子どもが自分自身で“性”を学ぶために、親が気をつけたいことは?

ライター:立石美津子
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今は可愛い幼児でも、必ず性の目覚めはやってきます。「集団行動がとれない」「言葉が遅い」など、発達に遅れや偏りがある子どもでも、10代半ばにもなると異性との関わり方について学んでいかねばなりません。親として、子どもの思春期の性教育についてどう考えていけばよいのでしょうか。

こんにちは。『1人でできる子になる「テキトー母さん」のすすめ』の立石美津子です。

避けては通れない、我が子の性の目覚め

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思春期になると、障害児にだって性の目覚めは必ずやってきます。

そんなとき、子ども自身が、性的な関係や他者との適切な関わり方を理解していかないと、思わぬトラブルにつながるおそれもあります。

知的な遅れがさほどない発達障害の子どもでも、人との関係性を理解するのが難しい場合、相手の気持ちにはお構いなしに自分の気持ちだけを押し付けてしまうことがあります。

また、知的な遅れもある場合は、こんな問題行動をしてしまうことがあります。

・人前で性器いじりをする
・人前で自慰行為をする
・気に入った女の子を見ると、人前だろうが相手が嫌がっていようがお構いなしに抱きついてしまう。

息子も、大好きな女の先生に何のためらいもなく抱きつくことがありました。幼児ならば許されていたことも、身体が大きくなれば傍から見ると異常な光景です。

担任の先生から、「○○先生(息子が好きな若い女の先生)に抱きつくのは犯罪です。警察につかまります。1メートル以内には近づいてはいけません」と厳しく指導を受けていました。

担任から連絡があり、私も家でこんな絵を見せていました。
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家庭で使っていた、人との距離感を教えるイラスト
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障害のある子どもの親として、我が子の性の目覚めにどう備え、どのように向き合っていけば良いのか…

これまでも、これからも、大きな悩みのひとつです。

「親のエゴで子どもの性をおさえつけてはならない」 講習会で自分の間違いに気づく

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子どもの性教育について悩んでいた頃、ひとつの道筋をつけてくれたのが、一昨年に参加した講習会でした。

講師は、中度・重度の自閉症児への支援に40年以上携わってきたベテランの先生。
「性を学ぶことは生きることを学ぶこと・・・“性”は“生”」という内容の講習でした。

1981年の国際障害者年に掲げられた理念や、世界保健機構(WHO)の提言を紹介しながら、障害のある子どもへの“性”の教え方について、次のように噛み砕いて話をしてくれました。

「自分の身体は自分のものである。だから触っていけない部分はない。

けれども、身体の中で人前では触っていけない部分がある。それは陰部。

これは自分のものだけではなく相手の胸や陰部についても同じである、触るだけでなくジッと見つめるのもいけない」

といったことを「子どもに分かるかたちで教えていかねばならない」と説明がありました。


「サッカーで勝って嬉しいときは周りの人と抱き合ってもいいけれども、知らない人に可愛いからといきなりハグしてはいけません。

身内やペットが死んでしまって悲しんでいる時は身体をさすってもいいけれど、そうでない時はNG。

こういうことをいちいち教えていく必要があります」


更に性器いじりについては、
「性器いじりをしたら怒ってはならない。性器いじりをするコーナーを作ってやる」

人前での自慰行為は、
「人に見られない場所を作ってやる。家族の前でもやらせない。トイレや自分の部屋のベットの上で出して、テッシュで処理するところまで教えるように」

などと、具体的な手立てまで、ひとつひとつ丁寧に教わりました。


そして、こんな本も紹介してもらいました。

伊藤修毅, 『イラスト版 発達に遅れのある子どもと学ぶ性のはなし: 子どもとマスターする性のしくみ・いのちの大切さ』, 2013年, 合同出版

子どもと一緒に学んでいくことを前提に、イラストつきでわかりやすく解説してあります。
イラスト版 発達に遅れのある子どもと学ぶ性のはなし: 子どもとマスターする性のしくみ・いのちの大切さ
伊藤修毅(著)
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“自分の身体は自分のものである。障害のある子どもも、一人ひとりが性の喜びを享受する権利がある。”
この言葉はズシンと響きました。

振り返ると、親である私自身がきちんと性教育を受けておらず、「性について語ることはいやらしい」と、否定的な意識を植え付けられていました。だから、我が子が性に目覚めたとき、とても不愉快な感情を持ってしまったのかもしれません。

でも、それは間違っていたのだと気づかされました。

障害のある子の性教育を考える上で知っておきたい、「七生養護学校事件」

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みなさんは、「七生養護学校事件」を知っていますか?障害のある子どもへの性教育を考える上で、ぜひ知ってもらいたい出来事ですので、ここでご紹介します。

1997年、七生養護学校の在校生である女子生徒が男子生徒と性的関係を持ったことが発覚し、教員と保護者が協議を重ね、知的障害を持つ児童に対する同校独自の性教育プログラムを開発しました。

「こころとからだの学習」と名付けられたこの授業は、男性器と女性器の部位を織り込んだ人形を使い、性器の名前を入れた歌を歌わせて人間に生と性について教えるものでした。

知的障害のある子どもでも性のことを自分で理解できるようにと作りこまれたこのプログラムは、同様の悩みを持つ他の養護学校にも注目され、外部からの視察・研修も積極的に受け入れていました。

ところが、この取り組みに対し、都議ら3人と石原都知事(当時)がバッシングし、七生養護学校への乗り込み調査が行われました。

「過激性教育」、「あまりに非常識」と新聞沙汰になり、都教委は教材を没収、校長を降格及び停職、教員らは厳重注意処分…と、同プログラムは実質的に中止に追いやられました。

ですが、元校長は処分の不当性を主張し、処分取り消しを求めて都教委を提訴。学校側が勝訴したという事件です。

七生養護学校事件についてはいろんな考え方がありますが、少なくとも発達の凹凸のある子どもも含めた性教育のありかたについて、考えさせられる事件であることは間違いありません。

金崎満, 『検証 七生養護学校事件―性教育攻撃と教員大量処分の真実』, 2005年, 群青社

検証 七生養護学校事件―性教育攻撃と教員大量処分の真実
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“性”の問題を、大人の都合で隠したり触れてはならないものとすることはできますが、隠せば隠すほど、今のネット社会の中で育つ子どもには誤った情報が入ってしまうおそれもあります。

子ども自身が”性”について自分なりに学んでいけるためにはどうすれば良いか、親として向き合い、考えるべき課題です。

年を重ねるごとに新たな問題が勃発する“障害児を育てるということ”。私も障害児の親としてまだ15歳ですが、これからもしっかり勉強をしていきたいと思っています。

立石美津子, 『〈マンガとQ&Aで楽しくわかる〉1人でできる子になる 「テキトー母さん」流 子育てのコツ』, 2016年, 日本実業出版社

「テキトー母さん」流子育てのコツ
立石美津子(著)
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立石:近著,『立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』,2016年,すばる舎

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