関連遺伝子が素因としてあり、それらが様々な道筋をたどって、このような特有の脳機能の偏りを引き起こし、ADHDの症状につながるのではないかと言われています。つまり、先天的な遺伝的要因による脳の機能異常があり、それが様々な環境的要因と相互に影響し合ってADHDの症状となると考えられるので、以前言われていたような親の育て方やしつけが直接の原因という説は誤解です。

ADHDは親から子どもへ遺伝するの?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の原因は?遺伝する確率は?の画像
Upload By 発達障害のキホン
親からの遺伝によって子どもがADHDになる可能性はあるのでしょうか?

ADHDは脳の機能障害が原因であると考えられています。脳の機能障害には、遺伝的要因が関連するという研究結果も出ています。親からの遺伝が原因となって発現する可能性を確率によって表すことはできませんが、ゼロであるとは言い切れないと考えられています。

また、現在、双生児研究や家族性についての研究が盛んに進められています。

ADHDの原因は、医学的にはまだはっきりとはわかっていません。
しかし、「家族性」があることや、周囲の「環境」にも原因があると考えられています。

ADHDには、「家族性」があることがわかっています。 家族性というのは、家族に糖尿病や近視の人がいると、自分もそうなる確率が高くなるという意味です。 病気の遺伝子を受け継いだ子どもが、親と同じ病気を発症する「遺伝」とは少しニュアンスが違います。

アメリカで行われたある調査によると、父親か母親のどちらかにADHDがあると、その子どもにADHDがあらわれる確率は最大50%だといわれてます。また、兄弟姉妹にADHDの子どもがいる場合、いない子に比べ5~7倍の率で発症するというデータもあります。 しかし多動・衝動的な行動に対しては、周囲の対処の仕方で症状の出方は大きく変わります。 ADHDの家族性がある一卵性双生児でも、両方の子が発症する確率が100%ではないのは、成育環境などの影響によるものと考えられます。

出典:http://www.dr-maedaclinic.jp/dq140.html
「家族性」とは、ADHDのある人がいる家系の場合、ない家系より発現しやすい傾向があるということですが、これもまだ研究段階ではっきりと確率が出ているわけではありません。

家族間では遺伝による体質と、生育環境が似ているため、このような傾向が出るのではないかと考えられていますが、ADHDは体質や環境要因が相互にかつ複雑に影響して発現します。また、遺伝子が一致する一卵性双生児でも100%の確率で発現しないことから、単純に親がADHDだからといって、子どもにADHDが遺伝するということではありません

生まれる前にADHDを検査する方法はあるの?

生まれる前に赤ちゃんの病気や障害の有無を調べる出生前診断が発達してきています。超音波検査・NIPT・絨毛検査・NT超音波検査・母体血清マーカー・羊水検査・新出生前診断・胎児ドッグなど様々な出産前診断がありますが、現在のところADHDが出産前に分かる検査や診断はありません

ADHDの治療法はあるの?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の原因は?遺伝する確率は?の画像
Upload By 発達障害のキホン
現在の医学では、薬や手術などでADHDを完全に治療することはできません。しかし、ADHDによる困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、ADHDの特徴を緩和する治療薬は存在します。また普段からの対応法を考えることによって、本人が生きやすい環境を作ることも可能です。

子どものADHDの場合

子どものADHDの特徴を緩和させるためには「教育・療育の支援」を行うことが一般的です。場合によっては「投薬」を行うこともあります。

教育・療育支援は、子どもの周りの環境を整えたり、本人がその場に適した行動などを学ぶソーシャルスキルトレーニングを学んだり、親が具体的な対処法を学んだり(ペアレント・トレーニング)することによって自分の特性を理解して、感情や行動をコントロールできるようにするものです。以下で具体的に説明します。

・環境調整
この環境は、教育現場における環境をさします。たとえば集中が難しい子の場合は、その子の机の周りに無駄な刺激物を置かないようにするなど教室の環境を調整します。

・ソーシャルスキルトレーニング
SSTとも呼ばれており、様々な特性を持つ本人が社会や生活において適切に行動できるようにロールプレイなどを行いトレーニングします。紙芝居や遊びを用いたシミュレーションなどを行います。

