言語発達遅滞とは?言葉が出てこない原因など【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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子どもの言葉がなかなか出ない…。子どもの育ちのスピードには個人差があるということは分かっていても、ついほかの子どもと比べて心配になってしまう保護者もいるのではないでしょうか。ここでは、言葉の遅れ(言語発達遅滞)の原因、生活の中で子どもの言葉の育ちを促す工夫や、相談先についてご紹介します。

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監修: 中嶋理香
日本福祉大学 教育心理学部 教授
発達心理学、発達臨床心理学をベースに保育士、教師、保護者と共に「子どもの生きにくさ」を考えることを基本にし、活動。コミュニケーション支援や食べる機能の発達支援を実践している。
目次

言葉の遅れ(言語発達遅滞)とは?言葉が出てこない理由は?発達障害が原因のことも

言葉の遅れ(言語発達遅滞)とは

言葉の遅れ(言語発達遅滞)とは、発語や言葉の理解が、生活年齢から予測される平均的な状態よりも大幅に遅れることをいいます。

子どもが言葉を覚え、話し始める時期には個人差がありますが、おおむねの基準として、以下のような状態である場合には、言葉が遅れていると判断できるといわれています。

・1歳半で、意味の伴った言葉が2つ以下である場合
・3歳で、「ジュース のむ」など2つの単語による言葉である「2語文」が出ていない場合

乳幼児期の子どもの育ちは個人差が大きく、また性格や環境などさまざまな要因が関わっているため、言葉の遅れの原因を明確に特定することは簡単ではありません。
改訂版乳幼児健康診査 身体診察マニュアル|国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/shinsatsu_manual.pdf

言葉が出てこない理由は?

子どもが年齢と比べて言葉が出てこない場合には、いくつか理由が考えられます。

一つは個人差です。年齢に応じた話す言葉の基準はありますが、あくまで目安で子どもの発達のスピードは一人ひとり大きく異なります。そのため、単純に目安より遅れているだけで育っていく過程で遅れは目立たなくなることがあります。

もう一つは聴覚や発達に障害が原因であることが考えられます。障害が原因の場合は、障害に応じた対応をしていくことが大事になります。障害についてはこの後詳しく紹介します。
◆聴覚機能の問題
言葉の遅れが見られるときには、聞こえに問題があることがあります。難聴や聴覚障害の場合には、聞く能力を高める目的の治療や訓練、視覚的な手段を使ったコミュニケーションの方法を取り入れるために早期の対応が必要になります。

1歳半、3歳の乳幼児健診のときにも、耳の聞こえのチェックが行われますが、聞こえの問題は家庭生活の中で見つかることも多いです。心配なときには、以下のチェックリストを参照して、聴覚に問題がないか確認してみるとよいでしょう。
家庭でできる耳のきこえと言葉の発達のチェック表|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/pdf/kikoe_check.pdf
◆発達性言語障害
聴覚や認知、子どもに周囲への関心やコミュニケーションなどに問題がなく、言葉の遅れだけが見られる場合は、「発達性言語障害」の可能性があります。(ほかにも「レイトトーカー(LT)」や、医学的な名称ではありませんが「特異的言語発達障害」という名称でよばれることがあります)。

発達性言語障害には言葉自体は理解しているが言葉の表出が遅れる「表出性言語障害」と、言葉自体を理解していないことにより言葉の表出も遅れている「受容性言語障害」の2つの種類があります。
シンポジウム1―ことばが気になる子どもに早期アプローチ|ことばの遅れと言語発達障害
https://doi.org/10.11374/shonijibi.42.16
◆発達障害や知的障害(知的発達症)など脳の機能の問題
2~3歳になっても言葉が出なかったり、遅れていたりする場合には、知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害の可能性もあります。
障害があるかどうかは、言葉の表出のみによって判断できず、他者との関係性やコミュニケーションの領域の発達にも目を向けることが必要です。

発達障害がある場合、言語、非言語にかかわらず、人との関わりにおいて発達の遅れまたは困難さが生じることがあります。ASD(自閉スペクトラム症)の特徴を記載しますので、参照してください。

(1)コミュニケーションや対人関係の困難
言葉の遅れが見られ、視線や表情、身振りを使ったコミュニケーションに難しさがあります。また、他者と関心を共有することが難しく、関わり方が一方的になるなど対人関係を築くことに困難が見られます。

(2)興味関心の偏り
活動や物事への興味関心の範囲が著しく狭く、特定の事物へのこだわりがあります。変化への抵抗が強く、道順や日課、ものの位置関係など「おなじ」にこだわるような行動があります。

また、周りの音や肌に触れる感覚などの刺激に敏感な感覚過敏がある場合や、その逆に怪我をしても痛みを感じにくいなどの感覚鈍麻がある場合もあります。
参考:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html
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以上の例に当てはまる場合でも、一概に発達障害だと断定することはできません。心配なことがある場合は、第5章で紹介している専門機関に相談してみましょう。

吃音と言語発達遅滞は違う?

