夏休み明けの子どもを守る!不登校新聞編集長・石井志昂さんと考える自殺予防。家庭でできる「TALK」の原則なども

ライター:発達ナビ編集部
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日本で唯一の不登校専門紙「不登校新聞」が、8月19日に10代の自殺をストップするための「緊急アピール」を発表しました。年々、夏休み明けに増え続けている子どもの自殺を止めるために、私たち親は何ができるのか、石井志昂編集長(不登校新聞)と牟田編集長(LITALICO発達ナビ)とともに考えます。

10代の自殺をストップしたい!不登校新聞発「緊急アピール」

LITALICO発達ナビ牟田暁子編集長(以下――)今回の「緊急アピール」では、10代の自殺を止めるためにできることを発表していますが、宣言した背景について、サイトにも書かれていることから、もう一歩詳しく教えてもらえますか?
■緊急アピール https://www.futoko.org/topics/210819
◎「学校へ行きたくない」という訴えは命に関わるSOSです。
◎命を守るために「行きたくない」という訴えを見逃さないでください。
◎より多くの命を守るため『TALKの原則』に沿った対応をお願いします。
NPO法人全国不登校新聞社
出典:https://www.futoko.org/topics/210819
石井志昂さん(以下、石井):昨年、10代の自殺者数は1980年代の統計調査開始以来、最多の数字を記録しました。なぜ増えたのかと言うと、これはあきらかに新型コロナの影響です。ウイルスに感染したことや、家庭の経済的困窮ではなく、コロナが子どもの心に直接影響していることは、文部科学省の有識者会議でも指摘されています。
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「小中高生の自殺者数・上半期の推移」 厚労省統計より「不登校新聞」編集部作図(2021年のみ暫定値)
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――グラフを見ると、2020年の数字は2019年より若干下がっているくらいでほぼ横ばい、そして今年ぐっと上がっていますね。

石井:そうです。「小中高生の自殺者数・上半期の推移」の暫定数字が今年は234と、昨年・一昨年を大きく上回っていて、さらなる過去最多を記録更新するかもしれない、という勢いです。夏休み明けを含んでいない数字なのに、です。これは記者会見を開いて訴えなければと強く感じました。

もうひとつ、月別のグラフも見てください。
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「小中高生の月別自殺者数の推移(2019年と2020年の比較)」厚労省統計より「不登校新聞」編集部作図
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注目してほしいのは、2020年は6月の数字が上がっていること。これは1回目のコロナ休校明けの月です。そして、8月にもう一度ピークがきていますが、夏休みを短縮していた学校が多かったので、例年9月にあったピークが8月にきています。

このように、長い休み明けと子どもの自殺はリンクしています。休み明けに自殺者数のピークがきてしまう。かつてない危機が子どもに襲い掛かっているということなのです。

「TALKの原則」が、広く知られるようになってほしい

不登校新聞編集長・石井志昂さん
不登校新聞編集長・石井志昂さん
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石井:今、10代の前半を含めてということは小学校4年生から、若者の死因のトップは自殺です。病気よりも事故よりも多いのです。どこの子どもでも起こりうることだから、自殺予防を家庭の中で取り組むことが特別なことではないと思ってほしいです。

――家庭でできる自殺予防、それが「TALK」の原則ですね。

石井:はい。精神医療の現場では広く知られている原則です。とるべき行動の4つの頭文字をとっています。

( 文部科学省『教師が知っておきたい「子どもの自殺予防」』より抜粋)
Tell 言葉に出して心配していることを伝える
Ask 「死にたい」という気持ちについて、率直に尋ねる
Listen 絶望的な気持ちを傾聴する
Keep safe 安全を確保する


いじめがあると思ったら、安全の確保を最優先して、学校に行かせないでほしいと思います。この子のことは目を離せないと思ったら、目を離さない体制をつくる。仕事で忙しいかもしれないけれど、子どもの安全を優先して確保してほしいということです。

――「Ask」に関してですが、死にたいとまで思い詰めている子どもには、聞くことがかえってトリガーになってしまうのではないかという心配もあるのですが…。

石井:気持ちはわかります。でも、真摯な態度で聞けば、これは有効だと言われています。「死にたい」と言った人に、本人の気持ちを楽にさせようとして「死にたいなんて大げさに考えないで」と言ってしまうと、死にたいくらい苦しい人は、気持ちを軽く扱われたと思ってしまいます。「死ぬなんて考えるな」と言われると、「死なないでほしい」という思いは届かず、「死にたいほどつらい気持ちを否定された」と受け取ってしまうのです。

――死を肯定しているのではなく、「死にたいくらいつらい」という部分に共感するのですね。

石井:そうです。そのくらい、「つらい思いをしていたんだ」というところを汲んでほしいんです。

――大人はつい、子どもに対して正しいことを言わなくちゃと思ってしまいがちなんですが。

石井:もし、「死んで楽になりたい」といわれれば「死んでも楽にはならないよ」と言いたくなってしまうかもしれないですね。でもそれは逆効果。まずは「死にたいほどつらい」と言う気持ちに共感してほしいです。

自殺をストップするための「TALKの原則」は、医療現場で言われている大原則。一般の人に浸透するには時間がかかるかもしれないけれど、社会通念を変えるためにも、拡げていきたいと思います。

自殺予防のために、家庭の中で実際にできる具体的な行動は?

不登校新聞編集長・石井志昂さん
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――今、子どもの自殺は病気や事故による死よりも多いという現状はわかりました。家庭の中で気づいてあげる方法は?

石井:子どもは、「学校に行きたくない」と言葉で表現するまえに、SOSが体から出るんです。その代表的な5つが、「体調不良」「食欲不振」「情緒不安定」「宿題が手につかない」「不眠」です。

このうち、親が気づきづらいのが「不眠」。親も寝ているから、子どもが起きているか寝ているかわからず、子どもが朝なかなか起きられないという結果だけを知ることになります。そこで、「夜、何してたの?」と聞けば、子どもはスマホ、ゲームと答える。だけど本当は、子どもとしては学校で起こった苦しいことを思い出して眠れず、いやなことを考えないためにスマホやゲームに逃げているということもあるのです。だからここで、「スマホやゲームなんかしているから」という方向で叱るのではなく、「不安があるから眠れないのかな?」ということを考えてほしいです。

そして、この5つのSOSに複数当てはまるようだったら、心のケアをしてあげてほしいです。

――心のケアはどのようにしたらいいんでしょう?

石井:まずは、「様子を見ていて不安なんだけど、何かある?」と率直に聞いてみてください。それと同時に、しばらくは甘やかしてあげてください。好きなようにさせて、休ませる、風邪をひいたときと同じ対応です。

そうすると、そのうちに子どもは少し元気が出てきます。苦しいことは言うことすらつらいので、言う元気をためるために休ませることが必要なのです。話してくれて原因が見えたら、例えば学校に原因があるなら少し休むなど、対応を考えていけばいいでしょう。

――なるほど。こういうことって、親以外にも言える人がいるといいのかもしれませんね。

石井:それが一番いいですよね。思春期は特に、親にだけは言えないということもあるから。私もそうでした。私の場合は、フリースクールのスタッフにたくさん話を聞いてもらいました。

ぜひ試してほしいのは、カウンセリングです。スクールカウンセラー、メンタルクリニックのカウンセラー、WEBカウンセリング協会などを利用している人もいます。不登校経験者のカウンセラーもいます。ただ、相性があるものなので、一度話してみて話したくない人には話さなくていい、ということも伝えておきたいところです。
次ページ「まず子どもに自分の気持ちを存分に話してもらう。そのとき、聞き流していてもOK」

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