発達障害児童のための通級指導教師の増員に向けた署名キャンペーン、その背景は?

ライター:発達ナビ編集部
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先日、発達障害児童のための専門的な教員を増やすための、文部科学省に向けた署名キャンペーンがインターネット上でスタートしました。このコラムでは、今回のキャンペーンの背景にある、障害や困難のある生徒児童を取り巻く状況と、学校教職員の配置・育成に関する政策動向をおさらいしてみます。

発達障害のある子どもの保護者たちが始めた、署名キャンペーン

先日、発達障害児童のための専門的な教員を増やすための、
文部科学省に向けた署名キャンペーンがインターネット上でスタートしました。
発達障害のある子どもの保護者たちが始めた、署名キャンペーン
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「change.org」署名キャンペーン: 発達障害の子どもの個性に合った教育を!学校現場で専門の知識を持った先生を増やしてください!
https://www.change.org/p/%E6%9D%BE%E9%87%8E%E5%8D%9A%E4%B8%80%E6%96%87%E9%83%A8%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E8%87%A3-%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E5%80%8B%E6%80%A7%E3%81%AB%E5%90%88%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%95%99%E8%82%B2%E3%82%92-%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%8F%BE%E5%A0%B4%E3%81%A7%E5%B0%82%E9%96%80%E3%81%AE%E7%9F%A5%E8%AD%98%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%85%88%E7%94%9F%E3%82%92%E5%A2%97%E3%82%84%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84?utm_source=h-navi_mail_magazine&utm_medium=email&utm_campaign=20161012_mail_magazine
発達障害の小学校6年生の男の子を持つ親です。
小学校入学時からずっと、発達障害児向けの通級指導のクラスに入れず、4年間「待機児童」となっていました。他に優先すべきお子さんが沢山いて空きがないと言われ続け、この2年間は申し込みすら諦めました。仕方なく通常学級のみに通わせていますが、周りのお子さんに興味はあるけどコミュニケーションの取り方が分からない我が子は、これまで沢山苦労してきました。1年生の時から待ち続けて、気付けば今年で小学校卒業です。
出典:https://www.change.org/p/%E6%9D%BE%E9%87%8E%E5%8D%9A%E4%B8%80%E6%96%87%E...
このキャンペーンは、発達障害のあるお子さんのいるご家庭保護者の方々有志によって呼びかけられています。

学習や行動面に困難がある子どもを個別にサポートする手段として、「通級」による取り出し授業も重要な選択肢の一つですが、このキャンペーンのエピソードのように、通級指導教室のニーズに対して空き枠や教員数が足りず、「待機児童」が発生している学校や地域も少なくありません。

発達が気になる子どもたちの学びの機会を保障・拡充していくべく、「LITALICO発達ナビ」としてもこのキャンペーンを応援しています。

このコラムでは、今回のキャンペーンの背景にある、障害や困難のある生徒児童を取り巻く状況と、学校教職員の配置・育成に関する政策動向をおさらいしてみます。

通常学級で困難を抱える子どもたちへの支援を取り巻く現状

「6.5%」

この数字に見覚えのある方、この数字が何を指すかご存知の方はおられますか。

これは、通常学級の中で、知的発達に遅れはないものの学習・行動面で著しい困難を示す生徒の割合の推計です。

2012年に文部科学省によって行われた、全国の小中学校の児童生徒約5万3千人の状況を対象にした調査結果で示されたもので、以来、発達障害のある子どもの教育・支援政策を議論する上での重要な前提指標となっています。

調査では、
①学習面(「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」)
②行動面(「不注意」「多動性-衝動性」)
③行動面(「対人関係やこだわり等」)
の3点について質問紙が配布され、担任教員が学級の児童生徒の状況について回答しました。

6.5%ということは、たとえば30人学級であれば、1クラスにつき約2名の子どもは、勉強や行動・コミュニケーションで大きな「困り」があり、なんらかの支援を必要としているということになります。

