「書くのが苦手」はディスグラフィア(書字表出不全)かも?症状、原因、困りごと、対処法まとめ【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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子どもが「なかなか字を書けるようにならない」と無理に何度も練習をさせていませんか?もしかしたら、それは書くことに困難があるLD・SLD(限局性学習症)かもしれません。ディスグラフィアとはどのような特徴があり、どのように向き合っていけばいいのでしょうか。ディスグラフィアの症状、原因、困りごとやその対処法について紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ディスグラフィア(書字表出不全)とは? どんな特徴があるの?

ディスグラフィア(書字表出不全)は、知的発達に大きな遅れがないにもかかわらず、文字を「書く」ことに困難があるLD・SLD(限局性学習症)です。文字をマスや行から大きくはみ出して書く、鏡文字を書く、などの症状がみられることがあります。

※学習障害は現在、「SLD(限局性学習症)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。
LD・SLD(限局性学習症)がある子どもは、しばしば「努力していないから書けない」「苦手なら人よりたくさん練習すればいい」と本人の努力不足を責められたり、「親が子どもに勉強をさせていない」などと思われたりすることもあります。

ディスグラフィアがあると、周囲の子どもと同じやり方では、どんなに本人が頑張って努力しても字を書くのが難しいため、ディスグラフィアなどのLD・SLD(限局性学習症)のある子どもやその保護者にとってこれらの言葉、偏見を向けられることはとてもつらいことです。
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ディスグラフィアの症状

ディスグラフィアの症状は、一人ひとり違いますが、代表的な症状には以下のようなものがあります。

・書き文字がマスや行から大きくはみ出してしまう
・文字を書くときに鏡文字を書く
 ※ただし、鏡文字は幼少期の発達段階で誰にでも起こりうるものなので、必ずしもディスグラフィアの症状とは言えません
・年相応の漢字を書くことができない
・文字を書く際に余分に線や点を書いてしまう
・間違った助詞を使ってしまう
・句読点などを忘れる
など

これらの症状を含め、文字を書く際に何かしらの困難がある症状がみられる場合、ディスグラフィアの可能性があるかもしれません。
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ディスグラフィアの原因

ディスグラフィアの原因やメカニズムは、明確には明らかになっていませんが、現在、以下のような要素が「書き」の困難につながっていると考えられています。

ディスグラフィアの原因は一つではなく、人によっても原因が異なると考えられます。そのため、本人にとってなぜ書くことが難しいかの原因を考えることは、困りごとを解決する上でとても大切です。

「文字の形が分かりにくい」視覚情報処理の不全

視覚情報処理は、文字のパーツの位置関係や大きさを認識したり、パーツから形を構成したりする働きです。英語圏などで使用されるアルファベットは比較的、シンプルな文字の形をしています。

一方、日本語の場合などは漢字のように複雑な形の文字が多いため、小学校などで漢字に出会うことで困難が表れやすい傾向にあります。「読み」には問題ないが、「書き」のみに困難が生じる場合、視覚情報処理に関連している可能性があると考えられています。

また、視覚過敏によって、紙と文字の色のコントラストを過敏に感じ取ってしまうことでノートに向き合えない場合もあります。

「文字の読み方が分かりにくい」音韻処理の不全

音韻処理とは、特定の文字がどのような音と対応しているかを理解する働きです。例えば「た」という文字が「ta」という音であると理解するものです。また同時に、「り」と「ん」と「ご」→「りんご」のように、文字を単語のまとまりとして捉えることも難しい場合があります。この「読み」の困難が「書き」の困難につながる場合があります。

ディスレクシア(読字不全)に伴うディスグラフィアの場合はこのことが原因として考えられます。

「不器用で文字がうまく書けない」DCD(発達性協調運動症)が関与している場合

DCD(発達性協調運動症)とは、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に応じて期待されるものよりも不正確であったり、困難であるという障害です。別名、不器用症候群とも呼ばれていました。

DCD(発達性協調運動症)がある場合、字を書くなどの指先を使った細かな作業、または目などの感覚器官からの情報と指先の細かな作業との協調運動が同年代に比べぎこちなく、遅かったり、不正確になります。このことで、字がマスからはみ出してしまう、という症状が現れたりします。

また、筆圧の薄い原因としては、筋力が弱いことでうまく鉛筆などを握ることができない場合があります。
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ディスグラフィアの困りごとと工夫

ディスグラフィアは、たくさん練習するだけでは字を書けるようになりにくい障害です。なので、量よりも質に重点をおいた訓練をゆっくり家庭でするなど、家族の協力が必要です。では、どのようにディスグラフィアと向き合っていけばいいのでしょうか?

