「理想の子育て」に縛られて。動画は見せちゃダメ?読み聞かせは毎晩?24時間年中無休の親御さんに伝えたいこと

ライター:立石美津子
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「理想のママ、パパ像」を追い求めすぎて、自分にあれこれと無理なハードルを課していませんか?もしかしたら、そのうちいくつかを止めたら、子育てをもっと楽しめるかもしれません…。

自閉症の息子を育ててきた私自身、たくさんのハードルを自分に課していた時期がありました。

監修者初川久美子のアイコン
監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。

子育ての理想と現実

真面目な人、一生懸命な人、上昇志向の高い人、完璧主義の人が、子育て本を読んだり、子育て記事のネットサーフィンしたりする傾向があるように思います。ちまたにあふれる育児本の中には、それを読んで肩の荷が下りる子育て本もありますが、高い理想を掲げる子育て本もあります。これらを読んで、余計追い込まれてしまう親御さんもいるのではないかと感じています。

例えば
「タブレットで動画ばかり見せてはいけない」
「携帯ゲームをさせてはいけない」
などと書かれていることがあります。

仕事から帰宅後、食事の支度、お風呂の準備など家事に追われているとき、子どもがぐずったとしましょう。そんなときは動画を見せてテレビや携帯ゲームに子守をさせても私はよいのではないか、と思います。子どもが家事にちょっかいを出してきて、支度がスムーズに運ばず、イライラと眉間にしわを寄せて子どもを叱るよりもずっとましではないでしょうか。長時間、頼りすぎることがよくないわけで、多少の罪悪感は持ちながらも、携帯や動画をうまく使うことが年中無休の子育てには必要だと感じます。

ほかにも、次のような場面などで「こういう子育てをしなくては」と、自分を追い込んでしまうことがあるのではないでしょうか。実際私は自分にハードルを課し、そしてうまくいかないことに落ち込みもしました。

いつも家族の太陽、笑顔でいなくてはならない

笑顔が大切なのは、誰しも分かっています。常にハッピースマイルでいられたら誰も苦労はしませんよね。

24時間年中無休で乳幼児を育てている親御さんが笑顔でずっといられることはありません。悲しいときは泣き、悔しいときは怒る、そんな「自分の感情に素直な表情を見せてもいい」と教えることも子どもの教育になるように私は思います。

わが家の場合、自閉症の息子は、幼い頃、自傷やパニックが激しかったので、私はいつも眉間に皺!鬼婆と化した状態でした。息子の将来を悲観してばかりで、笑顔なんてつくれませんでした。でもあの頃は必死だったのです。怒涛の毎日の中、笑顔でいることまで自分に課したら、壊れてしまっていたかもしれません。

週末のお出かけ投稿

SNSには、ママ友の外出風景の写真がアップされています。子ども同士「昨日の日曜日、ママとパパで○○に行ったんだよ」の会話がされることを想像すると、「私も子どもをどこかに連れて行ってあげないと可哀想だ」と思ってしまいます。

本心は平日の仕事の疲れを癒したり、普段、買い物に行けない分、スーパーでの買い出しや家の掃除をしたい。無理な外出計画は、財布も身体も悲鳴を上げてしまうかもしれません。

子どもはもちろん遠出も喜びますが、平日は時間も心も余裕なく、忙しくて出来ないこと。例えば夕飯メニューを子どもと一緒にあれこれ考え、近所のスーパーでママと一緒に材料を選んで一緒に夕飯作りをする、手づくりおやつを作ることもとても喜びます。
息子が幼い頃、少しでも体験をさせてやりたいと、水族館に連れて行きました。ですが、息子はずっと、屋上で鳩を追いかけ、魚には一切興味を示しませんでした。近所の公園で鳩を見ているだけでも、息子はきっと楽しめただろうと思いました。水族館でちゃんと観察しないからといって親がイライラしてしまうよりは、近所の公園でのびのび遊ばせたほうがよかったと思いました。

絵本の読み聞かせ一日5冊

「絵本の読み聞かせは子どもの心を育てる、語彙が豊富になる!」
確かにそうかもしれません。そして、これらを耳にすると「毎日、必ず5冊は読み聞かせするぞ!」と真面目で一生懸命な人は自分にノルマを課したくなるかもしれません。

けれども、義務感でやってしまうと、本来は子どもにとって楽しいはずの読み聞かせの時間も、だんだんしんどくなってきます。そして、棒読みしたり、早口で読み進めたり、しんどそうな、めんどくさそうな顔つきで読んだりしてしまうこともあります。
更に、子どもが真剣に聞いてくれないとつい「せっかく読んでいるんだから、よそ見しないで、ちゃんと聞いていなさい!」なんて余計な小言も言いたくなります。でも、これじゃあ何のために絵本を読んでやっているのかわからなくなってしまいますよね。