・ペアレントトレーニング
保護者が子どもに対して療育的な訓練を行えるようになるよう、親向けにトレーニングをすることです。注意の仕方、アドバイスの仕方、褒め方などを学びます。

このような療育は、発達障害専門の病院や公立・民間の児童発達支援事業所などで学ぶことができます。このような場所に通うことによって、本人の良い部分を磨いていくことができます。

近年、脳内の神経伝達物質の、ノルアドレナリン再取り込みを阻止する薬のストラテラ(アトモキセチン)と中枢神経を刺激するコンサータ(塩酸メチルフェニデート徐放剤)が認可され、薬物療法が行われることもありますが、人によっては副作用が出ることがあります。多用するのは避け、必ず医師とよく相談した上で適切な量を使い、最低限の利用にするようにしましょう。また、ただ薬を利用して子どもを落ち着かせるのでははく、落ち着いている時には必ずスキルトレーニングなどを行いましょう
ペアレントトレーニングとは?種類と効果、受けられる場所と費用まとめのタイトル画像
関連記事
ペアレントトレーニングとは?種類と効果、受けられる場所と費用まとめ

大人のADHDの場合

心理社会的アプローチ薬物療法の2つがあります。

心理社会的アプローチは、周りの環境を整える環境調整や、暮らし、生活環境や人間関係などの見直しなどを行います。子どものADHD治療のひとつのペアレント・トレーニングの考え方を応用をすることで周りの人に気をつけて欲しいことなどを伝えることができます。

薬物療法は大人の場合でもストラテラ(アトモキセチン)とコンサータ(塩酸メチルフェニデート徐放剤)を使っていることが多いです。食欲不振などの副作用があるので、医師と相談の上、用法・用量を守って使用しましょう。

まとめ

ADHDの原因には様々な説があり、研究が進んでいますが、まだ現在ははっきりとしたことは分かっていません。しかしADHDの原因がわからなくても、ADHDによる困難さを解消することはできます。

ADHDの症状が原因で子どもが問題行動やトラブルを引き起こしてしまうことが多くあり、保護者のしつけ不足や愛情が足りていないせいだとか、育て方が悪いと言われることもあります。しかしADHDは先天性の要素が原因なので、決してしつけ不足や愛情不足、育て方が原因で起こっていることではありません。中には子どものADHDの症状をみて、自らに責任を感じてしまう保護者の方もおられるとは思いますが、育て方が原因ではないということを知っておきましょう。また周りの人々も育て方やしつけが原因ではないということを把握し、保護者・子ども本人のサポートをしましょう。

ADHDは特性のひとつです。その子にあった環境を整えたり、接し方を工夫することで、長所を伸ばし、逆にその特性を強みとして活かすことができます。その子らしく生きられるようにするために、子どもがのびのびと育つことができる環境を、周りが整えられるように心がけましょう。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめのタイトル画像
関連記事
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめ
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断・検査の内容は?ADHDの特徴チェックのタイトル画像
関連記事
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断・検査の内容は?ADHDの特徴チェック
5a9f9be3a4c4f2b420bb57b06f1121b9c3f754e5 s
監修: 井上 雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
応用行動分析学
自閉症支援士エキスパート
LITALICO研究所 所長 (アドバイザー)
当サイトに掲載されている情報、及びこの情報を用いて行う利用者の行動や判断につきまして、正確性、完全性、有益性、適合性、その他一切について責任を負うものではありません。また、掲載されている感想やご意見等に関しましても個々人のものとなり、全ての方にあてはまるものではありません。

オカモッチ さん
2016/12/02 23:51
このような理解が社会に広がっていくことが大切だと感じます。よくまとまっている素晴らしいコラムです!

Avatar11
Column title

あわせて読みたい関連記事

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめのタイトル画像

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?症状の分類と年齢ごとの特徴 、診断方法や治療まとめ

ADHD(注意欠陥・多動性障害)は不注意、多動性、衝動性の3つの症状がみられる発達障害のことです。周りに理解されづらく、仕事や学業、日常の...
発達障害のこと
3313005 view
2017/08/30 更新
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?年代別の特徴や診断方法は?治療・療育方法はあるの?のタイトル画像

自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?年代別の特徴や診断方法は?治療・療育方法はあるの?

