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[第2回]

息子は私の“同志”、子育てしてるなんて思ったことはない

フリーランスのライターとして活動される鈴木希望(すずきのぞみ)さん。ご自身と同じ自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠如障害(ADD)との診断を受けている息子さんについて、「”親子”というより”同志”という感覚」と語ります。子育てについての考え方や、息子さんとの向き合い方についてお聞きしました。

自分のコピーと言われるぐらい、そっくりな息子の子育て

親子そろって自閉症スペクトラム障害の診断を受けた希望さん親子。自分にもお子さんにも発達障害がある育児は、さぞかし大変だろうと思いきや、「ほとんど困らなかったです」という鈴木さん。
鈴木希望さん(以下、鈴木): 息子がはじめての子なのですが、子育てにはほとんど困りませんでした。凸凹は大きいですが、父母が「希望のコピーのようだ」というぐらいにお互いの特性が似ているので、こんなもんだと思っていました。
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実家のご両親をはじめ、鈴木さんをよく知る新潟の人たちは、息子さんの特性も自然と受け入れてくれたそうです。

むしろ、「希望(のぞみ)と同じなのに、これがどうして“障害”なの?」と言われるぐらい偏見がなく、わざわざ発達障害のことを説明する方が難しかったとのこと。

「診断を受けて楽になった」―障害も含めて個性を認識することで対策ができる

一口に自閉症スペクトラムといっても、一人ひとりの特性や困難はさまざまですが、鈴木さんと息子さんの間には共通点も多く、理解や対処が比較的容易だったとのこと。
鈴木: 子育てに困りはしなかったと言いましたが、特定の場面や刺激への苦手さは当然あります。

息子は音への感覚過敏があって、特定の周波数の音に反応するようです。たとえば、ここの繁華街は平気なのに、別の駅の繁華街に行くとダメ、という感じですね。でも、私も音や光り、臭いへの感覚過敏があるので、そんなこともあるかと落ち着いて対処できます。
鈴木: 環境の変化にも弱くて、新潟の実家に引っ越した直後は、ほとんど寝なくなり、ずっと泣き叫んでいました。

以前、実家のガスコンロを新調した時も「前のがいい」と言ってパニックになってしまって。環境の変化に対するストレスが大きいみたいなんですが、それも自分に似ているから理解できます。
そんな息子さんは、保育園に入っての集団生活でもマイペースで、一人で黙々と好きなことをして遊んでいることが多かったそうです。ですが、お友達との関わりのなかで大きなトラブルもなく、周囲からも人気者だったとのこと。

特性ゆえの苦手な場面には対処しつつ、過剰に心配したり問題視したりすることなく、息子さんをのびのびと育てている様子の鈴木さん。
鈴木: 私は、診断を受けて楽になったんです。障害は個性の一つだとも言われますが、その個性もキチンと認識しないと遠因や対策はわかりません。

困り感が消えるわけではないので、診断されてわかったことをベースに、環境を変えていきました。

息子に関しても同じで、「この子の困り感をどうしたら人に伝えられるだろう」と考えながら、園や学校の先生とやり取りしました。

いろいろ考えた末、通常学級に入れることに決めました。通級教室のある学校が遠かったので、通い続けるのは息子もしんどいだろうと通級を断念。入学する学校の支援学級は全体的に学業の進行がゆっくりだったので、息子は物足りなさを感じる可能性がある…そんな風にそれぞれの特徴や息子との相性を検討した上で決めました。

通常学級にいるなかでも、感覚過敏ほか特性由来の問題について配慮を受けられるようにと、先生方に相談しています。

後悔だけはしてほしくないから、息子には全部自分で決めさせる

自分とそっくりの特性がたくさんある息子さんについて、「“子育て”していると思ったことはない。息子は“同志”みたいなものだから」と語る鈴木さん。

息子を一人の人間として大切にしているからこそ、園や学校での行動は全て本人の決定に任せているそうです。

たとえば、聴覚過敏のある息子さんにとって、にぎやかな園の行事への参加は大きなハードルです。そんな時も鈴木さんは、「みんなも出てるんだから」と参加を強制することもせず、「出なくて良いよ」と促すこともせず、息子さん自身に考えさせるのです。
鈴木: すべて本人の意思に任せるんです。事前に、「出たらどんな良いことがあって、どんなこと嫌なことが起こるのかを考えて、全部自分で決めてね」と伝えています。

その途中で話も聞くし、アドバイスはするけど、“指示”は絶対にしません。

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鈴木: 息子は、一度決めたら変えてはいけないんだと思いこんでしまう傾向があるので、最初に「出る」と言ったことを後から変えることに抵抗があったり、変えたことでまた悩んだりもするんですが、そうしたプロセスも含めて全部、息子に決めさせるようにしています。

子どもには酷だとは思います。でも、母や周囲の期待に応えようとして自分を押さえるようなことはしてほしくないんです。

だから私は、息子が自分で考えて決めたことは、絶対に否定しません。失敗することもあるけど、自分が決めたことなら納得ができるし、そこから学んでいけるから。
「私には、親という意識があまりないんです」と語る鈴木さん。自分とそっくりの特性がある息子さんだからこそ、困難をよく理解した上で環境を整え、本人の意思や主体性が育つようなかかわり方をするのが希望さん流の子育てなのでしょうね。

次回は

第3回は、ご自身の過去の経験や、息子さんとの関わりを踏まえて、いま発達障害について思うことを語っていただきます。
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