ワーキングメモリとは?鍛えることができる?長期・短期記憶との違いや発達障害との関係などをご紹介!【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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「頼んだことをすぐに忘れる」「一度に2つ以上のことを処理するのが苦手…」それはワーキングメモリの働きが低いのかもしれません。ワーキングメモリは、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力です。この機能は会話、読み書き、計算など日常のあらゆる判断や行動に関わっているといわれているため、困りごとはさまざまなかたちで生じることがあります。ワーキングメモリの具体的な役割、機能の調べ方、日常生活で生じる困りごとへの対処法をご紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ワーキングメモリとは?その役割と長期記憶・短期記憶との違いは?

ワーキングメモリとは

ワーキングメモリ(作動記憶/作業記憶)とは、脳の前頭前野の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力です。

1974年にBaddeleyと Hitch が「種々の認知課題を遂行するために一時的に必要となる記憶」と定義しました。

ワーキングメモリの役割は、入ってきた情報を脳内にメモ書きし、どの情報に対応すればよいのか整理し、不要な情報は削除することです。ワーキングメモリの働きによって、瞬時に適切な判断を行うことができるともいわれています。

例えば、私たちが会話をすることができるのは、相手の話を一時的に覚えて(記憶)、話の内容から相手の意図をくみ取り(整理) 、話の展開に従って前の情報を取捨選択するという作業を無意識に行っているからです。このような情報処理の流れは、読み書き、運動、学習等、日常におけるさまざまな活動に関わっています。

情報処理の働きを学習部屋に例えて考えてみましょう。ワーキングメモリを作業机、入ってくる情報を本だとします。いったん、机の上(ワーキングメモリ)に入ってきた本(情報)を並べて保存します。そして、机の上で本(情報)を分かりやすく並べ変え、整理して必要かどうか判断します。いらない本(情報)は、速やかに机の上(ワーキングメモリ)から捨てます。

整理した情報の中でこれからも必要なものは、長期記憶するために本棚へ移動させます。

この机の大きさ(=ワーキングメモリの大きさ)は人それぞれです。
ワーキングメモリの例えの図
ワーキングメモリの例えの図
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ワーキングメモリが小さく困っている人のイラスト
ワーキングメモリの例えの図
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上の図のように入ってくる情報をうまくさばける人もいれば、下の図のように机の面積が小さい(=ワーキングメモリが小さい)ため処理できる本の数が少ない人もいます。自分の机の広さに合わない量の本が出されると、うまく処理されなかったり、机にのりきらずにこぼれ落ちて削除されてしまったりするのです。
参考資料: 作動記憶研究の現状と展開(三宅 晶, 齊藤 智)2001 年 72 巻 4 号 p. 336-350
https://doi.org/10.4992/jjpsy.72.336

長期記憶・短期記憶との違いは?

記憶は、長期記憶と短期記憶の大きく2種類に分類することができます。そのうち短期記憶に関連しているのが、ワーキングメモリです。

では、長期記憶と短期記憶には、いったいどのような違いがあるのでしょうか。
長期記憶は「膨大な情報を保存できる、非常に長い期間覚えていられる記憶」であり、短期記憶は「一定の短い時間だけ、一定の範囲の情報を保存する記憶」であるとことが大きな違いといえます。

長期記憶は数時間から数日、あるいは数年という非常に長い期間保持される記憶で、その量もかなり膨大になり、記憶同士がネットワーク化したり構造化することで定着率も高くなります。

一方短期記憶は、数分から数時間といった非常に短い期間しか保持されません。その情報量も、どんな人でも5~9個が限度といわれています。短期記憶をもとにある作業をした場合、その記憶はすぐ忘れてしまうケースがほとんどです。

短期記憶に関連しているのが、ワーキングメモリですが、その機能は違うと考えられています。
ワーキングメモリは、何か作業を行う際に必要な記憶であり、その記憶をもとに思考したり、展開することで次の作業が進んでいくというのが前提となっています。
一方で短期記憶は、何か作業を行う際に必要な記憶ではない、一時的な記憶(単純な暗記)のことを示します。
参考資料:短期記憶および作業記憶の評価系の確立 (jst.go.jp)
https://doi.org/10.24643/maebit.21.0_41

ワーキングメモリが低い=記憶力が低い?ワーキングメモリが低いと起こりうる困りごととは?

