「お母さん」とは呼ばない息子。そこにはアスペルガーらしい理由があった

ライター:鈴木希望
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息子・ハルがわたしを「のん」と愛称で呼び始めたきっかけは、ほんのささいなできごとでした。しかし、その後も継続して「のん」と呼び続けるのには、アスペっ子ならではの理由があったのでした。

きっかけは、真似っこ。

「どうしてハル君(息子)に自分のことを愛称で呼ばせているの?」という質問には「向こうが呼び始めた」と答えているわたしですが、今回はその経緯を少し詳しく説明しますね。

かつてわたしは、息子に向かって自分のことを「お母さん」または「おかあ」と称していました。

1歳を過ぎ、少しずつ発語できるようになってきた息子は、当時一緒に暮らしていたわたしの両親を「じい」「ばあ」と呼び始めました。わたしのことを呼ぶ気配はありません。

わたし:「ハルはまだ“お母さん”って言うの、難しい?」

ハル:「うん」

わたし:「じゃあ“おかあ”は言える?」

ハル:「おかあ」

わたし:「だったら“おかあ”でもいいよ」

ハル:「(首を振る)」

わたし:「もしかして、こう呼びたいっていうのがある?あったら教えて」

ハル:「…のん」

わたし:「あんたがそう呼びたいなら、これからは“のん”でいいよ」

両親がわたしのことを「ノゾミ」もしくは「のん」と呼んでいたからでしょう。

なるほど、確かにそうだ。

そんなハル、対外的には「うちのお母さん」にシフトしたのだとか…。

わたし:「ハルはいつかわたしを“お母さん”って呼ぶつもりある?」

ハル:「ないよ。のんがハルのお母さんだってことはわかるけど、どこに行っても“ハルのおかあさん”じゃないでしょ?本当の名前は…(あ、僕も矛盾してる!)」


わたし:「“鈴木希望”だね。“のん”もずっと呼ばれてるから、本当の名前に近いかも」

ハル:「そう。だから、“鈴木さん”とか“希望さん”とか“のんさん”とか、そういう名前で呼ばれるでしょ?のんの名前は「鈴木お母さん」じゃないもんハルはちゃんと名前で呼びたいから、のんのこと」

言葉の正確さにこだわるアスペルガー症候群の特性からくる願いなのでしょう。
どんなに長くても、映画やゲームのタイトルをできるだけ正式名称で言うのと似ているのかも…。

そして、更に続いた言葉は全く予想もしなかったものでした。
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確かにそれ、わたしの名前ではありません。
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「親らしさ」への迷いを消してくれたハル

ハル:「あとね、お母さんだってこと、わかってるよ。でも、ハルのことを“鈴木子どもさん”と思わないで話してくれるのが嬉しいから、ハルも“のん”って人と話しているって、ちゃんと思いたい。だからこれからも“のん”って呼びたい。」

息子と同じアスペルガー症候群であるわたしは、他の人が言う「親のあるべき姿」が理解できず、試行錯誤を繰り返しながら目の前の息子と向き合っていました。そんな姿を、息子は肯定的に捉えてくれていました。

わたし:「そうだなあ……わたし、ハルが自分の子どもだって理解してるけど、“鈴木子どもさん”だと思ったことはないや。」

ハル:「うん。あのね、他の人が呼ぶ“ハル”と、のんが呼ぶ“ハル”って違うんだ、なんか。うまく言えないけど。いつか“お母さん”って呼びたくなるかもしれないけどね」

そのときはそのとき。
呼び名が変わっても「あなたはあなた」で「わたしはわたし」という事実は変わらない、そう強く思える。
次ページ「おや?待てよ」

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