発達障害がある人の結婚生活は難しい?ズレや衝突、診断への不安…当事者の視点から描かれた夫婦のものがたりーー漫画『僕の妻は発達障害』

2021/01/12 更新
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大人の発達障害が注目されつつありますが、まだまだ認知されていないのが現状です。『僕の妻は発達障害』は、発達障害当事者でもある漫画家のナナトエリさんと、夫である亀山聡さんの共作です。フィクションとして描かれ、リアリティーがありながらもほっこりと楽しめる作品です。また、医療監修もついているので「なるほど」と納得できる内容になっています。今回は、お二人のインタビューをお届けします。

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発達障害に向き合う、夫婦のものがたり

『僕の妻は発達障害』1~2巻あらすじ

北山悟(夫)は漫画家のアシスタント、北山知花(妻)は発達障害で仕事を転々とするという生活。「隙のない、しっかりした人」これが夫から見た妻の第一印象でしたが、日々の生活の中でお互い理解のズレや衝突することが多くなっていきました。

結婚2年目で妻の発達障害が分かります。夫は「もっと妻を知ろう。2人で補い合っていけばいい」ということに気づかされます。2人の生活は問題が山積みであるものの、どうにか折り合いをつけながら、過ぎていく日々。そんなドタバタで、ちょっと微笑ましくもある2人の頑張る姿を、さまざまなエピソードを織り交ぜながら描いています。
僕の妻は発達障害 1
ナナトエリ 亀山 聡 (著)
新潮社
――ナナトエリさんは、発達障害があると公表されていますね。『僕の妻は発達障害』はフィクションということですが、ご自身の特性やご経験が描くきっかけになったのでしょうか。

ナナトエリ(以下、ナナト):そうですね。私は結婚2年目、30代半ばで発達障害だということがわかりました。特性としては、多動・多弁が特に強いですが、感覚過敏やLD(学習障害)等、他にも多くの特性が多かれ少なかれあると思います。

描くきっかけは、とある「発達障害カフェ」へ遊びに行ったときに、そこで出会った方に既婚であることを心配されてしまったことです。発達障害があると、結婚生活がうまくいかない人が多いと聞き、自分たちも日々さまざまな困難があることに合点がいきました。それでも、上手くいっていないことばかりでもなかったので、「じゃあ自分たちは無意識にどんな工夫をしていただろう」と改めて考えました。

漫画の担当編集さんにこのお話をしたところ、「興味深い」と聞いてくださったので描くことにしました。
2巻11話より
2巻11話より
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――「発達障害」をテーマとして漫画を描くことは、難しさもあるそうですね。

亀山聡(以下、亀山):漫画独特の誇張やインパクトのある表現が、発達障害の当事者にとって無神経にならないように気をつけています。できる限り当事者を傷つけない物語を目指したいと思っています。

また、当事者目線に寄りすぎない、できるだけフラットな表現を目指しています。作家2人と担当編集さん、医療監修の先生にも意見をいただいて、なるべく多角的に見ようと心がけています。

ナナト:医療監修は、もともと私の主治医だった四宮滋子先生(しのみやクリニック)です。長いおつきあいの中で、さまざまなことを教えていただきました。先生が診察でおっしゃった「夫婦はお互いさま」という考え方は、発達障害の診断を受けた私に希望を与え、物語の土台となりました。

私がぜひ監修をお願いしたいと、頼み込む形でお引き受けいただきました。医学的に間違った表現はないかというチェックをしていただいていますが、いつも「面白かったです」と一言感想もいただけるのも嬉しいです。

発達障害が分かるまでの夫婦の道のりや心の変化を丁寧に描く

『僕の妻は発達障害』2巻11~13話のあらすじ

結婚生活を送る中で衝突や理解のズレが多くなり、2人とも少しずつ疲弊していきます。そんな中、妻が自分から「発達検査を受けてみる」と言い出し...夫は「妻が発達障害のわけがない。でももしそうだったら、僕たちは上手くやっていけるのだろうか」と不安に思います。
そして検査の結果が出る日、夫は仕事が手につかず、ソワソワしっぱなしでした。しかし、妻から「発達障害だった」と落ち込んだLINEが来ますが、夫は「大丈夫!」という元気印のスタンプで返します。後日検査結果を2人で聞きに行き、夫が「妻はこれまでの人生、どんな大変な思いをしてきたんだろう」と思い悩むのに対し、妻は...。
2巻13話より
2巻13話より
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――2巻13話の夫婦の心理描写や、LINEでのやりとりとりがとても印象的でした。

