「こんな勉強がしたい!」不登校だった息子の始業式の朝を変えた、春休みのレク【息子の復学 Vol.2】

ライター:鈴木希望
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約1年半の不登校生活を送っていたが、3年生後期の最後1週間、連日登校をすることができた息子。春休み中に息子は疲れをリカバーできるか、進級に伴う環境の変化に適応できるのかと私は不安を感じながら過ごしていた…。今、ごく普通に登校している息子が現在に至るまでの話、第2回目です。

春休み。進級に伴って変化する環境に息子が適応できるのか、不安を抱える私。そんなある日、息子が1枚のチラシを差し出した

担任・N先生の寄り添いに心を動かされたこともあり、3年生の後期が終わるあと1週間のところで、通学を始めた息子。
先生は「学校へおいで」と追い詰めなかった——約1年半不登校だった息子が、復学するまでのタイトル画像

先生は「学校へおいで」と追い詰めなかった——約1年半不登校だった息子が、復学するまで

とはいえ、学校で起こる不便や不快感など、根本的な問題が解決したわけではない。そして転出により児童数が減少したため、新学年からは2クラスが統合されて1クラスになるという。全校生徒の顔をなんとなく把握できるような、田舎の小さな小学校だ。「教室に見たことない子がいる」というようなことはないだろうが、1つの教室で過ごす人数が変わることで、人間関係はもちろん、室内に響く音声が、聴覚過敏もある息子の耳にどう響くかも変わってくるだろう。となると、これまでとは違った問題が発生する可能性もある。

本人も不安があるのか、「新学期になったら、また毎日行けるか分からない」と言っている。まあ、考えてみたらここまでが余りにも順調すぎたのだ。本人だって「いきなり毎日最初から最後まで、というのはできないかもしれない」と言いながら、3年生のラスト1週間の毎日、始業から終業までを学校で過ごすのには、かなりのエネルギーを要しただろう。短い春休みの間で、心身両面のリカバーができるかどうかは分からない。仕切り直しだと考えて、過度な期待をせず様子を見ることにした。

そんな構えで春休みを迎えようとした私に、息子が1枚の紙を差し出した。
「これ、行ってきてもいいかな」
それは小学校で行われている、放課後と週末のレクリエーション会の予定表だった。

息子が通う小学校では毎週水曜日の放課後と土曜日の午前中、地域ボランティアの方と提携して行われるレクリエーションの時間が設けられている。会場は校舎の中。その春休み特別企画として、プログラミング体験講座が開催されるのだとか。そのころ息子は、いくつかの要素を組み合わせてオリジナルゲームを簡単に作れる、という携帯ゲーム機のソフトに夢中になっていて、それをきっかけにプログラミングに興味を示していた。

何年か前に私は障害者向けの就業研修で、プログラミング言語のJavascriptを学んではいたが、きれいさっぱり忘れてしまっていたし、覚えていたとして(あと、JavaScriptが最新ではないことはさておいても)、彼の興味を引きつけるように教える自信は一切持ち合わせていない。レクリエーションでは、現役のSE兼プログラマーの方が、小学生が楽しく、分かりやすく学べるように指導してくださるようだ。徒歩で出かけられる場所で、しかも無料である。反対する理由はない。
「いいじゃんいいじゃん、行ってきなよ!」

「レクリエーション、3年生は対象外だったの!?」冷や冷やしながら迎えに行くと、満足そうに微笑む息子。なぜ?

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当日息子は冷えたルイボスティーを自分で水筒に詰め、張り切って出かけた。レクリエーションが終了するお昼近くになったら迎えに行くから、と息子の後ろ姿に声をかけ、私は仕事の作業に取りかかった。
合間にふと「今ごろ楽しんでいるかな」と、レクリエーションのスケジュール表に目を向けた私はすぐさまフリーズ。そこにははっきりと「対象:4年生~6年生 ※3年生以下は見学」と印字されているではないか。そのときはまだ3月、息子は3年生なのだ。

プログラミングを体験したくてわくわくで出かけた息子が、「3年生だから、見学ね」と言われてその状況を受け入れられるだろうか。そこで不満とともに「自分も参加させろ」と申し立てるようなタイプではないが、かなりのフラストレーションを募らせることは想像に難くない。(こりゃもしかしたら途中で帰ってくるかもしれないな…)などとぼんやり考えながら作業を再開したが、昼近くなっても帰宅する気配はない。意外にも見学を楽しんでいるのか。私は、身支度をして小学校へと向かった。

