子どもの癇癪の原因、発達障害との関連、癇癪を起こす前の対策と対処法、相談先まとめ【専門家監修】
大声で泣き叫んだり、暴れたりする子どもに困っている…。一旦気持ちが爆発するとなかなか収まらない癇癪ですが、子どもが癇癪を起こす背景には必ず理由があります。普段の生活から子どもに配慮を行うことで癇癪を抑えることもできます。この記事では、癇癪の原因、発達障害との関連、対策や対処法についてご紹介します。
※2021年6月に情報を更新しました


子どもの癇癪とは?
具体的な癇癪行動としては以下のようなものがあり、子どもによって異なります。
・床にひっくり返って泣きわめく
・物を投げたり、自分の頭をものにぶつけたりする
・周りの人を殴ったり蹴ったりする
というような状態がよく見られます。
それまでは問題なく穏やかに過ごしていた子どもが突発的に癇癪を起こすこともあります。また過度な場合だと癇癪を起こしているときに、自制できない衝動的な行為として自分を傷つけてしまったり(自傷行動)、物を壊したり、他者を傷つけてしまう(他害)こともあります。
癇癪は、乳児期には空腹や眠気、痛み、おむつが濡れたりといった不快な刺激や状況によって引き起こされるものですが、成長に伴って子どもにとっての何らかの不都合を親に伝え、それを取り除くコミュニケーションの機能をもってきます。
例えば、おもちゃを取り上げられてしまって癇癪を起している子どもの状況を考えてみましょう。おもちゃを取り上げられた子どもにとっては「おもちゃが自分の手元からなくなったこと」が不都合なことです。そのおもちゃを取られたという状況をなくすために、手段として癇癪を起こすという行動の流れになります。
ですので子どもの癇癪をただ「怒っている」「泣き叫んでいる」という単なる一つの行動ではなく、「不都合な現実(原因)」→「不都合を取り除く方法(手段)」→「目的の達成」というグループ化された行動のまとまりとして捉えていくことが大切です。上の例でいうとおもちゃを自分の手元に取り戻すことが「目的の達成」です。
もうひとつ大切な点は、癇癪を起こす子ども自身も怒りの爆発を抑えられず困っている場合があるということです。泣き叫ぶ子どもを見ると「どうして早く泣き止まないの?」とイライラすることもあるかもしれませんが、癇癪がひとたび始まると本人も感情を抑えようとしても抑えられないのです。詳しいことはあとで述べますが、これは子どもの癇癪を理解するために重要な、もうひとつのポイントとなります。
癇癪は赤ちゃんから幼児期、児童期にも見られ、思春期や大人になっても続くこともあります。発達段階やその場の状況によって原因は異なるものの、癇癪が起きているときには、「何か不都合を取り除こうとしている」そして「困っているよとサインを発している」という2つの点を思い出してみてください。
子どもはなぜ癇癪を起こしてしまうの?
生理的な反応としての癇癪
赤ちゃんが泣くと、保護者はあやしたり、ミルクをあげたりといった生理的な不快を解消するお世話をします。この関わりによって、赤ちゃんはコミュニケーションを学んでいきます。
ですので、赤ちゃんが癇癪を起したり泣いたりすることは、この時期に必要なことです。保護者は無視せず、この生理的要求に応えることが重要となっていきます。
コミュニケーションのための癇癪
これらの反応は、自分が保護者とは別の意図をもった人間であるということに、子どもが次第に気付いてきたという成長のあらわれです。これはだいたい1歳ごろから始まるとされており、2・3歳になると言葉も加わって「いやっ!」といいながら自分の意見を主張します。これがイヤイヤ期といわれる時期です。周囲の人と言葉でコミュニケーションができる子どもであれば、苦痛や拒否、要求などを適切に表現して伝え、助けを求めることができるでしょう。
前に述べたように、乳児期の不快な状況に対する生理的な泣きは、成長とともにコミュニケーションの機能を持つようになります。特に言葉をまだ覚えていない乳幼児期の子どもの場合には、泣き叫んだり、暴れたりするなどの行動によってしか、自らの気持ちを伝える手段がありません。このようなコミュニケーションの機能を持つ癇癪には、大きく分けると注目、要求、拒否の3つの場合があります。
【注目】注目を引きたい、かまってほしい
【要求】物が欲しい、活動を行いたい
【拒否】活動をやめたい、ある状況を避けたい等、嫌だという気持ちを伝えたい
つまり過去に、癇癪を起こすことによって結果的に要求を叶えたり、嫌なことしなくて済んだりしたといった経験があった場合にはコミュニケーションの手段として癇癪が習慣化してしまっていることが考えられます。
例えば、癇癪を起こすと母親が駆けつけて抱きしめてくれた、癇癪を起こしておもちゃを貸してもらったなど、親にとっては癇癪をやめさせようとしてとった行動が、子どもにとっては「癇癪してを起していいことがあった」というご褒美になっていることもあるのです。
癇癪はそれぞれの子どもの状況において別々の原因がありますが、こうした経験が重なることで、かまってほしいときに行うコミュニケーション行動として「泣き叫ぶ」「暴れる」ことが学習され、定着してしまっている可能性があります。
癇癪と発達障害って関連はあるの?
自閉症、ADHDなど発達障害のある子どもによく見られる3つの傾向と癇癪の関係
成長するにつれて人は自分のストレスを減らすために工夫を行います。例えば、不快になりそうな状況そのものを避けたり、状況を変えるように働きかけたり、気晴らしをしたり、考え方を換えたり、「この悪いことには何か特別な意味があるに違いない」と状況の意味づけを行ったりです。このようにストレスや興奮を減らすことを専門用語で「自己調整」といいます。
発達障害のある子どもたちは、この自己調整や衝動性のコントロールを行うことが難しい傾向があります。このような行動の工夫を行うことが苦手なので、不快な状況をそのまま経験することになり、ストレスが蓄積されていきます。最後には自分の気持ちをコントロールすることができずに不満や怒りが爆発して癇癪を起こすことがあります。
◆他者と自分の意図をすり合わせるのが苦手である
私たちは、自分の思いと相手の思いの両方を考えながら、時には譲ったり、自分の願いを優先させるために交渉したりして、他人との関わりの中で生きていきます。
発達障害のある子どもたちは、他者の思いと自分の思いを調節することが難しい傾向があります。自分と他者の思いを調整するためには、まず相手の気持ちを把握した上で、「これぐらいなら譲れる(または要求できる)」という2つのステップが必要です。
自閉症スペクトラム障害といわれる発達障害のある子供の場合、まず最初に必要な相手の気持ちや意図を理解するというステップを通過することが難しく、そのために自分と相手の意図を調節するための材料を持ち合わせていない状態に陥りやすいのです。
またこだわりがある、他人のペースに合わせるのが苦手、ということもあります。他者の思いが見えないままに、自分の思いで行動しようとしたときに、相手から「これをしてはだめ」と行動の抑止が入ると、それが「自分のしたいことを邪魔するものだ」として不快な気持ちが起きます。
また、ADHD(注意欠如・多動性障害)といわれる発達障害の場合は、「やりたい」という気持ちを抑えるのが難しいために、相手の気持ちが分かったとしても、「これくらいなら」と程度を見極めてさじ加減をはかることができません。気持ちを譲ることができないことと、感情がすぐに表面化することで、爆発的に怒ってしまうことがあります。
◆言葉に遅れがある
発話が困難であったり、身振りや手振りでうまく伝えるのが苦手であることで、その伝わらないもどかしさや要求を伝えるための手段となり、癇癪を起こしやすくなります。
発達障害のある子どもは、全体的に言葉の発達のスピードがゆっくりな傾向があります。発話が困難であったり、身振りや手振りでうまく伝えるのが苦手であることで、その伝わらないもどかしさや要求を伝えるための手段として、癇癪を起こしやすくなるのです。
このほかにも感覚の過敏性がある、決まったパターンが乱れることが苦手(同一性保持)、余暇の乏しさなどが、癇癪の背景にある場合もあります。

