がんばっているママたちへ。壮絶な子育てを経て希望を見つけた著者が届ける「そのママでいい 発達障害の子を育てるあなたに贈る43のエール」
ライター:発達ナビBOOKガイド
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中央法規出版
発達障害のある子の子育てを通じて発達障害コンサルタントとなった橋口亜希子さん。コンサルティング、講演、各種の委員会などで活動する橋口さんの出発点は、壮絶ともいえる子育てにありました。20年に渡る橋口さんの子育てを、まさに「そのまま」書き綴ったのが、「そのママでいい 発達障害の子を育てるあなたに贈る43のエール」です。
綺麗ごと一切なしの子育て実録
「そのママでいい 発達障害の子を育てるあなたに贈る43のエール」は、橋口さんの子育てが「そのまま」書き綴られた、綺麗ごと一切なしの子育て実録。だからこそ読む人の共感を呼びます。
そのママでいい: 発達障害の子を育てるあなたに贈る43のエール
中央法規出版
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子育てに絶望したどん底から、希望の光を見つけるまで
発達障害がある子どもの母として、当事者の声を上げてきた橋口亜希子さんが、子育てをスタートしたのは20年前。まだ、発達障害についてよく知らない人の方が多かった時代です。橋口さん自身もそうでした。
「どうやったらそんなふうに元気でいられるのか。どうやったら自信を持てるのか教えてほしい」とママたちから質問を受けることもあります。(中略)どこか私は、発達障害のある子の親として成功者のように見えてしまっているのかもしれません。(P15)
橋口さんが成功したママに見えることは、おそらく誰も否定しないでしょう。ですが橋口さんは、それに対して、
息子の子育てにおいては母親失格、いやいやそんな甘いもんじゃなく人間失格じゃないかと思えるほど、実は自責の塊でしかないんです。(P15)
と言います。この本を読み進むにつれて、橋口さんのキラキラしている面だけを見ていたら分からない、子育ての大変さが見えてきます。周囲はもちろん、橋口さん自身も発達障害のことをよく理解できなかったころの、子育てにまつわるエピソードはいずれも過酷です。
そのピークともいえるのが『11「絶望からの親子心中未遂。私の活動の原点」――転んでから立ち上がって気づいたこと』(P49)。橋口さんは、一度息子を山に捨てました。それも真っ暗な雨の夜。でも、息子は追いかけてきました。橋口さんはそんな息子の首をしめて自分も死のうとします。
そのピークともいえるのが『11「絶望からの親子心中未遂。私の活動の原点」――転んでから立ち上がって気づいたこと』(P49)。橋口さんは、一度息子を山に捨てました。それも真っ暗な雨の夜。でも、息子は追いかけてきました。橋口さんはそんな息子の首をしめて自分も死のうとします。
この子が悪いんじゃない、周囲の言う通り母親の能力のない人間失格の私が子どもを産んだことがいけなかったんだ (P51)
「これ以上周囲と社会に迷惑をかけないために必死で考えた唯一の方法」(P52)としての親子心中未遂だったのです。ここまで、追い詰められていました。
絶望の淵。でも、ここが今の活動の原点だった、と橋口さんは振り返っています。その原点とは、息子さんのある言葉でした。どんな言葉だったのか…それはどうか、本を読んでみてください。
心中未遂の2カ月後に、親子の希望の光となった発達行動小児科医の二上哲志先生との出会いがありました。二上先生は「お母さん、ここまで本当によく頑張りましたね。」という言葉を橋口さんに向けます。この労いの言葉そのものが、親への支援でした。親が変わることではなく、「親を支えること」で子どもが変わるという二上先生の考え方が、橋口さんを力強く、子どもと向き合うようにさせてくれたのでしょう。
絶望の淵。でも、ここが今の活動の原点だった、と橋口さんは振り返っています。その原点とは、息子さんのある言葉でした。どんな言葉だったのか…それはどうか、本を読んでみてください。
心中未遂の2カ月後に、親子の希望の光となった発達行動小児科医の二上哲志先生との出会いがありました。二上先生は「お母さん、ここまで本当によく頑張りましたね。」という言葉を橋口さんに向けます。この労いの言葉そのものが、親への支援でした。親が変わることではなく、「親を支えること」で子どもが変わるという二上先生の考え方が、橋口さんを力強く、子どもと向き合うようにさせてくれたのでしょう。
