100回書いて覚える「苦しい学び」からの解放――小学校教員の経験が紡ぐ『ひらがなものがたり』で、文字を楽しく学ぼう

2020/06/29 更新
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ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字と、たくさんの文字の種類がある日本語。書き文字の中でも、最初に覚えることになるのが、ひらがなです。「あいうえお順」ではなく、楽しく覚える工夫がいっぱいの「ひらがなものがたり」(さとうともこ・作 おくだまさこ・絵 ぶどう社)をご紹介します。

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字の形を、身近なものにたとえて覚える

「ひらがなものがたり」は、ひらがなを「あいうえお順」ではなく、楽しく覚える工夫がいっぱいの絵本です。著者である小学校教員のさとうともこ先生のインタビューとともに、絵本の魅力とご家庭や学校での読み方についてご紹介します。
ひらがなものがたり
さとうともこ・作 おくだまさこ・絵
ぶどう社
ひらがなの形は、とてもバラエティー豊かです。「し」「つ」のような簡単な形から、「ぬ」「を」のような複雑な形までさまざま。初めて出会う文字であるひらがなを覚えるとき、子どもはどうやって、形を記憶するのでしょうか。

何となく似た形の知っているものを想像したり、何かの一部に見立てたりしているかもしれません。そんな方法で楽しくひらがなを学べるのが、「ひらがなものがたり」です。

たとえば、目の形みたいな「め」、「の」、「へ」。それぞれが顔の一部になった「めめひめ」「ののおうじ」「へへおう」が、この絵本の登場人物です。そして、体の形が文字の一部になっている「りゅう」。
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体の動きがそのまま字の形になる「」や「」。
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「ゆかの そうじは ののおうじ。めめひめ ほんの おかたづけ。ひざで とんとん そろえたら あらあら ふしぎ あかいいし。」(p6)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402451/
子どものひらがなの学習というと、「あいうえお順」に並んだ五十音表を思い浮かべるかもしれませんが、興味を持ちやすいものと結び付けたほうが、すんなり覚えられそうです。

ひらがなの覚え方をただ並べただけでなく、物語に沿って一文字ずつ登場します。お話は、子どもが大好きな冒険物語。お城で留守番していた「めめひめ」と「ののおうじ」が掃除をしていると、本の間からぽろりと赤い石が出てきます。この石をめぐって、りゅうとの攻防が始まります。りゅうがかけたのろいで、文字になってしまったお城の家来を、なぞなぞを解くことで救い出すシーンもあり、子どもたちが大好きな展開がいっぱいに詰まっています。

保護者や指導者向けには、「ひらがな教え方ヒント」

絵本の各見開きの欄外には、大人が子どもにひらがなを教えるときのヒントがあります。たとえば、ひらがななぞなぞのシーンに登場する「|(ぼう)+ろ=わ」のような覚え方は「文字を分解して」ひらがなを覚える方法です。
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また、保護者と指導者向けのリーフレットが付録としてついています。ここには、ひらがなを書けない・覚えられない子の存在についてと、指導者向けに教えるときに大事なことが書かれています。子どものやる気を引き出すために、もし間違えて書いたとしても、直すときには×を使わず、惜しいときには「ちび丸」にするという指導方法もあります。
付録
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たとえば、「つ」のときは、「フ」「⊃」「ゝ」はちび丸。「つ」以外の字や記号に見えたら直しとします。そして、直させるとしても最初は3文字までとして、やる気がなくならないようにします。もちろん、お手本通りは花まるです。(付録より)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402451/

さとうともこさんに聞く、この本ができるまでのストーリー

ひらがなものがたりの著者、さとうともこさんは、小学校教員。2歳で自閉症と診断された次男の療育について書いた「自閉症の子とたのしく暮らすレシピ」の著者でもあります。小学校の先生として、ひらがなを教えてきた実践の中から、この絵本は生まれました。著者のさとうともこさんに、この本ができるまでのストーリーを教えてもらいました。
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著者のさとうともこさん
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ひらがなを、子どもたち全員が読めて書けるようにしてあげたい

さとうさん:「学ぶ楽しさ」を子どもに伝え、子どもたちの人生が少しでも良い方向に向かう手助けができればとの思いで教師になり、これまで30年近く、小学校で子どもたちを教えてきました。

最近の入学前の傾向として、幼稚園や保育園でひらがなを教えるところが増えてきた、ということがあります。ひらがなを読めて書けて小学校に入ってくる子が増える一方で、小学校に入る前からひらがな嫌いになっている子もいます。また、さまざまな事情で幼稚園や保育園に通わず小学校に入学する子、外国籍の子どもも少なくありません。昔と比べて小学校入学前の学力の差が大きくなっているように感じます。そんな状況の中で、ひらがなが習得できない子の存在が見過ごされている気がします。
 
