発達障害と医療、新しい薬や治療法の情報をどう受け止めれば良い?-児童精神科医・吉川徹(10)

ライター:吉川徹
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児童精神科医の吉川徹です。「発達障害と医療」をテーマに連載をしています。最終回である第10回は、新しい医療情報との付き合い方についてです。医療領域の新しいニュースに一喜一憂することもあるかと思いますが、上手に付き合うには何に気をつければよいのでしょうか。

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執筆: 吉川徹
愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長
あいち発達障害者支援センター副センター長
子どものこころ専門医
日本精神神経学会指導医・専門医
日本児童精神医学会認定医
児童精神科医。発達障害を中心とした子どもの精神医療に長く従事するとともに、行政機関や親の会などと連携した活動にも取り組んでいる。

医療は日進月歩。その進歩はニュースになりやすい一方で…

医療は日進月歩です。他の領域に比べて、新しい発見や新開発の治療法の情報がニュースになりやすいのは、医療領域の一つの特徴であると言えるでしょう。けれども本人やご家族は、その新しいニュースを見聞きする度に一喜一憂することになります。

また、ニュースで報じられるような新しい治療法は、受けられる機関がとても限られています。本当に新しいニュースを追い続ける必要は果たしてあるのでしょうか。

医療で採用される新しい診断法、治療法などは、とても慎重に、何度もその有効性と安全性が確かめられてから、一般的な医療機関に採用され、また日本では健康保険が適用され、安価に利用できるようになります。この数年でも発達障害に含まれる障害に対して、新しく正式に適応が承認されたお薬がいくつかあります。

その一方で、ニュースになった多くの新しい発見や治療薬は、まだまだ開発のごく初期段階に留まっているものがほとんどです。その後の研究の中で、実はあまり有効ではないことがわかったり、思ったより安全ではなかったりすることがしばしばあります。自閉スペクトラム症の領域では、これまでにも数多くの薬剤が颯爽と登場しては消えていくという経過を繰り返しています。

こうした新しい診断法や治療法に期待することは悪いことでありません。また新たな方法の開発を担当するような医療機関に通院している方には、ぜひその研究に協力していただいて、新しい支援の道を開くことを助けていただきたいという思いもあります。

けれどもそれはむしろボランティア、社会貢献という位置づけです。残念ながら本人やご家族に利益をもたらすとは限らない、それが研究途上の新しい医学的手法なのです。

サプリメントを使っても良い?判断の基準は安全性・コスト・併用可能性

もう一つ、残念ながら現在の日本の状況では、医学による厳密な効果や安全性の検討を受けない、あるいはあえてそうした検討を避けて、宣伝されたり使われたりする物質や薬物も少なくありません。医師の処方箋を必要としない多くのサプリメントや薬物などが、発達障害への有効性を謳って、あるいはより巧妙にそれをほのめかして宣伝されていたりします。診察室でそうした物質を使ってみてもよいか、相談されることもしばしばあります。

自分の場合にはこのようなとき、それがかなり安全であることがはっきりしていて、家計の負担になるほど高価ではなく、標準的な他の支援を受けることを妨げないのであれば、それを使ってみることを検討してもよいのではないか、とお伝えしています。

このうち、安全であることを確かめるのは実はなかなかやっかいです。物質そのものは安全そうであっても、製造過程で混じり物がないかどうか、そもそも能書き通りの物質が含まれているのか、それを確かめるのはなかなか難しいことも多いのです。

またこうした有効性と安全性の検証を経ていない治療法というのは、実はお薬に限りません。心理社会的介入と呼ばれるような薬物以外の様々な支援の中でも、しっかり研究が進められているものと、確からしい証拠がほとんど見つからないものが、世の中で入り混じっています。このときにも判断の原則は、安全性、価格や時間などのコスト、標準的な支援との併用可能性ということになります。貴重な時間やお金、気力や体力を上手に使っていくためにも、筋のよい情報を収集することが必要ですね。

迷ったときは、主治医に相談を。これからも上手に医療と付き合って

全ての医師がこうした、標準的な医療以外の支援に詳しいわけではありませんが、迷ったときに主治医に相談してみるのは、悪くないかもしれません。そして主治医がまったくそれを知らなかったら…、それはその方法についてほとんど研究が進んでいない証拠かもしれません。

さてここまで10回の連載では、医療による支援そのものの詳しい説明ではなく、どのようなスタンスで医療とつきあってゆくと物事がうまく進みやすいのか、できる限り踏み込んで書いてみました。

実は自分のスタンスは必ずしも平均的な医師とは重ならないところもあるかもしれず、そこはたいへん申し訳ないのですが、皆様の今後の医療サービスの利用に際して、少しでもご参考にしていただけたらとても嬉しく思います。
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