待合室になっている教室で待機して、どれくらい経ったころだろうか、
「お待たせしてすみません!みんなで盛り上がってしまって、ついつい長くなってしまいました!」
と、レクリエーション担当の教員・K先生と、参加した児童たちが戻ってきた。もちろん、息子もおり、満足そうに微笑んでいる。
「ごめん、私、チラシの説明をよく読んでいなくて…」
「あ、それなんだけどね」
私の言葉を受けてこちらを見上げた息子は、K先生に向き直った。
「あの、本当は対象外なんですけど、見学になる参加者が息子さん1人で。ほかの児童たちも“ハルくんならきっとできるよ”と言うので、一緒に参加してもらったんです」
「そうなんだよ!上級生のみんなが仲間に入れてくれたんだよ!それで、分かりにくいところは教えてくれてね!マイコン制御のロボットを(プログラミングで)操作したんだけど、あまり上手くできなくてもみんなが“最初からこんなふうにできるなんてすごいよ!”ってさあ!」
K先生が説明してくださったあと、息子は目を輝かせながら、何があって、それがいかに楽しかったり嬉しかったのかを早口でまくし立てた。私が心配するまでもなく、息子は充実した時間を過ごしていたのだった。

K先生にお礼を申し上げて帰ろうとしたら、K先生がこうおっしゃった。
「息子さん、いろいろ学校が不便をかけて、ずっとお休みをしていたので、楽しんでもらえるか心配だったんですけど…プログラミングやものづくりが得意で大好きなのでしょうね、いきいき楽しそうに取り組んでいましたよ」
私はもう一度お礼を申し上げ、息子とともに学校をあとにした。

「今日から新学期だよ!」やりたいことが見つかった息子は、ランドセルを揺らしながら学校へ

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さて、気づけば4月。まもなく新学期に突入というある朝、朝食を終えて食器洗いやらなんやらをしている私を尻目に、息子がなにやら慌ただしい。
「どしたの?今日なんかあんの?」
「なんかあんの?じゃないよ!今日から新学期だよ!!」

新学期、間もなくではなく完全に突入していた。数日前に支度はしてあったものの、「また毎日行けるか分からない」という息子の言葉が頭に残っていたからか、私は完全に油断し日付の感覚がおかしくなっていた。
「お、おう。そうだった、ごめんごめん」
「のん(私の呼び名)が忘れちゃダメでしょう。じゃ、行ってきます!」
息子は笑いながら靴を履き、
「うおおおお!小学4年生!!!」
という雄叫びとともに、集団登校の集合場所へ走り去って行ったのだった。

完全に、予想外の光景である。もちろん、登校すると想定していなかったわけではない。とはいえ、約1年半の不登校生活を過ごし、1週間登校をしたものの、春休みをはさんで「また毎日行けるか分からない」と懸念していた9歳児が「うおおおお!小学4年生!!!」という雄叫びを上げながら学校に向かう姿なんぞ、誰が想像するものか。

「のんが小学生のころには、コンピューター室ってあった?」
春休みのレクリエーションを終えてからの帰り道、同じ小学校の卒業生でもある私に、息子は聞いた。
「ないない。30年以上前は、こんなにコンピューターが普及していなかったもん。PCなんて、学校にも家にもなかったよ」
「ふーん…コンピューター室が学校にあるのは知ってたけど、今日初めて入ったよ。楽しかった。でね、またプログラミング教室をレクリエーションの会でもやるし、学校でも、まあ毎日だったりしょっちゅうは無理かもしれないけど、PCを使ってプログラミングとか、いろいろ勉強できるんだって!」


普段、私が使用しているスペックの低いPCをたまにいじる程度しかできなかった息子は、比較的新しくてスペックの高いPCを、時間の限り思う存分使用できたことが本当に嬉しかったようだ。
「携帯ゲーム機でオリジナルゲームを作るのも楽しかったけどさ…自分が入力した文字や数字が言葉になって伝わって、ロボットが作動したり、静止画だと思っていたものが動画になるってすごいよ!だから、すぐでなくてもいいから、ああいう勉強をしていきたいなって思ったんだよね」
話しながら進む息子の足取りは、まるでステップを踏むように軽やかだった。
「また毎日学校に行けるかは分からないけど、これからも勉強はしていきたいなって思う」
私に向けているとも、ひとりごととも取れるような口調で、息子がつぶやいていたのを思い出す。

「やりたいことがあるっていうのは、外野があれこれいう言葉より心に響くもんだね…」
ランドセルを揺らして駆けていく息子の背中を眺めながら、今度は私がベランダでつぶやいていた。
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