わが子の行動が「不可解」にうつるとき、その背景を見つめて――精神科医・田中康雄先生の新刊『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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わが子の行動が「不可解」にうつるとき、その背景を見つめて――精神科医・田中康雄先生の新刊『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』のタイトル画像

子どもの発達障害というと、「診断はされたのか」といったことがクローズアップされがちですが、本来大事なことは、診断のあるなしではなく、子どもの思いや行動を理解することのはず。このことを医師として臨床心理士としての目線で丁寧に解説したのが、『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解』を理解する』、田中康雄先生の新刊です。発達が気になる子どもを育てる親や支援者に読んでほしい本であると同時に、子育てを頑張ってきたお母さんたちを労う本でもあります。

親はいつでも、「わが子の成長を喜びながら関わりたい」

わが子の行動が「不可解」にうつるとき、その背景を見つめて――精神科医・田中康雄先生の新刊『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』の画像
『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』カバーイラスト | イラスト/matsu(マツモトナオコ)
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この本では、12人の子どもたちのストーリーが成長の時期ごとに紹介されています。登場人物はすべて架空でお話もフィクションですが、丁寧な取材の中から浮かび上がった親子のストーリーです。

それぞれのストーリーには、発達障害の傾向が見えそうな子どもたちの行動が登場します。ですが著者の田中康雄先生は、発達障害そのものについて解説する視点ではなく、あくまでその子がしている行動を見て、その子にしかない行動の理由を探っていき、どう向き合ったらいいのかを提案していきます。
「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する
田中康雄
SBクリエイティブ
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Web版立ち読み『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』
https://r.binb.jp/epm/e1_128198_27112019154558/
その子の思いをあれこれ想像しながらかかわることで、少しでも子どもとのつき合いが楽しくなったり、成長する子どもに喜びを感じられる。あるいは、何らかの覚悟ができたり、共に育ち合うような感覚になれる。子育てにちょっとした光が見える。そんな小さなきっかけになれば……(P22)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4815602603/
わが子の感じる困難や、さまざまなトラブルを経験する中で、親は「どうしたらいいのだろう」と悩み、調べ、専門家に相談したりもします。そのとき親は、 “発達障害とは”という基礎知識を知りたいのではなく、“目の前のわが子とともに幸せに生きていくためのヒント”が欲しいと願っているはずです。
第1部では、「子どもとともに楽しく、幸せに毎日を過ごしたい」という思いに寄り添って、子どもたちのストーリーとその解説が展開されていきます。

育てる人をホッとさせてくれる、子どもたちとのストーリー

発達の凸凹によって、子どもはさまざまな行動を起こします。「子どもだからしかたがない」と言っていられない行動の場合、繰り返し言い聞かせるだけでは直らないことも多く、「いったいこの子はどうなっているの」という不安や、「このままで将来どうなるんだろう」というあせりなど、親としてはたくさんの気持ちが渦を巻くことでしょう。

この本の第1部では、子どもの成長時期ごとに、12人の子どもたちの行動のストーリーを紹介しています。

乳児期「かんしゃくが激しいひろゆきくん」「寝ない、食べない、けんたくん」「言葉がなかなか出ないたかしくん」
幼児期「頑固なゆかりちゃん」「クラスにいられないかなちゃん」「友達に手が出てしまうさとしくん」「生活習慣がなかなか身につかないみきちゃん」
就学期「就学先に迷うかいとくん」「授業中、座っていられないたいきくん」
学童期「計算が極端に苦手なみのるくん」「不登校気味のゆうきくん」「人間関係がうまくいかないゆいちゃん」


