強烈なトラウマからあっさり解放。必要だったのは苦手意識の克服よりも…

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幼いころ大やけどをしたトラウマで、揚げ物をつくろうとするとフラッシュバックを起こしていた私。発達特性のためにエネルギー出力が安定しない、不登校の息子。2人とも、どうにかしたくてもどうにもならなかった。

そんな私が、突如、揚げ物をつくれるようになった。そして気づいたのだ、私にも息子にも必要なことを。

鈴木希望
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長きに渡って私を苦しめることになる、トラウマを生んだ事故

私にとっての一番古い記憶は、2歳の終わり、冬のできごと。

家族で出かけようという際、何を思ったのか幼い私は「ちょっと待って、ストーブの上にあがりたい」と言い出した。両親と兄は、何の話なのか即座に理解できなかったという。そして私が石油ストーブによじのぼるやいなや、ストーブは傾き、火柱が上がった。炎が私の脚にまとわりついて、左右脚部に大やけどを追い、近くの病院に担ぎ込まれた。家族の慌てぶりが一切記憶にないのは、激しい痛みだけが頭の中を支配していたためだろう。

思春期までは、脚に残ったケロイドの存在が忌まわしくてたまらなかったが、成長につれて膝の裏以外消えてしまったこともあり、成人するころには気にならなくなった。そして激痛に苦しんだという記憶はあるものの、リアルに思い出すことが不可能になり、今では「私、バカでしたよねぇ」とこの事故について笑って話すこともできる。

ただし、こちらを目がけるように勢いよく立ち上ってきた火柱の様子は目に焼きつき、それに対する恐怖感は長い間消えることがなかった。

天ぷら油火災の映像でフラッシュバック。事故の記憶がよみがえって…

中学生のころ、報道番組であったか情報番組であったかは定かでないが、テレビ番組で防災に関する特集が組まれていた。不注意によって起こる事故、誤解されがちな防災の知識等が次々と流れてくる。それを何の気なしに眺めていた私は、ある瞬間に流れた映像を目にして凍りついた。食用油を加熱し過ぎた際に起こる、いわゆる天ぷら油火災を再現した火柱である。

30年近く前の話なので、そのときの気持ちを正確に思い出すことはできない。ただ、当時家の手伝いや趣味として料理を始めていた私が、幼いころのおぞましい事故を思い出していたことはしっかり覚えている。油を使う料理、特に揚げ物は、ちょっと注意を怠るととんでもない事故になるのだと認識した。そして、怠るまいと思っていても注意力を保つことが難しい私のこと、いつこのような事故を起こすかわからない。

「自分がやけどを負うだけでも怖いけど、家が火事になったり、近隣に火が及ぶなんてことがあったら取り返しがつかない!」と怯えた私は「揚げ物だけはつくるまい」と決心したのだった。

22歳から一人暮らしを始めて自炊を行うようになり、その後は結婚して家事を主に担う役割も経験したが、私は一切揚げ物料理をつくらなかった。完全にトラウマというやつで、自分が揚げ物をする姿を想像しただけで、やけどをした記憶までもが蘇ってくるのだ。その度にいちいちフラッシュバックを起こして硬直していては、日常生活が成り立たない。

結婚していた当時は配偶者に、後に生まれ、「とんかつであれば毎日でも食べられる」と豪語する息子にさえ、「まあそういうわけで、私にとって揚げ物ができるというのは特殊能力に等しい。外食または買って食べるものであると思ってほしい」と事情を伝え、理解してもらっていた。

とはいえ周りから見たら、2歳のときのできごとなんて、とんでもなく昔の話である。人によれば、記憶に残っていなくてもおかしくはない。ゆえに私の実母は「息子の好物がとんかつなんだから、揚げ物ぐらいできるように頑張らないと」などと言う。しかし言われれば言われるほど私は頑なになった。「そんなに簡単なものではない」と。

実際、わが子の好物なのだからと、自発的につくろうとしたことがあったのだが、手が震え、額に汗がにじみ、材料を並べるだけが精一杯だった。

息子も特性に凸凹が…「頑張ってもできない」と「克服すべき」で揺れる心

さて、わが家には学校へ行かず、自宅学習をしている9歳の息子がいる。自閉スペクトラム症(ASD)と診断され、注意欠如多動性障害(ADHD)の傾向も認められる彼は、その特性のためか、エネルギー出力に波がある。集中して大量の課題に取り組める日もあれば、充電が切れてしまったかのように何もできなくなっている日もある。

タスクを後回しにしてしまうことも少なくないため、学校からいただいている課題が遅々として進まない。おまけに大好きな算数ばかりに取り組むものだから、他の教科、特に国語の漢字練習などは、まだまだ学年初めごろのページに取り組んだり取り組まなかったりといった状況だ。

無論、それは「努力してもどうにもならない特性」であり、だからこそ学校生活が息苦しくなってしまったことは理解しているつもりだ。しかし、勉強につき合っているのは教育のプロでも何でもない、中卒の私。そして、私自身、家で仕事をしている身なので、きちんと見てあげられている自信が全くない。

そういうときに限って「子どもが保護者の指導なくして、自分の意思で学習できるわけがない」というような、ネガティブな情報が入ってくる。やはり、毎日の学習を習慣づけるように、学ぶ教科に偏りを出さないようにと強く指導したほうがいいのかと悩んだ。

