障害イメージの固定化を超えて多様性へ!制作に参加して感じたEテレ「u&i」の本気度

ライター:野口あきな
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私は多様性をテーマにしたNHK Eテレ「u&i」教育番組の監修委員を担当しています。民間企業で障害児者支援をしている私が、なぜこの番組づくりに関わりたいと思ったのか。そしてこれまでの障害をテーマにしたテレビ番組と違う、「u&i」のこだわりポイントをご紹介します。

監修者野口晃菜のアイコン
執筆: 野口晃菜
インクルーシブ教育・インクルージョン研究者
一般社団法人UNIVA 理事
小学校講師、LITALICOの研究所長を経て、現在一般社団法人UNIVAの理事として教育や企業におけるインクルージョンに取り組む。

今までの障害を扱う番組とは違う!?「u&i」の企画に共感して監修委員に

2018年にNHK Eテレで始まった「u&i」。私は民間企業にて障害児者支援をする立場から、多様性をテーマにした教育番組の監修委員を担当しています。

「u&i」は感覚過敏や身体障害、発達性協調運動障害、そして今週は学習障害をテーマに、生きづらさを感じている人と周りの人の気持ちを対話しながら探る番組です。
NHK Eテレ「u&i」の一場面。机に向かう男の子
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「多様性を大切にする社会づくりのための番組を本気でつくるんだな」

それがu&iの企画について、NHKのディレクターさんにお話をお伺いした時に思った印象です。この10年間、実際の就労支援や教育現場において多くの「障害のある人」と日常的に関わる中で、社会の側にある「差別」や「偏見」というものに何度も何度もぶつかってきました。それをなくすためには、障害のある人を取り巻く社会環境の変革していく必要がある。障害のある人に日々接する機会がない人、これまで出会ったことのない一般の人に障害を広く知る機会を提供するためには、メディアの存在が重要であることは言うまでもないでしょう。

一方、これまで「障害」に関する番組やメディアは、「障害のある人も頑張っている」「理解をして助けてあげよう、応援しよう」といった趣旨のようなものが多かったように思います。それに対し私自身、嫌悪感を持つことも少なくありませんでした。

「障害のある人は困っているから、理解して助けよう」的なメッセージの番組だったら嫌だな、と思っていたのですが、企画を聞くとu&iは私がこれまで目にした番組とは趣旨が異なることがわかりました。多様性やちがいを大切にする社会は、綺麗なことばかりではない。その難しさに真正面から向き合い、それもそれを子どもに伝えるための番組を本気でつくるつもりだ、と思い、その気概に感激し私も監修委員としてかかわることになりました。

「障害」について描くことの難しさ

NHK Eテレ「u&i」の一場面。教室での様子
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メディアはその時代の人が持っている「障害者像」を反映しているように思います。あるいは、逆にメディアが時代の「障害者像」をつくっているという見方もあります。いずれにしても、多くの人が目にするメディアで「障害」が扱われる時、その番組の趣旨や描き方により、誰かが深く傷ついたり誤解を招いたりする可能性が大きくあります。

例えばコメディアンのステラ・ヤングさんは健常者の感動を呼ぶために障害者をメディアに取り上げる風潮を批判し、「自分たちを『感動ポルノ』として消費しないで」と社会に投げかけました。たとえメディアをつくっている側としては、差別や偏見をなくそうという趣旨でいたとしても、日常的に障害のある人と接することのない人がその番組を見ることで、障害者像を固定化してしまったり、視聴者の感動を誘うような描き方が誰かを傷つけたりします。

一言で「障害者」と言っても、実際には一人ひとり本当に異なります。例えば、車いすにのっている、同じ診断名の身体障害のある人でも、身体的な障害の状況は異なり、そして当然その人の持っている価値観や思い、感じている困難さは異なります。しかし、これまで身体障害のある人に出会ったことのない人がテレビでとある身体障害のある人を見て、その人しか知らなかったら、「すべての身体障害のある人はこういう生活をしている」と過度な一般化をしてしまう可能性があります。

目に見えづらく、かつ本当に一人ひとりによって異なる「発達障害」についてあつかうことは、偏見をなくしたり必要な支援につながったりするよりも、「あの人も発達障害じゃない?」などと逆に新たな偏見を生んだり助長したりしてしまう可能性もあります。

「障害」は描き方によって、それは「その場限りの感動ストーリー」で終わってしまったり、固定的なイメージをつくってしまったりします。そうなってしまうと差別・偏見をなくすような、多様性を大切にするような意識改革や行動変容にはつながりづらい。メディアで「障害」を描くことにはこのような難しさがあります。私は、それによって傷つく当事者がたくさんいる可能性を認識した上でメディアでの発信をしていかなければならない、と強く思っています。

そんな中、u&iは絶妙なバランスで「障害」や「ちがい」を描いています。以下は私が思っているu&iのこだわりポイントです。

「障害名」ではなくそのひとりが困っている状況とその理由にフォーカス

NHK Eテレ「u&i」の一場面。ココロの電話で話している様子
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u&iには、ユウとアイという登場人物が出てきます。アイはユウとの関わりや困難な状況に悩んでいます。例えば第1回の「授業に集中したいのに…(感じ方のちがい)」では、ユウの落ち着かない授業中の様子が気になり、授業に集中できないことにアイは悩んでいます。夢の世界に住むサルの妖精、シッチャカ・メッチャカと共にユウのこころの内を聞くことができる「ココロの電話」で、ユウがなぜ困っているか?を聞いてみると、ユウには画鋲がものすごく光って見えたり、太陽の光がまぶしすぎると感じることで、授業中落ち着きがなくなってしまうことが分かります。

教室にいる落ち着きのない子。学校でよくある場面です。実際にはこのような状況が起きたとき、「この子は発達障害だから落ち着きがない」とその子にラベルを付けて、その子の障害を原因においてしまいがちです。そして、そのようにその子の障害に原因を置いてしまうと、具体的な解決策につながりづらくなってしまいます。

しかし、u&iには障害名は出てきませんし、その子を「〇〇障害」とラベルを付けることはしません。そのため、障害名にフォーカスされず、アイとユウが実際に困っている状況、そしてその理由にフォーカスが置かれます。

このような描き方により、「発達障害=〇〇」のような過度な一般化はされません。そして、アイとユウの悩んでいる状況とその理由が具体的に提示されることで、どのような工夫をしたら困らなくなるか?の具体的な解決策を考えることができます。
次ページ「ユウとアイは「ちがう」けど「同じ」」

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