「知能検査を受けましょう」に不安を抱く前に読んでほしい。結果を支援につなげる『子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック』【著者インタビュー】

ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
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心理検査・知能検査は、子どもの得意なところと苦手なところを発見し、子どもの特性に応じた支援をするために実施するものです。検査結果を受け取っても“数字”だけを見ていたのでは大事なことが見えにくいものです。子どもが成長するために必要な検査結果の活用法が分かる「WISC-Ⅴ KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック」(合同出版)をご紹介します。著者である熊上崇先生(和光大学教授)・熊上藤子先生(公認心理師)にインタビューしました。

心理検査・知能検査とは何かという基礎から、検査結果の読み方までが分かる本

「お子さんには、心理検査・知能検査を受けてもらいます」そんなふうに言われたときに、ドキッとしてしまう保護者の方は多いのではないでしょうか。では、それはどうしてなのでしょう?

ともすると私たちは、心理検査・知能検査を「レベル分け」のためだけに行う検査と思いがちです。だからとても不安を感じてしまうのです。
「有名中学校に入りたいのに、IQ105 なんてショック……(もっと高いと思っていたのに普通ってことなの?)」、逆に「うちの子どもは知的障害かもしれないと思っていたけれど、IQ は85 なんだ(思ったより高いじゃない)。だったら通常級に行ける?」など、保護者はIQ という数値に心がふりまわされることがあります。(27ページより)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4772615679
ですが、考えてみれば検査結果は単に”数字”でしかないのです。
IQ の数値ではなく「個人間差」を踏まえたうえで、「個人内差」つまり、子どもの中の得意なところと不得意なところに注目し、子どもが何でつまずいていたり、苦労しているのか、子どもがどうすれば進んで生活や学習・行動などに取り組めるのかを考えるために役立てていただきたいと思います。(27ページより)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4772615679
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本書28Pイラスト
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こうした検査結果を、子どもの支援に活かすための具体的な方法が丁寧に書かれているのが、本書『WISC-Ⅴ・KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック』です。

「Part1 IQと心理検査・知能検査 2心理検査・知能検査はどのようなものがあるの?」では、各種の検査とそこから分かることについて解説しています。

①WISC-Ⅴ ②KABC-Ⅱ ③田中ビネー知能検査Ⅴ ④新版K式発達検査2020
この4つのそれぞれの特徴に加えて、心理検査として「発達・知能を測る検査(発達・知能検査)」「脳の機能を測る検査(神経心理学的検査)」「心の状態を測る検査(狭い意味での心理検査)」が紹介されています。
こうした検査がどのようなものかを理解したうえで、何のために検査をするのか、検査結果をどう活かすのかが、このPart1では、解説されています。

次の「Part2 検査報告書の読み取り方と活用例」では、さまざまな事例ごとに、専門用語が多く保護者の方や学校の先生にとって分かりづらいと感じられる検査報告書の読み方がわかります(事例の書式は標準的な報告書とされているものをアレンジした架空のものです)。
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本書48~49ページより
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そして「Part3 子どもを支援する10のポイント」では、検査結果を読み解いたうえで、実際どのように子どもを支援したらよいのか、事例と共にポイントを解説しています。

本書全編を通じて、心理検査・知能検査を受ける前から受けた後までの大事な心構えが、こまやかに書かれています。
そこで、保護者の方や支援者(学校の先生など)は、検査結果をどのように活用したらよいのかについて、著者の熊上崇先生(和光大学教授)と熊上藤子先生(公認心理師)にお話を伺いました。

心理検査・知能検査について保護者が知っておいてほしいこと

発達ナビ編集部(以下――) まずは、心理検査・知能検査を受けるにあたって保護者がしておくとよい心構えを教えてください。本書にも、検査を受けるときの保護者の方のタイプがありました。
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本書77ページより
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熊上崇先生(以下、熊上崇):心理検査・知能検査を受けるのは、お友だちとのコミュニケーションがうまくいかないとか、授業についていけないといった、学校や幼稚園・保育園などでうまくいってないように見える子どもたちです。日頃からのようすを知っている保護者としては、検査結果を聞くときに不安な気持ちになると思います。でも、できないところを知るために受けるものではありません、とまずは伝えたいのです。

