ADHD(注意欠如多動症)の子どもの接し方は?【専門家監修】 

ライター:発達障害のキホン
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ADHD(注意欠如多動症)の症状がみられる子どもの子育ては、さまざまな困難があるものですよね。しかし、ADHD(注意欠如多動症)の特性を理解し、接し方を少し変えるだけで状況は大きく改善します。ADHD(注意欠如多動症)あるの子どもへの接し方と、困難への対処法を具体的な例をあげて紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ADHD(注意欠如多動症)の子どもの生活での9つの困難と対処法

ADHD(注意欠如多動症)は、話を集中して聞けない、作業が不正確、なくしものが多いといった「不注意」、体を絶えず動かす、離席する、おしゃべり、順番を待てないなどの「多動性」「衝動性」の特性があり、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。特性のあらわれ方によって多動・衝動性の傾向が強いタイプ、不注意の傾向が強いタイプ、多動・衝動性と不注意が混在しているタイプなど主に3つに分けられ、これらの症状が12歳になる前に出現します。特性の多くは幼い子どもにみられる特徴と重なり、それらと区別することが難しいため、幼児期にADHD(注意欠如多動症)であると診断することは難しく、就学期以降に診断されることが多いといわれています。また、個人差はありますが、年齢と共に多動性が弱まるなど、特性のあらわれ方が成長に伴って変化することもあります。
ADHD(注意欠如多動症)のある子どもにはどのような困りごとがあるのでしょうか。

以下に、よくある9つの困りごとと、それぞれの対処法を紹介します。

1. 部屋を散らかしっぱなしにして片付けられない

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもの中には、片付けが苦手な子が多いです。好奇心旺盛でおもちゃや絵本など気になる物をどんどん出していきますが、散らかすばかりで片付けられないこともあります。

いきなりきちんと整理整頓するのはかなりハードルが高いものです。例えば家の中でおもちゃを出していいゾーンや部屋を決めましょう。こうすることで家中が散らかされてしまうことを防ぐことができます。そして、例えばその「ゾーンから出たおもちゃなどは、ママのおもちゃにします」などと子どもと約束しましょう。そうすることによって、子どもも約束を守ろうと思うはずです。またゾーン内だけでおもちゃを出して遊べたら褒めてあげましょう。

また、部屋の隅などに大きな箱を置くなど、おもちゃを片づけるスペースのルールを作り、片づけの仕方を分かりやすくします。多くの場所に色んなものを片付けるより、子どもにとってルールが守りやすくなります。また、片付ける箱や入れ物に中に入れるべきものの絵や写真を貼ると、何をどうするべきなのかより理解しやすくなります。

片づけられたら、「ちゃんと片付けられたね、えらい!」と忘れずに褒めましょう。片づけ終わった時から時間が経ってから褒めるのではなく、その場で褒めてあげることを心がけましょう。

2. 宿題を何度言ってもやらない

子どもに何度注意しても宿題をやらないことがありますよね。宿題をやっている途中で他のことをやり始めたり、親から確認するまで宿題をやろうとしなかったり、ついついイライラして怒鳴ってしまったりしていませんか?ADHD(注意欠如多動症)のある子どもが宿題をやらなかったり忘れることには理由があります。

・宿題よりもやりたいことを優先してしまう
・宿題をやっている最中に気が散ってしまう
・宿題があることを忘れてしまう
・学校の勉強に集中できないので、宿題が分からない

大きな原因としては、この4つが考えられます。一つずつの対処法を見ていきましょう。

まず気が散って宿題ができない場合には、子どもが集中しやすい環境を作ってあげることが大切です。勉強するスペースを部屋の端にしたり、ついたてを使って視覚的な刺激が入らないようにし、注意が他のところに行かないような環境を作りましょう。机の上は片づけ、宿題をするのに必要なものだけを準備すると、やるべきことに集中できます。

次に、宿題があることを忘れてしまう場合には、しっかり管理する方法を子どもと一緒に見つけましょう。例えば、宿題は必ず決めたファイルに入れるというルールを決めることで、そのファイルを見るだけで宿題があるかどうかが分かります。連絡帳や宿題ノートに書いたり、担任の先生に協力してもらうのもの一つの手ですね。

