頭を叩くのは「クセ」?止めたほうがいい?/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
ライター:井上 建
Upload By 井上 建
子どもが自分の頭を何度も叩いたり、身体を揺らしたりしている。「やめさせたほうがいいのでは?」と心配になる保護者の方も多いのではないでしょうか。そうした繰り返す動きは「常同行動」と呼ばれ、実はすべてを無理に止める必要はありません。
シリーズ「こどものクセ外来」。今回も獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、見守ってよい行動と注意すべき行動の見極め方や、ご家庭での「安全をつくる」工夫、医療機関に相談する目安についてご執筆いただきました。
執筆: 井上 建
獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター 准教授/センター長
小児科医として、子どもとその家族に寄り添うことを大切にしています。
トロント小児病院で培った多様性への理解を背景に、チック症やゲーム行動症、摂食症などに関する診療・研究に取り組んでいます。
X / Instagram:@inoue_take_med
見守ってよい行動と注意すべき行動の見極め方は?
子どもが自分の頭を何度も叩いたり、身体を揺らしたりしている。「やめさせたほうがいいのでは?」と心配になる保護者の方も多いのではないでしょうか。そうした繰り返す動きは「常同行動」と呼ばれ、実はすべてを無理に止める必要はありません。 シリーズ「こどものクセ外来」。今回も獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、見守ってよい行動と注意すべき行動の見極め方や、ご家庭での「安全をつくる」工夫、医療機関に相談する目安についてご執筆いただきました。
ある日の外来でのやり取り
子どもにみられる「繰り返す動き」
子どもの様子を見ていると、同じような動きを繰り返していることがあります。相談をいただいたお子さんにある「身体を揺らす」以外にも、その場でくるくる回る、飛び跳ねる、指を動かす、手をひらひらする、同じものを繰り返し触ったり回したりする、といった行動です。
このような繰り返す動きを「常同行動」と呼ぶことがあります(表)。常同行動は幼い子どもにもみられますが、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもでは、より多くみられることが知られています[注1]。
このような繰り返す動きを「常同行動」と呼ぶことがあります(表)。常同行動は幼い子どもにもみられますが、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもでは、より多くみられることが知られています[注1]。
[注1]:林 恵津子. (2020). 自閉スペクトラム症(ASD)の常同行動. 臨床精神医学, 49(11), 1783-1790.
「同じことを何度もしているから、やめさせたほうがよいのでは?」と心配になる保護者の方もいるでしょう。しかし、常同行動があるからといって、すべてを止める必要があるわけではありません。本人が楽しんでいて、誰かを傷つけることもなく、生活にも困っていなければ、その子らしい行動のひとつとして見守ってよいこともあります。
どこからが「止めたほうがいい行動」?
では、どのような場合に対応が必要なのでしょうか。
たとえば、うれしくて手をひらひらしていて、本人も周囲も困っていないのであれば、無理に止める必要はないでしょう。飛び跳ねること自体は問題でなくても、マンションで階下に音が響くのであれば、「身体のクセ」の回でご紹介したように、場所を変えたり別の行動に置き換えたりする工夫が役立ちます。
たとえば、うれしくて手をひらひらしていて、本人も周囲も困っていないのであれば、無理に止める必要はないでしょう。飛び跳ねること自体は問題でなくても、マンションで階下に音が響くのであれば、「身体のクセ」の回でご紹介したように、場所を変えたり別の行動に置き換えたりする工夫が役立ちます。
ジャンプ、足踏み、ドンドン…体を動かすクセには理由がある?/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
では、自分の頭を手でトントンと叩いている場合はどうでしょう。軽く叩いていて、痛みや傷もなく、生活にも影響していなければ、すぐに治療が必要とは限りません。
一方で、こぶしで頭を強く叩く、壁や床に頭を打ちつける、自分の腕を強く噛む、皮膚を傷つけるといった行動では話が変わります。