検査を受けるのは、「同じクラスのあの子と比べてできる・できない」ではなく、「その子自身の得意・不得意」を知るのが目的だと考えてみてください。その子のサポートをするために知能検査がある、ということを知っておいてほしいです。

熊上藤子先生(以下、熊上藤子):子育てをしていると、子どもの身体測定の結果やテストの点数、成績というふうに、どうしても子どもに関わる“数字”は気になるものです。すると知能検査の結果も、“数字”だけにとらわれてしまうことがあると思います。

本来はお子さんを理解するために受けた検査のはずなのに“数字”によって一喜一憂したりしてしまう。それは否定しませんが、ひと呼吸ついたら、「ここからどんな支援を進めていくといいのか」と、具体的に検査結果を役立てられるように視点を替えてみてもらえたらと思います。

家庭裁判所や学校で出会った子どもたちから気づいた、検査のほんとうの必要性

――この本はお2人と星井純子先生の共著ですが、先生方のこれまでの研究や活動について教えてください。

熊上崇:私はもともと家庭裁判所の調査官をしていました。法に触れる少年事件を起こした子どもたちと出会うと、もちろん家庭的な困難さも背景にありますが、実はさまざまな知的・発達面の課題を抱えた子どもが含まれていることも多かったのです。ボキャブラリーや推理力が足りない、見通しを持つことができないなど、そうした特性を持つ子どもたちは、何回、言葉で説明をされても理解しきれなかったり、感情をコントロールできなくなったりします。

そこで、子どもたちの語彙や読み書き、物事の捉え方を測る知能検査をして、さまざまな知的・発達の側面を知る必要があると感じました。その少年を支援するにあたっては、少年の自己理解が欠かせず、客観的な情報を本人に伝えることが大事です。そもそも指導するときに、その子の語彙力に合わせて話さないと伝わらないのです。

こうした経験から、少年の心理アセスメントに関する研究をスタートさせて、その後、家庭裁判所を退職して大学の研究者になりました。高校生の居場所づくりやソーシャルワーク、教育的支援にも携わることで、非行・犯罪を未然に防ぐ取り組みもしています。

熊上藤子:私たち著者3名は、心理検査の結果を、子どもや保護者に対してどのように「フィードバック」するかという点から研究しているメンバーです。

私は保育園・小学校・学童保育等に心理職として関わってきた経験から、星井純子先生は小学校や特別支援学校の教員をされてきたご経験から、多くの親子と接する機会がありました。中でも私と星井先生は近隣の学校に勤めていたことがあって、実際に小学校で学習につまずいている児童をキャッチした私が、通級を担当されていた星井先生につないだことがあります。つないだあとは、星井先生から検査結果と通級の指導方針を共有していただけたので、保護者と学級担任と私とで、お子さんをどのように支援するか話し合うことができました。

こうした経験の中で、検査結果は、通級や支援学級に入れるか・入れないかという選別のためではなく、支援者をつなぐもの。そして、親子の日常生活やこれからの進路選択に活かしていくものだということを実感しています。

子どもを支援する10のポイントで特に伝えたいこと

――実践編ともいえる「Part3 子どもを支援する10のポイント」の中で、特にここを大事にしてほしいと思われているポイントを、ぜひ教えてください。

熊上崇:子どもの成長に検査結果を活かすために、「5 チームで目標を共有する」が重要だと思っています。知能検査の結果を通じて、検査を受けた子ども、学校、保護者がつながることが重要なので、チーム支援のエンパワメント・ツールとして検査結果を活かしてほしいです。

そして、検査結果のフィードバック面接は「チーム支援会議」だということを伝えたいですね。
たとえば「目で見る力や全体の把握が得意なので、スケジュールボードや絵カードなどを用いて」と提案されていても、学校の先生がその必要性についてよく理解できなければ活用されないわけです。検査を実施したら、その結果を必ず学校の先生と保護者、あるいは子どもと話し合うチーム支援会議の開催につなげてほしいと願っています。
本書86ページより
本書86ページより
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熊上藤子:まず「ポイント10」の全般にわたって、幼児から高校生まで幅広い年齢の事例を取り上げました。その理由は、幼児期に支援ができたことで、お子さんが成長したから特別な支援はもういらないのではと思って、小学校に何も伝えないまま入学を迎えるケースが少なくないためです。しかしそのお子さんの学年が上がる度にうまくいかなくなり、調べてみたら就学前に実は検査を受けていたことが判明する……といったケースを多く見てきました。中学校、高校でも同じ理由で支援が途切れてしまい、結果的に子どもがひそかに困ってしまうことがあります。

