自閉症・ADHDの子に伝わらないのはなぜ?親子のコミュニケーションのヒントが満載『発達障害の子どもに伝わることば』
ライター:発達ナビBOOKガイド
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SBクリエイティブ株式会社
『発達障害の子どもに伝わることば』(川﨑総大著 SBクリエイティブ株式会社)は、発達障害のある子どもとのコミュニケーションが上手くいくための方法がすぐに分かる!という本では必ずしもありません。ですが、コミュニケーションの基礎について私たちが持っているかもしれない誤った情報を更新でき、そのうえで、子どもに伝わることばを再構築する知恵を授けてくれます。
子どもとのコミュニケーションの「現場」にいる人だからこそ分かること
著者の川﨑聡大さんは立命館大学教授であり、言語聴覚士、発達心理士などのキャリアを積み、自分自身を「療育センターや病院での専門士としての勤務が長い、現場の人間です」(4ページ)と称しています。発達障害のある子どもとのコミュニケーションの「現場の人」だからこそ見えることが書かれているのが『発達障害の子どもに伝わることば』です。
本書は5つの章から構成されています。
「第1章 発達障害理解の大前提」
「第2章 ことばとコミュニケーションの発達」
「第3章 自閉症スペクトラム障害(ASD)のことばとコミュニケーション」
「第4章注意欠如・多動性障害(ADHD)のことばとコミュニケーション」
4つの章を読み進めて、ついに「第5章発達障害の子どもに伝わることば・コミュニケーション」ではこの本の本題ともいえる、子どもとのコミュニケーションのポイントが整理されて書かれています。
第5章の冒頭では、この章を読み解くポイントとして、①「障害を治す」のではなく「生活しやすさを拡大する」、②一人で頑張ることの弊害、③極論から距離をとる、④「お説教」から距離をとる、⑤子育てに絶対もなければ親の育て方がすべてでもない と明確に示してそれぞれの理由も解説していますが、この5つのポイントは本書全体をまとめたものでもあります。こう言ってしまうと、まず第5章から読みたくなるかもしれませんが、冒頭から順を追って読むことで、発達障害とコミュニケーションについてより理解を深めることができる本です。
著者は、この本の中で何度も「障害の有無にかかわらず」といったことを書いています。それは、
「第1章 発達障害理解の大前提」
「第2章 ことばとコミュニケーションの発達」
「第3章 自閉症スペクトラム障害(ASD)のことばとコミュニケーション」
「第4章注意欠如・多動性障害(ADHD)のことばとコミュニケーション」
4つの章を読み進めて、ついに「第5章発達障害の子どもに伝わることば・コミュニケーション」ではこの本の本題ともいえる、子どもとのコミュニケーションのポイントが整理されて書かれています。
第5章の冒頭では、この章を読み解くポイントとして、①「障害を治す」のではなく「生活しやすさを拡大する」、②一人で頑張ることの弊害、③極論から距離をとる、④「お説教」から距離をとる、⑤子育てに絶対もなければ親の育て方がすべてでもない と明確に示してそれぞれの理由も解説していますが、この5つのポイントは本書全体をまとめたものでもあります。こう言ってしまうと、まず第5章から読みたくなるかもしれませんが、冒頭から順を追って読むことで、発達障害とコミュニケーションについてより理解を深めることができる本です。
著者は、この本の中で何度も「障害の有無にかかわらず」といったことを書いています。それは、
同じ発達障害であっても、その人の環境や歴史、遺伝的素因も異なるのでひとりとして同じ人はいません。つまりすべての発達障害に共通する「ライフハック」や「ハウツー」なんてものは存在しません。(32ページより)
とあり、よりよいコミュニケーションのありかたについては、一人ひとり違うことを改めて肝に銘じさせられます。
本書はことばとコミュニケーション(の発達)を深掘りし、その観点から発達障害の特性がある子どもたちへの理解を一歩進めることを目的としています。(6ページより)
ではなぜ本書を読むことで、子どもたちの理解を一歩進めることができるのでしょうか。
世間一般に流布している誤解を解いていく
