境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)とは?【医師監修】

ライター:発達障害のキホン
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境界性パーソナリティ障害は、他の人から見捨てられる不安が強かったり自己イメージが不安定だったりすることで、対人関係などにさまざまな問題が生じることがある精神疾患です。最近ではボーダーラインパーソナリティ症と称されることも多くなっています。今回は境界性パーソナリティ障害の主な症状や原因、治療法、周囲の対応法について紹介します。

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監修: 染村宏法
精神科医
産業医
大手企業の専属産業医として勤務後、昭和大学精神医学講座へ入局、昭和大学附属烏山病院での勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動に従事。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、簡易型認知行動療法、睡眠衛生等に関する介入研究や教育に携わった。
目次

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)とは?診断基準や主な特徴

境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、自己イメージの混乱、見捨てられ不安、感情コントロールの難しさの3つの主症状からくる不安と恐怖がもととなり、対人関係などにおいて、考え方や感情が不安定になりやすい精神疾患です。

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の多くは思春期から青年期・成人早期に発症すると考えられています。時間はかかりますが適切な治療を行うことによって症状を落ち着かせることができるといわれています。

パーソナリティ障害(パーソナリティ症)とは、症状やその影響で本人がひどく苦痛を感じていて、日常生活に支障をきたす考え方や対人関係のパターンが見られる場合に使われる用語です。
境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)もその中の一つに位置付けられています。

※境界性パーソナリティ障害は現在、「ボーダーラインパーソナリティ症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「境界性パーソナリティ障害」といわれることが多くあるため、以下では「境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)」と併記します。

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)とは

境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の特徴として見捨てられる不安が強く、一人でいることを避けるために過剰な行動をとることがあります。例えばわざと自分に苦痛を与えて、他の人に世話してもらうように誘導するといった行動などが挙げられます。

境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の有病率はばらつきがありますが、アメリカの調査によると有病率の中央値は人口の1.6%とされています。また、特徴として男性より女性の方が多い傾向があるといわれています。

診断は基本的に精神科や心療内科などで受けられます。自身や周りの方に、境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の症状に当てはまる様子があった場合、受診を検討してみるとよいでしょう。

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の診断

境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の診断の際には、米国精神医学会の刊行する「DSM-5-TR」が参照されます。

基準としては、対人関係や自己認識に乱れがあり、衝動的な行動を繰り替えることが挙げられています。

他にも以下の基準のうち5つ以上当てはまることが診断の条件です。
・他者から見捨てられないために過剰な努力をする
・理想化しているかと思えば激しく批判するなど対人関係の不安定さがある
・自分自身の認識に乱れがある
・例えば、浪費、性行為、薬物などの乱用、無謀な運転、過食など、自分を危険にさらす行動を2つ以上行う(自殺、自傷行為は含めない)
・自殺行動(そぶりや脅しも含む)や自傷行為を何度も行う
・エピソード的に起こる不快感や苛立ち、不安の不安定な表出が見られる
・慢性化した空虚感を感じている
・不適切な激しい怒りや怒りのコントロールが困難である
・自分は苦しめられている、自分は自分ではないといった認識を持つ

精神科などを受診すると、医師による問診などを元に、診断基準と照らし合わせて境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の診断を行っていきます。

境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の主な特徴をチェック

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の特徴として代表的なものは、自己イメージの混乱、見捨てられるかもしれないという強迫観念、感情コントロールの苦手さです。この3つの特性からくる不安と恐怖の感情がもととなり、さまざまな症状に発展していきます。
■見捨てられ不安(対人関係)
境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)には、自身が信頼をおいている相手に依存する特徴がみられます。常に根底には自分が見捨てられてしまうのではないかという「見捨てられ不安」というものを感じることがあります。

自分の存在をあやふやに感じ、自分の相手をしてくれる人がいないと空虚感を感じるためではないかといわれています。そして、特定の相手から見捨てられると感じたときに強い恐れや怒りの感情を抱きます。

例えば、相手が約束に数分遅れただけでも憤慨したり、うまくいっている交際相手に対して少しの不安を抱いたことをきっかけに急にパニックになったりすることがあります。しかし相手に依存しているように感じる行動をする一方で、「相手が自分を大切にしてくれない」と感じると急に突き放すような態度をとる例もあります。

対人関係でのトラブルがあると、境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の人は「見捨てられた」と感じ、「自分のせいだ」と自責する傾向があります。そのため、今度は見捨てられないために演技や自傷行為、相手を脅すなどの行動が見られることがあります。

さらにそれが過激になると、相手の興味を自分に引きつけたりするためにギャンブルや過食、過量の飲酒・服薬、自傷行為や自殺をほのめかすといった、極端な行動につながる可能性も指摘されています。

■自己イメージの混乱
境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の人は、自己イメージが混乱していることが多いと言われています。自分を相手してくれる他者の存在がないと、自分自身が存在していないような空虚な感覚を抱いていることが多いようです。

そのため、それまで取り組んでいた仕事や友人関係を突然変えるといった行動を起こすことがあります。他にも、目標や価値観、意見なども突然まったく違うものに変えてしまうことがあります。周りの人は「前に言っていたことと全然違う」と戸惑うかもしれません。

また、それは対人関係にも現れ、特定の人に強い愛情を求めていたのに、ある瞬間から「理不尽な扱いを受けた」と怒り出すといったことも起こりえます。これも、周りから見ると突然の変化に映るため、驚くことでしょう。

例えば、卒業の直前に学校を退学したり、築いてきた人間関係を壊したりと、目標が達成される直前に自ら台無しにするような行動を取ることもあります。

■感情のコントロールができない
境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)は自己イメージの混乱や見捨てられることに不安や恐怖を常に感じるという特徴を持つことから、感情の波が激しく変動し、自分でコントロールすることができなくなることが多くあります。そのため、親しい人にも口癖のように皮肉や嫌味、批判などの言葉をぶつけてしまうということもあります。

激しい怒りやひどい落ち込みや空虚感を感じることから、それを解消しようと暴力や暴言を吐いたり、リストカットなどの自傷行為や大量の薬物摂取、大量の飲酒、過食などに走りやすくなります。これらを繰り返すことで日常化していくと、薬物依存やアルコール依存などに発展していくこともあります。さらに強いストレスにさらされ続けると解離性症状が表出する場合もあります。

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境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の治療とは?治るきっかけにはどんなものがある?