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癇癪を起こさないために普段から気をつけたいこと
癇癪の起きにくい環境を整える(環境調整)
気持ちの切り替えを行うことは子どもにとっては難しいことです。いきなり遊びを中断されたりすることは子どもにとって大変ストレスなことなので、癇癪を起こす要因の一つとなります。
次の行動に移るためには、気持ちの準備をする時間が必要です。「●●したら、ご飯にしようね」など、次の行動が予測できるような声掛けを行うことで、子どもは行動を切り替えるための心の準備をすることができます。
視覚的に分かりやすくすることで、伝わりやすくなることもあります。スケジュールの変更を文字や絵、写真などで見せる理解しやすくなる場合もあります。スマートフォンやゲーム、テレビなどの利用時間を制限したい場合には、タイマーなどを使用して終わりの時間を視覚化するのもおすすめです。
このほかにも、感覚過敏の場合、苦手な環境や状況を避ける、こだわりが強くおもちゃの取り合いになるときはおもちゃの数を増やすなど、癇癪の背景にある特性に合わせて、癇癪が起きにくい環境を整えることが大切です。

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気持ちを伝えるツールを使う
ここでは、ツールの例を1つご紹介します。癇癪は徐々にいらだちが募り、爆発を起こすというパターンが多くなります。ですので、爆発を起こしてしまう前のイライラしているという状態を視覚的に示すカードを用意します。「落ち着いている」「少しイライラしている」「とてもイライラしている」「我慢できない」などとカードに感情を表す絵を描いて子どもの目に見える場所に置いておきます。
簡単なことですが「困ったらどうしたらいいか」を教えてあげることも、子どもが、癇癪を起さないためのひとつの方法です。というのも子どもの場合には、ネガティブな感情をもったときにそれをどのように処理したり扱ったりしたらよいか分からないことがあります。例えば、「どうしたらいいか分からないときには『困った』って言うんだよ」などと、困ったときに口に出すべき具体的なセリフを教えてあげることで、「困ったときには人に頼ってもいいんだ」という安心感が生まれます。