私の次男は知的障害があります。その子は今、ひらがなの読み書きも計算もでき、作業所で生き生きと働いています。自己肯定感も高いです。通常学級にいる児童の中には、次男よりもずっと能力が高いにもかかわらず、ひらがなを読めず書けず、自己肯定感も低いお子さんがいます。そのために不登校や非行に走るようなケースも、見てきました。

そんな子どもたちと出会う中で、障害のある子もない子も、家庭に教育力がある子もない子も、器用な子も不器用な子も、当たり前のことですが、ひらがなは全員読めて書けるようにしてあげたいと思っています。特に、不器用だった子、ひらがなに苦労していた子との出会いがあって、私はひらがな指導を工夫するようになりました。このことは付録にも書いています。

「苦しい学び」ではなく「楽しい学び」にするための工夫

さとうさん:この本では、まず、文字とイメージを結び付けることによってひらがなを覚えることを大切にしました。結びつけるのは、子どもたちがよく知っている動物や食べ物、変身など。興味を持ちそうな対象を分類して、冒険物語の道筋に散りばめました。

もうひとつ工夫したのは言葉のリズムです。子どもたちにとって自然と心が浮き立つような言葉のリズムになるように言葉や文を何度も練り直しました。

物語のラストには、悪者だったりゅうにも悪者にならざるを得なかった事情があることが明かされます。これは、私の次男が12年通っていた特別支援学校旭出学園での学習発表会で、子どもたちが演じていた劇の内容が記憶にあったからできた結末です。その学習発表会ではどの劇も、悪者にも事情があり、最終的にみんなが仲良しになるというハッピーエンドでした。

こうした本の工夫は、ひらがなを100回書いて覚えるという「苦しい学び」ではなく、一度見たら、あるいは体験したら忘れないような「楽しい学び」にしたいと考えて生まれました。

学校では、子どもがよくできた所を褒めてあげて

さとうさん:学校で使われる場合は、絵本の左ページ下にある、指導の工夫を書いた「ひらがな教え方のヒント」を、先生方には参考にしていただけたらと思います。飽きずに文字指導をする方法、子どもたちの意欲を持続させる方法などを盛り込みました。また、kindle版をプロジェクターにつないで黒板に映してあげると、ひらがな授業の導入や読み聞かせにも利用することができます。

教えるとき、子どもが頑張れる方法と量を見極め、よくできた所を褒めて意欲を持たせる、基本的にはその繰り返しで、子どもたちは成長していきます。

ひらがなの指導に困り感をお持ちの先生方と同様に、私も悩んでいました。これまであきらめずに、子どもたちとの出会いからコツコツ工夫してきた、「見て、聞いて、探して、考えて、遊びながら」見つけてきたひらがなを覚える方法を、この絵本の中に詰め込みました。これを読む先生方が子どものためにいろいろな工夫をしていくきっかけを得てくれたら、これ以上の喜びはありません。

そして、ひらがなという、学習の入門期の基礎の基礎を、楽しく、しっかりと身につけて、子どもたちが笑顔で学びのスタートラインに立ち、それからも教育の力で子ども一人ひとりの力が存分に発揮できるようにと願っています。

4年生になっても、「ぬってどう書くんだっけ?」と聞かれることがあります。ひらがなは、全ての学習の基礎の基礎です。100パーセントの子が、ひらがなを完璧に覚えられるように、そしてひらがなでつまずいて学習へ向かおうとする心の扉を閉じてしまう子がいないようにと、心から願っています。(付録より)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402451/

大人も子どもと一緒に、絵の中のひらがなを探して楽しんで

さとうさん:保護者の方には、ぜひ子どもと一緒に、ひらがなを探して遊びながら読んで欲しいです。「つ」や「し」は、指を使ってひらがなの形を作ったり、「ん」ではジャンプの動作をしたりと、鉛筆と紙だけの座学ではないひらがなの覚え方を、一緒に体験してみてください。

大人よりも子どもの方が隠れているひらがなを見つけることがあります。実は、表紙の絵は「ひ」の形になっていますが、意外と気づかれないようです。気づいたときの「あっ」という驚きを子どもと一緒に感じていただけたら嬉しいです。
ひらがなものがたり
さとう ともこ (著), おくだ まさこ (イラスト)
ぶどう社
ひらがなものがたり
さとう ともこ (著), おくだ まさこ (イラスト)
ぶどう社
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