第1章「発達障害理解の大前提」では、発達障害の原因とされる事柄たちについて、科学的な検証をしています。
現在、「発達障害ブームの光と影」とでも言うべき状況です。前提条件の理解が形成されていない中で、個々人のさまざまな「思惑」が付加された無責任な発信が大きな影の部分だと言っていいでしょう。SDGsやニューロダイバーシティ、インクルーシブ社会といった社会の耳目(じもく)を集める「キラキラワード」を織り交ぜて恣意(しい)的な発信を繰り返すと、大きな誤解を生む危険が生じます。(32ページより)
発達障害に関する“説”、例えば親のしつけ、スマホやゲームなどデジタルデバイスの影響、特定の栄養素などとの関係性について、専門家としてばっさりと解説しています。
たとえば、「なぜ親の責任にばかりされてきたのか」については、
たとえば、「なぜ親の責任にばかりされてきたのか」については、
「日本的教育観」は、全員が同じレベルを目指して教育する、といったものです。それがいつの間にか「全員が同じ方法で勉強する」、さらに転じて「人と違うやり方で勉強するのはずるい」となり「全員が同じだけ努力することが平等で美しい」と徐々に変化していきました。(51ページより)
このように偏った情報についての指摘だけでなく、なぜそう捉えられるようになったかについての経緯も書かれています。
発達障害のある人のコミュニケーションに対する誤解を解くカギは、私たち自身にある
発達障害のある子どもとのコミュニケーションが難しいと感じるのは、いったいなぜなのでしょうか。それは子どもたちだけに原因があるわけではありません。私たち大人の理解を変えていくことに、実は大事なポイントがあると言います。
第2章のASDについての解説の中では、
第2章のASDについての解説の中では、
「視線が合わない」というASDのイメージですが、答えは「ノー」です。別に視線を合わせられない何かがあるわけではないですよ。その状況で視線を合わせることが本人にとって意味のあることと認識されれば、がっつり合わせてくれます。(105ページより)
まさに「現場」の人としての見解ですが、著者はここでも発達障害についての私たちの中にあるかもしれない誤解を解いていきます。
発達障害や知的障害がある子どもとのコミュニケーションを上手くいくようにするためには、ともすると子どもに対してコミュニケーションの方法を教えたり、あるいは矯正することをイメージしたりするかもしれません。ところが著者は、子どもではなく大人の私たち自身に、コミュニケーションについて考え直してみないかと、「子どもを中心に」と考えて問いかけています。
発達障害や知的障害がある子どもとのコミュニケーションを上手くいくようにするためには、ともすると子どもに対してコミュニケーションの方法を教えたり、あるいは矯正することをイメージしたりするかもしれません。ところが著者は、子どもではなく大人の私たち自身に、コミュニケーションについて考え直してみないかと、「子どもを中心に」と考えて問いかけています。
ASDは意思疎通ができないわけではなく、典型発達で一般的なコミュニケーションのスタイルを崩せない人にとってはASDと対するのは難しい、というのが適切だと私は思います。特に話し方や人との距離感は「相手が合わせるもの」と決めてかかる人(いますよね……)との相性はよくありません。
おそらくASDの特性を持った人も、お互いをすり合わせる過程で同じようにやりにくさを感じているでしょうね。「この人たちはなぜこんな難しいやりとりの仕方をするんだろう?」と。(106ページより)
障害のある方がことばでの表現はなかなか難しいと、心の中で思ったり感じたりしていることを、多くの子どもたちとかかわってきた現場の視点で、著者は代弁しているのです。
子どもを中心にして考えること
子どものコミュニケーションについて考えるときに大切な視点は、「本人を中心にして考えているかどうか」。この考え方は、著者だけの意見ではありません。本書には1~4章の各章末に、4人の専門家によるコラムが配されています。第3章にある田園調布学園大学 黒田美保教授によるコラム「現在の幼児への発達支援の問題点」では、「チャイルド・センタード」ということばがあります。子どもを中心に考える、このことばはまさに本書の根幹となるものでしょう。
