吃音は「しゃべりにくさ」だけの問題じゃない?『どもる体』著者、伊藤亜紗さんのトークイベントをレポート

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2018年6月1日に『どもる体』(医学書院)の刊行記念イベントが荻窪の本屋「Title」で開かれました。著者の伊藤亜紗さんが本の内容を紹介するだけでなく、集まった一人ひとりがしゃべりやすい状況や理由を考えて議論するゼミも展開。吃音当事者の方も駆けつけて、他の参加者からの質問に答えるなど、自由で和やかな雰囲気で吃音について語り合いました。イベントの様子をレポートします!

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発達ナビニュース
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吃音当事者のインタビューからまとめた『どもる体』を伊藤さんが語る

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2018年6月に刊行された『どもる体』は医学書院のシリーズ「ケアをひらく」の新刊。著者の伊藤亜紗さんは、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授で、これまでに『目の見えないアスリートの身体論』(潮出版社)など視覚障害に関する著書も手がけています。

吃音を題材とした今回は、伊藤さんが吃音当事者8人に丁寧にインタビューし、調査したことなどをまとめています。「しゃべりにくさ」という目や耳でとらえられる表面的なことで語られがちな吃音ですが、「連発」「難発」などの症状がある時、体の中では何が起きているのか。「治る/治らない」という考え方から離れ、これまでとはまったく違う身体的なアプローチで「どもり」の背景に迫ります。

今回のイベントは、刊行から間も無く開催されたため、「予習なしでもOKなゼミ」と銘打って開催されました。会場は満員です。前半は、書籍の内容に沿って、吃音の症状とその時に体や心の中ではどんな動きがあるのかをインタビューした当事者の声を交えて紹介しました。

しゃべりにくさという表面の問題だけではない、根っこの深い「吃音」

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伊藤さんが考える「しゃべる」ための要素は、「自分の体」「言葉」「社会(環境)」の3つがあり、その中心に「しゃべるわたし」がいて成り立っています。

伊藤さんは、自身に「母親」や「大学の教員」としての人格があることに触れ、「みんななんらかの人格があって、それぞれの社会的な要因の上で、演技をしてしゃべっている」と話していました。

それは、本当は言いたくないことでも、立場上言わなければいけなかったりすることで、「自分と言葉にギャップが生まれる」ということです。さらに重要なのは「ギャップはできるけど、本当の自分の確固たるものが存在するのでなく、ギャップとともに自分が形成されていくというのがしゃべるということ」なのだと言います。

これは吃音のある人に限らず、誰にでも当てはまることです。

吃音については、代表的な症状として最初の音を連続して言う「連発」、最初の音が出ない「難発」があることを解説。「難発」は息が詰まるような苦しさが体にあるのに対し、「連発」はとても楽な状態だといいます。しかし、会話をする上ではいずれも困りごとの原因です。

「連発」を避けようとする"対処"が最初の音が出てこない「難発」を誘い、その後、出てこない言葉を別の言葉に置き換える「言い換え」を習得する人も少なくないそうです。こうした過程が、幼少期には20人に1人と言われる吃音が成人では100人に1人まで少なくなる要因ではないかと考えられます。

しかし、「言い換え」は工夫であって表面的に流暢に話すことができているだけに過ぎません。言葉を常に探していたり、「この言葉は言えないからこれにする」というパターンを追っている状態で、体の中はどもり続けているのです。さらに、言い換えによって生じる「本当に言いたいことを言えない自分」を受け入れられる人と、そうでない人に分かれます。

伊藤さんがインタビューした当事者の中には、言い換えをやめ、再び連発になってでも「本当の自分」を取り戻した、と語る人もいました。

言葉の問題と思われがちな吃音ですが、その根っこは、もっと深いところにあるようです。

「そのしゃべりやすさの理由は?」──和やかに議論が飛び交ったゼミ

後半はゼミ形式で参加者が議論しました。参加者に配られた紙には、次のような質問が並んでいました。

Q以下のそれぞれの選択肢のうち、どの状況がいちばんしゃべりやすいですか。
また、なぜそう感じるのか、理由も教えてください。
[1]指名されて発言/指名なしで発言
[2]台本あり/台本なし
[3]対面/電話/スカイプ
[4]30人の前で話す/1台のカメラに向けて話す
[5]開会のあいさつ/演劇
[6]パワポでプレゼン/アバターで実況中継