ナナト:知花が初めて発達障害の診断を受け、それを夜勤中の悟にLINEで知らせるエピソードですね。私も思い入れがあります。お恥ずかしいですが、これは半分実話です。結果が出た安心感と、「障害者になる」という絶望感と、夫に申し訳ないという凹んだ気持ちがないまぜのメッセージに、仕事中の夫が満面の笑みのスタンプを返してくれたとき、とても感動しました。

亀山:僕は13話もですし、結婚当初の衝突などを描いた11~12話にも思い入れがあります。劇中では知花が安堵していますが、実際は悟側である僕もホッとしました。医学的な診断がつけば、対処のしようがあると思ったからです。また、理解できないと思っていた言動も、悪意がなかったのだと納得できました。やることがクリアに見えたような気持ちになったのが印象深かったです。

――フィクションではあるけれど、お二人の気持ちがとても込められているのですね。ご夫婦で「共作」というスタイルをとられていますが、その理由や感じているメリットはどんなことがあるのでしょうか。

ナナト:私は発達障害の特性もあって、根気強く原稿を仕上げるのが苦手でした。その反面、アイディアを出すことや行動は早い一面があります。夫はその逆で、根気があって腰が重いタイプ。お互いの得手不得手を合わせてみた結果、2人で描く今のスタイルになりました。

亀山:発達障害当事者・そのパートナー、という立場の異なる2人で制作するため、一方的でないバランスの取れた視点が保ちやすくなっているのではないかと考えています。

読者の感想に勇気づけられている

――『僕の妻は発達障害』発売後、多くの感想が寄せられているそうですね。

ナナト:私たちが思っていたよりもずっと多くの共感の声をいただき、驚いています。特に、当事者や支えるご家族からの感想がとても多いです。漫画の内容に共感し、ご自身の体験をお話ししてくださる方もいて、私も当事者としてとても興味深く読んでいます。「涙が出ました」という感想を見て、私もよく泣きます。

みんな大変な中でも一生懸命生きているんだ...と私の方が勇気づけられました。心から感謝しています。

亀山:共感したとおっしゃっていただくことが多く光栄でありつつも、妻と同じような(あるいはそれ以上の)日常の大変さと闘っている方が多くいるのだと実感して、胸が詰まります。また、前向きになれるという声もいただけて本当にとても嬉しいです。
1巻1話
1巻1話
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ナナト: 発達障害は、当事者じゃなければわからない感覚や、それによって引き起こされる感情がたくさんあると思います。私自身、さまざまな発達障害の本を読んで、データとして理解することと、「どんな気持ちになるのか」ということの間には隔たりがあると感じました。漫画というわかりやすい媒体で二人の気持ちを描くことで、より多くの人に発達障害の実情を知ってもらえたら、と思います。

亀山:私も同じですね。当事者の方はもちろんですが、発達障害に関心がなかった方にも読んでいただきたいです。僕も数年前まではまったく関心も知識もありませんでしたが、(少し大袈裟かもしれませんが)世の中の見え方が変わりました。

気づかなかっただけで自分の周りにも苦労している方がいる...と理解する人が増えれば、当事者の方もそうでない人も生きやすい環境に近づくのではないかと思います。

メッセージ

最後に、ナナトエリさん、亀山聡さんより発達ナビへメッセージをいただきました。

ナナト:私自身、発達障害と知ったとき最初にお世話になったのが「発達ナビ」でした。漫画制作にもたくさんヒントをいただいています。そんな「発達ナビチルドレン」の私からのメッセージは、障害があっても、結婚して、それなりに幸せになることができているというご報告です。

みんなと同じ幸せは手に入れられなくても、自分たちなりの幸せを感じることはできました。今現在戸惑いの中にいる皆さまも、きっと晴れることもかげることもあると思いますが、探索を続けてより良い道が見つかることを願っています。

亀山:フィクションという形ですが、発達障害のパートナーとして楽しく幸せに生きられているという一例として描いているつもりです。人それぞれではありますが、もし何かの参考になれば幸いです。

『僕の妻は発達障害』の著者

ナナトエリ 亀山聡
東京都在住の漫画家夫婦。2人名義では、『アナグマの気持ち』(週刊モーニング)がデビュー作。
『僕の妻は発達障害』は月刊コミックバンチにて連載中。
僕の妻は発達障害 1
ナナトエリ 亀山 聡 (著)
新潮社
僕の妻は発達障害 2
ナナトエリ 亀山 聡 (著)
新潮社
僕の妻は発達障害 1
ナナトエリ 亀山 聡 (著)
新潮社
僕の妻は発達障害 2
ナナトエリ 亀山 聡 (著)
新潮社
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