言語発達遅滞はさまざまな理由により言葉の表出自体が遅れている状態です。一方で吃音(きつおん)とは、言葉の流暢性の障害です。

吃音には「あ、あ、赤い」など言葉を繰り返したり、特定の言葉を伸ばしたりといった症状が見られます。吃音には発達性吃音と獲得性吃音という種類があり、その中で発達性吃音は2~5歳ごろの子どもによく発症するといわれています。
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言葉が出るために必要な3つのこと

子どもは、言葉を話すまでのあいだ、日常生活でさまざまな経験をするなかで、言葉を発するための準備を行っています。その準備とは、大きく分けて「意味の理解」と「コミュニケーション」、そして「発音」です。この3つの要素が整って、はじめて言葉が出ます。

意味の理解

子どもは、他者の言葉とふれあう経験から言葉の意味が分かるようになります。子どもの頭の中に言葉が蓄積され、記憶された言葉が積み重なることによって、言葉の意味を理解できるようになります。

コミュニケーション

言葉が出るまでには、子どもと養育者のコミュニケーションの積み重ねがあります。

コミュニケーションは、最初は、養育者とのふれあいを通じて、体温や匂いなどを感じることから始まります。そして養育者と微笑みを交わしあったり、そして声のトーンやしぐさを真似する模倣という行為へと進展していきます。

こうしたコミュニケーションを取っていくことで子どもが「伝えたい」という気持ちを抱くようになった先に、言葉の出現があります。

発音

自分の思い通りの音を発するためには、舌や喉を動かしたり、肺から息を出したりすることを含めた体の使い方、体の育ちに支えられています。発話のために正しい音を選び出し、つくり出すためには脳の働きが深く関連しています。

これらの意味の理解、コミュニケーション、思い通りに音を出すことのできる体や脳の機能が整ってはじめて、言葉の表出につながるのです。

言葉の育ちのステップを知ろう

言葉が出ない、あるいは遅れているときには、子どもが発達のどの段階にいるのか把握して、子どもの生活全体に対して働きかけていくことが大切になります。

言葉の領域について考えるとき、子どもの運動能力の育ちや、情緒面の育ちについても同時に考えることが必要です。

ここでは言葉の育ちのステップと共に、そのステップごとにみられるコミュニケーションや身体の動きの特徴についてお伝えします。
言葉の育ちのステップ
言葉の育ちのステップ
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泣く

生まれてきてすぐの頃には、赤ちゃんは空腹や排泄などの不快な状態を表すために泣きますが、これは体の内部の不快な状態を表しただけで、特に養育者に向けて訴えたものではありません。

クーイング

生後間もなくは、泣くことでしか自身の身体の状態を示すことのできなかった赤ちゃんはやがて、「くー」や「あー」などの、柔らかい声を出すようになります。これは、赤ちゃんが「心地よい」「気持ちよい」と感じるときに多く発する声でクーイングと呼ばれおり、だいたい生後2ヶ月ごろに見られます。クーイングが出ることで、音をつくる器官が少しずつ育ってきていることが分かります。

喃語(なんご)

そして、骨格が整い、口の奥にある音をつくる器官が成長することにより、「あむ」や「ばぶ」などの、2つ以上の音のある声である喃語を発するようになります。次第に、周りの大人が子どもの発した音声を「意味のあるもの」として応じていく中で、子ども自身が自分の声を「意味のあるもの」として発していくというような変化がみられます。また、音の調節と発声、肺から出る空気のコントロールができるようになり、発する喃語の発音もはっきりしてきます。

この頃には、身体の動きも活発になり、興味のあるものを目で追ったり、手を伸ばしたりし、表情も豊かになってきます。リズミカルに身体を動かしたり、声を出して笑ったりするようになります。

指差し

喃語が出るようになってから数ヶ月くらいが経つと徐々に喃語は少なくなり、その代わりに指差し、身ぶり手ぶりが増えていきます。この時期になると、言葉を話すまでの一歩手前だといわれています。指差しは、認知機能が発達し、言語が芽生えるきっかけとなる行動です。

知っているものと知らないものの区別がつくようになり、知らないものは不安になるという心の状態も発達します。指差しをして認識する対象はモノだけではなく人にも向けられ、人見知りをしだすのもこの時期です。

他者の視線の方向に自分の視線の方向を合わせようとする行動も現れはじめます。これは「共同注視」と呼ばれる認知行動で、自分と他者、間にあるモノの三項関係が徐々に成立するようになります。

「子どもと他者が物を介して経験を共にすること」がコミュニケーションを獲得するステップには欠かせないので、温かく見守りながら関わりを持っていくことが大切です。

一語文

ある特定の音声(マンマならマとンとマという音の組み合わせ)が、どの人にとってもほぼ共通するものと結びついていくことが分かってくると、一語文という意味をもった言葉になります。一語文が喃語と異なるのは、意味をともなう言葉であるという点です。たとえば、犬という意味をともなった「わんわん」、ご飯という意味をともなった「まんま」などです。子どもが伝えたい事柄に対して、大人がそのものの名前を「まんま、ほしいのね」や「わんわんだね」などと返していくことにより、言葉の獲得にもつながっていきます。

二語文

一語文が出るようになってから、数ヶ月すると、「わんわん、いる」「まんま、ちょーだい」などの、名詞と動詞の2つの言葉を使い、助詞のない簡単な文を話すようになります。最初の段階では散発的にしか出ないものですが、二語発話が本格的に使えるようになるのは、二語文が出始めてからだいたい2~3ヶ月後です。
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