そこで本書では、今、まだ出合ってない、あるいはこれから出合うかもしれないつまずきについて取り上げたのです。長い人生を考えたときに、1回受けたこの検査がどれだけの意味があるかと読者の方にイメージしていただきたくて、あらゆるライフステージを想定して10の事例を取り上げています。

その中でも、私が大切にしてほしいと思うのは、「6 親自身の長所を活かして子育てをする」です。
検査を受け、専門用語を学んでいくうちに保護者自身ががんばりすぎてしまう場合があります。「家でも療育しなくては」と、一生懸命お子さんに向き合おうとなさる姿勢は尊敬します。

これはお子さんの視点に立ってみると、保育園・幼稚園では担任のほかに加配の先生がついてくれて、療育に行けば個別指導を受けて、さらに家でも療育的な関わりをされてしまうという状況です。どこにいてもトレーニングのような空気があってのんびりできないことになってしまいます。お子さんにとって“役に立つこと”のはずでも、本人はつらくなったり息苦しくなったりしてしまうでしょう。
そして保護者自身も長期間支援者の立場にいると息切れしてしまい、つらくなって相談に来られるケースも少なくありません。

これから長く続くお子さんとの時間をリラックスして、その親子らしいスタイルで過ごしていくために、保護者自身の長所を生かすという視点を作りたいなと思います。
本書88ページイラスト
本書88ページイラスト
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運動や音楽などの趣味でも、毎日の料理の中でもいいので、やってみてはと保護者の方にご提案すると、「それならできそう」と言われます。保護者の方が取り組みやすい活動を一緒に考えていきたいですね。

「検査結果活用サポートシート」は保護者・保育者・本人が共同作業をするツール

――支援の実践という点で、本書の二次元コードからダウンロードして使える付録「心理検査活用サポートシート」について、活用法を教えてください。

熊上崇:本書の主な読者である保護者と学校の先生が、せっかく行った知能検査の結果を現場での支援に活かすために、このシートをつけました。
検査結果報告書に限らず、専門家が書く文章は難しくなる傾向があります。例えば病院や児童相談所などで発行される報告書も、専門用語が多くて、専門家でない人にとっては結局何が書いてあるのか分からないことがあります。診断や就学のための資料にしか使われず、金庫にしまいこまれてしまうケースがあり、とてももったいないです。

最近は、専門家以外が読んでも理解できるように記載する重要性が理解されるようになり、各地で発行される報告書の内容はだんだんわかりやすくなってきてはいます。しかし、やはり専門職と一般の方との橋渡しのため、このシートを使ってもらえたらと思います。

このサポートシートは、具体的な支援策を一緒に書き込んでコラボするためのツールとして役立ててほしいです。
検査結果からわかる子どもの特徴を、子どもと保護者の方、学校や園の先生方、みんなが理解してチーム支援するためには、共通言語が必要です。このとき、支援者や検査者側が支援のしかたを考えて一方的に伝えるのではチームになりません。検査結果を根拠にしながら、本人は何に困っているのか・いないのか、学校・園、家庭では何ができるのかということを、お互いに書き入れ、すり合わせていく共同作業をしてほしいのです。

熊上藤子:保護者は学校や園に、我が子の支援を要望する時、自分がモンスター・ペアレントだと思われないかと不安を感じがちです。手元に書面があれば、「検査結果を通して学校でできることについて話したいのです」と申し出て 、シートを手渡す名目で先生方と話をするチャンスになるわけです。
そして先生方も書面を渡されたからには、それを根拠として支援ができるし、合理的配慮につなげられます。口頭で話しただけの伝言ゲームにならないために、書面が重要な役割を果たします。

一方で、支援機関や検査機関が書面を渡さない規則になっているところもありますが、そうすると保護者が一生懸命聞き取った結果を学校や園に口頭で伝えることになり、せっかく伝えても誤解が起こったりと、適切な支援にはつながらないということも起こります。病院や児童相談所で診断名や療育手帳がでると、その情報だけが独り歩きしてしまうこともあります。そこで、知能検査で明らかになった子どもの特性や、得手不得手、支援方法については、保護者自身が書き込める書式が必要だと感じて、本書の付録にしました。

子どもには検査は負担なもの。だからこそ、それをしっかり活かして!

