ASD(自閉スペクトラム症)の幼児期~思春期の特徴、診断方法、治療や療育方法を解説【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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ASD(自閉スペクトラム症)とは、以前自閉症やアスペルガー症候群などといわれていた診断をまとめてできた診断名です。社会的なコミュニケーションの困難さ、限定された行動、興味、反復行動などの特性が見られます。ASD(自閉スペクトラム症)の原因はいまだ特定されていませんが、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられ、しつけや愛情不足など親の育て方が直接の原因ではないとわかっています。ASD(自閉スペクトラム症)の症状・診断基準・検査・治療法、自閉症やアスペルガー症候群との違いなどを紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ASD(自閉スペクトラム症)とは?

ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。

英語のAutism Spectrum Disorderの頭文字をとってASDと略されることもあります。

さまざまな議論が交わされていますが、ASD(自閉スペクトラム症)の原因はいまだ特定されていません。
現在のところ、ASD(自閉スペクトラム症)は何らかの先天的な脳機能障害であると考えられており、しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないことがわかっています。
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ASD(自閉スペクトラム症)という診断名ができた経緯

ASD(自閉スペクトラム症)は、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた診断名です。ASD(自閉スペクトラム症)という診断名ができた成り立ちについて追ってみましょう。

2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、これまでアスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症など様々な診断カテゴリーで記述されていたものが、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の診断名のもとに統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。

『DSM-5』以前の診断カテゴリーである自閉症やアスペルガー症候群などは、それぞれの特性に違いがあるとされ、それに伴って診断基準も異なるため、独立した障害として考えられてきました。

しかし、幼少期にアスペルガー症候群と診断された方が、年齢や環境などの変化によって自閉症と診断されたり、3歳以降になってから自閉症の特性が明確に表出する場合がありました。脳画像の研究ではそれぞれの差異が認められないこともあります。
さらに支援方法も共通であることが多いため、『DSM-5』では、「連続体」を意味する「スペクトラム」という言葉を用いて障害と障害の間に明確な境界線を設けない考え方が採用されたのです。

ASD(自閉スペクトラム症)の特性には多様性があり、連続体として重なり合っているという考え方が、「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名に込められています。

また、コミュニケーションの障害はあっても特定のものや活動へのこだわりが目立たない場合、ASD(自閉スペクトラム症)と診断できない場合もあります。『DSM-5』によって、ASD(自閉スペクトラム症)と判断しきれない場合は、「社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害」の診断名に分類されることになりました。
DSM-V
DSM-V
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また以前は、自閉症、アスペルガー症候群などのASD(自閉スペクトラム症)に含まれる障害群とADHD(注意欠如・多動症)は、併存することがない障害だと言われてきました。

しかしASD(自閉スペクトラム症)がある方々の約70%が少なくとも1つ以上の精神医学的障害を合併しているという研究結果に基づき、『DSM-5』においては、他の障害の併存が認められました。
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
https://www.amazon.co.jp/dp/4260019074/
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ASD(自閉スペクトラム症)の年齢ごとの特徴

ASD(自閉スペクトラム症)の特性は成長と共に変化していきます。大まかな年代別の特性を紹介します。
(これらの特性すべてがどの子どもにもあてはまるわけではなく、子どもによって特性の表れ方は異なります。)

これらの特徴がみられるようになるのは、生後約2ヶ月から2歳前後が最も多いといわれています。発達の遅れが顕著にみられる場合は12ヶ月よりも早く、軽度であれば2歳を過ぎてから特徴が表出するといわれています。

幼児期(0歳~小学校就学前)

ASD(自閉スペクトラム症)は発達障害のひとつですが、発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、その特徴が分かりにくい場合があります。ですから、生後すぐにASD(自閉スペクトラム症)の診断がでることはありません。しかし、幼児期全体を通してみると、以下のような特徴的な行動をとっていたことが多いと言われています。以下にそれらの特性を紹介します。

■人や物に対する興味の偏りがある
視線を合わせようとしない子どもが多いといわれています。また他の子どもに興味をもたず一人遊びをし続ける、集団の活動に参加することが苦手、名前を呼んでも振り返らないなどの特徴がみられることがあります。定型発達の子どもは興味があるものを指で指して示すのに対し、ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもは指さしをして興味を伝えることをしない傾向があります。

■コミュニケーションを取るのが困難
会話においては、一方的に言いたいことだけを言ってしまったり、質問に対してうまく答えられないなどの特徴があります。知的障害を伴う場合は、言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられます。定型発達の子どもが友達とのごっこ遊びを好むのに対し、ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもは集団での遊びにあまり興味を示さないことが多いです。

■特定の刺激や活動に対するこだわりがある
ASD(自閉スペクトラム症)のある幼児は、特定の刺激や活動にこだわりがみられることがあります。例を以下でご紹介します。
・お気に入りのおもちゃをひたすら並べる
・くるくるまわるものをずっと見ている
・水遊びが大好きで始めるとやめられない
・遊具やおもちゃを使う順番を待てない
・決まったおもちゃで遊びたがる
・ほかの子どもが自分が遊びたいおもちゃで遊んでいるとパニックになる
・道順が違うとパニックになる
・ドアを意味もなく開け閉めする
・活動の切り替えが難しい

児童期(小学校就学~卒業)

■集団になじむのが難しい
年齢相応の友人関係を育むことに困難がある場合があります。周囲にあまり配慮せずに、マイペースに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう傾向があります。人と関わるときは何かしてほしいことがあるときだけのことが多く、基本的に1人遊びを好みます。自分自身で決めたルールにこだわったり、人の気持ちや意図を汲み取ることが苦手な場合も多いです。

■臨機応変に対応するのが苦手
予定の変更に対応することが困難で、きちんと決められたルールを好み、場面に応じて臨機応変に対応することが苦手な傾向にあります。

■どのように・なぜといった説明が苦手
単語を覚えても意味を理解することが難しい場合があります。また、自分の気持ちや他人の気持ちを言葉にしたり、想像するのも苦手な傾向にあり、説明がうまくできないこともあります。

■強いこだわりを持つ
興味を持つことに対して、同じ質問を何度もすることが多くみられます。また、日常生活においてあらゆるこだわりを持っていることが多いので、ものごとの手順が変わると混乱してしまいやすい傾向があります。

思春期(小学校卒業~)

■不自然な喋り方をする
親しい人にも敬語で話したり、抑揚がない不自然な話し方が目立つ場合があります。

■人の気持ちや感情を読み取るのが苦手
コミュニケーションをとることが難しく、人が何を考えているのかなどを考えるのも苦手な傾向にあります。
皮肉や比喩などの微妙なニュアンスの理解が困難で、トラブルになることもあります。

■雑談が苦手
目的の無い会話をするのを難しく感じる場合が多いです。聞き手の興味関心にかかわりなく、自分の興味関心があることを一方的に話し続けることがあります。

■興味のあるものにはとことん没頭する
ASD(自閉スペクトラム症)のある人は物事に強いこだわりをもっています。そのため、興味のあることにとことん没頭し豊富な知識を身に付けることも多いですし、その分野で大きな成果をあげられることもあります。
参考:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
https://www.amazon.co.jp/dp/4260019074
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