私も息子に自閉症があることが分からなかった0歳の頃、情操教育になると思って一日、10冊も読み聞かせていました。
0歳の息子にたくさんの読み聞かせをしていた時の写真
Upload By 立石美津子
息子が歩けるようになってからは、多動すぎて、じっと絵本の読み聞かせなど聞いている状態ではありませんでした。児童館では、息子は走り回って遊ぶのを横目に、よその子どもたちに読み聞かせをしていました。

すべて手作りにこだわる

料理が苦手であまり好きではない場合、子どものためにと、玄米、無農薬野菜、有機野菜、出汁も手づくりという課題を課してしまうと疲れてしまうかもしれません。

「すべて手づくり!」は止めて、たまにはお惣菜やレトルト食品に頼るのも良いのではないでしょうか。

離乳食のレトルトも割高にはなりますが、赤ちゃん用のパウチのパックは保存料などの添加物も使っていないですし、カロリーや栄養のバランス、味もプロが考えているものです。私も試しに食べてみたことがありますが、薄味で美味しかったです。

知人の話なのですが、子どもが大きくなったとき、「今日のカレー今までで一番おいしかった」と言いました。でも、それは実はレトルトカレーだったそうです。

これは、息子が中学のころの特別支援学級の調理実習のときのメニューです。学校から配られたレシピもレトルトパウチの箱のコピーだったので、一瞬「これじゃあ調理実習の意味がないじゃないか!」と思いました。
しかし、こだわりのある自閉症児も多い特別支援学校なので、あえて(味が一定で変わらない)市販の物を使ったのかもしれない」「つくるのも簡単だから、将来自立して自分で料理することの練習になるのかも」とも思いました。
息子は「市販の合わせ調味料を使った麻婆茄子」が大好きです。野菜など具材だけをそろえて、最後にたれをからめるタイプの麻婆茄子です。

この商品はルールを重んじる息子にはぴったりです。なぜなら…
・いつでも同じ味に仕上がる
・誰がつくっても同じ味に仕上がる
そういう面からもレトルト食品に頼るのもありかもしれません。

レトルト食品をうまく使うことも、わが子の将来の自立に役立つのかもしれないし、そうした料理を家で出すことに罪悪感を持つことはないのかもしれないな、と思った出来事でした。
自閉症の息子の好物は「市販の合わせ調味料」を使った料理!でも、こだわりが炸裂しすぎて…!のタイトル画像

自閉症の息子の好物は「市販の合わせ調味料」を使った料理!でも、こだわりが炸裂しすぎて…!

子育てって年中無休の24時間労働です。ですから、自分のキャパシティーを超えたことを課すと親自身が潰れてしまいます。

「子どものために良かれと思ってしていること」を減らすこと、そして自身に対しても「いい親でいなくっちゃ」「親なんだから○○すべき」と考えるのは止めた方がよさそうです。親自身にも高いハードルを与えないことは、自分を大切にする意味で必要なことだと思います。
落ち着きがない2歳児の子どもと母親のエピソード
Ⓒあべゆみこ
Upload By 立石美津子
(監修:初川先生より)

立石さんが、子育ての初期に母としてこうしたいああしたいと強く思うことがたくさんおありだったのだということを感じます。多かれ少なかれ、また人によっては妊娠前から、子どもが生まれたらああしたい、こうしたいと思い描くものですね。その中には、それまでの知識や経験から、子どもにはこうするといいらしいという信念のようなアイデアもあって、できることなら全部やってあげたいと思う。それはとても自然なことのように思います。

ですが、立石さんがこうして、後進の保護者の皆さま向けに「こうあるべき」で頑張りすぎると辛くなるよ、もっと肩の力を抜いて、と強く語られています。おそらくそこに至るまでのさまざまなプロセスがあったのだろうということが今回のエピソードの中からも感じ取れましたね。

子育てはあきらめのプロセスである、と私は心理の専門家向け講演会で聞いたことがあります。子育ての中でやりたいこと、そして、子どもに対して「こう育ってほしい」という願い。そうしたものをあきらめるプロセスだということです。それは、単に「期待しても無駄、どうすることもできないのだ」と打ち捨てることではありません。誰もが当然持っている自分の願いを、子ども本人の育ちや性格、そして自分を含めた周囲との関係などの相互作用の中で、すりあわせてゆく。子育てとはそういうプロセスであるのだと私は理解しています。自分だけの思い、良いとされる子育てに倣った方法をなぞるだけではなく、相互作用の中で。そして、誰しも得意不得意があり、時間はみんな平等に24時間で、やれることには限界があります。無理なく、持続可能なやり方を模索すること。おそらくそれは一筋縄ではいかないこともあるでしょうが、正解がないからこそ楽しい面もあるし、思いもよらぬ成長にも出くわすかもしれません。相互作用としての子育て、すり合わせのプロセスとしての子育てをぜひ模索していただければと思います。

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