ワーキングメモリの一時的な記憶機能によって私たちの判断や行動が支えられています。では、ワーキングメモリの働きに困難がある場合、どんなことが起こりうるのでしょうか?困りごとが起きたときの関わり方のポイントについても触れます。

ワーキングメモリが低いと忘れっぽく、集中力が続かない

目の前のことに集中できなかったり、頻繁に忘れ物をしてしまうことがあります。

1.気になる様子や行動
・身の回りの物を何度もなくす
・必要なものを忘れてしまう
・指示内容を忘れてしまい、従えない
・周りの音や動きに簡単に反応するため、気が散りやすい

2.関わり方のポイント
・必要なものは保護者や先生が一緒に確認する…時間割や持ち物、連絡事項などは保護者や教師が一緒に確認しましょう。
・刺激を少なくする…勉強するとき、話を聞くときに刺激となるものが目に入らない環境づくりをしましょう。カーテンを閉める、仕切りを立てる、などの方法がおすすめです。
・思い出し気づかせるための言葉がけ…子どもが衝動的な行動をする前に、「座って話を聞こうね」「次は〇〇をする時間だよ」などと声をかけて行動を正したり、事前に想定される混乱をなくしたりできます。
複数の指示を理解することが難しいのタイトル画像

普段できることでも、複数指示になると途端にわからなくなっちゃうみたい…そんなときに出来る工夫は?

ワーキングメモリが低いと活動の切り替えができない

ワーキングメモリの短期記憶した情報を捨てる働きが低い場合、活動の切り替えが苦手になるといわれています。

1.気になる様子や行動
・授業が終わっても次の授業内容に移ることが苦手
・行動の切り替えができずにパニックを起こす
・感情の切り替えができず、場違いな言動をしてしまう

2.関わり方のポイント
・活動の流れを最初に伝える…このとき、絵や数字を交えて視覚的、具体的に伝えるとより効果的です。
・終わる前に次の活動内容を伝える
・視覚的に提示する…対処法としては、事前に1日のスケジュールを教えておくこと、切り替える少し前に次は何をするのかを思い出させることが有効です。いきなり「次は〇〇をするよ」と言われてパニックにならないように、行動の流れを頭に置き続けられるような仕組みをつくりましょう。
活動の切り替えが苦手のタイトル画像

1日の流れを把握できると、切り替えやすくなるかな?と思ったときは…

ワーキングメモリが低いと読み書きや計算が苦手

1.気になる様子や行動
・文章を読んでも内容を理解することができない
・板書の書き写しが苦手
・誤字脱字が多い、正しく字を書けない
・繰り上がり、繰り下がりの計算ができない

2.関わり方のポイント
・スモールステップで読む…少し読んで解釈を確認することを繰り返しながら読み進めることで理解の助けになります。計算をするときにも、一気に解こうとするのではなく段階的に区切ったり、具体的な操作を組み入れて文章題を再現したりすることで全体の流れを理解しやすくなるでしょう。
・復唱しながら書く…書こうとしていることを声に出すことで注意を集中しやすくなります。
・ツールを有効活用する…黒板の撮影をして授業についていけるようにする、計算機を使いながらまずは解く順番を覚えることに集中できるようにする、など、どうしても苦手なところは機械に任せることでつまずきを軽減できます。
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読んだ内容を理解しているか不安のタイトル画像

内容を確認するときは、順序がある!◯◯な質問からはじめよう

ワーキングメモリは鍛えることができる?改善できるトレーニングや遊びは?