常同行動への介入を考えるときには、「本人が傷ついていないか」「生活に支障が出ていないか」「本人や家族が強く困っていないか」が大切なポイントになります。特に、自分自身を傷つける「自傷」がある場合には、安全を守るための対応を考える必要があります。
一方で、こぶしで頭を強く叩く、壁や床に頭を打ちつける、自分の腕を強く噛む、皮膚を傷つけるといった行動では話が変わります。
常同行動への介入を考えるときには、「本人が傷ついていないか」「生活に支障が出ていないか」「本人や家族が強く困っていないか」が大切なポイントになります。特に、自分自身を傷つける「自傷」がある場合には、安全を守るための対応を考える必要があります。
家庭でできること:「安全をつくる」
自分を傷つける行動があるとき、最初の目標は「完全にやめさせること」ではありません。まずは、ケガをしないように「安全をつくる」ことが大切です。
たとえば、床に頭を打ちつけるのであれば、厚手のマットやクッションを使います。壁に頭をぶつける場合には、硬い家具や角のあるものから離れ、安全な場所へ移動します。興奮して自分を強く叩く場合には、周囲の刺激を少なくして、静かな場所で落ち着けるようにすることもひとつの方法です。
安全を確保したら、次に「どんなときに起きやすいのか」を観察してみましょう。
たとえば、宿題が難しくて頭を叩いてしまうのであれば、「休みたい」「手伝って」と伝えることが代わりの行動になります。イライラしたときに自分を叩くことが多い場合には、大好きなクッションを抱える、スクイーズを握る、静かな場所へ移動するなど、その子が落ち着きやすい安全な方法を一緒に探します。
そして、安全な方法を使えたときには、「休みたいって言えたね」「自分で落ち着く方法を使えたね」と認めてあげます。
危険な行動をただ止めるのではなく、安全な行動へ少しずつ置き換えていく。これも行動療法の大切な考え方です。
たとえば、床に頭を打ちつけるのであれば、厚手のマットやクッションを使います。壁に頭をぶつける場合には、硬い家具や角のあるものから離れ、安全な場所へ移動します。興奮して自分を強く叩く場合には、周囲の刺激を少なくして、静かな場所で落ち着けるようにすることもひとつの方法です。
安全を確保したら、次に「どんなときに起きやすいのか」を観察してみましょう。
たとえば、宿題が難しくて頭を叩いてしまうのであれば、「休みたい」「手伝って」と伝えることが代わりの行動になります。イライラしたときに自分を叩くことが多い場合には、大好きなクッションを抱える、スクイーズを握る、静かな場所へ移動するなど、その子が落ち着きやすい安全な方法を一緒に探します。
そして、安全な方法を使えたときには、「休みたいって言えたね」「自分で落ち着く方法を使えたね」と認めてあげます。
危険な行動をただ止めるのではなく、安全な行動へ少しずつ置き換えていく。これも行動療法の大切な考え方です。
医療でできること
頭を叩いてあざができる、腫れてしまう、出血するほど皮膚を傷つける、自分を強く噛む、行動の頻度や強さが増えている、家庭だけでは安全を守ることが難しい――こうした場合には、医療機関や専門機関に相談するとよいでしょう。
また、同じ「頭を叩く」という行動でも、医学的には同じものとは限りません。ASD(自閉スペクトラム症)などに伴う常同行動として経過をみられることもあれば、生活への支障や自傷を伴う場合には「常同運動症」として介入の対象と考えることもあります。また、「チック」の症状の回でご紹介したチック症など、別の症状として捉える場合もあるかもしれません。
また、同じ「頭を叩く」という行動でも、医学的には同じものとは限りません。ASD(自閉スペクトラム症)などに伴う常同行動として経過をみられることもあれば、生活への支障や自傷を伴う場合には「常同運動症」として介入の対象と考えることもあります。また、「チック」の症状の回でご紹介したチック症など、別の症状として捉える場合もあるかもしれません。
「やめたいのに出ちゃう」チック・家庭での対応とCBIT/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
医療機関では、行動の特徴や発達の様子、生活への影響などを整理し、その子に合った対応を考えます。環境調整や行動療法を行うほか、症状が強い場合や背景に別の問題がある場合には、薬物療法を検討することもあります。
まとめ
繰り返す動きがあるからといって、すべてを止める必要はありません。大切なのは、その行動によって本人が傷ついたり、生活に困ったりしていないかを見ることです。自分を傷つける行動があるときには、まず「安全をつくる」。そして、安全な方法へ少しずつ置き換えていきましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。