また、本人が好きな活動を先に始めてしまうと、それを中断して宿題をするのが難しくなることがあります。その場合は、まず「ご飯の前に宿題をする」「ゲームは宿題が終わってから」など、いつ宿題をするか、明確なルールを子どもと一緒に決め約束します。

そしてスケジュールなどを活用して、できるだけ最初に宿題に取り組むように習慣づけていきましょう。長い時間集中できない場合は、タイマーやスケジュールを活用し、休憩をはさむようにしたり、教科や課題を変えて新しい気分で取り組めるようにしたりするなどの工夫が効果的です。

最後に、授業に集中できないため宿題が分からないのであれば、学校に協力してもらい、授業にも集中できる環境を用意してもらいましょう。一番前の席に座ってできるだけ注意が散漫にならないようにしたり、先生にこまめに声かけしてもらうようお願いしましょう。

勉強が苦手な場合には、毎日時間を決めて親が一緒に勉強を教えたり、個別指導塾や家庭教師を検討するのもよいでしょう。

3. 突然飛び出す。すぐにどこかへいなくなる

親にとっては本当にドキリとする行動で悩まされてしまいますね。レジでお金を払おうとした瞬間や、横断歩道、道路や公共の場所と様々な場所で突然飛び出してしまったり、いなくなってしまうことがあります。

飛び出しに危険が伴う場合には、子どもの命を守ることが第一です。まだ幼い年齢の時にはハーネスなどを使ったり、歩くと音が鳴るサンダルなどで動きがわかるようにするのもおすすめです。万が一に備え、GPS機器などを持たせてもよいでしょう。

原則としては、飛び出した時に単に叱るだけではなく、親や周囲の人に行き先を伝えてから行動するように習慣づけることが大切です。
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ハーネスが使えない時、外出時の安全確保に役立つテクニックとは?

4. 友達に乱暴をしてしまう

友達に手を上げたり乱暴をすることがあります。この場合には、ただ感情的に叱るのではなく、まずは本人の気持ちを落ち着かせることを優先しましょう。次にどうして乱暴をしてしまったのかの理由を聞いてあげましょう。そして「そうだったんだね、○○な思いをしたんだね」と気持ちに共感してあげ、でも「乱暴をするのは良くない」のだということを伝えます

その上で、乱暴をする以外で問題を解決できる行動を提案してみましょう。「次からは○○しないで(言わないで)って言ってみたらどうかな?」などです。ルール化して、絵や文章にして明示しておくとよいでしょう。なかなかすぐには改善できないかもしれませんが、諦めずにわかりやすい方法で伝えてください。

5. ゲームに熱中してやめない

まずは「ゲームを○時までやってもいい」「勉強や宿題をすませてからゲームをする」など子どもと約束をします。そして、「ママが声をかけたらゲームをやめる」、「キッチンタイマーなどをセットして鳴ったらゲームを終わりにする」など明確なルールを決めておきます。宿題や勉強を終えてからゲームを始めた時には、きちんと約束を守れたことを褒めてあげましょう。

まずは宿題の後にゲームをするという約束を定着させることから始めましょう。それまではゲームに熱中しすぎて約束の時間を少し過ぎたとしても叱らないようにしましょう。この約束が定着してきたら、ゲームの終了時間を定着するために約束を守らせましょう。約束は1つずつすることがコツです。

6.癇癪を起こして暴れる

ゲームで負けるなど、自分の思い通りにならないと、癇癪を起こしたり、暴れたり……。感情がうまくコントロールできず、我慢ができないADHD(注意欠如多動症)の特性によるものですが、そんなとき対応する大人が感情的に反応すると、ますますヒートアップしてしまいます。

暴れているときに叱っても、子どもの心には届きません。一度トラブルの原因がある場所から離して、しばらく別の部屋などに移動させ、大人も少し距離をとってクールダウンを促します。
 
負けて悔しい、と思う気持ち自体は悪くないので、落ち着いて話を聞ける状態になったら、「悔しかったんだね。」と子どもの気持ちを受けとめてあげましょう。その上で、子どもの態度は問題にせず、論理的にわかりやすく何がいけなかったかを伝えます。癇癪を起こすのではなく、別の方法で悔しさを表現したり落ち着き方を学べるように一緒に解決法を考えましょう

