髪を抜いてしまうのはなぜ? 抜毛症と「気づく」工夫/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
ライター:井上 建
Upload By 井上 建
「やめなさい」と何度注意しても、気づくとまた髪を抜いているわが子の姿に、戸惑いと不安を抱えている保護者の方も多いのではないでしょうか。実は、そうした行動の裏には、子ども自身も気づかないうちに手が伸びてしまうような、感覚的な「理由」が隠されています。
シリーズ「こどものクセ外来」。今回は、獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、“抜毛症”と呼ばれる行動の背景と、家庭で無理なくできる「気づいて、置き換える」ための具体的な関わり方についてご執筆いただきました。
執筆: 井上 建
獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター 准教授/センター長
小児科医として、子どもとその家族に寄り添うことを大切にしています。
トロント小児病院で培った多様性への理解を背景に、チック症やゲーム行動症、摂食症などに関する診療・研究に取り組んでいます。
X / Instagram:@inoue_take_med
「何度も注意しているのに…」子どもの髪を抜くクセの背景と、家庭でできる「気づいて置き換える」工夫
「やめなさい」と何度注意しても、気づくとまた髪を抜いているわが子の姿に、戸惑いと不安を抱えている保護者の方も多いのではないでしょうか。「本人の意志が弱いのでは」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。実は、そうした行動の裏には、子ども自身も気づかないうちに手が伸びてしまうような、感覚的な「理由」が隠されています。
シリーズ「こどものクセ外来」。今回は、獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、“抜毛症”と呼ばれる行動の背景と、家庭で無理なくできる「気づいて、置き換える」ための具体的な関わり方についてご執筆いただきました。
シリーズ「こどものクセ外来」。今回は、獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、“抜毛症”と呼ばれる行動の背景と、家庭で無理なくできる「気づいて、置き換える」ための具体的な関わり方についてご執筆いただきました。
ある日の外来でのやり取り
抜毛症とは?
抜毛症とは、髪の毛、まゆ毛、まつ毛などを繰り返し抜いてしまうものです。抜いた結果、髪の一部が薄くなったり、まゆ毛やまつ毛が少なくなったりすることがあります。
繰り返し起こる行動という観点から、医学的には強迫症に関連するグループに分類されており、本人が「やめたい」と思っていてもなかなか止められず、困り感や生活への影響につながることがあります。また、つめ噛みや皮膚むしりなどと同じように、髪・皮膚・爪など身体の一部に向かう反復的なセルフグルーミング行動の一つとして説明されることもあります。
繰り返し起こる行動という観点から、医学的には強迫症に関連するグループに分類されており、本人が「やめたい」と思っていてもなかなか止められず、困り感や生活への影響につながることがあります。また、つめ噛みや皮膚むしりなどと同じように、髪・皮膚・爪など身体の一部に向かう反復的なセルフグルーミング行動の一つとして説明されることもあります。
抜くことの背景
抜毛は、読書中、授業中、動画視聴中など、座っていて手が空きやすい場面で起こりやすいとされています[注1]。ザラザラした毛を探す、違和感のある毛を抜く、抜いた毛を触るなど、感覚的な流れを伴うこともあります。
また、退屈、集中、不安、イライラなどがきっかけとなり、抜いたときの痛みが心地よい、スッキリするといった感覚によって繰り返されることもあります。このような、きっかけ(=先行刺激)と結果としての強化の考え方は、今までの外来「つめ噛み」や「ジャンプ・足踏み」でもご紹介しました。
このように、きっかけが比較的分かりやすい抜毛がある一方で、勉強中、動画を見ているとき、寝る前などに「気づいたら抜いていた」ということもあります。そのため、声をかければ簡単に止められるとは限りません。まずは「どの場面で手が髪に向かうのか」「どうすれば抜毛に気づけるのか」を知ることが、対応の第一歩になります。
また、退屈、集中、不安、イライラなどがきっかけとなり、抜いたときの痛みが心地よい、スッキリするといった感覚によって繰り返されることもあります。このような、きっかけ(=先行刺激)と結果としての強化の考え方は、今までの外来「つめ噛み」や「ジャンプ・足踏み」でもご紹介しました。
このように、きっかけが比較的分かりやすい抜毛がある一方で、勉強中、動画を見ているとき、寝る前などに「気づいたら抜いていた」ということもあります。そのため、声をかければ簡単に止められるとは限りません。まずは「どの場面で手が髪に向かうのか」「どうすれば抜毛に気づけるのか」を知ることが、対応の第一歩になります。
