専門家に聞いた!障害のある子の将来のために、残しておきたい「子育て記録」のコト

ライター:発達ナビ編集部
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子育てのログ(記録)。それは障害のある子が生活していくうえで、特に「親なき後の人生」において非常に大切なものになってきます。さまざまな申請はもちろん、特に20歳から受給される障害年金は、「記録」が鍵となります。とはいえ子どもがまだ小さいと、なぜ記録が必要で、どう役立つのか、なにをどのように記録すればいいのか、わからない方が多いと思います。記録の大切さや方法・内容などについて、「親なきあと」相談室主宰の渡部伸先生に詳しいお話をうかがいました。

なにをどう記録すればいいの?

渡部先生と保護者との座談会の様子
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今回は渡部先生に、障害のあるお子さんを持つ5人の保護者の方と座談会形式の中で、「記録をとるとどんないいことがあるのか」わかりやすく解説していただきました。

■座談会に参加した保護者の方々

伊藤みかこさん(医療情報フリーペーパー「ゲンキのモト」編集長):子どもは17歳(男の子)、14歳(男の子)、4歳(男の子)、0歳(女の子)。次男に知的障害があり、現在、特別支援学校の中学部に通っている。三男にASD(自閉症スペクトラム)傾向があり、発達が気になっている。https://gendai.ismedia.jp/list/author/mikakoito

木下暁子さん(主婦):子どもは12歳(男の子)、9歳(男の子)。次男が高機能自閉症。通常学級を経て、小学3年時より特別支援学級に通う。

田中千尋さん(主婦):子どもは10歳(男の子)、4歳(男の子)。長男にソトス症候群があり、知的障害を伴う。現在、特別支援学校の小学部に通っている。子どもの成長ブログhttps://ameblo.jp/sou0327chi1026/ 

田崎美穂子(フリーライター):子ども14歳(男の子)、12歳(女の子)、6歳(男の子)。長女に知的・身体障害がある。地域の小学校の特別支援学級を卒業後、現在は特別支援学校の中学部に通っている。

牟田暁子(LITALICO発達ナビ編集長):子ども16歳(男の子)、11歳(女の子)。長女に希少疾患があり、現在、特別支援学校の小学部に通っている。

障害年金とは

障害年金は、病気や障害、ケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の人も含めて20歳から受け取ることができる年金です。

障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2種類があり、初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。

障害年金を請求する際に提出する書類には、「初診日がわかるもの」「医師の診断書」(※)「病歴・就労状況申立書」などがあります。支給額は、病気や障害の程度で決まります。また、審査は書類のみで行われるため、しっかりとした内容のものを作成する必要があります。審査は障害年金審査センターで行われ、請求手続き後から支給決定まで約3ヶ月かかります。

※精神(知的)と肢体の両方に障害がある場合、どちらか重い(級や度数が大きい)ほうで請求する場合と、両方とも請求する場合があり、ケースバイケースです
参考:障害年金 | 日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html

記録をとるとどんないいことがあるの?

障害年金は20歳から受給できるので、20歳になる3ヶ月くらい前から書類を作成することになります。そのときになって「どういう子どもなのか」「どんな病歴があるか」「どんな支援が必要なのか」「どんな困ったことがあったか」などを思い出しながら書くのは、かなり大変な作業です。

「そこで、メモやブログでもいいので、必要なときに必要な情報が取り出せる”ベースになる記録”を残しておくことが大切になってきます。障害年金だけでなく、子どもの成長過程で医療費の助成、手帳の申請など、親が書く書類は山ほどある。そんなときにも、ベースの記録から必要なデータだけ取り出せば楽ですよね。

また、支援区分(※)の認定調査の際などにも参考になることがあります。さらに、将来子どもにかかわってくる支援者にとって、わかりやすい”子どもの取説”にもなりますし、記録を書いているうちに、”子どものために何を準備すればいいのか”という親の気づきにもなります」
(渡部先生)

