失読症で困る場面は?

パソコンやスマートフォン、SNSが普及した現代社会では、日々の生活やコミュニケーションにおける文字情報の役割はとても大きなものとなっています。

あなたが今読んでいるこの記事も、家族や友人などからのメールやチャットも、ソーシャルメディアの投稿も、電車内に掲げられた車内広告も、すべて多くの文字と文章によって成り立っていますね。

以下に、失読症の人が困難を感じる日常生活の場面をいくつかご紹介します。「自分がある日突然文字を読めなくなってしまったら...」想像しながら読むと、失読症の方々の大変さがよりわかるのではないかと思います。

■仕事をするとき
書類作成など文字を扱う業務が難しいことがあります。他にも、資料を利用しながら進む会議、メモが必要となる電話対応などで苦労する場合もあります。

■買い物をするとき
値札が読めない場合、値段を知ることができません。さらに、商品表示が読めず類似する商品の違いが判断できないという場合もあります。

■電車に乗るとき
駅にある路線図や運賃表示を読めないと、目的地までの行き方や値段を知ることが大変です。切符の自動販売機も文字情報が多く、切符を買うだけでも一苦労なのです。

■趣味を楽しむとき
小説や漫画、洋画であれば字幕など、もともと持っていた趣味を楽しむ上でも障害が生じます。

上記のように、文字が読めないことは日常生活のさまざまな場面で影響を与えます。また、失読症の人の中には「文字が怖い」とまで感じる人もいるようです。
参考:「純粋失読」|土本亜理子,三輪書店(2002)
https://www.amazon.co.jp/dp/4895901823

失読症の困難への対処法

文字を見やすくする

失読症の中には、文字を読みにくく感じている人が多くいます。そうしたとき、例えば、文字を大きく分かりやすい字体(フォント)にしたり、読む範囲以外の上下左右を隠したりすることで、本人にとって文字が読みやすくなることがあります。ほかにも、文字が小さすぎて読むのが困難に見受けられる場合は拡大コピーなどの工夫が効果的です。

また蛍光ペンで重要と思われる部分にだけ色をつけることで、読む情報量を調整できます。これにより文章を読むことに対しての抵抗感を減らせます。

音声にする

耳からの情報は理解できることが多いため、問題文などの文章を音声にして聞くと問題なく理解できる場合も存在します。文字を見ながらその音声を聞くことにより、文字・音・意味が繋がる可能性があります。最近では電子書籍も普及し、音声での読み上げシステムが備えられている場合も多くなってきています。

ふりがなやスラッシュを振る

漢字などが分かりづらい場合、ふりがな(ルビ)を振ることが効果的な場合もあります。例えば、職場で使用する器具や資料などにふりがなを振ってもらうという方法が効果的な場合があります。しかし、周囲の理解を得ることが難しいこともあるため、しっかり話し合い、合理的配慮をお願いするとよいでしょう。

また、文章のどこまでがひとまとまりなのか理解できないことがあります。このような場合は「スラッシュ」(/)を引き、どこが文章の区切りとなっているのか、明確に表すことで文が読みやすくなる場合があります。

色つきメガネを使う

背景が白である文字よりも、青や緑など色がついていた方が見やすいという人もいるようです。色つきメガネなどをかけると、目が疲れずに文字が読める場合があり、文字を読むスピードが上がったなどの報告もあります。

合理的配慮の一環として、教科書に黄色のクリアファイルを重ねて音読させたところ、読みやすさが上がったとも報告されています。

スマートフォン・タブレットを活用する

スマートフォンやタブレットなどのICT機器を使うと、文字を拡大できたり、音読機能があったりと便利です。音声検索によって検索をし、検索結果を読み上げてもらう設定を活用することで、文字を読むことなしに情報を得ることができます。

以下のサイトでは、スマートフォンの中でも使用率が高い、iPhoneで「読み上げ」機能を設定する方法を紹介しているので、参考にしてみてください。
iPhone、iPad、iPod touch で VoiceOver、画面の読み上げ、選択項目の読み上げの声や速度を調整する|Apple
https://support.apple.com/ja-jp/HT202362

失読症の相談先は?

検査~診断~治療までの流れ

本記事の序章で説明した通り失読症は高次脳機能障害の一つであり、検査にはMRIやCTが必要とされます。そのため、脳卒中や脳梗塞を経て失読症の症状が現れた場合、まずはかかりつけの脳神経内科や脳神経外科に相談することをおすすめします。

その後、視空間認知能力や、言語機能についての検査をします。脳の損傷によってどの言語機能がどの程度の影響を受けているのかを明らかにするのが目的で、言語聴覚士という言語リハビリテーションの専門家などによって行われます。

具体的には、標準失語症検査(SLTA)、標準高次視知覚検査(VPTA)などといった検査が行われる場合があります。

「読む」機能だけではなく複数の認知あるいは言語機能に問題が生じている場合などもあるため、症状の程度や種類に合った言語リハビリテーションが施されます。
参考:高次脳機能障害 ─検査の進め方|前島・大沢・宮崎,高次脳機能研究 30(2)P.299 ~ 307,(2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/30/2/30_2_299/_pdf

高次脳機能障害の診断基準

高次脳機能障害の診断基準は、国立障害者リハビリテーションセンターHPにおいて以下のように示されています。
I 主要症状等
1. 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2. 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

II 検査所見
 MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

III 除外項目
1. 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I- 2)を欠く者は除外する。
2. 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3. 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

IV 診断
1. Ⅰ~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2. 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3. 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

引用:高次脳機能障害を理解する|高次脳機能障害情報・支援センター
出典:http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
また、高次脳機能障害に対応できる医療機関をまとめて紹介している団体や地方自治体もあります。以下には高次脳機能障害の全国の相談窓口がまとめられていますので、参考にしてみてください。
参考:相談窓口の情報|国立障害者リハビリテーションセンター
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/soudan/
次ページ「失読症は治るの?治療法は?」

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