軽度知的障害(軽度知的発達症)とは?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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軽度知的障害(軽度知的発達症)は、言葉によるコミュニケーションや日常的な生活が可能なことから気づかれにくいという特徴があります。しかし、抽象的な内容の認識に困難さがあり、学習面でのつまずきや複雑な対人コミュニケーションなどに難しさを感じることが多い障害です。本人の認知特性に合った学習機会や具体的な経験を積める機会を増やしたり、時間や空間などの抽象的な概念は本人の経験に結びつけて説明をすることが大切です。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

軽度知的障害(軽度知的発達症)とは?

軽度知的障害とは?特徴は?判明しやすい時期は?
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軽度知的障害(軽度知的発達症)とは、発達期(18歳ごろ)までに生じた知的機能の障害により、知的発達が実年齢よりも低い知能指数(IQ)50~69の水準にとどまっている状態を指します。言葉や抽象的な内容の理解に遅れがみられることがありますが、身の回りのことはほとんど一人で行うことができます。学業面では遅れが生じますが、生活経験を重ねながら問題解決能力を身につけられます。

※現在、『ICD-11』では「知的発達症」、『DSM-5』では「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と表記されていますが、知的障害者福祉法などの福祉的立場においては「知的障害」と使用していることが多いため、この記事では「知的障害(知的発達症)」という表記を用います。

幼児期期には気づかれにくく、中には学齢期以降に不登校やひきこもり、うつ病や不安障害などにおちいってしまい、相談機関や医療機関を訪れ、その背景として軽度知的障害(軽度知的発達症)が診断されるというケースもあります。またASD(自閉スペクトラム症)などの併存症を伴っていることもあり、併存症の方が目立って表出しているケースもあります。


知的障害(知的発達症)の定義は、以下のようにいわれています。
知的能力障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障害の一つです。発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害のことです。すなわち「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と「2. 適応機能の明らかな欠陥」が「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html#:~:te...

知能指数(IQ)と適応能力って?

知能指数とは人の知能の基準を数値化したものです。ここでいう知能(IQ)とは、いわゆる学力ではなく、目的に沿って合理的に考え、効率的に環境を処理する総合的な能力のことをいいます。IQ90~109が平均の知能指数であり、そこからどのくらい高いか・低いかと考えます。軽度知的障害のある人は、概ね知能指数(IQ)が50~69にとどまるとされています。

適応能力とは身辺の自立(食事・着替え・排泄など)や家事、社会的な対人関係の構築、読み書き・コミュニケーションなど日常生活や社会生活上における全般的な能力のことを指します。能力の測定は、自分の強み・弱みを理解するために行います。
IQとは?知識指数を示すIQの定義や知能検査の種類など/専門家監修のタイトル画像

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知的障害(知的発達症)の分類はどうやっているの?

知的障害(知的発達症)の分類
(厚生労働省の資料をもとに作成)
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この図は知的障害(知的発達症)の程度・区分を示した図です。横軸に「日常生活能力水準」、縦軸に「知能指数(IQ)」の程度を表しています。日常生活能力水準がaに近づくほど自立した生活が難しく、dに近づくほど自立した生活ができることを表します。同様にⅠに近づくほどIQが低く、IVに近づくほどIQが高くなります。

知的機能が低かったとしても日常生活への適応能力が高ければ、一段階軽度の程度で判断されることがあります。
(厚生労働省の資料をもとに作成)
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IQ36~50の方でも適応能力が高ければ軽度知的障害(軽度知的発達症)に含まれます(※あ)。一方で、IQ51~70の方でも日常生活への適応能力が低い場合は、中度知的障害(中度知的発達症)に含まれる場合もあるということです(※い)。

このように、知的障害(知的発達症)は知的機能検査だけで判断されるわけではなく、知的機能と適応機能の2つが評価された上で診断されます。

またこの程度を分類する方式は、療育手帳を取得する際にも用いられています。ただし、療育手帳の取得には地域差があり注意が必要です。療育手帳については8章で詳しく説明していきます。
知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】のタイトル画像

知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】

知的障害(知的発達症)の原因って?

知的障害(知的発達症)の原因は一つではなく、原因不明の知的障害(知的発達症)の人も多いとされています。原因解明の研究が進んでいますが、現段階では内的原因と外的原因に分類することができるといわれています。

内的原因

内的原因とは遺伝子や染色体の異常など、子どもが先天的にもつ原因のことをいいます。病気や外傷など脳障害をきたす疾患で、これらの併存症として知的障害(知的発達症)が一緒に起きることを病理的要因と呼びます。

この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。知的障害(知的発達症)の原因の約8割が出生前に発生していることが分かっており、以下のような疾病があげられます。

・ダウン症
・多因子性疾患
・てんかん
・脳性まひ など
※上記にあげたものは必ずしも知的障害(知的発達症)をともなうわけではありません。

また、中には特に疾病名などがなくても内的原因によって知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合もあり、生理的要因と呼んで区別されます。

外的原因

外的原因とは出生前後に起こった事故や養育環境などによる外的な要因が、原因となることをいいます。具体的には出生前に母体を通じて感染症や薬物・アルコールなどの大量摂取などにより、子どもに影響を及ぼす場合があります。

中には知的障害(知的発達症)だけでなく、発育の遅れや中枢神経に何らかの異常をきたす恐れもあります。

また出産時のトラブルでの頭蓋内出血、出生後の感染症への感染、事故などによる発達期の頭部外傷が原因になることもあります。このことを環境要因と呼びます。

・感染症
・出産時、出産後に起こった頭部の外傷
・出産時のトラブル など
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軽度知的障害(軽度知的発達症)の特徴の現れ方

軽度知的障害(軽度知的発達症)は知的機能と適応能力にやや遅れがあるものの、身の回りのこと(食事・洗面・着衣・排泄など)は自分で行うことができます。読字、書字、算数、時間などの概念の認識や、会話、コミュニケーションなどの社会的な面において困難を抱えることもありますが、自ら学び取る力もあり、経験を重ねることで得られる知識や学びは広がります。

周りの人たちが軽度知的障害(軽度知的発達症)の特徴に気づきやすい場面

軽度知的障害(軽度知的発達症)がある子どもは言葉の遅れ、学習の苦手さがあるといわれています。

言葉は話せても、抽象的な意味を理解したり説明したりすることが難しかったり、文字の読み書きや計算など学習面で全般的な遅れがある場合もあります。

また物事を記憶しておくことも苦手です。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」が存在しますが、短期記憶を繰り返し思い出すことにより、長期記憶として蓄えられていくと言われています。

軽度知的障害(軽度知的発達症)があっても、身のまわりのことは年齢を追うごとに問題なく発達します。しかし物事を概念的にとらえて学習するよりも直接的・経験的に学ぶ方が多く、このため経験の範囲を超えた知的な要求が増える学齢期以降に障害があることに気づくことが多いのです。
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