※支援区分…18歳(高校卒業のタイミング)以降は、障害者総合支援法の対象となります。自治体による面談や約80項目の聞き取りを通じて、障害の特性や心身の状態に応じて必要な支援の度合を1~6の区分(数字が大きいほうが重度)に分けます。この区分によって、受けられる福祉サービスの内容や受給時間・日数が決まってきます。受けられるサービスとしては居宅介護(※※)、ショートステイなどがあります。支援区分は、何年かごとに見直しが行われます。

※※居宅介護は、グレーゾーンの人で、障害年金を受給していない人や障害者・療育手帳を持っていなくても、医師の意見書で「支援区分1以上」と認められれば、受けることができます。独り暮らしだけど部屋の片づけをすることができない、朝起きられないなど、自分ではできないことを介助してもらうことができます。

参考:サービスの体系 | 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html

なにを記録すればいいのか

「障害年金受給は、8~9割医師の『診断書』で決まるといわれています。療育手帳などをとるときは、障害者本人と会って様子を見たうえで判断しますが、年金の場合は書類のみで判断します。それゆえ、書類を作成するための『記録』がとても重要になってくるのです。

まず『障害の原因となった傷病名のために、初めて医師の診断を受けた日=初診日』は必ず記録しておきましょう。初診日要件といって、初診日があることが、受給要件になってくるためです。その後の通院歴、転院履歴、検査結果や医師の意見書などの医療的情報も記録する、あるいは控えておきましょう。

検診や知能検査では表れにくいこと、たとえば家庭や学校などで日常的に起こる困ったエピソードや、支援がないとできない事柄なども記録しておきましょう。『学校でパニックを起こして机をひっくり返してしまった』『暴れたので、学校でこのような対応をしてもらった』など、細かい出来事が大切な情報になってきます。

診断する医師全員が障害のことをきちんと理解しているとは限りません。医者に任せっぱなしにしたために困難さが伝わらず、『年金非該当』という悲しい結果にならないためにも、しっかり記録して医師に伝えましょう。

記録は、医師が診断書を書くうえではもちろん、親が記入する『病歴・就労状況等申立書』を作成するうえでもとても重要なものになってきます。私の娘の年金を申請するときは、申立書に加え、『てんかんがあったため、こういうことができなくなった』『思春期になると男の子を追いかけた』など、障害があることでこんなに大変なんだという具体的なエピソードをたくさん書いた別紙書類(A4サイズ4枚)も添付しました。過去のことをたくさん書くのは、『20歳前の今はできることも増えたが、できなくなることもある、発達には波があるんだ』ということを伝えるためです。

障害年金は『生きづらいからもらえる』のです。生きづらさが伝わるよう、アピールしてほしいと思います」(渡部先生)

記録のとり方は?

いざ障害年金受給のときになって、一度に詳細な記録のまとめをつくるのはとても大変なこと。

「日々の出来ごとや、ちょっとした事件、通院の日時などを、その都度デイリーで記録することをお勧めします」(渡部先生)
障害のある子どもの親なきあとを見据えた記録をとっておける「親心の記録」
渡部先生が監修に関わった「親心の記録」は、お子さんについての様々なことについて記録をとれるツール
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1年ごとに市町村で配布している『サポートブック』や『親心の記録』などを活用して、毎年の成長や困りごと、または緊急連絡先や通院先などをまとめておくことも大切です。1年ごとくらいに見直し、書き加えなどをするといいと思います。このとき、診断書や診察券、お薬手帳などのコピーを添付しておくと確実なエビデンスにもなりますね。

いろいろなところにバラバラと記録するより、ベースをひとつに決めてそこへ記録し、かつそこからアウトプットしていくことが望ましいです。紙ベースだと大変な量になってしまうので、できればデータでとっておくといいでしょう。就労や福祉サービス利用、年金申請、施設入所などの際に必要な情報を取り出しやすくなります」(渡部先生)