ワーキングメモリ自体は鍛えることができない

「ワーキングメモリはトレーニングすることで鍛えられるのか」に対しては、賛否両論の意見があるようですが、近年の研究では、「ワーキングメモリ自体はトレーニングで鍛えることはできない」という結果も出ています。

たとえば、何人かの子どもに「今回はこのゲームやタスクでワーキングメモリを鍛えよう」と課題を与えると、そのゲームやタスクについては上達がみられるものの、それがほかの分野においての認知度や学習能力の向上にはつながりませんでした。「そのときのタスクが上達した=ワーキングメモリの容量が増える」ということではなく、単に研究時(トレーニング時)に使ったタスクのやり方を学習しただけでした。

タスクや課題(特に短期的な)をこなすことでワーキングメモリ自体が鍛えられるわけではないようですが、現在も研究段階にあります。長期的に各能力を高めるトレーニングをしたり、都度適切な支援や介助をすることで、知能全般を向上させていくことができると考えられています。
参考資料:ワーキングメモリのトレーニングによる流動性知能の向上:メタアナリシス |シュプリンガーリンク (springer.com)
https://link.springer.com/article/10.3758/s13423-014-0699-x
参考資料:ワーキングメモリを機能させる:若年および高齢者における実行制御とワーキングメモリトレーニングのメタアナリシス-PMC (nih.gov)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4381540/

ワーキングメモリを向上させるトレーニングや遊び

ワーキングメモリの容量を増やすのは短期・単純なトレーニングでは難しいようですが、トレーニングや遊びなどでさまざまな刺激を入れることで、さまざまな能力が高まり、それぞれが結びつくことで徐々にワーキングメモリが向上していきます。「ザ・トレーニング!」「ザ・学習!」となってしまうと、子どもが嫌がったり続かなかったりします。ここでは、日常生活の中で手軽にできることを紹介します。

◆ワーキングメモリの向上が期待できる遊び
・後出しじゃんけん
目から入ってきた情報を記憶し、そこから「何を出せば勝つか」と考え、判断するため、ワーキングメモリ向上につながります。
・逆さ言葉クイズ
「いたべたつやお」は?→「おやつたべたい」というクイズです。言葉を話すだけでも脳の活性につながりますが、逆さ言葉は言われた言葉を記憶して、さらに頭の中で言葉を逆さに考えるため、ワーキングメモリを育てるのに役立つといわれています。

◆日常生活の中で実はできているトレーニング
・絵本の読み聞かせ
耳から入ってくる声と言葉が頭の中で紐づく、また絵本の中の挿絵と言葉が紐づくことで、頭の中で映像化することでワーキングメモリが向上していきます。
・身体を目いっぱい動かす
公園の遊具で遊んだり、木登りをする、いろいろな歩き方をする、ほかの子と遊ぶ。このように身体をたくさん使うことで、五感からさまざまな刺激が入り、そこから遊び方を工夫したり、他者とコミュニケーション取ることで、ワーキングメモリの機能が高まっていきます。

ワーキングメモリに困難がある子どもへの支援ポイント

ワーキングメモリに困難があると、速やかに適切な行動を行うことが難しくなります。でも、対処の仕方を学べば、困りごとを減らすことはできます。この章では、日常で起こりうる困りごとに対する具体的な対応方法を紹介していきます。

◆情報の最適化
情報は、子どもが受け取りやすい方法で伝えましょう。たとえば、前もってどのような順番でことが進むかを掲示したり、口頭で伝達するのと同時に文字や絵でも示したりすると、情報を整理して理解しやすくなります。

◆記憶のサポート
記憶方法の活用、長期記憶の活用、ツールの利用で記憶をサポートすることができます。
記憶方法の活用とは、文面だけで覚えるのではなく音読によって音声情報として記憶すること、長期記憶の活用とは、新しい情報を覚える際に、すでに持っている知識との関連づけを行うことです。
ツールの活用とは、絵カードや図表など覚えておくべき情報などをすぐ確認できるよう視覚化しておくことです。ほかにも、録音や写真を撮るなど機械を使うことで思い出せるようサポートすることもできます。
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