7. 落ち着きなく動き回る

じっとしていられないと、特に外出先や学校などでトラブルになったり、周囲の人に迷惑がかかるのでは、とパパ・ママはひやひやしてしまいますね。

ADHD(注意欠如多動症)の症状の一つ、落ち着きのなさは、不慣れな場所や緊張を強いられる場所、刺激の多い場所で起きやすいのが特徴です。不安な気持ちら引き起こされるので、強く注意されると、より緊張してコントロールが難しくなります。

外出先などで静かにしてほしい時やおとなしく待ってほしい時は、好きな絵本やDVDなどを見せる、絵が好きならお絵セットを持って行って描かせるなどの工夫をするとよいでしょう。

また、ADHD(注意欠如多動症)のある子どもは筋力やバランス感覚の弱いことも考えられます。姿勢を保つのが難しく疲れやすいことも、じっとしていられない原因の一つなのです。動き回ったり、休憩したり、リラックスできる時間を意識して取り入れましょう。日頃から筋力やバランス感覚をつけるように運動機能面のトレーニングをしてみてもよいでしょう。

また、多動をおさえられたときにタイミングよくほめるのも効果的です。おとなしく座っていられたら「頑張ったね。おとなしくしていられたね」と肯定し、頑張りをほめます。最初は2、3分からスタートし、少しずつじっとしていられる時間を伸ばしていくようにします。

8. 忘れ物が多い

不注意から忘れ物が多くなってしまいます。ADHD(注意欠如多動症)がある場合、ワーキングメモリという記憶の機能不全が原因なので「本人が本当に困れば、次から気をつけるはず」と放っておいても絶対に解決しません。

学校の準備などは子どもと一緒に確認しながら進めます。イラストや写真入りの持ち物メモをつくり、チェックするのもおすすめです。荷物はできるだけひとまとめにしたり、ノートは全教科で1冊にしたり、工夫して持ち物を少なくするのもよいでしょう。繰り返し、根気よく続けることで、こまめに確認する習慣をつけることが大切です。

9. 声が大きく、いつもしゃべっている

声にボリュームが何段階があることを教えて、「お友達と近くでおしゃべりする時にはボリュームはどれぐらい?」「電車のではどのボリュームでしゃべってもいいの?」などたずねながら教えていきます。

また、声に出して言うべきことと心の中で言うべきことの違いを教え、心の声は心の中だけでおしゃべりをして声に出さないことを教えます。「しずかにお話を聞けて、えらかったね」などと、できたらほめることも忘れずに。

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもへの接し方は?

指示は具体的に一つずつ

くどくどと長い説明や、「ちゃんとして」「急いで」など抽象的な言い方は、ADHD(注意欠如多動症)のある子どもには伝わりにくいことがあります。予定ややってほしいことを短く具体的に伝えてあげることを心がけましょう。

ついあれこれと一度にやってほしいことを言いたくなりますが、どうしていいか混乱したり、ハードルが高いと失敗や自信を失う原因になります。できそうなことに一つずつ取り組む「スモールステップ」で進めましょう。

高いところに登ったり、やって欲しくないことをした場合も、「ダメ」「やめて」「この前も言ったでしょ!何度も言わせないで」などと感情的に怒るのではなく、「落ちたら危ないから降りて」「○○を下に置いて」など分かりやすく具体的に注意するようにします。

視覚的な工夫をする

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもは言葉の指示を理解しにくい場合があります。中には視覚的な情報に強く、文字を見るより絵やイラストからのほうが物事を理解しやすい子もいます。なるべく視覚的な情報を使って具体的に指示してあげましょう。イラストを見せてあげることによって自分の意志を伝えたり、その子にあった方法で表示するのがおすすめです。

守りやすいルール&ごほうびでやる気を引き出す

どうしたら本人がやりやすいか、約束ごとを守りやすいかを考え、本人が実現可能なルールや目標をつくります。子どもに説明し、納得したらルールを守る約束をします。

約束が実行できたら、ごほうび制にするのもおすすめです。ADHD(注意欠如多動症)のある子どもはごほうびがあると頑張れます。シールなどの目に見えるごほうびや、ごほうびリストをつくっておいて、できたらもらえるシステムもやる気と達成感につながるのでおすすめです。これを繰り返すことで、「目標を立てて実践する」というよい練習になります。

