情緒障害とは?具体的な症状、情緒障害のある子どもへの支援について【医師監修】

ライター:発達障害のキホン
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就学相談をきっかけに「情緒障害」という言葉を初めて耳にする方も多いのではないでしょうか?情緒障害は、子どもが何らかの要因により感情面に問題が生じ、社会に適応できない状態にあることを指す言葉です。ですが、医学、教育、福祉それぞれで位置づけが少し異なります。この記事では、特別支援教育などの教育の場における情緒障害を中心に説明していきます。

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監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。
目次

「情緒障害」とは。医学的診断基準はない?教育、福祉での位置づけとは?

情緒障害とは

情緒障害とは、子どもが何らかの要因により感情面に問題が生じ、社会に適応できない状態にあることを指す言葉で教育や福祉を中心とした分野で使われています。しかし、情緒障害は医学的な診断名ではありません。

実は「情緒障害」は、厳密かつ普遍的な定義がなく、その意味や内容は時代や社会的な背景と共に大きく変遷してきました。
そのため現在実際に使われている「情緒障害」という言葉も、医療、教育、福祉のそれぞれにおいて位置づけが少し違います。

「情緒障害」という診断名は存在しない

医学的な診断として「情緒障害」という診断名はありません。
国立特別支援教育総合研究所によると、医学的な用語としての「情緒障害」は次のようにまとめられます。
医学的な用語としての「情緒障害」を以下に示す。
1)厳密で普遍性のある定義はない。
2)病名ではなく症状もしくは状態像を指して用いられることが一般的。
3)現在では、心理的要因が原因と想定されるものに主に用いられるが、例外もある。

引用:発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究(平成22年度~23年度)|国立特別支援教育総合研究所
出典:https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7056/seika13.pdf

教育における「情緒障害」の位置づけ

特別支援教育の場面で「情緒障害」は以下のように定義されています。
情緒障害とは、周囲の環境から受けるストレスによって生じたストレス反応として状況に合わない心身の状態が持続し、それらを自分の意思ではコントロールできないことが継続している状態をいいます。情緒障害の状態の現れ方や時期は様々であり、状況に合わない心身の状態を自分の意思ではコントロールできないことにより、学校生活や社会生活に適応できなくなる場合もあります。また、児童生徒本人は困難さを感じているにもかかわらず、その困難さが行動として顕在化しないため、一見すると学校生活や社会生活に適応できているように見えてしまう場合もあります。

引用:(7)自閉症・情緒障害|文部科学省
出典:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/mext_00807.html
・特別支援教育における「情緒障害」に当てはまる症状
『教育支援資料』教育の場で用いられる情緒障害にあてはまる症状の具体例として、場面緘黙をはじめ、そのほか、集団行動・社会的行動をしない、ひきこもり、不登校、指しゃぶりや爪かみなどの癖、常同行動、離席、反社会的行動、性的逸脱行動、自傷行為をあげています。

福祉における「情緒障害」の位置づけ

福祉の場における情緒障害という用語は、昭和36年の児童福祉法改正に伴い、情緒障害児短期治療施設が開設されたことにより使われるようになりました(情緒障害児短期治療施設は、現在、児童心理治療施設という通称で呼ばれることもあります)。
参考:児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)|e-gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000164
情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)は、心理的な困難や苦しみを抱え生きづらさを抱えている子どもたちが治療を行う施設です。入所する場合と、通所する場合があり、入所治療は原則として数ヶ月から2~3年程度の期間となります。治療を行いながら、家庭復帰やそのほかの支援機関につなげ、将来的に地域で生活していくことを支援していきます。

情緒障害と発達障害の違いは? 情緒障害の症状の具体例も

情緒障害と発達障害の関わり

発達障害は医学的な診断の一つですが、情緒障害という医学的な診断はありません。
情緒障害は、特別支援教育の場では「情緒の現れ方が偏っていたり、激しかったりする状態を自分の意思では感情をコントロールできず、学校生活や社会生活に支障となる状態」を示しており、発達障害はその中のタイプの一つとして位置づけられています。

特別支援教育における「情緒障害」の2つのタイプ

特別支援教育の場で「情緒障害」とされる状態は、具体的には2種類のタイプがあります。
1つは、ASD(自閉スペクトラム症)などを含む発達障害の特性により、言語発達の遅れや対人関係の形成などが難しく、日常生活に困難を抱えるというもの。もう1つは、心理的な要因などにより日常生活に困難を抱えているというものです。
参考:情緒障害のある子どもへの配慮|国立特別支援教育総合研究所
https://www.nise.go.jp/nc/report_material/disaster/consideration/consideration12
情緒障害の症状の具体的として以下があげられます。

・拒食、過食、異食など食事の問題
・不眠、不規則な睡眠習慣など睡眠の問題
・夜尿、失禁など排せつの問題
・性への関心や対象の問題など性的問題
・チック、髪いじり、爪かみなど
・身体を前後に揺らし続けるなどのような同じパターンの行動の反復(常同行動)
・対人関係の問題
・学業不振
・不登校
・虚言癖、粗暴行為、攻撃傾向など反社会的傾向
・リストカットなどの自傷行為
・怠学、窃盗、暴走行為など
・感情や行動のコントロールができない(多動,興奮傾向,かんしゃくなど)
・場面緘黙
・無気力

上記のいくつかの症状が組み合わさって現れることが多く、このような行動が長期間頻繁に続き、学校での学習や集団行動に支障をきたすほどの場合には情緒障害としてとらえられます。

場面緘黙と心理的・情緒的な理由による不登校

特別支援教育の場で「情緒障害」としてあがることの多い、場面緘黙と心理的・情緒的な理由による不登校について紹介します。
・場面緘黙とは
場面緘黙は、話したくても話すことができない状態を指します。

