発達障害者支援法から10年、現場の教師たちはどう変わってきたのか。スクールカウンセラーが見た風景

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発達障害に対する教師の理解も年々深まりつつあります。 私は文部科学省が特別支援教育の制度を開始した当初から、大学教授の立場で小中高の先生方に向け研修会を開くなど、発達障害の理解を促す立場でもありました。この10年程、粉骨砕身する現場の声を知る度、知識とスキルを発展させている先生が増えていると感じています。先生たちとの奮闘記を交えお伝えします。

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多忙な学校現場に投じられた「個別の支援」というミッション

10年以上も前のことですが、日本にも発達障害の概念が広まり、学校で個別の支援についての研修がさかんに行われだした頃、大学教員である私も、研修会の講師として各地へ頻繁に出かけていました。

子どもの状態を正しく評価し、その子に応じた支援計画を立て、学内外と連携し、たとえ障害があっても活き活きと生きられるように支援するのだと、学校の先生に向けて話して回っていたのです。

そんな中、受講した教師の言葉が風の便りに聞こえてきました。

「大学教員は新しいことをやれやれと言うが、実際に行うのは自分たち教師だ。日常業務で多忙な中、評価だ、個別の支援計画だと次々に言われたらパンクする。無責任にあれやれこれやれと言わないで欲しい」

表立って口には出す人は少ないけれど、多くの現場の教員は心の中で叫んでいたことだと思います。

今思えば、発達障害についてよく理解していない上に誰も助けてくれない中で、個の特性に応じた教育をと言われても、ただただ難題を突きつけられただけだったのかもしれません。

現場の教員への負担の軽減や、育成体制の充実などは、今も残る課題の一つです。

しかし、子どもたちのための新たな教育を開発するためには、やはり多少のストレッチというか、現場の先生たちの自己変革がなければ前進しないと思います。そして実際に、心ある教師はこの10年間にその知識とスキルを目覚ましく発展させてきています。

先生たちがフランクに話せる場所が生まれると…

今回の記事では、私が関係した心ある教師たちの進化と実践を紹介したいと思います。

地方の中高一貫校の教育相談担当教員に事例検討会の助言を頼まれた時のことです。2週間に1回の割合で夕方2時間くらい教育相談室に行き、学校教員と子どもたちの事例について話し合うという内容でした。

参加は自由、途中参加、途中退席可で始めましたが、最初はだれも来ず教育相談担当教員とよもやま話で時が過ぎてしまったこともありました。

そのうち、だんだんと若い教員が顔を出すようになりました。

「クラス運営がうまくいかない」、「保護者からきつい言葉をいただいた」などと、初めはほとんど、グチをこぼすために集まっているようなものでした。

ですが、そうした弱音も含めてフランクに吐き出せる場を続けていくと、いつしか真剣な生徒指導上の議論も飛び交うようになりました。

先生同士で話せる場があれば、問題解決の根拠を見い出しやすくなる

事例検討会が軌道に乗ってきたそんなある日、赴任して間もない若い男性中学教員が会に顔を出しました。そしてクラスの女子生徒のことについて話し始めました。大柄なその女子生徒が教室の中で口論になりカッとなって木製の椅子を持ち上げ床にたたきつけて粉々にしたというのです。

「もしその椅子が他の生徒に当たったらと思うとぞっとする、どうしたらよいだろうか」という相談を持ちかけたのでした。その教員は生徒との面談の内容も話してくれました。

「幼稚園児の頃から体が大きく力が強かった。カッとなりやすい性格で、一度カッとなったらすぐ相手を殴ってしまうので、みんなから乱暴者と言われていた。小学校もずっとそんな調子だった。」生徒はこのようなことを話してくれたそうです。

その学校は私立でした。地元では評判が良くなく受け入れられていないと感じる子が、地元の公立ではなく遠く離れた知り合いのいない私立の学校に進学するケースがよくありますが、この生徒もそのような子でした。

ですが、相談してくれた担任教師自身が彼女に対して抱いている印象は、「乱暴者には見えない、自分のことをきちんと言える生徒」ということでした。

普段の姿と暴力的な姿とのギャップに戸惑いを感じて、対応に悩んでしまったのです。

「カッとなりやすい生徒」を多角的な視点で見てみると…

みんなで良い知恵を出そうと話し合いましたがなかなか妙案が出てきません。その生徒のイメージがつかめないのです。

私は教員と話し合い助言する立場ですので、直接生徒や保護者と会うことはまれでした。しかしこのケースではもう少し生徒の状態を知りたいと思ったので、私も直接面談させてもらうことにしました。

一番気になったのは、カッとなったら頭が真っ白になり、自分がしたことを覚えていないということでした。もしかしたらてんかんなどの意識障害があるのではないかと疑ったのです。

担任が面談を設定してくれてその生徒から話を聞きました。しっかりと話のできる生徒でした。

内容はほぼ担任から聞いたことと同じでした。

「カッとなってからのことは覚えていない。気がついたら目の前にばらばらになった椅子がある。でも、カッとなって自分が何かをしでかしそうになるところまでは覚えている」と、話してくれました。

