ASD(自閉スペクトラム症)の療育はいつから始める?

ASD(自閉スペクトラム症)は一般的に早期からの療育が有効だといわれています。

どのような症状があれば療育を行うの?

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは早ければ1歳ごろから症状がみられ始めます。3歳ごろになると「周りの子ども達と比べると話すのが遅い」「目を合わさない」などの症状がより目立ってくる場合もあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の症状は大きく分けて
社会性と対人関係・コミュニケーションの困難さ
行動や興味の偏り

があり、それぞれの症状が発達期に現れると定義されています。

乳幼児健診などのときに気づかれることもありますが、見過ごされてしまうこともあります。ほかの子と比べて何か違いを感じたり気がかりなことがあれば、家庭で判断するのではなく、まず身近な相談できる専門機関やかかりつけの医師に相談してみましょう。専門の医療機関を紹介してくれるかもしれません。

できるだけ早期に症状に気づくことで支援につながり、適切な対応をすることで子どもの状態が大きく変わることが分かってきています。

療育を始める年齢は何歳?療育を終える判断基準は?

療育などの専門機関に通い始めるのは早いほうがよいといわれています。本人や家族がなんらかの困りごとに直面している場合、できるだけ早いうちからその子に合った療育や環境調整を行うことが望ましいでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)のある人は、自分が好きなことに集中することが得意な傾向があります。そのため、子どもでも大人顔負けの知識を持っている子どもも多いですし、大人になってから仕事などで専門性を発揮する方もいます。その子に合った治療や支援を受けることは、得意分野を伸ばし、特性を活かす力を育むことにつながります。

上述の通り、ASD(自閉スペクトラム症)そのものを根本的に治療することは困難ですので、「こうなれば療育や支援は終わり」という明確な線引きはありません。しかし、本人が成長するにつれて、サポートの内容や頻度が変わっていきます。それらを減らしても問題が起こりにくくなったり、医療機関の受診間隔が長く空けても安定してくる場合はあります。大人になると、数ヶ月に1回ぐらいのペースでの受診になったり、困りごとが軽減されれば通院やサポートの必要がなくなることもあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の療育法

ASD(自閉スペクトラム症)を根本的に治す薬や手術などの医療的な治療法は開発されていません。しかし療育や環境調整を通して接し方や伝え方を工夫することで発達を促進したり、日常生活における本人の困りごとを解消したりすることができます。また二次障害や併存症の症状を緩和させる治療を受けることもできます。

ASD(自閉スペクトラム症)のある人は、それぞれ個々に合った対応法を組み合わせた支援プログラムを受けていきます。ここでは一般的なASD(自閉スペクトラム症)の対応法である療育法や投薬について紹介したいと思います。

ASD(自閉スペクトラム症)の療育を行うときの原則

療育とは単に「医療」「治療」と「養育」「保育・教育」を合わせたものではなく,療育の父と呼ばれる高木憲次先生
の造語であるとされています.高木先生は「療育とは,現代の科学を総動員して不自由な肢体を出来るだけ克服し,そ
れによって幸にも恢復したら『肢体の復活能力』そのものを(残存能力ではない)出来る丈有効に活用させ,以て自活
の途の立つように育成することである.」(昭和 26 年「療育」第 1 巻第 1 号)と定義しています.
出典:https://doi.org/10.11251/ojjscn.43.432
ASD(自閉スペクトラム症)の特性に合わせてトレーニングをしたり、環境調整をすることで、困りごとを改善したり、得意なことを伸ばしたりできるのが療育です。小さいうちから療育に通うことで、精神的・身体的機能に対してある程度の効果が表れるようです。

英国自閉症協会はASD(自閉スペクトラム症)の治療・教育の理念としてSPELL(スペル)という枠組みを示しています。

■SPELLのフレームワーク

Structure(構造化): 自閉症の人たちに周囲の環境の意味をわかりやすく整理し伝える。時間や空間、意図の視覚化をする
Positive(肯定): 子どもを肯定しほめる(自己肯定感を高める)
Empathy(共感): 自閉症の特性を深く理解し、共感する
Low arousal(低刺激): おだやかな刺激や環境にする(過激な刺激や興奮を避ける)
Links(連携): 地域と連携し協力する

ASD(自閉スペクトラム症)の療育方法はいろいろありますが、上記のような原則にのっとり進められることが多いです。
参考:The SPELL Framework|The National Autistic Society(英国自閉症協会)ホームページ
https://www.autism.org.uk/what-we-do/professional-development/the-spell-framework

ASD(自閉スペクトラム症)の症状への投薬治療

現時点では根本治療のための薬は開発されていませんが、衝動性・不安障害を抑える薬や、パニックを抑える薬など、ASD(自閉スペクトラム症)の症状を緩和するために薬が処方されることがあります。

そのほかにも医師によって個人に合った薬を処方されますので、信頼できる医師に困っている症状を相談してみましょう。基本的には環境調整や療育を行い改善が困難な場合に服薬をすることを考えていきます。
また、薬の服用により特徴が緩和されているときには療育や教育の効果も上がりやすくなるともいわれています。薬物療法は医師の指示のもと用法や用量を守って服用していかなくてはいけません。薬に頼り切って多用するのは避けましょう。
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ASD(自閉スペクトラム症)の二次障害・併存症の治療

適切な治療やサポートを受けられない場合、ASD(自閉スペクトラム症)の主症状とは異なる併存症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的には「二次障害」ということもあります。