この見出しを読んだだけでも、どこかに「あ、うちの子のことかも…」と感じる人がいるかもしれません。単なる特定の子どもの成長ストーリーではなく、各年代ごとに「こういうこと、あるね」と思わせるストーリーが書かれています。どういう環境で育ち、これまでにどんな場面でどんな行動があったのか、そこから考えられる子どもの行動の「理由」が丁寧に分析されています。そしてそれを踏まえてどのような対応をしていったらよいかが提案されており、子どもの「心と行動に寄り添うヒント」を見つけることができます。
たとえば、「就学先に迷う、かいとくん(6歳半・年長児)」。かいとくんは、言葉の育ちがゆっくりで、3才のころに自閉傾向があるかもしれない、といわれたことがありますが、診断名はありません。ふだんの活動でも切り替えが難しかったり、行事などのいつもと違う活動には不安で参加できなかったりすることがあります。両親も、そして保育園の先生も熱心に関わってくれて、6歳をすぎた今は、言葉も増えて会話に支障はなくなっています。特別支援学級に行くのか通常学級に行くのか、就学先をどうしたらよいかお母さんは悩んでいます。

このストーリーに対して田中先生からは、「『未来予想図』をよい方向に向けていく力」というテーマで解説していきます。あせらなくていいこと、何より本人の希望を大事にするということ。そのうえで、特別支援学級と通常学級のいいところをピックアップし、かいとくん自身にはどういう配慮が必要そうかといったことまで「かいとくん就学時の応援策例」として丁寧に書かれています。

最終的にどちらに就学するかは保護者である両親が判断しますが、その決定についても、
「ベストな選択肢」というよりも、いろいろと考えた挙げ句に周囲に多くの協力と理解を求めながら「ほどほどに納得できる選択」と押さえておくとよいのではないでしょうか。同時にかいとくんの様子によって、あるいは家庭や学級、学校の状況によっては、「常に修正検討をしていく選択」でもあると理解しておくとよいと思います。(P126)
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といった言葉で、これからのかいとくんの成長によって、よりよい未来予想図に向けて対応を変えていくことが提案されています。今の過程だけを見るのではなく、「未来」を見て「今、すべてを決めなくても大丈夫、また変えられる」と言ってもらえたら、お母さん、お父さんの肩の荷が下りることでしょう。

お母さんに寄り添うことが、大事なポイントとなる

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「寝ない、食べない、けんたくん(2歳1ヵ月)」けんたくんに次の行動をビジュアルで提示する母(P47) | イラスト/matsu(マツモトナオコ)
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こうした子どもの行動分析には、子育てをスムーズにするためのたくさんのヒントがあります。同時に、この本でとても特徴的なのは、一つひとつの事例の中で、お母さんが労われている、ということです。

子育てはお母さんばかりがするものではないし、ワンオペ育児についても問題視されることが多くなっていますが、生まれてから子どもと接する時間が長いという点から、やはりお母さんにはどうしても多くの負荷がかかります。お母さんたちは頑張っているのです。

「寝ない、食べない、けんたくん(2歳1か月)」に登場するのは、睡眠リズムが安定しない男の子。あの手この手で布団にさそっても、大声で騒いでしまう、夜1時くらいまで寝つかないこともあるけんたくん。ママはへとへとなのに、夜中にDVDを見せると落ち着いてくれる様子を見て罪悪感を感じています。そんなママへの言葉として田中先生は、
けんたくんが赤ちゃんのころから不眠不休で頑張ってきたお母さん。日中にもやることがたくさんあるお母さんとしては、とてもとても疲れる日々だったことでしょう。本当にお疲れさまです。まずは、ゆっくりと休んでほしいと思います。(P50)
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と語りかけています。また、幼児期に初めての集団生活に入ってから問題が出てきた子どもをもつお母さんのことも、こう分析しています。
やっぱりみんな私の子育てを責めている、誰も私のつらさをわかってくれない、これ以上何をすればいいの? こういった思いを抱えて孤立しがちなお母さんのサポートも、乳児期から続く重大な課題です。(P76)
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こうしたお母さんの気持ちをまずは労い、そして寄り添いながら、この子にとってどんな言葉がけや行動をもって育てていくのがベストなのかをともに考えていく、ということが繰り返し書かれています。