子育てを大変にするのは「自分自身の葛藤」と「周りの人の目」
この本は、6つの章から成り立っています。「本音のところ」、「生活において」、「自分(ママ)のこと」、「家族のこと」、「学校のこと」、「将来のこと」と、今は成人している息子さんの成長過程を追って、43のエピソードが収録されています。子育てと、発達障害への理解の歴史とも言えるエピソードたちです。
各章の終わりごとに、児童精神科医・田中康雄先生のメッセージがあります。専門家によるメッセージですが、それは母親の体験への考察やアドバイスといったものではなく、発達障害への理解をたくさんの人に広めてきた「同志」としての言葉です。
各章の終わりごとに、児童精神科医・田中康雄先生のメッセージがあります。専門家によるメッセージですが、それは母親の体験への考察やアドバイスといったものではなく、発達障害への理解をたくさんの人に広めてきた「同志」としての言葉です。
「ボクは褒めることができるには、相応の余裕がないとできないと思っている。」(P59)
と田中康雄先生は書いています。これは、なりたい母像があってもなれなかった橋口さんの思いに答えた言葉でした。
子どもをたくさん抱きしめて、頭もいっぱいなでて、愛情たっぷりに育てるんだと、とにかく優しいお母さんになることが私の実現したいお母さん像だったわけです。(P16)
でも、イメージした通りにはならず、どんどんなりたい母像から離れていってしまう…。「褒めて育てる」ことの大切さを頭で分かっていても、どうしても叱ってしまう、怒鳴ってしまう。きっとママなら誰にもあるはずの葛藤が、子育てをより大変なものにします。
自分自身の葛藤とともに、もうひとつ、周りの人の目がママたちの子育てを大変にしています。小さいころの息子さんが、エレベーターで知らないおじさんに向かって、「おじさんの頭はどうしてピカピカ光っているの?」と大きな声で聞いた、というエピソードがあります。
自分自身の葛藤とともに、もうひとつ、周りの人の目がママたちの子育てを大変にしています。小さいころの息子さんが、エレベーターで知らないおじさんに向かって、「おじさんの頭はどうしてピカピカ光っているの?」と大きな声で聞いた、というエピソードがあります。
その瞬間、おじさん以外の人が誰を見たかというと、息子じゃなくて私なんです!(P31)
周りの人たちは、子どもがその場に不適切な言動をすることを責めるのではなく、親がそのように子どもを育てたと誤解して責めるときがあります。幸い、このときのおじさんは怒ったりすることもなく、なぜピカピカ光っているのかについて整然と、「毛根がなくなったから」であることを説明します。「わかった!じゃあね!」と息子さんは納得し、周りはふっと和んだ空気になったといいます。
このおじさんが、発達障害について理解があったのかは分かりません。でも、社会がこういうおじさんが多くいる場所だったら、発達障害の子の子育てはどんなに楽でしょう。周りの人の目が、ママたちを苦しめたり、あるいは助けたりすることが分かるエピソードです。
周りの目もつらいけれど、ママたちには、いつも自責との葛藤があります。自分の中の葛藤も同じくつらい。この2つによって母としての「自信貯金」がどんどん減ってしまうのが、発達障害のある子どものママだと、橋口さんは表現しています。
橋口さんがこの本で伝えているのは、「自信貯金」への貯えになるはずのママたちへの応援なのです。
このおじさんが、発達障害について理解があったのかは分かりません。でも、社会がこういうおじさんが多くいる場所だったら、発達障害の子の子育てはどんなに楽でしょう。周りの人の目が、ママたちを苦しめたり、あるいは助けたりすることが分かるエピソードです。
周りの目もつらいけれど、ママたちには、いつも自責との葛藤があります。自分の中の葛藤も同じくつらい。この2つによって母としての「自信貯金」がどんどん減ってしまうのが、発達障害のある子どものママだと、橋口さんは表現しています。
橋口さんがこの本で伝えているのは、「自信貯金」への貯えになるはずのママたちへの応援なのです。
子育てには、味方になってくれる人を増やすことが必要!