注意すべき合併症・二次障害には以下のようなものがあります。
・うつ病
・不安障害
・睡眠障害
・不登校やひきこもり
・依存症
など

ASD(自閉スペクトラム症)の二次障害で多いのが「不安障害」とうつ病などの「気分障害」です。

不安障害とは生活の中で、常に高い不安を感じ社会生活に支障をきたす状態をいいます。ASD(自閉スペクトラム症)のある人は、感覚過敏や環境の少しの変化にも対応するのが難しく、不安を感じパニックになってしまうことがあります。また、強い失敗経験や自己肯定感の低下から、うつ病などを発症してしまうこともあります。

二次障害が起こらないように生活環境を整えることは、ASD(自閉スペクトラム症)の重要な対応法です。周りの人が本人を気にかけ、困っているときはすぐにサポートを受けられるような環境づくりをして、少しでも本人が過ごしやすいようにしましょう。

接し方で大きく変わる!ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもへの接し方のポイント

ASD(自閉スペクトラム症)の子どもに接するときに以下のポイントに気をつけましょう。

■言葉は短く具体的に伝える
長く説明されたり一度にたくさん指示されたりすると混乱してしまいます。指示は短く簡潔に、子どもが理解しやすい言葉を工夫しましょう。また、「おやつよ。座って食べてね」のように一文にいくつもの指示があると分からないこともあります。まず「座ってね」と一つ指示を出し、できてから「おやつを食べてね」と次の指示を出しましょう。

■視覚的な手段を使って説明する
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、耳で伝えられる情報はなかなか理解することが苦手ですが、絵や写真といった視覚的な情報は理解できることが多いようです。そうすると、言葉だけでなく視覚でも理解ができます。言葉でのコミュニケーションが苦手なASD(自閉スペクトラム症)のある子どもにとって理解しやすい環境になり、何をして欲しいのか明確に分かるようになります。
予定や約束ごとなども、絵にして知らせると、理解しやすく安心できます。

■のぞましい行動をほめる
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは相手の言葉の意図をくみ取ることが難しい場合があります。そのため「してはダメ」なことを叱るよりも、「してほしい」ことをしたときにストレートな表現でほめるほうが効果的です。
うまくいったことや頑張ったことがあれば、どんな小さなことでも思い切りほめます。同じことでも何度もほめることで「よい行動」が印象づけられ、具体的に分かるようになります。

■大人が感情的にならない
接するときに気をつけたいのが、何かを説明するときに感情的に怒らないということです。こちらが感情的になると、いつもと違うできごとにパニックを起こしてしまい、逆効果になってしまいます。何かを伝えたいときは、冷静に短い言葉で簡潔に伝えられるとよいでしょう。否定的な言葉は使わず、「○○してほしい」「○○しましょう」と言い換えるようにしましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは接し方を工夫すると、パニックを起こすことも少なくなり、本人も家族も生活を共にするのがとても楽になります。生活のパターンをつかむまでは時間が掛かりますし、大変なこともいろいろとあると思いますが、少しずつ問題は解決していきます。あきらめずに専門家や医師に相談しアドバイスをもらいながら対処していきましょう。

■スケジュールが変わるときは事前に説明する
ASD(自閉スペクトラム症)の特性として、突然の変化が苦手ということがあります。いつもと違うことやスケジュールの変更はASD(自閉スペクトラム症)のある子どもにとってとても不安なことです。変更を伝えるときには、事前に絵に書いて見せるなどして説明するよいでしょう。見通しが持てることでパニックにならずに理解ができることがあります。

■何か行動を始めたら途中で邪魔しない
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもが何か行動を始めたときに邪魔をしてしまうと、パニックになってしまうことがあります。パニックになると落ち着くまでに時間がかかりますので、本人も周りの大人も体力を消耗してしまいます。その行動をやめてほしいときは、1つの行動が終わったタイミングを見て指示をするとよいでしょう。

■感覚過敏に配慮する
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは感覚過敏がある場合もあります。過敏さによって音や光、感触などに苦手なものがある場合もあります。騒がしい場所を嫌がったり偏食につながることもありますが、単純な好き嫌いやわがままではないので、叱ったり無理強いしても解決しません。できるだけ苦手なものは避けることが大切です。音に敏感な場合はイヤーマフなどを使用するなど、対応を考えましょう。手をつなぐことや触られることが苦手なこともありますが、決してその人が嫌いということではないことを理解して接してください。

■興味・関心のあることで不安を解消し、得意なことを増やす
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、何もすることがないと時間をもてあまして不安になる傾向があります。病院の待合室や電車の中などで手持無沙汰を解消できるよう、絵の描けるホワイトボードやパズルなど、好きな遊びを準備しておくと落ち着いて過ごせるかもしれません。
本人に合った習い事に取り組むなど、余暇の過ごし方を教えることも重要です。興味・関心のあるものを増やしていくことで、本人の得意なことも増やせるかもしれません。

■困ったことがあれば子ども自身がヘルプ要請を出せるようにする
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの中には自分ではうまくできず、困っていてもコミュニケーションをとるのが苦手という場合があります。そこで、困ったことや、できないことがあったときに、自分でサインを出して助けを求められるようにすることがとても大切です。
そもそもASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは自分が「困っている状況」だということが理解できず、パニックになったり固まってしまう場合もあります。まずは子どもに「イライラする」「どうしたらいいのか分からない」「涙が出る」など、自分の感覚や感情がどんなときに「困っている状況」なのかを教えます。
そして困った状況になったら誰に助けを求めればいいかを教えます。「どうしたらいいのですか?」「分からないので教えてください」など、なんと言うかもできるだけ具体的に説明するとよいでしょう。
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