ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは?種類や効果など/専門家監修

ライター:発達障害のキホン
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ペアレントトレーニングとは、子どもとのより良い関わり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、楽しく子育てができるよう支援する保護者向けのプログラムです。もともとは知的障害(知的発達症)や発達障害の子どもを育てる家庭向けに開発されましたが、現在は幅広い目的や方法で展開されています。自分とお子さんにあった育児の方法を探す手段として活用してみてください。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは?

ペアレントトレーニングとは、子どもとのより良い関わり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、子どもの発達促進や行動改善を目的とした保護者向けのプログラムです。

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)などの子どもを育てる家族を対象に、1960年台にアメリカで開発されました。当初は、「親は子どもの最良の治療者である」という考え方をもとに、支援機関で行われている子どもへの療育を家庭でも行うことで、療育の効果をアップさせたり、維持させたりすることが目的とされていました。たとえば、発声や模倣といった課題を療育機関で行うことと並行し、家でも同じ課題をご家族が行うことで、子どもが療育を受ける時間を増やすなどの取組みがあげられます。

その後、ADHD(注意欠如多動症)など子どもの障害種別に応じたプログラムが開発され、展開されてきました。日本では、家族の日常生活の困りごとを軽減するためのプログラムとして取り入れられ、独自に発展してきたものが多くあります。

また、現在では、厚生労働省による発達障害者支援施策の一つにも位置づけられています。また発達障害だけでなく、不登校や非行を繰り返す子ども、虐待を受けた子ども、里子や養子などに対応したプログラムが開発されるなど広がりを見せています。

※現在、『ICD-11』では「知的発達症」、『DSM-5』では「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と表記されていますが、知的障害者福祉法などの福祉的立場においては「知的障害」と使用していることが多いため、この記事では「知的障害(知的発達症)」という表記を用います。
ペアレント・トレーニング実践ガイドブック 作成:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653549.pdf

ペアレントトレーニングの種類と効果

ペアレントトレーニングの構成概要

ペアレントトレーニングにはさまざまな種類があり、プログラムの構成はそれぞれ異なります。5~10人程度のグループで行うプログラムでは講義やグループワーク、ホームワークを中心とした以下のような構成になっています。
ペアレントトレーニングの構成概要
ペアレントトレーニングの構成概要
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ペアレントトレーニングには多くの種類があります。この記事では、その中でも学術的な検証の結果、一定の効果が認められているものを中心にご紹介します。

精研式・奈良式ペアレントトレーニング

アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でADHD(注意欠如多動症)の子どもを育てる家族向けに開発されたプログラムを、奈良教育大学などで日本に合わせて改良したプログラムです。現在では、ADHD(注意欠如多動症)だけでなく、発達障害全般に対応できるように発展しています。

全10回のセッションがあり、隔週で実施されることが多いようです。講義とロールプレイ・ワークを行い、学んだことをホームワークで実践し、次回にそれをグループで共有するというサイクルでプログラムが進みます。

子どもの行動を好ましい行動好ましくない行動許しがたい行動の3つにわけ、ほめ方などそれぞれに対する対応を学んでいくことが特徴です。また、グループで実践を共有することで、ご家族の関わり方への振り返りを促していきます。

効果として、受講者の子育てに対する自信度の向上などがあげられます。
精研式・奈良方式ペアレントトレーニングでの子どもの行動分類
精研式・奈良方式ペアレントトレーニングでの子どもの行動分類
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肥前式ペアレントトレーニング

国立肥前療養所(現在の独立行政法人肥前精神医療センター)で開発されたプログラムです。

もともとは、知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある子どもを育てる家族を対象に、院内で行われた治療の効果を維持することや、学んだことを家庭でも行えるようにすることを目的として始まりました。現在は、知的障害(知的発達症)を伴わないASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などにも対応できるよう発展しており、発達障害のある子どもを育てる家族にも幅広く提供されています。

全10回のセッションは2部構成になっており、前半では全体での行動理論の講義、後半では保護者が3名ほどの少人数に分かれて家庭での対応について支援者を含めたグループで話し合います。ホームワークでは1つか2つの具体的な行動について家庭で記録します。
たとえば「座って食事をする」など対象となる行動を決め、家族が家庭で行動を観察・記録し、講義で学んだ環境調整や対応について支援者と実際に検討していきます。

効果として、設定した行動をお子さんが習得する、受講者やご家族の抑うつが改善する、受講者が養育技術の知識を獲得する、などがあげられます。
肥前方式ペアレントトレーニングのイメージ
肥前方式ペアレントトレーニングのイメージ
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鳥取大学式ペアレントトレーニング

応用行動分析(ABA)に基づき、コミュニケーションスキルや適応的な行動が身につくように開発されたプログラムです。知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある子ども向けに開発されましたが、今は発達障害全般に対応できるよう発展しています。

6~8回のセッションがあり、隔週で実施されることが多いようです。精研式と同様、講義とワークを行い、学んだことをホームワークで実践し、次回にそれをグループで共有するというサイクルでプログラムが進みます。
目的として、家族が子どもの特性や発達の状態を知ることや、子どもとのコミュニケーションを楽しめるようになること、子育て仲間をつくることなどがあげられ、内容は、子どもをのばすほめ方環境調整の仕方指示の出し方行動の教え方などになっています。

効果として、家族の養育不安や抑うつの減少や、健康度の上昇などがみられます。
鳥取大学式ペアレントトレーニングの行動分析フレームワーク
鳥取大学式ペアレントトレーニングの行動分析フレームワーク
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ペアレントトレーニングを実施できる人

現状として、ペアレントトレーニングには、一部のプログラムを除いては実施に必須の資格というものはありません(2023年8月現在)。しかし、プログラムの質を維持するために研修を受けた人が行っているケースが多数を占めています(具体的には、心理士・保健師・保育士・医師や、心理士や大学教員から研修とスーパーバイズを受けた各団体職員など)。

日本でペアレントトレーニングを研究・実践する専門家たちが、これまでのペアレントトレーニングのエビデンスや知見などをもとに「基本プラットホーム」を開発し、研修はこれをもとに作成されています。基本プラットホームは、コアエレメント運営の原則実施者の専門性で成り立ちます。

コアエレメントとは、プログラムの核となる要素で、具体的には以下の6つを示します。
【コアエレメントの6つの要素】
・子どものよいところを探し、ほめる
・子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分ける
・行動理論にもとづく行動理解(ABC分析)
・環境調整
・子どもが達成しやすい指示
・子ども不適切な行動への対応

ご紹介したようにペアレントトレーニングにはいくつかの種類がありますが、実施者が6つの核となる要素(コアエレメント)をふまえたうえで、親に適切な助言ができる専門性を学ぶことで、どのペアレントトレーニングを受けても、全国どこで受けても、質の高いペアレントトレーニングを受けられるような工夫がされています。
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