ICD-10、ICD-11とは?ICD(国際疾病分類)の概要、DSMとの違いなどについて解説します

ライター:発達障害のキホン
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2018年6月、 WHOはICD-11を公表しました。そもそも「ICD」とはどんな目的で作成され、どんな目的で使用されるのでしょうか?この記事では、WHO(世界保健機関)が作成する「ICD」を取り上げ、現在使用されているICD-10の概要や日本での使われ方、ICD-11導入について、またDSMとの違いなどについて解説します。

目次

ICD-10、ICD-11とは?

ICDはWHOによる「国際疾病分類」

ICDとは、国際連合の専門機関の一つであるWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類です。

正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」といいます。略称である「国際疾病分類」が使用される場合もあります。

WHOがICDを作成する主な目的は、病因・死因を分類し、その分類をもとに統計データを体系的に記録し、分析することです。そのため、日本でもICDに基づいた病因・死因の統計がとられています。

病因・死因の分類と統計の他にも、統一的な診断概念・診斷基準を提示するという目的もあります。特に、精神障害セクションについては、改訂を重ねるにつれて、
「単なる死因分類にとどまらず、共通の基盤にもとづく臨床診断の必要性が高まった」

中根允文・岡崎祐士/著『ICD-10「精神・行動の障害」マニュアル──用語集・対照表付』(医学書院 ,1994)P. 15より引用
出典:http://amzn.asia/cJPlNt7
と言われており、診断のための分類という側面の比重が大きくなっています。

ICD-10からICD-11へ

1900年に第1版が出版されて以降10年ごとに改訂され、ICD-10は1990年に採択された第10版となります。疾病概念や分類は、医学の進歩によって変化します。そのためICD-10は、採択後も数年おきに一部改訂が行われています。

WHOは約30年ぶりとなる最新版への全面改訂を行い、2018年6月にICD-11が公表され、2019年5月に世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。改定版では、最新の医学的知見が反映されています。また、死亡・疾病統計の国際比較に加え、臨床現場や研究など様々な場面での使用を想定し、より多様な病態を表現できるようコード体系が整備されています。

WHOでの公表・承認を受けて、各国では翻訳やICD-10/11 変換表の作成、疾病分類表、死因分類表の作成などの作業が進められ、審議、周知などを経て施行されていきます。なお、ICD-11への改訂によって分類コードが変化すると、書類上で要求されるICDコードが変わったり、疾病概念やカテゴリー、名称や診断基準も変更になる可能性もあります。
ICD-11 | 世界保健機関(WHO)
https://icd.who.int/en/
国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました | 厚生労働省(2018年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000211217.html
本記事では、現在使用されているICD-10を中心に解説します。

ICD-10の内容は?

どうやって分類されるの?ICDコードとは?

ICDでは、身体疾患から精神障害にわたって網羅的な分類を設定し、「ICDコード」と呼ばれるコードを付与しています。以下の表は2003年改訂版ICD-10における「ICDコード」と「分類見出し」の対応リストです。
ICDコード:分類見出し
A00-B99:感染症および寄生虫症
C00-D48:新生物
D50-D89:血液および造血器の疾患ならびに免疫機構の障害
E00-E90:内分泌、栄養および代謝疾患
F00-F99:精神および行動の障害
G00-G99:神経系の疾患
H00-H59:眼および付属器の疾患
H60-H95:耳および乳様突起の疾患
I00-I99:循環器系の疾患
J00-J99:呼吸器系の疾患
K00-K93:消化器系の疾患
L00-L99:皮膚および皮下組織の疾患
M00-M99:筋骨格系および結合組織の疾患
N00-N99:尿路性器系の疾患
O00-O99:妊娠、分娩および産じょく<褥>
P00-P96:周産期に発生した病態
Q00-Q99:先天奇形、変形および染色体異常
R00-R99:症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの
S00-T98:損傷、中毒およびその他の外因の影響
V00-Y98:傷病および死亡の外因
Z00-Z99:健康状態に影響をおよぼす要因および保健サービスの利用
U00-U99:特殊目的用コード
出典:ICD10 国際疾病分類第10版(2003年改訂)|標準病名マスター作業班
http://www.byomei.org/
以上の表のように、ICD-10では疾患の類似性によってA~Uの大分類が設定されています。

例えば、発達障害に関係する障害は、主に「F00~F99 精神および行動の障害」に見つけることができます。さらに例として、自閉症について見てみると、「F80-F89 心理的発達の障害」>「F84 広汎性発達障害」>「F84.0 小児自閉症」のように分類されていることがわかります。

他にも、知的障害の場合、「F70-F79 精神遅滞[知的障害]」の中で程度や症状によって「F70 軽度精神遅滞[知的障害]」や「F73 最重度精神遅滞[知的障害]」といった異なるコードが与えられています。
融道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗/監訳 『ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院, 2005)
https://www.amazon.co.jp/dp/4260001337

一般的な病名と違う場合があるのはどうして?

