広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)は治療できる?薬は効果的なの?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の原因はまだ解明されていませんが、治療はできるのでしょうか? 広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の症状や療育法、治療薬について解説します。また、子どもの困難を取り除くための接し方や子育てのコツも紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

広汎性発達障害とは? ASD(自閉スペクトラム症)とは違うの?

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)は、コミュニケーションや対人関係に困難があり、パターン化した行動や強いこだわりが見られる発達障害の総称として使われていた診断名です。

広汎性発達障害とASD(自閉スペクトラム症)

日本の医療機関では、診断基準としてアメリカ精神医学会の『DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)』が用いられています。
2000年に刊行された『DSM Ⅳ‐TR』(『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版)では、自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が「広汎性発達障害」というグループ名で分類されています。
ただ、『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合てからは、広汎性発達障害の分類はなくなりました(※「レット症候群」についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因であることが分かったため、『DSM-5』からは同じグループではなくなりました)。現在は、自閉スペクトラム症(ASD)/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。

ですが、広汎性発達障害という名称で診断を受けた人もいることから、この記事では広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)と表記します。

※自閉症…以前は「自閉症」という診断名が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。

※アスペルガー症候群…以前は、言葉や知的の発達に遅れがない場合「アスペルガー症候群」という名称が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
成人の方のなかには、旧診断名の「アスペルガー症候群」で診断された方も多いため、本記事では「アスペルガー症候群」の名称を使用します。また『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づき、解説します。
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アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)とは?特徴と相談先【専門家監修】

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の症状

保護者が気づく子どもの様子として挙げられるものに「視線を合わせない、または避ける」「言葉の発達が遅い」などがあります。また、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のある人のほとんどに何らかの感覚過敏が見られます。小さな物音を怖がったり(聴覚過敏)、抱っこされることを嫌がったり(触覚過敏)、偏食が多かったり(味覚過敏)するのは、感覚過敏の代表的な例です。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)にはさまざまな特性がありますが、特性によって特定の症状や行動がでたら治療が必要という明確な線引きはできません。また症状によって対処法や治療プログラムは異なります。
治療を検討するタイミングは、本人が特性による困りごとに直面したとき。専門家による治療や支援によって、困りごとを解消できたり、別の対処法が見つかることもたくさんあります。障害があるのではないかと感じた場合には、まずは近くの保健センターや子育て支援センター、児童発達支援センターなどの専門機関に相談しましょう。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の定義

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)は主に「社会性・対人関係の関係・コミュニケーションの困難」「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」の特性があるといわれています。専門機関においても上記の2つが見られるかを本人や保護者への問診や本人の行動観察などから評価・判断します。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の原因

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、脳の機能障害が関わっていると考えられています。育て方が原因で起こるものではありません。

最近では遺伝的要因の関与が有力視されていますが、必ずしも単純に親から子どもへ遺伝するという意味ではありません。遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に影響しあっていることが原因ではないかといわれています。しかしながら具体的な障害の原因やメカニズムは分かっておらず、さまざまな説が議論されている段階です。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)って治療できるの?

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)はいわば生まれもった特性であり、障害自体を薬や手術で根本的に治療することはできません。しかし、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)による困難を緩和・解消するための教育・療育によるアプローチは存在します。本人が困難への対応法を学んだり、困難を未然に防ぐための環境調整をすることで、生きやすい環境をつくっていくことが大切です。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のある人はその特性ゆえに、生活する中でさまざまな困難にぶつかることがあります。他者の感情の読み取りが困難なため、相手の意図を誤解してしまったり、コミュニケーションがかみ合わなかったりする場合があります。抽象的な指示が理解できないために同じミスを繰り返したり、こだわりのため順番やルールを守れずトラブルになったりすることもあります。中には自分に自信をなくしたり、周りに強い被害者意識を持ってしまうことも少なくありません。

こういった日々の困難さが、うつ病やひきこもりなどのいわゆる二次障害の引き金となることもあります。特に思春期以降は、不安症や気分変調症などの予防が大切です。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の特性による困りごとを緩和するのに加え、こうした二次障害のリスクを極力なくすためにも、周りが障害の特性についてよく理解し、どのように対応すれば本人が行動しやすいか、生きやすいかなどを考えていくことが必要です。

また、一部の症状に対しては薬物療法が有効なこともあります。薬物療法は、うつ病や睡眠障害などの二次障害に対しても行なわれることがあります。これらの二次障害に対する治療の一つとして、心理療法である認知行動療法の有効であることも示されています。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の療育法は?