具体的には、家庭などでは話せるにもかかわらず、学校などの言語コミュニケーションを必要とする場面で1ヶ月以上話すことができず、生活にも影響がある状態です。ただし、声に出して話すことはなくても、指差しなどの非言語、筆談やカードなどの代替手段によって、コミュニケーションをとることには問題がなかったり、本人がそのほうがよいと選択する場合もあります。

なお、医学的な診断にあたっては、言葉の知識不足や、コミュニケーション障害(コミュニケーション症)、ASD(自閉スペクトラム症)、統合失調症など他の精神疾患によるものではないことを確認します。
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・心理的・情緒的な理由による不登校
文部科学省の教育支援資料において、情緒障害教育の対象としての不登校は、以下のように定義されています。
不登校の要因は様々であるが,情緒障害教育の対象としての不登校は,心理的,情緒的理由により,登校できず家に閉じこもっていたり,家を出ても登校できなかったりする状態である。そして,本人は登校しなければならないことを意識しており,登校しようとするができないという社会的不適応になっている状態である。したがって,一般的には,怠学や学校の意義を否定するなどの考えから,意図的に登校を渋る場合は,学校に登校しないという状態は類似しているが,ここでいう情緒障害の範囲には含まない。
平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP
出典:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFile...

情緒障害のある子どもへの支援とは

前述の通り、情緒障害とは「教育」や「福祉」の場面を中心に使用されている言葉です。特に特別支援教育の場面で使用されるため、就学をきっかけに耳にする方が多いと思います。
幼児の場合も上述したような情緒障害にあてはまるような症状がある場合は、発達支援センターなどに相談してみましょう。

以下では情緒障害のある子どもへの就学の選択肢や、情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)、そのほかの支援施設について紹介します。

情緒障害のある子どもの就学の選択肢

小学生、中学生、高校生それぞれに通級指導教室、特別支援学級という選択肢があります。特別支援学校においては「情緒障害」は対象になりません。
※自閉症の医学的診断名は現在ASD(自閉スペクトラム症)となっていますが、特別支援教育において自閉症・情緒障害とされているため、この表記としています。

1.自閉症・情緒障害通級指導教室
通級指導教室とは、その子の特性に合った個別の指導を受けるための教室です。小・中学校に通う比較的障害の程度が軽い子どもが、通常学級に籍を置いて、通級指導の時間のみ通級指導教室に通います。
子どもが在籍する学校に通級指導教室がない場合は、通級指導教室があるほかの学校に通って通級指導を受ける場合もあります。通級による指導は障害の種別によって教室が分かれ、その子に合った指導が受けられますが、情緒障害のある子どもは「自閉症・情緒障害通級指導教室」の対象となります。東京都など一部の地域では、発達障害のある児童・生徒が在籍校で通級と同様の指導を受けることができるよう、公立小・中学校に「特別支援教室」というような名称で少人数のクラスが設置されています。

・対象者
通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導(社会的適応のための特別な指導や教科の補充指導など)を必要とする程度のものであるとされています。

・どのような指導がされるか
基本的には、特別支援学校などにおける、障害がある生徒の自立を目指した教育的な活動を参考とした指導が中心で、社会的適応性の向上が目的とされています。

通級指導を受ける場合、大半の時間を通常学級で過ごし、通級指導を受ける時間は限られています。そのため、本人が苦手とするコミュニケーションを学んだり、必要に応じて各教科などの補充的な指導は行っていますが、学習の遅れを補修するものではありません。


2.自閉症・情緒障害特別支援学級
特別支援学級とは、障害のある子ども一人ひとりに応じた教育を行うため、小・中学校に設置された障害種別ごとに編成された少人数の学級をいいます。
特別支援学級は障害種別ごとに、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害の7つの学級があります。

・対象者
文部科学省は、自閉症・情緒障害教育の対象を以下のように定めています。
一 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成 が困難である程度のもの
二 主として心理的な要因による選択性かん黙などがあるもので,社会生活へ の適応が困難である程度のもの
平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP
出典:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340331.htm
場面緘黙や不登校などの感情面での問題のために、通常の学級では学習を行うことが難しく、社会的適応のための特別な指導を行う必要がある子どもが対象者であるとされています。

・どのような指導が受けられるか
情緒障害やASD(自閉スペクトラム症)のある子どもなどが、人との関わりを円滑にし、生活する力を育てることを目標に指導を受けることができます。 特別の教育課程を編成することができることが特徴です。基本的に主な授業は特別支援学級で受けますが、体育や図画工作、給食の時間は通常学級の子どもたちと過ごすこともあります。

3.特別支援学校
特別支援学校とは、心身に障害のある児童・生徒が通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。基本的な教育のほか、障害のある児童・生徒の自立を促すために必要な教育を受けることができるのが大きな特徴です。
情緒障害は、特別支援学校の対象ではありません。情緒障害とされている子どもが、知的障害や病弱・身体虚弱を伴う場合は、知的障害特別支援学校や病弱特別支援学校などの支援対象となることもあります。
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そのほかの支援施設

・放課後等デイサービス
幼稚園・大学を除いた学校に就学中で、かつ障害のある子どもが、学校の授業終了後や長期休暇中などに通い、生活能力向上のための訓練および、社会との交流促進を行う施設です。

施設利用にあたって療育手帳や障害者手帳は必須ではなく、障害児通所支援受給者証を申請し、認可が下りれば利用することができます。施設のタイプは、習い事型、学童保育型、療育型の大きく分けて3つのタイプに分けられます。

詳しくは以下の記事をご覧ください。
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