我慢できる時間や頑張れることは、少しずつ増やしていくようにしましょう。

良いことやできたことに気がついたらすぐに褒める

良いことをしたり何かできたことがあったら、できるだけすぐに褒めてあげましょう。ほめることで、どういう行動をすべきかもわかりますし、本人の達成感や認められたと感じることで自己肯定感につながります。

ほめる時には目を合わせて、ちょっとオーバーかな?と思う程度でもいいので大げさに褒めてあげましょう。ふだん注意されたり怒られたりという機会が多いADHD(注意欠如多動症)のある子どもにとって、成長のために褒めるのは大変重要となってきます。できて当たり前のことでもよいのです。良いことやできたことがあったとき、積極的にコメントをしてあげましょう。
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ADHD(注意欠如多動症)のある子どもに接する際に注意するべきこと

1. 子どもを傷つけない効果的な叱り方を

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもは、傷つきやすく、自分を否定したり、悲観的になりやすい面があります。子どもが悪いことをしたら注意しますが、そのときには以下に注意します。

・きつい口調で感情的に叱らない
・人格を否定するような叱り方をしない
・他の子と比べない
・ミスが多くてもあれこれ細かいことを一度に注意しない

上記のような叱り方だとかえって怒られているということだけしか頭に入ってこない場合があったり、反抗心を刺激するだけになることがあります。子どもの近くに行って、静かに穏やかな声で指摘をしましょう

障害がある無いに関わらず体罰は絶対してはいけません。お子さんの心が傷つくだけでなく、自らも暴力をふるうようになってしまいます。何度言ってもなかなかできないときなど、親としてはつらく大変ですが、それはADHD(注意欠如多動症)の特性によるもので、一番つらいのは本人のはずです。根気よく向き合ってあげましょう。

2. うまくいかないときは理由を考えて環境を変える

できないときや、トラブルが起きたときは、子どもをしかるだけではなく、その理由を考えることが重要です。

・ハードルが高すぎた
・その子に環境ややり方が合っていない
・指示の出し方が分かりにくかった

など、うまくいかない原因が見つかったら、解決法をさがし、子どもがやりやすいように環境を変えていきます。

3. 障害を正しく理解する

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもはその特性から、周りから理解を得られず、孤立してしまうことも。周りの人に障害について知ってもらう機会をつくりましょう。また、子ども同士のトラブルについても、本人や友達にも、年齢や理解度に応じて話し、解決できるよう一緒にサポートをしましょう。

・親の育て方やしつけのせいではない
・なまけたり、相手を困らせようとしているのではない
・本人自身ではコントロールできず、悩んでいる

上記を伝え誤解を解くとともに、具体的な対処法を一緒に考え、周囲と協力体制をつくっていけるとよいですね。

4. ストレスに気をつける

子育てをしていると、何度も同じことで叱らないといけないことがあります。叱るほうはうんざりしますし、叱られる方はだんだんと自信をなくす、悪循環に陥りがちです。

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもの場合、不安や緊張、疎外感が強まると症状が激しくなってしまいます。トラブルが続くことで劣等感を抱いたり自己評価が低くなりやすく、ストレスがたまるとうつなどの二次障害にもつながります。反抗的な行動をとってしまう「反抗挑戦性障害」を引き起こすことも少なくありません。

また、子どもに向き合う大人も、何度も注意してイライラしたり、周囲の無理解に接したり、苦しいことも多いでしょう。親が心身の健康を崩してしまう場合も多いと言われています。

深刻に考え、思いつめるとかえって事態は悪化することもあります。注意をしたから、工夫をしたからといってすぐにできるものではないと割り切ることも時には必要です。ゆっくりと少ずつできるようになるのを待ちましょう。そして悩みは一人で抱え込まず、児童相談所や療育センターなどの身近な専門機関で相談したり、周囲に協力を求め、ストレスをためこまないことが大切です。

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