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対処法やルールを決めておく
言葉を理解し、話すことができるくらいの年齢の子どもに対して有効な方法です。一番になれないときに、癇癪を起こしてしまう場合やおもちゃの取り合いでトラブルになってしまう場合、癇癪が起きていないときに子どもと一緒にルールを決めておくと良いでしょう。
・対処法を子どもと考える
怒りの真っただ中にいるときには大人でさえ、冷静さを取り戻すのは大変難しいものです。子どもならばなおさらです。
このようなコントロールの難しい心理状態でも、あらかじめ対処方法について大人と子どもが一緒に考えることで備えることができます。普段穏やかな状態のときに「怒っちゃったときにはどうするのがいいかな?」と子どもと大人で話し合っておくのです。
例えば、以下のような方法が考えられます。子どもによって、落ち着くことの出来る方法はさまざまなので子どもに合わせた方法を選びましょう。
・子どもが好きな匂い袋を嗅ぐ
・つぶやくと落ち着く言葉を覚える(魔法のことば)
・新聞紙を破る
・(家庭/園/学校などの場合)特定の落ち着く場所を決め、不安になったときに行くようにする
・布団や毛布にくるまる など
また以下のコラムでは、「景色を見ながら、そこにあるものを読み上げ」て、自らの怒りを抑えることを子ども自身がが編み出したエピソードが掲載されています。

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子どもが癇癪を起こしてしまった! クールダウンの方法は?
1.子どもの安全を確保する
2.癇癪が生じている間は必要以上にかまわない
公共の場所など日常生活では難しいところもありますが、お店などの場所での癇癪は、その場で何とかしようとしないで、できるだけ外や車の中など場所を移動して、落ち着くまで待つほうがよいでしょう。
3.落ち着けたことを必ず褒める
時間が経ってからだと、癇癪を起して落ち着いたという一連の流れを忘れてしまうので、落ち着いたらその場で褒めてあげることを心がけましょう。
不適切な対処は、癇癪をエスカレートさせてしまう
子どもの癇癪に引きずられないように身を守る
保護者の方の心が乱れていては、子どもに冷静に対応することはできません。
物が飛んできたり、殴りかかってきたりと怒りの矛先が自分に向いたときには距離をとることも大切です。許しがたい暴言に言い返したくなったり、心が傷つけられたりしそうなこともあるかもしれません。癇癪中の子どもの暴言の多くは深い意味はありません。そのような言葉は「この子は苦しいっていっているんだ」のように捉えるようにしてみましょう。
感情的な叱責は逆効果
頭ごなしに叱りつけたり、暴力をふるったりすると、子どもは混乱して癇癪をエスカレートさせてしまいます。気持ちが不安定になったり、感情的な人の前でだけ自分を抑えるなどの問題にもつながりやすくなります。
・モノでその場をおさめると繰り返しやすくなる
おもちゃやお菓子を与えると、子どもの癇癪が止むこともあるので、癇癪の対応方法として一見効果的に思われますが、子どもに「癇癪を起こすととなにかいいことがある」と思わせてしまう要因となります。また、要求を通さないと最初に子どもに言ったならば、その態度を貫き一貫性をもって接することが大切です。
ただ、乳児期の子どもの泣きやぐずりについては、子どもと保護者の愛着関係を作り上げるための大切なコミュニケーション手段となり、その後の子どもの気持ちの発達の基礎となるので、子どもの要求に合わせて応対するという姿勢が必要です。
子どもの癇癪に悩んだら、早めに相談を
もし現在子どもとの関わり方や、癇癪への対応に一人で悩まれているのでしたら、なるべく早く相談できる味方を見つけることをおすすめします。
子育て支援センター
詳しくは、お住いの市区町村のHP内の子育て・育児のページをご覧ください。

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児童発達支援事業所・放課後等デイサービス
また施設にもよりますが、言語聴覚士や理学療法士、 作業療法士などの専門家による支援を受けられる場合もあります。利用までにはお住まいの自治体の福祉担当窓口への申請が必要となりますが「通所受給者証」を取得することで、低い自己負担額で利用できます。

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医療機関
あまりに高頻度で長時間の癇癪が続いたり、自傷行動を行うなど身体的、精神的にダメージが大きいときや、解決に緊急性が求められるときには医療機関への相談も選択肢の一つです。医療機関に相談する場合、「発達外来」や「小児神経科」「児童精神科」が専門となります。

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まとめ
言葉がなかなか出ずに、自分の気持ちを表現できないもどかしさがあったり、相手の気持ちが見えづらいために自分の思いだけが先行してしまったりするというように、癇癪には何らかの背景が隠れています。癇癪を起こす子どもが何に困っているのだろうという視点をもつことが、癇癪を理解するために大切なポイントです。

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