整備士としての経験が、趣味の車いじりの中で活きることも

――田村さんは現在、整備士としてどんなお仕事をされているのでしょうか。

田村:運送会社の自社工場で、自社のトラックの定期点検やオイル交換、ちょっとした修理などをおこなっています。専門学校卒業後、学生時代にインターンをさせてもらった会社に入って、今5年目です。職場はフレンドリーな雰囲気で、整備士としては工場長と僕の2人が勤めています。
整備する車両のイメージ
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――整備士として実際に働いてみて、いかがでしたか?

田村:専門学校では、普通自動車を主に扱うのですが、僕の仕事は大型トラックの整備がメインになるので、そこの違いはだいぶ出てきましたね。整備の仕方が難しかったり、いろんな部品が増えたり。部品自体も大きくなりますし。

外れてしまうネジの扱いやサビの処理など、「これ、どうするんかなあ」と思うようなことは、実を言うと今でもしょっちゅうあるんです。そんなときは、工場長に教えてもらいながら取り組んでいます。

以前、燃料フィルターのネジを締めすぎて割れてしまったことがあるんですが、そのときは工場長が部品を手配してくれて、解体屋まで取りに行ったこともありました。工場長には、インターン時代からお世話になってます。

そんな風に難しい場面もありますが、やっぱり、担当した車が整備を終えて出ていく瞬間には、やりがいを感じますね。

――子どものときは、ASDの特性由来の困り感は特に感じなかったとのことですが、大人になってから何か変化はありましたか?

田村:整備士以外にしている荷物の仕分け作業の仕事で荷物を積むときに、なかなか覚えられないことがあったりと、最近になってちょっと特性が出てきているのかな、と感じることはあります。たまに忘れ物をすることもありますが、リカバーできている範囲なので、なんとかなっているかなと。

――田村さんの趣味についてもお聞きしたいです。車に日々携わる整備士という仕事についた今も、趣味としての車も楽しんでいらっしゃるのでしょうか。

田村:はい。今もミニカーは集めていて、テレビラックに飾ったりしています。車に関しては、幼少期よりも今のほうがこだわりがありますね。コンパクトカーや大きいステーションワゴン、スポーツカー、トラック、デコトラ…いろんな車が好きですが、乗っていて楽しいドライブしたくなるような車や、かっこいい車が好きです。
集めた車はテレビラックに飾っている。
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田村:自分の車も相変わらずいじっていて、家で部品を自分で変えて車高を下げたり、マフラーを変えたり、ライトをLEDにしたりもやってましたし。今は車がハイブリッドになって、できなくなったんですけど、前は親の車のオイル交換もしていました。昨日も、自分の車を洗うついでに、じいちゃんの車を洗ったりして。車で走りに行ったりもしますね。

趣味と仕事が近いと、趣味で車をいじるときに、「ああ、ここはこうすればいけるんだな」と気づくことがあります。車によっては、一部似ている構造があることもあるんです。

他の趣味としては、ゲームのキャラクターグッズを集めたり、オンラインゲームをしたりもしています。最近はいわゆる「痛車」にもハマっていて、車のボンネットに好きなキャラクターのステッカーを貼っているんですよ。

――趣味が充実しているのが伝わってきます。

田村:僕、一時期はイラストを描いて、サークルで同人誌をつくっていたこともあったんです。同じようにイラストを描いていた人たちとのオフ会のようなものに参加したり、車やゲームなどの趣味が合う仲間たちと遊びに行ったりと、幼いころより今のほうが、人と一緒に楽しむことは増えたかもしれません。
車の前でポーズをとる田村さん。
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好きなものを見つけることが、何かの入り口になる

――車の整備士という、趣味とのつながりが深い仕事をしながら、余暇の時間を存分にを楽しんでらっしゃる田村さんですが、これから進路や仕事について考える若い読者の人たちに、伝えたいメッセージやアドバイスはありますか?
田村:まずは趣味を持つことが一番ですね。好きなこと、楽しいことがあれば、そこから何かやりたいことが見つかっていく可能性があります。「とりあえず好きなことを見つけろ」と伝えたいです。

趣味を楽しむのも、ある意味では勉強みたいなものですよ。そこから興味が深まったり、できることや知識が増えたり、仲間ができたりしますし。僕も、ゲームで同じチームに入っている仲間や車仲間、絵描き仲間など、いろんな趣味の仲間がいます。

それから、もしコミュニケーションに悩んでいる人がいたら、まずは同じ趣味を持ついろいろな人と話してみるのが一番いいかもしれません。そうやって話すことが、ちょっと言い方は変かもしれませんが、コミュニケーションの実践練習の機会になると思うので。「習うより慣れろ」といった感じもありますね。

自分の場合は、アリスの会での経験や、趣味の合う仲間とのやりとりが、そのような実践の場になったと思います。同じ趣味というきっかけがあれば、コミュニケーションもとりやすくなると思うんです。入り口さえ掴めたら、あとは実践あるのみですね。

趣味を通じてできた仲間は、一緒にいてとても楽しい存在です。好きなことは、仕事以外にもさまざまなきっかけになりうるので、あるとないとでは全然違うと思います。

――最後に、今後の目標があれば教えてください。

田村:仕事で言うと、今はだんだん大きいトラックの台数が減っていて、代わりに違う種類の新しいトラックが入ってきているんです。新しいトラックは、ブレーキが別の種類になっていたりもするので、新しいものにもできる限り対応できるようになりたいですね。

趣味の面では、好きなことをもっと極めていきたいなと思っています。先ほど少し話したように、今は「痛車」にハマっているので、ボンネットだけでなく横のほうにもステッカーを貼りたくて。イラストを描いてくれる人を探そうかなと思っているところです。それより先に車が壊れてしまいそうなので(笑)、今は次の車を買うために貯金をしています。もっともっと、自分好みの車に仕上げていきたいですね。
「仕事を頑張ってこそ、趣味も充実する」という考え方もあると思いますが、僕の場合は「趣味に満足がいかないから、仕事を頑張ってお金を稼ぐ」という感じです。今は通勤距離が長すぎて、ほとんどガソリン代に消えていっていますが(笑)。
「趣味を持つことが一番」と語る田村さん
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好きなことを仕事にして、今もなお趣味を追求し続ける田村さん。その趣味にかける情熱は潔く気持ちが良いものでした。田村さんの言うよう、どんな仕事に就きたいか分からない人は、一度自分の好きなものは何かを考えてみると、ヒントが見えてくるかもしれません。

取材・文:姫野桂
編集:佐藤はるか
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