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の治療法は、主に精神療法と薬物療法があります。

精神療法

精神療法は即効性はありませんが、医師や専門家と一緒に本人の物事に対する考え方や感じ方などを見直していく治療法になります。これから紹介するのは境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)に有効といわれている精神療法の2つの代表例です。

■認知行動療法(CBT):
認知行動療法とは、何か困ったことにぶつかったときに浮かぶ思考に注目した治療法です。この思考のことを認知と呼んでいます。
境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の人などで、認知が歪んでいることで現実に即していない言動をとる場合、まずはカウンセラーと一緒に認知のゆがみを確認します。そのあと、そう感じる原因やどうすれば適応的な思考ができるかなどについて、時間をかけて治療していきます。
最終的には、必要以上に怒りや悲しみなどを感じることなく、感情をコントロールして本来の自分の力を発揮できるようにすることが目的です。

■弁証法的行動療法(DBT):
弁証法的行動療法とは、マーシャ・リネハンによって開発された、境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)に効果的であるといわれている心理療法です。以下の4つの治療法を組み合わせることで、考え方のクセに気付かせ、バランスの良い考え方や反応ができるようにすることが目的です。

・苦悩耐性スキル
・マインドフルネススキル
・感情調整スキル
・対人関係スキル
この4つのスキルを取得するために、グループセッションが行われます。セッションは基本的に週1回、2時間半ずつ実施され、別途個人セッションが行われる場合もあります。

その他にも、日常生活で衝動性が現われたときのための24時間電話サポートなどがあり、合計して1年間ほどのセッションで終了となります。

しかし、欧米を中心に発達した治療法であり、日本で受けられる場所はまだ限られています。
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認知行動療法(CBT)とは?メカニズムや形式、体験談まとめ【専門家監修】

薬物療法

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)に根本的に作用する薬は残念ながらありません。そのため衝動性や不安定な感情、気分の落ち込み、不安といった症状を改善するために薬が処方されます。

薬物療法の第一選択は、中等量の非定型抗精神薬ですが,その他の薬についても少量にとどめることが望ましいと考えられています。

抗うつ薬や気分安定薬は、抑うつ気分、不安や怒りの感情を抑えるために処方されることがあります。

薬には副作用もありますし、人によって薬が合わないこともあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めることをおすすめします。
牛島定信『境界性パーソナリティ障害の治療ガイドライン』(2010)
https://www.amazon.co.jp/dp/4772410414

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の症状がある人との接し方

本人の治療のために協力体制をつくる

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の方は身近な人に見捨てられることへの不安を強く抱いています。治療を行っていくにあたって、本人のなかでは葛藤や変化が訪れます。また治療も長期にわたって行われるために、効果がなかなか現れないことに対する苛立ちや不安感を抱く場合もあるかもしれません。

そういったときも「まだ良くならないの?」「病院変えたほうがいいんじゃない?」など否定的な言葉は控え、本人の不安に寄り添った接し方をすることが大事です。

周りの人が本人に振り回されないように気をつける

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の方は、感情や言動の変化が激しいために家族や周囲の人が振り回されてしまったり、本人からの強い物言いによって責任を感じてしまったりすることがあります。本人に対してどう接していいかわからずに精神的なストレスを感じることもあるでしょう。

そのようにならないためには、本人に振り回されすぎないことが大切です。まずは境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の症状について周りの人も知識を学んでみましょう。過剰な言動なども症状によって起こされたものだと分かると、受け取りやすくなります。

境界性パーソナリティー障害(ボーダーラインパーソナリティ症)は自覚がないことも多い障害ですが、周りの人が困っている場合には「心配している」ということを伝えたうえで、病院の受診を促すといいでしょう。

もし、本人が拒否する場合は周りの人や家族だけでも受診できる病院もあります。受診はハードルが高いと思ったときは、電話などで相談できる窓口もありますので活用していくといいでしょう。

本人と一緒に周囲も変わる

しかしながら、家族・周囲の人などとのかかわりの積み重ねによって、本人が負担を感じていることもあります。ですが、具体的にどのようなかかわりが負担になっていたのかは、関係性のある当事者たちには分からないことがあります。そのようなときには家族なども一緒に治療を受ける方がよい場合もあります。治療を受ける程ではなくても、本人との関わり方や自分を見直すよい機会になります。

本人の回復を支援するために、家族や周囲の人自身が無理矢理変わらなければならないということではありません。「できないことはできない」と言うことも、当事者と関わっていくためには大切なことです。

長年築いてきた関係を改善するには時間がかかります。一気に問題を解決しようとは考えずに、焦らず少しずつでも変わっていくことを意識してみましょう。

相談する相手をもつ

本人にとって身近な家族などは、激しい感情をぶつけやすい人でもあります。そのために本人に対して怒りや嫌悪感を感じ、ときには拒絶してしまうこともあるかもしれません。

身近な人から拒絶されることで、根本的な治療を行うことができなくなる場合があります。関係性が悪化する前に、定期的に他の人に相談して助言をもらうことは重要です。周囲に安心して相談できる相手がいない場合は、心理カウンセラーなど専門家のサポートを求めることも考えましょう。
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