親なきあと、地域の人と共に過ごすために

座談会で発言する保護者のみなさん
質問をする伊藤みかこさん(写真右)
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今回の参加者から、「現在地域の療育センターで診てもらっているけど、いつまで診てもらえるかわからない」「地域で、子どもの発達に関することを相談できる担当医がいない」という悩みもあげられました。地域にわが子を知ってもらい、親なきあとに子どもが地域の中で生きていくためには、なにが大切なのでしょうか。

記録は子どもの「トリセツ」

せっかくとる記録ですから、年金のためだけでなく、かかわるすべての人がわが子について理解しやすい「子どものトリセツ」になるようにしたいもの。その記録は親が子どものサポートができなくなった後、子どもが地域の中で生きていくために最も必要になってくるといっても過言ではありません。

「地域の人をどれだけ巻き込めるか、近くの人たちにどれだけ子どものことを知ってもらうかが鍵になってくると思います。周りの人に理解してもらい、知ってもらうには、『どんな症状があって、どんな困ったことがあるのか』に加え、『どんな風に育ってきたのか』を記録しておくことで、とても伝わりやすくなります」(渡部先生)

地域の情報は地域で得る

保護者の質問に答える渡部先生
渡部伸先生
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「地域の情報は、地域の親の会や学校のPTA、友人などから得るのがいい」(渡部先生)といいます。

今回の座談会では、偶然にもお子さんが同じ学校に通う方がいて、同じ地域の病院や療育を紹介し合う場面が見られました。「この病院の先生は障害年金のことをよくわかっている」「この療育の先生は、ママの心のケアもしてくれる」など、発達が気になる子や障害のある子どもにかかわる施設情報は、やはり「口コミ」はとても大切な情報の一つとなるでしょう。

また、学校の送り迎えで移動支援サービスを利用したくても、通学の場合は使えないとされています。しかし、地域によっては条件次第で使えるところもあったりします。

「制度は一律であっても、自治体や事業所などで運用が異なる場合もあります。利用している友人や知り合いから口コミで情報を得ることが大切」(渡部先生)

オンラインでつながりをつくる

「わが子について、ダイアリーやブログ、サポートブックなどで記録することはもちろん、ほかの人が公開しているダイアリーやブログをチェックして、その人とつながっていくことも大切。同じような特性や障害のあるお子さんの情報を知ることができたり、同じ疾患を持つコミュニティーに参加できる、ということに広がっていきます。また、自分の子どもより少し年上のお子さんの例なども参考にできるため、わが子の将来をなんとなくでも描くことができる」(渡部先生)。

記録をつける、ほかの人の記録を参考にするという「オンラインでのつながり」を持つことは、子どもにとっても保護者にとっても、大きな強みになるようです。

医療とつながり続けることの大切さ

今回の座談会では、参加した保護者の皆さんからの「記録」に関する質問や疑問に、渡部先生がわかりやすく丁寧に答えてくださいました。「医療とのつながりの重要性」や「グレーゾーンの子の場合」など、大切なポイントもたくさん話してくださいました。

なぜ医療とのつながりが大切なのか

発言をする保護者
質問をする田中千尋さん
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参加した保護者(以下、――)――小児科は18歳までなので、その後の主治医をどう見つければいいですか。

渡部先生(以下、渡部)「20歳まで診ますよ、年金のときの診断書を書きますよ」という医師もいるので、早めに確認しておいたほうがいいですね。年金申請に関しては20歳の時点が一番大切なので、今まで診ていてくれた人に書いてもらったほうが説得力がある。どこまで面倒診てくれるかは、小児科だったら今から聞いておいたほうがいいです。

――カルテの保管は基本5年といわれています。転院などを繰り返して、初診日がわからなくなった場合はどうすればいいでしょうか。

渡部:生まれながらの知的障害の場合は、生まれた日=初診日扱いになります。ただ、身体障害の場合は先天的に障害があったとしてもでも「初診日」が必要になってきます。知的障害以外は初診日(最初の診断)は必ず必要になってきますので、何かしらの診断書をたどっていかなくてはなりません。

――転院した場合、「初診日」をどう追いかければいいですか?

