本人へのアプローチと環境を整える二つの視点

その人自身への働きかけは、医学モデル的な対処と呼ばれることがあります。視覚の過敏なら、サングラスを着用することがそれにあたるでしょう。ASDの感覚の問題が中枢神経系に由来するかもしれないということから、対処には投薬もありえますし、身体の外から脳に働きかけるような、経頭蓋磁気刺激(TMS)なども選択肢に入るかもしれません。

その人を取り巻く感覚刺激を減じるといった環境調整は、社会モデル的な対処と言えます。障害の社会モデルとは、その当事者の困難が、その人自身ではなく、とり巻く環境との接点において生じている、という考え方です。たとえば、車椅子を利用する方のケースを考えてみましょう。車椅子があれば移動そのものは可能(able)になっていますが、建物の中に段差が多いことによって、移動が困難になる(disable)ことがありえます。ここでの障害は、段差という環境によって生じているわけです。それを解消するには、段差をスロープに変える、という対処がありうるでしょう。

近年では、公共交通機関におけるカームダウンスペースや、大学などにおけるセンサリールーム、スーパーなど商業施設におけるクワイエットアワーを導入する取り組みが進んでいます。これらは、その環境にもともとある感覚刺激を弱めたり、または適度な刺激を与えることで、過敏な人への負担軽減を意図して取り入れられているようです。

先述の通り、ASDのお子さんの視覚過敏に対する環境調整として、どのような光の取り入れ方が良いのかのコンセンサスはありません。そもそも論として、「感覚」に合わせた環境調整にはかなりの難しさがあります。「感覚」はかなり主観的な体験であって、他者が推し量るのは相当の工夫が必要です。そのうえ、その人の中での変化も大きいです。一般的に、同じ刺激であっても、その人の体温など内部状態で感じ方が変化します(アリエステージアと呼ばれることがあります)。感覚過敏や鈍麻の人にどのような環境が適しているのか分からない以上、医学モデル的な対処は選択肢から外せないでしょう。

脳の特性から紐解く感覚過敏の疑問とこれからの支援

これまで、感覚の過敏や鈍麻はASDの診断定義の一部に含まれること、一人の人において過敏と鈍麻の両方が複数の感覚にまたがってありうること、それがどうやら中枢神経系の特性によるものでありそうなこと、対処法もいろいろあり得て難しそうなこと……などなどお伝えしてきました。ここまで読んで、いろんな疑問が湧いてきた方もいることでしょう。

たとえば、
  • なぜ正反対にみえる過敏と鈍麻が両立するのか?
  • 中枢神経系のどのような特徴が関わっているのか?
  • 薬によって感覚過敏はおさまるのか?
  • 行動療法はあるのか?
  • ADHD(注意欠如多動症)などほかの神経発達症の人の感覚特性はどうなっているのか?
  • 感覚過敏は特別な才能(サヴァン)や個性なのであって、対処したり「治し」たりしていいのか?
……などなど。

私たちのものも含め、近年の研究はASDの人に特徴的な脳と感覚過敏との関係を明らかにしてきています。その脳の特徴がどのように過敏な反応につながるのか、未解明とはいえ理解が深まってきました。また私たちは、ASDを含めた発達障害のお子さんの感覚特性を評価できるような新たなツールの導入も進めています。

医学モデルであれ社会モデルであれ、感覚の問題の背景となるような障害特性や脳の特性を踏まえた視点が、問題に真正面から向き合うために不可欠です。以降は、そうした視点から、皆さんの疑問に答えられるようこれまで分かっていることを詳しくお伝えしていきたいと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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