――ところで、両先生はご夫婦ですが、ご自身の子育ての中で、実感すること、実践していることはありますか?

熊上崇:実は、うちの子ども(現在小学生)も、就学前にWISC検査(知能検査のひとつ)を受けたことがあります。でも、検査の途中で出てきてしまいました。その時、検査は子どもにとってかなり負担のあることなんだとあらためて実感しました。
検査を中断したので、全検査IQは出ませんでしたが、分かることがありました。「こういう時はすごく嫌な表情だった」、「こういう時は集中して取り組んだ」と、行動記録から子どもの得意と苦手が分かったのはよかったです。

いずれにしても、やはり子どもにとって個別式の検査は大変な思いをして実施されたもの。だからこそ、せっかくとった検査結果は活用しなくてはと思ったのが印象的です。

熊上藤子:子どもをどう理解するかの見立ては、夫婦も、家族も親戚も、それぞれに価値観や物差しが違いますよね。心理師同士の私たち夫婦ももちろん違っていましたが、わが子が検査を受けたときには、この子についてどう考えようかと目線を合わせ、子どもと向き合うきっかけになったと思います。

それから、子どもの得意なところ、苦手なところだなと捉えたことは、日常生活の中でさりげなくフィードバックするようにしています。「よく覚えてたね!あなたは、見ることと記憶することがとっても得意だね」「耳で聞いただけだと忘れちゃうようだから、メモしてみる?」というようにです。本書で書いたように、子どもの自立のためには「自己理解」を促すことが大事だと考えていて。もちろん、そううまくいかないこともありますが、今、わが子は自信満々に生活を楽しんでいるので、多少は役に立ったのかなと思います。

今思っているよりも、子どもが成長するツールになる検査結果だと理解してほしい

――最後に、『発達ナビ』読者に向けてメッセージをお願いします。

熊上藤子:検査結果を通じてお子さんの理解が深まることは、今思っているよりもずっと、選択肢が増えて親子共に成長につながるものですよ、ということを伝えたいです。不安なイメージを覆して、すっと視野が広がり、未来が拓けるということが必ずあると思います。

検査を受けることは、進路が狭まる、可能性が減る、お友だちと遊べなくなるなど、道を閉ざされるようなイメージを持たれるかもしれませんが、そうではありません。

IQの数値が高くても低くても、それはお子さんの一部を表した数字です。お子さん自身の自己理解が進むなかで生きる力をつけていきますから、お子さんの姿を客観的に捉えるチャンスにしてみてはどうでしょうか。検査を受ける機会があるならば、そんな気持ちで受けていただけたらと思います。

熊上崇:子育てしているとどうしても、子どもに期待をしすぎたりネガティブなことに目が行きがちになったりすると思うのですが、だからこそ心理検査でその子の得意なこと、素敵なところ、ありのままのお子さんの姿を発見してほしいです。そして保護者自身の子育ての展望につなげてほしいと願っています。

まとめ

心理検査・知能検査は、レベル分けするツールではありません。子どもの得意なところ、支援のポイントを知るための検査だという意識に、保護者も支援者も視点を変えていくことが第一歩となると分かります。

一見難しい検査結果は、読み解くことさえできれば、子どもが成長するためにフル活用できるツール。その方法を、読者に寄り添いながら分かりやすく書かれているのが「WISC-Ⅴ・KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック」です。
取材・文/関川香織
WISC-V・KABC-II対応版 子どもの心理検査・知能検査: 保護者と先生のための100%活用ブック
熊上崇 (著), 星井純子 (著), 熊上藤子 (著)
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