こうした通常学級の子どもたちの困難を解消する手段として、「通級指導教室」という、自分の苦手なことに合わせた個別の支援・指導を受けられる少人数の教室が存在します。

通級指導の対象となった子どもは、授業時間割の一部は通常学級を抜けて通級教室に通い、個別の支援・指導を受けることができます。
現在の通級の制度
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ただし、通級指導教室は現状全ての小・中学校に設置されているわけではなく、通級がない学校で通級指導の対象となった子どもは、近隣の学校の通級教室に移動して授業を受けることになります。

こうした事情もあり、2012の同調査でも、困難が大きいとされた6.5%のうち、「現在、通級による指導を受けていない」児童生徒は93.3%に上るという結果が出ています。

さらに、これら「現在、通級指導を受けていない」児童生徒のうち97.4%は、「過去、通級による指導を受けたことがない」ということです。

冒頭の署名キャンペーンにあるように、複数年にわたって通級待機状態にある子どもたちも決して少なくないと言えます。
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課, 「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」, 平成24年12月5日
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328729_01.pdf

通級指導員を10年で10倍へ―文科省の予算要求とその実現可能性は?

次に、先日提出された、文科省による2017(平成29)年度概算要求を見てみましょう。
文部科学省初等中等教育局, 「2017(平成29)年度概算要求」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/08/30/1376640_3.pdf
上に述べたような通常学級の子どもたちを取り巻く状況を受けて、通級指導に関わる教員の増加に注力した予算要求が提出されています。

1) 教員対子ども比率が現在の13:1から10:1になるように、教員数を追加で10年間にわたって毎年890名増やすこと
2) 増加教員を加配ではなく基礎定数化すること

の2つが大きな柱です。

1つ目の増員目標ですが、これは、通級指導教員を今後10年で10倍に増やしていくという方針を示した数値です。

少子化の進展により、日本の学校の児童生徒数全体は減少傾向にありますが、発達障害に対する認知の向上や、個別の支援を必要とする子どもたちの早期発見体制が整ったことなどもの要因もあり、通級指導の対象となる児童生徒は、この10年で約2.3倍に増加しました。
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文部科学省, 中央教育審議会資料, 「教職員定数に関する考え方①」より抜粋引用
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今後もこうした個別の支援に対するニーズは拡大していくと思われ、専門的な個別の支援・指導が行われる通級指導教員の増員が目指されています。

次に、通級指導教員を「基礎定数化」するとはどういうことでしょうか。

これまで、通級指導教員は、「加配定数」という扱いで、毎年の予算折衝ごとに人数が決められていました。これを、通級の対象児童生徒人数に応じて、教員の必要人数を機械的に算出する「基礎定数」枠に変更することで、安定的・計画的な教員採用・配置を出来るようにするという狙いのようです。
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文部科学省, 「次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)」より抜粋
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一方、今回提出された予算要求については、財務省との間で考え方の相違があり、交渉は難航しているとの見方もあります。
これに対して、財務省は、通級指導と日本語指導の教員定数を基礎定数に組み入れることには賛成しているものの、加配定数の増加は認めない考えです。少子化による児童生徒数減少で、放っておいても、これから基礎定数は減少していき、そのうえで加配定数の増加を認めなければ、教員数全体を大幅に削減できる……という狙いです。つまり両省は、基礎定数の変更までは同じ方針でも、その後の加配定数の扱いについては、まったく別の考え方を持っているわけです。

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「ベネッセ 教育情報サイト」, 小中学校の先生の数はどうなる 「定数構想」めぐり攻防か, 2016/10/11公開, 2016/10/13最終アクセス
出典:http://benesse.jp/kyouiku/201610/20161011-2.html
通級指導教員を定常的に確保し増やしていくための予算が確保できるかどうかは、この秋の予算交渉が正念場となるようです。
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