息子より先に学校へ行かないという選択をしたお子さんを育てている友人に相談すると、「大丈夫だよ。うちの子も2年ぐらいは、私がいくら言っても勉強しなくて、最近ようやくフリースクールに行きたいって言い出したんだもん。放っておいても、やりたいことが見つかれば自分から勉強を始めるよ」と返ってきた。主治医の先生に聞いても、同様の答えだった。

好きなことにはのめり込みやすい特性を踏まえたら、確かにそこから学習に繋がるように誘導したほうが良さそうだ。そして息子自身から「やらなくてはいけないと思っているのに、できない。これでも焦っている」という言葉を聞いている。

トラウマと特性とでは少し意味合いは違うかもしれないが、私が「揚げ物ぐらいできるように頑張らないと」と発破をかけられてもできないように、息子だって、毎日の学習を習慣づけろと指導されても、「そんなに簡単なものではない」のかもしれない。何より学習をするのは息子なのだから、私がとやかく言うのはかえって悪手である可能性もある。

とはいえ、積み上げた教科書やノートを枕にして寝転び、電卓をカタカタ叩きながら、焦点の合わない目で天井を見上げる息子の姿を眺めていると、果たして本当にこれで良いのかと不安が募った。

突如、あっさりとトラウマを克服した私

トラウマを克服し、生まれて初めてつくった揚げ物
私が生まれて初めてつくった揚げ物。
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話は揚げ物に戻る。つい先月、夕食の準備をしようと冷蔵庫を覗いていた私は「今夜は豚肉の野菜巻きフライをつくろう」と突如思い立ったのだ。

息子にせがまれたなどといったきっかけは別段ない。ほんの1か月前の話なのに、そのときの気持ちを思い出すことができない。ただ、無性に「揚げ物をつくりたい!」という欲求に駆られたことはしっかり覚えている。揚げ物をつくる過程は、母が料理している様子を見ていたので知っている。不思議と恐怖感はなく、いつもそうであるように、淡々と調理していた。初めてのことなので、上手くできるかという不安はあったが…。

生まれて初めて私がつくった揚げ物は、われながら上出来で、息子にも好評。「もしかして、これからは家でもとんかつが食べられる?」とはしゃぐような声で息子に問われ、「そうだね。頑張ってつくっていこうかな」と私は答えていた。

つくろうとして材料を並べただけで、実際に火柱を見たわけでもないのにフラッシュバックに苦しみ、つくることができなかった揚げ物。「そんなに簡単なものではない」はずだったことが、実にあっさりこなせてしまった。驚きすぎて、感嘆の言葉さえ出てこなかったほどだ。トラウマについて、特別なセラピーを受けたわけでもない。無理をせず、フラッシュバックのトリガーになりそうな物事から距離を置いているうちに、時間が解決してくれたのだろう。

そしてふと、「息子にも時間が必要なのかも。何かに興味を持って、意欲的に学習に取り組む日も、時間がある程度経過してから、こんなふうに突然来るのかもしれないな」と、われながら安易だが、思ったのだった。そうなる保証はどこにもないけれど、今だって息子は何もしていないわけじゃない。だったら、信じて待ってみようか。息子だって、自分の好物をつくることができない私を責めもせず、つくれるようになってほしいと催促もせず、何年も待ってくれたのだから、と。

学習したい理由を、いつの間にか見つけていた息子

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初めて作ったかつ丼は、新潟でポピュラーなタイプ。玉子で閉じず、甘辛醤油だれにかつをくぐらせたもの。
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そしてその日は存外早くやってきた。とある平日、私が打ち合わせで外出をするため、息子は私の実家で過ごすことになった。準備の際、いつもだったら見向きもしない漢字ドリルを真っ先に手に取り、鞄にしまっていたのだ。

おそらく私の顔に驚きの色が見られたのだろう、息子は
「何をするにも読み書きって必要でしょ?あとさ、漫画を読んでいてもゲームをしていても、必ずふりがながついているわけじゃないから、漢字が読めないとそこで止まっちゃう。つまんないんだよね。自分にはそういう(読み書きの)障害はないんだから、もっと勉強しようと思った」と説明してくれた。

そうか、漫画を読んだりゲームをしているとき、そんなことを思っていたのか。のめり込むものを見つけたわけではないが、私が知らないうちに学習を進めたくなるきっかけを自分から見つけていたのだ。
「ふーん…そうだ、今日の晩ご飯、かつ丼にしようか。帰りに豚肉買ってくる」
「やった!漢字ドリルしながら楽しみに待ってる!」

以降、息子はコンスタントに偏りない学習をするようになったかというと、そんなことはない。エネルギー出力にムラがあるのはどうにもなるわけがないし、相変わらず、気がつけば算数の勉強ばかりしている。ただ、頻度は低いが、国語の学習に、自発的に手をつけるようになった。最近は学校から届いた理科の教材である電子工作を楽しむ姿も見られたし、なんとなく社会の教科書を眺めていることもある。

「そういえば私も、国語辞典の書き写しばっかりしていた時期があったな」と、ふと自分が息子ぐらいの年だったころのことを思い出す。あれだって、自分が納得するまで終えられなかったし、そのためには時間が必要だった。

息子にも私にも、「そんなに簡単なものではない」特性があるのだから、それぞれに見合った進み方をしていけばいい。また私がどこかからネガティブな情報を仕入れてきて、悩むことがないとは言えない。そのときはとんかつを揚げて2人で食べながら、楽しい話をしよう。そうしているうちにまた、時間が解決してくれたり、いい案が浮かぶかもしれないから。
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