渡部:私の娘の場合、いくつか病院を代わり、「さて、初診日いつだっけ」となったときに、最初の病院に聞きに行きました。病院を変わる場合も当然多いので、もしわかっているなら最初からもらっておく必要があります。診てもらっていた医者が亡くなる、あるいは廃業する場合もあるので、早めにとっておきましょう。

ただ、初診日が思い出せない、エビデンスがない場合は、「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類で証明することができます。

グレーゾーンや軽度発達障害でも、年に1度は受診を

発言する保護者
発言する田崎美穂子さん
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――発達ナビのユーザーで、グレーゾーンで手帳もとれていなくて、身体も健康で知的障害もないため、主治医がいないあるいは主治医がきちんと把握できていないケースが多いのではないかと思われるのですが。

渡部:発達障害や軽度知的障害のお子さんは、(服薬の必要がない、身体面で通院する必要がないなどのために、幼児期以降)医者に行かないことも多いようです。でも、障害年金のことを考えたら、1年に1回は何もなくても、脳波なり血液なり、なにがしかの検査を受けたほうがいいのではないかと思います。年に1回でいいから、医療とつながっていることが、とても大切になってきます。

――(幼児期以降)知的・発達ともあまり困難を感じていなかったけれど、就労後、二次障害で働けなくなってしまったというケースも耳にします。20歳以前の初診日がない、あるいはいつ受診したか忘れてしまったという場合は?

渡部:障害年金の申請では、知的(精神)障害や肢体不自由がある場合は医療につながっていることも多く、比較的申請・受給しやすい印象ですが、発達障害だと初診日の記録がなかったり、子ども時代に気づかれず二次障害が起きて初めて気づくケースもあるので、どうしても申請・受給しにくい傾向にあります。また、企業就労ができる人の場合「障害年金をもらおう」とは思わないかもしれませんし、周りが困っていても本人が困っていない場合は取りにくいということもあるでしょう。

わが家の場合、長女に発達障害があります。現在は一般企業で働いているので障害年金はもらっていませんが、精神障害者保健福祉手帳は取得しました。手帳申請時はいろいろ書かなくてはならないので大変でしたが、手帳を取ればさまざまな福祉サービスが受けられます。手帳をとる際も、改めて「ログをとる」ということが非常に重要だと感じましたね。

ちなみに、長女は一人暮らしをしていますが、特性もあり、なんとか仕事はできても日常生活ではいろいろな困難さを抱えています。そこで、休日にヘルパーさんに来ていただいて部屋の掃除や片付けなどをサポートしてもらうといった、生活面でのサポートをうけています。

最後に渡部先生から、記録を取ることの大切さについてメッセージをいただきました。

渡部:たまたま20歳という区切りで年金の申請がありますが、将来のことをしっかり見据えて記録してほしいと思います。

結局親保護者は全部面倒を見られないわけですから、近くにどれだけ子どものことを知っている人をつくれるか、地域をどこまで巻き込めるかが大切になってくると思います。そういうとき、子どものことを知ってもらうためのツールはとても重要になってきます。年金もそうですが、そこから先もずっとあるということを念頭に置いて、いろいろなことを書き留めていただけたら、と思います。

取材・文/田崎 美穂子
撮影/近藤 誠

youtubeの「発達ナビチャンネル」で座談会の様子を紹介しています

座談会「『親なきあと』相談室渡部伸先生に聞く――発達が気になる子の子育て記録を残す重要性について」(発達ナビチャンネル)

渡部 伸 先生

渡部伸先生
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約30年間出版社に勤務後、独立。2014年行政書士、2018年社会保険労務士登録。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。世田谷区区民成年後見人養成研修修了。世田谷区手をつなぐ親の会会長。「親なきあと」相談室主宰。

著書に『障害のある子の「親なきあと」~「親あるあいだ」の準備』(主婦の友社)、監修に『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて』(自由国民社)などがある。

渡部先生の著書

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