家庭でできること1:「気づく」工夫
抜毛では、本人が手を髪に向けていることに十分気づかないまま、抜いてしまうことも少なくありません[注2]。そのため、「抜かないように頑張る」前に、まずは「手が髪に向かったことに気づく」工夫が大切です。
気づきやすくする工夫として、布製の指カバーをつける、絆創膏やテープを巻く、指にワセリンを少量つけるなど、指先の感覚を変える工夫があります[注1]。これによって指先の感覚が変わるため、「いま髪に触っていた」と気づきやすくなります。さらに、必然的に髪をつかみにくくなるため、抜毛が起こりにくくなる工夫にもなります。また、帽子をかぶる、髪を結ぶなど、髪に触れるまでの流れを変えることも役立ちます。
大切なのは、これらの工夫を「罰」や「禁止」として使うのではなく、本人が自分の行動に気づくためのサインとして使うことです。気づけるようになることが、抜毛への対応の第一歩になります。
気づきやすくする工夫として、布製の指カバーをつける、絆創膏やテープを巻く、指にワセリンを少量つけるなど、指先の感覚を変える工夫があります[注1]。これによって指先の感覚が変わるため、「いま髪に触っていた」と気づきやすくなります。さらに、必然的に髪をつかみにくくなるため、抜毛が起こりにくくなる工夫にもなります。また、帽子をかぶる、髪を結ぶなど、髪に触れるまでの流れを変えることも役立ちます。
大切なのは、これらの工夫を「罰」や「禁止」として使うのではなく、本人が自分の行動に気づくためのサインとして使うことです。気づけるようになることが、抜毛への対応の第一歩になります。
家庭でできること2:気づいたら「置き換える」
手が髪に向かっていることに気づけたら、無理にやめようとするのではなく、代わりの行動に置き換えます。外来「つめ噛み」でご紹介した「やめるのではなく置き換える」ですね。
置き換える代わりの行動は、専門的には「拮抗反応」と呼ばれ、髪を抜く動きと同時にはできない行動がおすすめです。たとえば、髪を抜きそうになった時に、手を軽く握り、腕を体の横や膝の上に置き、少しだけ力を入れて、髪に手が届かない姿勢を短時間保ちます。このように手や腕を“ロック”することで、その瞬間は髪を抜くことができなくなります(図)。
置き換える代わりの行動は、専門的には「拮抗反応」と呼ばれ、髪を抜く動きと同時にはできない行動がおすすめです。たとえば、髪を抜きそうになった時に、手を軽く握り、腕を体の横や膝の上に置き、少しだけ力を入れて、髪に手が届かない姿勢を短時間保ちます。このように手や腕を“ロック”することで、その瞬間は髪を抜くことができなくなります(図)。
※図はAIの支援を受けて執筆者が作成しました
ここで大切なのは、苦しいほど力を入れたり、長時間我慢したりすることではありません。「抜きたい気持ちを完全に消す」のではなく、「抜けない形に体を移す」と考えると分かりやすいと思います。手が髪に向かったことに気づいた時に、短く、繰り返し練習していくことがポイントです。
“ロック”でうまく抑えられない場合は、スクイーズやキューブなどの「フィジェットトイ(感覚おもちゃ)」を携帯し、髪を抜きそうになった時に触る行動へ置き換えることも役立つことがあります。キーホルダータイプなど携帯しやすいものを、スマホやポケットティッシュケースなどにつけておくと、目立たず持ち歩きやすいのでおすすめです(図)。
“ロック”でうまく抑えられない場合は、スクイーズやキューブなどの「フィジェットトイ(感覚おもちゃ)」を携帯し、髪を抜きそうになった時に触る行動へ置き換えることも役立つことがあります。キーホルダータイプなど携帯しやすいものを、スマホやポケットティッシュケースなどにつけておくと、目立たず持ち歩きやすいのでおすすめです(図)。
※図はAIの支援を受けて執筆者が作成しました
家族の関わりも大切です。ただし、家族は「抜いていないかを見張る人」になる必要はありません。注意をするよりも、手が髪に向かっていることに気づけた時や、手を“ロック”できた時に「今、気づけたね」「置き換えられたね」と認めてあげます。
医療でできること
医療機関では、まず脱毛の原因として皮膚疾患などほかの原因がないかを確認します。また、不安症や神経発達症(発達障害)など、背景にある併存症について評価することもあります。必要に応じて、不安や気分の落ち込み、発達特性に伴う困りごとなどに対して薬物療法が補助的に検討されることもありますが、抜毛への介入の基本は、行動の流れを理解し、少しずつ変えていく行動療法です。
また、抜いた毛を食べている場合には注意が必要です。飲み込んだ毛が胃の中で固まり、胃石をつくることがあるため、腹痛や嘔吐などの症状がある場合には早めに相談しましょう。
また、抜いた毛を食べている場合には注意が必要です。飲み込んだ毛が胃の中で固まり、胃石をつくることがあるため、腹痛や嘔吐などの症状がある場合には早めに相談しましょう。