お父さんとお母さんの意見が違っている場合についても、こんな解説がされています。
このような課題が見えてきたとき、お父さんが協力的に伴走してくれるのか、それとも「子育ては君に任せた」とお母さんに問題を預けてしまうのかで、お母さんの負担がずいぶん変わってきます。ぼくの経験からは、お母さんは割と早い段階で我が子の育ちへの疑問を抱き、お父さんは「そんなの心配しすぎだ」「俺がどうにかしてやる」と構える人が多い印象があります。そこで、お母さんとお父さんの思いが食い違っていってしまうのです。(P75)
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子どもが困った行動を起こしている場合、子どもだけを見てしまいがちですが、そこには必ず家族や周りの人との関係という背景があります。第1部では、子育てを家族の物語として見守るとはどういうことなのか、そんなストーリーと子どもの行動への解説が書かれています。

第2部では「医療の役割」としての子育てを考える

発達障害はグラデーションで、はっきりと白黒はつかないものです。さらには、一人の子どもにいくつかの診断がつくこともあるし、成長とともに変化していくこともあります。第2部では、子育てにかかわる「医療の役割」について解説しています。
症状と言われる部分、いわゆるその子の持ち味の色の濃さはみんな一定ではなく、ある特性がとても濃い人もいればとても薄い人もいます。同じ人であっても、生活環境や状況に応じて色濃く見える時もあれば、あまり目立たないような時もあります。じゃあどのくらい薄いと診断されないのか、という線引きは確定されてはいません。まったくもってグラデーションの世界なのです。(P209)
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グラデーションの世界だからこそ、一つの診断名だけで子どもを見ることはできないし、もし顕著な診断名がつく状況だったとしても、これをすれば万事解決となるような特効薬や絶対的な治療法があるわけではありません。
この線引きが非常に難しい世界の捉え方の1つとして、「障害」ではなく「多様」として考えていくという「ニューロダイバシティ(神経多様性)」の概念も登場してきています。
すべての脳の違いを優劣ではなく個性として、障害ではなく生物としてのバリエーションであるという発想です。(P211)
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子どもを診断名だけで見ない、そして子どもの行動にかならずある、家族との関係やその子が置かれている環境全体を見ていくことがとても大切と田中先生はこの本の中で伝えています。

お母さんがひとりで抱え込まないことの大切さ

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161008409
お母さんの視点だから気づくこと、逆に気づきにくいこと、保育園・幼稚園、学校の先生や支援者からの視点、それぞれ大切です。その視点と合わせて、医療が分析する結果で大切なことは、診断名ではなく子どもの行動を解決するための鍵となることでしょう。

田中先生は、「診断名」がもたらすプラス面・心配な面について伝えています。たとえば、ミニカーを1列に並べるのが好きで列を乱されると怒ってしまう男の子に対して「自閉スペクトラム症の“こだわり”ですよ」と告げられてしまったお母さんは、それまで「かわいいな、素敵だな、ユニークだな」と思っていた子どもの姿の見方が一変してしまうということが起こり得ます。診断名が下されたとたんに、その子自身の行動の理由を知ろうとするのではなく、その診断名についていわれていることを知ろうとしてしまうことが、「心配な面」なのです。 
第1部で紹介したストーリーのすべてにおいて、「この子はこういう診断が付きますよね。ですから……」といった解説はしていません。発達障害のタイプについて学ぶよりも、「この子はこんな気持ちですよね」というところからかかわってほしいという思いを込めたからです。(P234)
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発達障害もその子を理解する手がかりの一部であることに、この本で田中先生は気づかせてくれます。子育ては、たくさんの「メガネ」を通じて子どもを見て、その子の豊かな内面を理解していくことであり、発達障害というメガネを外したときに見える、その子のありのままを見ることが大切なのだと書かれています。
ぼくは、それがこれからも続いていく親子関係の長い歴史の物語であり、その物語が少しでもよい方向にむかっていくように応援したいと思っているのです。(P218)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4815602603/
この本からは、これまで頑張って育ててきたお母さんへの救いの手が差し伸べられているように感じられます。さまざまなストーリーとその分析とともに、これから子どもと一緒にどう未来に向かっていったらいいのかが見えてくる『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解』を理解する』です。
「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する
田中康雄
SBクリエイティブ
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Web版立ち読み『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』
https://r.binb.jp/epm/e1_128198_27112019154558/
文/関川香織(K2U)
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精神科医の仕事は、心に寄り添うための橋渡し役。発達障害のある子の「育ち」のために-精神科医・田中康雄


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