みなさん、自分の「しゃべる」ことについて真剣に考えていました。そして、伊藤さんによるゼミが開始。それぞれの設問で当てはまる回答に参加者が手を挙げ、伊藤さんが「それはなぜ?」と質問していきます。

[1]で「指名なし」を選んだ男性は「指名されて発言するときは『ストライクを投げないといけない』感じ。指名なしだとみんなで一斉にやる『玉入れ』みたいな。外れても構わない感覚がある」と例えていました。

[3]でスカイプ派だという女性は「まずいことがあっても何か飛んでくることがない。テレビみたいな遠い世界を見ている感じ」と話していました。

「声」は目に見える形としては存在しません。一人ひとりの中に感覚としてあるしゃべりやすさの条件がとてもユニークに語られていきました。伊藤さんは「なるほど!」「面白い」と意見を汲み上げながらも、最後には「理由を聞いてはみたけど、みんな合理的じゃない」と言い放ち、会場は笑いの渦に。

「その人の何年分ものしゃべりの蓄積の結果論であって、普遍性がない世界」、「みんな言っていることが違う。多様であることをのっける枠組みはつくれるけど正解はない。身体を研究するというのはこういうことだなってつくづく思った」と研究のエピソードを語って締めくくりました。

会場にいた人たちの声

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伊藤さんが「リズムがあって、かっこいい連発なんですよ」と紹介した八木智大さん(25)。『どもる体』にも登場していて、この日のイベントに駆けつけました。八木さんにとって連発は、次の言葉に繋がる音を手探りしている感覚だそうです。

会場からは「吃音の人と会話をしたことがなくて。最後まで話したいことを言うのを待っていたらいいですか」と質問があがりました。それに対し八木さんは、「ほとんどの人は自分が言い切るのを待ってくれる。吃音の本にもそれがいいと書いていることが多い。でも僕は言えないでいる時は、待たずに『こういうこと?』って言って欲しい」と回答。しかし、八木さんも最初からそう思っていたわけではありません。高校生のころまでは、先に言われてしまうと「言えなかったションボリ感」があったそうです。大学生になり、吃音で悩まなくなってから心境も変わったといいます。

「どもる」こと自体は変わらなくても、吃音との距離感が変わっていった八木さん。最後まで待ってほしい人と、言葉を汲んでほしい人がいる訳でなく、同じ人の中でもその時々によって変化していくようです。八木さんの言葉の一つひとつに、参加した人達は耳を傾けていました。

伊藤さんのデビュー作から読んでいるという細江幸世さん(53)。本に登場する1人の吃音当事者の方から「インタビューを受けて、自分がこんなふうに考えていたんだって分かった」と言われて興味を持ち、イベントに参加しました。仕事では子ども向けの本をつくっていて、言葉と体について考えることも多いそうです。「伊藤さんがどんなふうに研究をしているのかも分かって面白かった。本の中でインタビューを受けていた方の幼少期のことなど考えを広げながら、新しい知見を仕事にも生かしたい」と感想を話してくれました。

まとめ

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特に来場者が自分の考えを率直に語ったゼミの時間は、「へえー」「あるある」といった相槌もあれば、吃音当事者の思わぬ本音に笑いが起こることも。

「吃音」という一つの障害をテーマに語る場としては意外なほど、穏やかで温かい空気に包まれていました。「しゃべる」ということはそこにいる全員に共通する身体運動であるということが、吃音のある人、ない人の距離を埋めてくれているのだと思いますが、本来、障害やコンプレックスを話すときにはこれくらいの空気感がいいかもしれないと思わずにはいられない時間でした。

「治る/治らない」という議論ではなく医学的、心理的とも違った新しいアプローチで吃音に迫った『どもる体』。障害のある人や障害が身近でない人をつなぐ架け橋のヒントになるようなイベントでした。

伊藤亜紗さんプロフィール

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学、現代アート。生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。東京大学大学院人文社会系研究科美学芸術学専門分野博士課程修了(文学博士)。研究のかたわらアート作品の制作にもたずさわる。主な著書『目の見えない人は世界をどうみているのか』(光文社)、『目の見えないアスリートの身体論』(潮出版社)など。
どもる体 (シリーズ ケアをひらく)
伊藤 亜紗 (著)
医学書院
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