ディスグラフィアと向き合うには、その子の特性に合った方法を見つけていくことが大切です。ここでは6つの困りごとに対する工夫を紹介します。

文字のバランスが悪い

文字のバランスがうまく書けない原因として、「マスの空間を捉えにくい」「細かく手を動かすことが難しい」などがあります。マスの空間を捉えることができるようにするために、マスを4色のブロック分けをして文字のどのパーツがどれくらいマスを占めるのかを教えていく方法や、その文字の各パーツの書き始めの箇所に印をつけて大きさを覚えるという方法があります。
マスを4色のブロック分けをすると文字のバランスがつかみやすい
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他にも、細かく手を動かすことが難しいお子さんには、滑り止めマットを張り付けた下敷きを使って力の入れ具合を教えたり、ひらがなのバランスが崩れやすいお子さんには、イラストを使って形を覚えやすくする方法もあります。

文字や数字が書けない

文字や数字が読めるのに書けない理由はさまざまあります。一人ひとり、なぜ書けないのかを考え、その子に合った方法を考えることが大切です。

形として覚えるのが苦手かもしれない場合は、お子さんが楽しめるような方法で形を覚えさせていく方法があります。たとえば文字をイメージしやすくなるようにイラストを使ったり、数字の書き方をリズムに乗せながら練習することができます。また、漢字の場合はパズルのようにへんやつくりのパーツを組み合わせて1つの漢字をつくることもおすすめです。

字を書くことが苦手なお子さん向けの漢字練習教材もあるので活用してもよいでしょう。
へんとつくりをパズルにして楽しく漢字を覚える
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似た文字を書き間違えてしまう

似た文字を書き間違えてしまう場合、その似た文字の違いを区別することが難しいのかもしれません。たとえば、ひらがなの「わ」と「れ」、「め」と「ぬ」、漢字では「手」と「毛」などは形が似ているために混乱してしまうことがあります。

そうした場合、その2つの違う部分を太くしたり、色を付けて目立つようにして覚える方法などがあります。これらの方法で似た文字の違いを意識しやすくすることで、間違えにくくなります。
文字の違う部分を強調すると意識しやすい
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鉛筆でうまく書けない

鉛筆を使うためには「親指・人差し指・中指で鉛筆をつまんで動かす動き」と「薬指と小指の安定」が必要になります。細い鉛筆だと、より指先の力が必要だったり、手全体で支える必要があります。

細い鉛筆より太い鉛筆の方が持ちやすいので、はじめは子ども用の太いものを使うこともおすすめです。他にも、指を動かす運動をすることで鉛筆をつかむ力や安定性を得ることができます。また、この場合は筆圧が弱いことも要因とされるので、2Bや4Bといった芯が濃くて柔らかいものを使うことでお子さんの自信をつけることにもつながります。

また、市販の補助グッズを使うことで鉛筆た持ちやすくなることもあるので、使ってみるのも良いでしょう。

視覚過敏がある場合

視覚過敏がある子は、紙の白さを過敏に感じ取ってしまいます。文字の黒さと紙の白さのコントラストに目がチカチカしてしまうこともあり、長い間ノートに向き合うことができない子もいます。

白ではなく、コントラストの激しくない色のノートを使ったり、色つき眼鏡を使ってみるなど、視覚過敏を緩和することのできる方法を探してみましょう。
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鏡文字を書くことがある

鏡文字の図
鏡文字の図
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鏡文字を書く原因として、右と左の認識ができていない可能性があります。そのため、「左から書くよ」「右に伸ばすよ」などといったように書く際に左右の声かけがおすすめです。

左右がどちらなのかがすぐに分からず困っているようでしたら、まずはお子さんが左右を認識できるようにする必要があります。「右足から靴を履いてみよう」「左手でコップを取ってみよう」など日常生活での声かけを通して、定着を図りましょう。

また、左右の認識が難しかったら、薄く書かれた見本をなぞることも工夫としてあげられます。
鏡文字は必ずしもディスグラフィアのようなLD・SLD(限局性学習症)の症状とは限りません。幼少期では脳の発達がまだ完全ではないため、左右がどちらかか把握できていなかったり、利き手が分化されていないことがあります。

日本小児神経学会によると、一般的には、小学校1年生が終わる頃でもひらがな文字を書く際に困難がみられる場合や、拗音、撥音、促音の特殊音節につまずきがみられる場合は、小児科への受診をおすすめしています。

ひらがな文字に限らず、漢字や英語に困難が現れる場合もあるので、ディスグラフィアの特性があっても、それに気づく時期はそれぞれです。お子さんがどんな文字を書くことに対して困難を感じているか、まずは様子を見てみましょう。
Q.75学習障害とは何ですか?|日本小児性神経学会
https://www.childneuro.jp/modules/general/index.php?content_id=82

黒板の文字をノートに書き写すことが難しい

黒板の文字をノートに写す際には、黒板とノートを交互に見る必要があるため、焦点を移す目の動き(眼球運動)と記憶が必要になってきます。風船バレーやスーパーボールなど、目の運動を取り入れた遊びを通した訓練が有効でしょう。

また、学校と話し合うことで、マス目黒板を使用してもらったり、タブレット端末などで黒板の写真を撮ることができるようになる場合があります。

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