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の根本治療はできませんが、症状や日常での困りごとを緩和するためには療育的アプローチが効果的です。

療育を用いた支援の場では、遊びを通じてコミュニケーションの取り方を学んだり、友達をつくったりすることができます。また、ストレスを抱えがちな親にとっては、相談できる場所であり、同じ悩みをもつ親同士の交流の場所にもなっています。
療育を用いた支援の効果は個人差があり、子どもに合ったアプローチが必要となりますが、子どもにとっても親にとっても療育は心身における大きなサポートになると言えるでしょう。
広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の療育的な支援方法はさまざまですが、下記の4つがよく知られています。ここでは簡単に概要のみを説明します。

■ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)
人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。広汎性発達障害に対する療育だけでなく、他の障害や教育、福祉、医療、スポーツ分野でも利用されています。

■TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)
米国ノースカロライナ州で生まれた、自閉スペクトラム症の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。

■PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)
絵カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。上記のABAの原理に基づいて作成されています。

■SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)
対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングの総称です。

紹介した療育的な支援方法はごく一部ですが、支援機関ではこれらの理論や方法を組み合わせたり、独自のプログラムを利用して、子ども1人ひとりにあった療育的支援が行なわれます。
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療育的アプローチを始める年齢は?

療育を用いた支援は何歳からでも始めることができますが、なるべく早くから通うことが推奨されます。
療育で発達の状況や障害の特性に応じた関わりを受けることで、できることが増えたり、隠れている力を引き出すことができるといわれています。また、早くから療育を行うことは、不登校やいじめ、抑うつなどの二次障害の予防にも有効だと考えられています。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)への薬物療法は?

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の治療に、薬物療法が選択されることもあります。ただし、一部の症状に対する対症療法として用いられるもので、障害を根本的に治療するものではありません。

例えば、パニック症状がある場合は症状を緩和するためには抗精神病薬、てんかん発作や感覚過敏がある場合には抗てんかん薬などが処方される場合もあります。そのほかさまざまな症状に対して薬物療法が行なわれますが、薬は一時的なもので、症状が完全になくなるというわけではありません。症状が軽減している間に、教育や支援を行うと効果的であるともいわれています。

また薬には副作用が出ることもあります。薬の使用は必ず医者の指示を守りながら使うようにしましょう。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の二次障害の治療

適切な治療やサポートを受けられない場合、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の主症状とは異なる合併症や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的には「二次障害」と言います。

注意すべき症状・状態には以下のようなものがあります。
・気分変調症(うつ病など)
・不安症
・睡眠障害
・不登校やひきこもり
・ゲーム、アルコールなどの依存症
など

このような症状や状態が現れた場合には、早めに専門の相談機関や医療機関に相談し、治療を開始しましょう。二次障害の治療には、それぞれの症状に合わせて認知行動療法などの心理療法的アプローチが行われるほか、薬物療法などが用いられることもあります。
二次障害の予防のためには、環境調整や周囲の理解、親や家族以外にも本人が信頼して相談できる人間関係をつくることなどが大切です。
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接し方で大きく変わる!広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)がある子どもへの接し方のポイント

絵や写真を使って具体的に伝える

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のある子どもの中には、使っている言葉の意味を理解していなかったり、遊びのルールを理解するのに時間がかかってしまう子もいます。言葉だけでなく、絵や写真を使って視覚的に説明すると、理解しやすくなる場合があります。また、あいまいな表現は苦手なので、できるだけ具体的な言い方をするようにしましょう。

感情にまかせて叱るのではなく、一緒に考える、代替案を伝える

何度教えても同じ間違いを繰り返してしまうことがあると、イライラしてつい感情にまかせて叱ってしまう場面もあるかもしれません。しかし、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)なぜ叱られているかが理解できないと、ネガティブな気持ちだけが残ったり、かえって反発してしまうこともあります。

適切な行動を習得するまでには時間がかかるものです。間違いなどを指摘するときには感情的にならず、「なにがいけなかったのか」を一緒に考えたり、具体的に伝えながら、「どうすればよかったのか」という代替案を伝えられるとよいでしょう。また、伝える際は写真や絵を使うなど、その子が理解しやすい方法を試行錯誤することも大切です。

無理に止めない

手をひらひらさせたり、ぴょんぴょん飛び跳ね続けたりするなど、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のある子どもの中には同じ行動を長時間続ける「常同行動」が見られる場合があります。これらは視覚支援によって見通しを持てる環境をつくったり、コミュニケーションスキルを学んだり、適切な遊びにかえたりすることで改善していくことがほとんどです。

無理に止めさせようとするとパニックに陥ることもあります。あらかじめ何回やったら終わりと決めたり、違うことに集中するための課題を与えてあげるなど、子どもが自発的に、納得してやめられるような働きかけを工夫しましょう。

得意分野を見つけて褒めて伸ばす

ほかの子と比べて、できないことややめさせたい行動が目について、子育てが不安になってしまうこともあるでしょう。けれど、子どもは障害の有無にかかわらず、みんなそれぞれに違うもの。できないことに注目するより、得意分野を見つけて、できることを増やしていくことが大切です。また、ちょっとしたことでも褒めることが子どもの自信にもつながります。

ペアレントトレーニングを受ける

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のある子どもの子育てには、ちょっとしたコツが必要です。また、親子が直面する困りごとは、家族だけで解決しようするとつまずくことも多いものです。プロの手を借りて、子育ての仕方を学んでいくのもよいでしょう。ペアレントトレーニングでは褒め方のコツや上手な指示の出し方、危険な行動を予防する方法などを学ぶことができます。
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