自閉症スペクトラム障害とは対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動がある障害です。自閉症やアスペルガー症候群な...
発達障害のこと
960570 view
2016/09/29 更新
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療法・療育法は?治療薬は効果的なの?のタイトル画像

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療法・療育法は?治療薬は効果的なの?

ADHDの治療法にはどんなものがあるのでしょうか?またどのような療育法が適しているのでしょうか?ADHDの治療薬の効果や副作用、薬以外の治...
発達障害のこと
248217 view
2016/06/11 更新
ADD(注意欠陥障害)とは?症状やADHDとの関係性、ADDの特性ならではの治療法をご紹介します!のタイトル画像

ADD(注意欠陥障害)とは?症状やADHDとの関係性、ADDの特性ならではの治療法をご紹介します!

ADD(注意欠陥障害)はかつて使用されていた発達障害の診断カテゴリーです。現在の診断分類に照らし合わせるとADHD(注意欠陥・多動性障害)...
発達障害のこと
76147 view
2017/09/07 更新
カナー症候群(カナー型自閉症)とは?アスペルガーとの違い、症状、年齢別の特徴、子育て・療育法を紹介!のタイトル画像

カナー症候群(カナー型自閉症)とは?アスペルガーとの違い、症状、年齢別の特徴、子育て・療育法を紹介!

「カナー症候群」とは知能や言葉の発達の遅れ(知的障害)を伴う自閉症の通称です。現在の医学的な診断名としては「自閉症スペクトラム」と呼ばれる...
発達障害のこと
56234 view
2017/06/21 更新

この記事を書いた人

発達障害のキホン さんが書いた記事

相貌失認とは?症状、原因、相談・診断・受診先から、発達障害との関わりについて解説しますのタイトル画像

相貌失認とは?症状、原因、相談・診断・受診先から、発達障害との関わりについて解説します

相貌失認があると”誰の顔なのか"を認識できません。親や子どもなど近しい人の顔が分からない人もいます。2013年にブラッド・ピットが相貌失認...
発達障害のこと
3108 view
2017/11/13 更新
スクールカウンセラーとは? 具体的な仕事内容から相談できること、相談する時のコツをご紹介!のタイトル画像

スクールカウンセラーとは? 具体的な仕事内容から相談できること、相談する時のコツをご紹介!

スクールカウンセラーとは、学校現場で子どもや保護者などの心のケアや支援を行う人です。教員とともに親子をサポートするほか、教員への指導・心の...
進学・学校生活
3390 view
2017/11/01 更新
ワーキングメモリとは?生活に不可欠な役割、発達障害との関係、調べ方、対処法をご紹介!のタイトル画像

ワーキングメモリとは?生活に不可欠な役割、発達障害との関係、調べ方、対処法をご紹介!

ワーキングメモリは、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力です。この機能は会話、読み書き、計算など日常のあらゆる判断や行動に関...
発達障害のこと
11193 view
2017/10/29 更新
特別支援学級を徹底解説!障害ごとの教育内容から卒業後の進路までのタイトル画像

特別支援学級を徹底解説!障害ごとの教育内容から卒業後の進路まで

通常の学級、特別支援学級や通級指導教室、支援学校などの様々な選択肢から、お子さんの就学先を選ぶことに悩む保護者の方は多いのではないでしょう...
進学・学校生活
258158 view
2017/10/29 更新
発達障害に関するお薬総まとめ!薬に期待されること、種類、副作用など薬にまつわること一挙紹介します!のタイトル画像

発達障害に関するお薬総まとめ!薬に期待されること、種類、副作用など薬にまつわること一挙紹介します!

発達障害の診断を受け、治療の一環として薬を処方される方も少なくありません。しかし、薬物治療と言うと不安もあるでしょう。この記事では、薬と正...
発達障害のこと
15005 view
2017/10/20 更新
コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。