発達支援は、子どもがつらい思いをして頑張ったり、家族の誰かが我慢をしたりするものではないと思うのです。子どもの好きなことを大切にしながら、その子らしいやり方で社会で暮らす力が身につくようにお手伝いすることだと私は思っています。(150ページより)
子どもが過度に頑張ったり我慢したりせずに、楽にことばを話し、コミュニケーションをとること。そのために成長しなくてはならないのは、私たち大人の方なのでしょう。
視覚支援についての記述では、絵カードなどを使わなくても「口で言えば分かる」とされる子どもについてのエピソードが紹介されています。
視覚支援についての記述では、絵カードなどを使わなくても「口で言えば分かる」とされる子どもについてのエピソードが紹介されています。
保育園や幼稚園や小学校でASDの子どもが通っているところに行くと、ときどき「この子は口で言えばわかりますから」とおっしゃる先生に出くわします。
(中略)
口で言ってもわかる子なんだと思うのですが、「わかる」レベルも人それぞれです。円滑なコミュニケーションや安心した日常生活を送るためには、ただ「わかる」だけでなく、いかに(本人にとって)負担が少なく理解できるかが大事なんです。「できる・できない」の間には「頑張らないとできない」「めちゃくちゃ頑張ってようやくできる」といったさまざまな段階があるんです。(113-114ページより)
丁寧にその子どもとのかかわりを紐解いていくことで、その子とのコミュニケーションが見えてくるということを教えてくれています。
保護者に寄り添う視点も忘れない
子どもの気持ちを代弁するような解説が書かれ、実際の暮らしの中でどう実践したらよいかのポイントが分かる本書ですが、そのすべてを実行しようと思えば、親としては忍耐を強いられるような場面もありそうです。
そこに対して著者は、
そこに対して著者は、
「大人と子どもの根比べですね。仕事をしてワンオペで家事をしながらそこまで相手できません」と感じる方もいるかもしれません。
このご指摘には返すことばがありませんが、そういったときは淡々と対応しましょう。にっこり笑って子どもを追いかけて「もう○○くん、そんなところに出ちゃダメじゃないの! ほらおいで」(それを聞いて子どもはにっこり笑う)ではなく「いまはお部屋に戻ります」と表情も変えず淡々とつれて帰るんです。(224-225ページより)
子ども中心にと思うあまり、大人が疲弊してしまうのではなく、頑張っている保護者の方を労いつつ、実際にはどうしたらよいかを伝えてくれています。
子どものことばとコミュニケーションの力を伸ばしていくための解説書であると同時に、保護者の方や支援者の方がイメージしているコミュニケーションについて、一度自分の足元を確認して、一方的な考え方ではなかったか?ということを再考させられる「伝わることばとコミュニケーション」。読後には、子どもたちの思いに一歩でも近づける大人に、私たちが変わっているかもしれません。
子どものことばとコミュニケーションの力を伸ばしていくための解説書であると同時に、保護者の方や支援者の方がイメージしているコミュニケーションについて、一度自分の足元を確認して、一方的な考え方ではなかったか?ということを再考させられる「伝わることばとコミュニケーション」。読後には、子どもたちの思いに一歩でも近づける大人に、私たちが変わっているかもしれません。
取材・文:関川香織
発達障害の子どもに伝わることば
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SB新書 発達障害関連新書フェア開催中
現在全国の書店にて、SB新書の「発達障害関連新書フェア」を開催中とのこと。
このフェアの開催を記念して、SB新書の第1章がまるごと読める「増量試読版」が用意されています。発達障害のある方やその周りの方々はもちろん、発達障害への理解を深めたいという人は、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。
このフェアの開催を記念して、SB新書の第1章がまるごと読める「増量試読版」が用意されています。発達障害のある方やその周りの方々はもちろん、発達障害への理解を深めたいという人は、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。