議論の場があったからこそ発想できた、生徒のストレスを発散させる妙案

生徒から聞き出したことをヒントにして考え、再び事例検討会に臨みました。

この生徒には、
・カッとなった自分を内省する力はある
・しかし、ひとたびカッとなると感情を自分で抑えることは難しい

という特徴が見られます。

そこで、「カッとなったと思ったときは、その場を離れてストレスを発散させられるようにすれば良い」のだと話しました。

すると担任教師は、「教室を出たところの階段を昇れば広い場所がある。そこに教材が置いてある。今は紙粘土がたくさんある。それを板に投げつけさせるのはどうか」と提案しました。皆もいい案だと言い、早速担任が中心となり実行させることになりました。

次の事例検討会で、その後の経過を聞きました。

担任が生徒に、「カッとなったら教室を出て教材置き場に行き、そこで紙粘土を気が済むまで板壁に投げつけるように」と言うと生徒は了解し、実行したとのことでした。これを行うことによって教室での暴力沙汰は無くなりました。

生徒を見守るチーム体制ができ、保護者と学校の関係性にも変化が

私はこの生徒がカッとなった後に意識が無くなることをまだ気にしていました。親が正しく子どもの状態を学校に伝えないことが多いからです。そこで担任に親から直接精神的、身体的なことを聞きたいと言い、親と会う設定をお願いしました。母親が来て私と担任が会いました。母親は看護師でした。幼児の頃から乱暴だと言われていたところから話していただけました。

肝心の記憶がない、意識がないということについては、脳波検査を受けたが異常はなく、てんかん等の神経学的異常は認められなかったとのことです。

その話を聞いたので、
「お呼びだてしてすみません。娘さんの指導が間違っていないかどうかを確かめたくて来ていただきました。お忙しいのにすみません。」

と丁重にお礼を述べようとしたのですが、まだ私が話し終わらないうちに、母親がすっと立ち深々とお辞儀をし、

「これまでの学校の中で一番子どもをよく見てもらっています。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。」
とおっしゃいました。

問題を起こす子どもの親が学校に呼び出されると、苦情を言われていると思って嫌な気持ちになることを知っていたので、その言葉には驚きとともに安堵し幸せな気持ちになりました。

「すばらしい担任ですからご安心ください。」と伝え、私は面談を終えました。

担任の先生の果たした大きな役割

それからひと月ほど経った事例検討会の時、担任にまだ紙粘土投げは続いているかと尋ねました。担任は、「実はもうそれをやっていない、紙粘土も乾いてしまっているし…。」と歯切れ悪く答えました。

よくよく聞くと紙粘土投げを何度か行った後、カッとなって階段を上って教材置き場に向かう途中、気持ちがスーと落ち着いて教室に戻ると生徒が言うというのです。もはや紙粘土を投げる必要はないのではないか、すると、乾いた紙粘土の代わりにほかのストレス発散の手段を考える必要はないのではないかとその担任は思い悩んでいたのでした。

私が「それは自分の気持ちをコントロールできるようになったという証拠。もうストレス発散は止めても良いと思います」と伝え、この対応を終わりにしました。

なぜその生徒が、こんなにも早く気持ちのコントロールができるようになったのか、理由は定かではありませんが、こう推測できます。

一つには中学2年生になり気持ちをコントロールする機能が成熟したことが考えられます。

もう一つは担任が親身になり、対応策を考え生徒に実行させたこと自体が、生徒の自信や安心につながったことが考えられます。

あるいはこの二つの相乗作用として、成熟しつつあったコントロール機能が、担任の親身な寄り添いと手段によって加速されたということかもしれません。

また、子どもが落ち着いてきたことによって親子関係が良くなったり、クラスメートのからかいが減少したことも影響しているのかもしれません。

いずれにしても事例研究会での相談事からはじまり、知識とスキルを発展させ、生徒の問題解決に収斂させていった担任の果たした役割は大きかったと思います。

まとめ

発達障害児の概念が生まれ個別の支援が叫ばれるようになってから、教育現場では上記のような取り組みをはじめ様々な取り組みを試みています。

個の教育的ニーズ(必要性)に合った教育というスローガンが空々しくならないように、教育する側も努力する必要があると思います。

そのためには教師や学校に根拠に基づいて助言できる人材を増やさなければならないように思います。現在は特別支援学校に在籍する教員が各学校を回って助言する巡回コーディネータを務めていますが、さらに発達障害児童のための専門的な教員を増やすよう文部科学省も動いているようです。

障害を正しく理解し正しく支援できる人が増えてみんなの知恵と力で一人一人が大切に教育される社会が作り上げられることを願っています。
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10年前で、発達障害者への教育に難儀する時代。成人するまで、発達障害に気付かず、何の援助も得られぬまま現在に至る。

そんな悲劇を、もう繰り返してはならない。

今後、数年後には、教育の現場での発達障害への理解が、さらに深まる事を祈ります。

コップ さん
2016/12/16 23:40
うちの息子もまさに同じです。暴れてしまうと頭が真っ白になり、泣き出し、近くにあるものを投げてしまいます。それはいつも相手による叱責や暴言などによる反応です。

そうなる前に何度も納得いかないと本人が訴えているにも関わらず、それは聞かず、やってしまったことを教師はまず、謝れ!と何時間も
個別に指導をします。一度でも暴れてしまえば
問題児扱いで本人の話は全てウソとみなし、
流して謝罪を要求します。
教育委員会が入った今も対応が変わらない教師には本人が反応し、暴言をいってしまいます。

うちの息子が通う中学校はこの記事に何も成果もない中学校です。表向きはやっていますがやったつもりなだけです。しかし、諦めません。
おかしいことはおかしいと言っていいです。
泣き寝入りはしません。変えていきます。

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