たくさんの子育ての工夫をしてきた橋口さんは、やがてひとりだけで葛藤するのではなく、仲間へ、地域へ、そして社会へと活動の場を広げていきます。その理由を、橋口さんは2つ掲げています。
1つ目は、後輩ママたちに自分と同じ苦難を引き継いではいけないと思ったから。社会が希望の光を見せてくれないなら、自分で作り出すものだという思い。
2つ目の理由はいたって個人的な理由、「息子さんへの自責と感謝」です。発達障害のことが分からなかったとはいえ、虐待といえるひどいことを幼い息子にしてしまった自責。それは何をしても絶対に消えない、と言っています。
約20年、発達障害の理解啓発活動をしてきた橋口さんは、「日々の日常を過ごす街の中に、彼らの味方になってくれる人を増やしていくこと」が必要と言っています。
たとえば、近所の魚屋さんがやさしく分かりやすく声をかけてくれたら、その魚屋さんには行けるようになる。イケメンの美容師さんが、髪を切るときに、ハサミを使う順番をカードや絵で教えてくれたら、そこの美容院にはこわがらずに行けるようになる。
1つ目は、後輩ママたちに自分と同じ苦難を引き継いではいけないと思ったから。社会が希望の光を見せてくれないなら、自分で作り出すものだという思い。
2つ目の理由はいたって個人的な理由、「息子さんへの自責と感謝」です。発達障害のことが分からなかったとはいえ、虐待といえるひどいことを幼い息子にしてしまった自責。それは何をしても絶対に消えない、と言っています。
約20年、発達障害の理解啓発活動をしてきた橋口さんは、「日々の日常を過ごす街の中に、彼らの味方になってくれる人を増やしていくこと」が必要と言っています。
たとえば、近所の魚屋さんがやさしく分かりやすく声をかけてくれたら、その魚屋さんには行けるようになる。イケメンの美容師さんが、髪を切るときに、ハサミを使う順番をカードや絵で教えてくれたら、そこの美容院にはこわがらずに行けるようになる。
こんな存在が、その子の住む街の中にいるだけで、その子の世界は広がります。発達障害のある子どもたちには、やりたくてもできない、行きたくても行けない、あきらめがあるからです。
私たち大人の役割はそのあきらめを希望に変えることだと、私は思っています。(P200)
発達障害のある子どもを育て、発達障害について知ることで、自分の中にある固定観念が崩され、そのおかげで見える世界が変わっていく。こうした体験は多くの人がしているはず。でも、それだけではやはり前に進み続けることはできなかったかもしれません。
何度も打ちのめされたときに支えてくれた人への恩返しと、これから同じ思いを抱く人たちのために、少しでも歩きやすい道をきりひらこうとする思いが、今の橋口さんを作っているのがよく分かります。
何度も打ちのめされたときに支えてくれた人への恩返しと、これから同じ思いを抱く人たちのために、少しでも歩きやすい道をきりひらこうとする思いが、今の橋口さんを作っているのがよく分かります。
「子育てに自信がもてない」ママが、「そのまま」でいられる社会を目指して
「発達障害」という言葉が、社会的に知られるようになった現在ですが、偏った情報や偏見がなくなったわけではありません。ママたちの苦しい思いは、今も絶えることはないのです。だからこそ、どんな子育てをするママも、「そのまま」でいられる社会を目指して、橋口さんは活動を続けています。
紹介されるエピソードは大変なことが多いけれども、明るくユーモアを交えながら、力強く書かれています。今、子育てがつらくて立ち上がれないと思っているママたちをきっと勇気づけてくれる1冊です。
文/関川香織
紹介されるエピソードは大変なことが多いけれども、明るくユーモアを交えながら、力強く書かれています。今、子育てがつらくて立ち上がれないと思っているママたちをきっと勇気づけてくれる1冊です。
文/関川香織
そのママでいい: 発達障害の子を育てるあなたに贈る43のエール
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