ICDの疾病分類は、日常的に使用されている病名や医師が使用する診断名とは必ずしも一致しません

例えば、日常的に使用される「うつ病」という言葉に完全に一致するコードはICD-10上にはなく、代わりに「F32 うつ病エピソード」や「F33 反復性うつ病性障害」、「F41.2 混合性不安抑うつ障害」など、複数の「うつ」という言葉を使用したコードがあります。
出典:融道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗/監訳 『ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院, 2005)
https://www.amazon.co.jp/dp/4260001337
そのため、神庭重信氏が、
今日の日本で「うつ病」という場合は、国際診断ではどの病名を指すのか、を決めなければならなくなったのである。

神庭重信(2012)「DSMは進化するか」『精神神経学雑誌』第114巻第9号1009頁(日本精神神経学会/刊)より引用
出典:https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140091009.pdf
と指摘するように、専門家の間でも日常語とICDの対応関係が議論されているようです。

診断名とICDの関係については、厚生労働省のパンフレット「ICDのABC」にわかりやすい例が挙げられています。このパンフレットでは、医師が診断名として「無顆粒球症」と「薬物誘発性好中球減少症」を区別して使用する場合が例示され、どちらの診断名もICD-10ではD70としてコードされることが指摘されています。

ICDでは、統計的にこれら2つの病態は同じグループに入れてもよいと判断されるため、2つの診断名が区別されません。
出典:厚生労働省大臣官房統計情報部『ICDのABC 平成27年度版』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/dl/icdabc_h27.pdf

ICD-10はどこで使われているの?いつ必要になるの?

日本では、主に病院での診斷・診療録管理システム、省庁の制度・統計で使われています。

病院での使われ方

病院では、医師による診断や、診療録の管理システムにICD-10が使用されています。診断での使用は、特に精神科領域で行われています。

ただし、必ずしもすべての医師がICDの診断基準を用いているというわけではありません。ICDではなく、アメリカ精神医学会が作成するDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)が使用される場合もあれば、どちらも使用されていない場合もあります(ICDとDSMの違いについては後の項目で説明します)。

ICDやDSMといった国際的な診断基準が日本に普及したのは最近のことです。そのため、日本ではそれ以前から用いられてきた診断基準を用いない伝統的な診断方法と、診断基準を用いた診断方法が併用されています。 
 
診断基準の使用状況について、東京女子医科大学医学部の坂元薫教授が日本精神科診断学会の会員である精神科医たちに対して行った調査があります。この調査では、診断基準を用いた診断を主に使用しているという回答は10%、診断基準のみを用いているという回答はわずか3%でした。

つまり、多くの医師は診断基準を用いた診断方法と伝統的な診断方法を併用しており、診断基準のみを用いている医師はほとんどいないということです。

さらに、回答者の73%は日本特有の伝統的な診断方法を積極的に使用すべきだと回答していたことから、ICDやDSMが普及した現在でも、伝統的な診断方法の医師からの支持率は高いことがわかります。

精神科診断では、ICDやDSMといった明確な基準が一律に採用されているのではなく、私たちが思っている以上に色々なやり方によって行われているようです。
出典:Sakamoto, K. , ‘Views of Japanese Psychiatrists on Making Diagnoses: Clinical Use of Conventional Versus Operational Diagnostic Criteria, ’ 『東京女子医科大学雑誌』86: E38-E47, 2016.
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005746436/

省庁での使われ方

省庁では、厚生労働省がICD-10準拠の「疾病、傷害及び死因の統計分類」を作成し、死亡統計や疾病統計といった統計調査を行っています。

また、法律上で定義される疾病・障害の範囲も、ICD-10準拠で定められます。例えば、発達障害者支援法に定義される「発達障害」は、厚生労働省・文部科学省連名事務次官通知によって、以下のように定められています。
脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)」に含まれる障害であること

出典:発達障害者支援法の施行について|文部科学省
出典:http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06050816.htm

ICDコードはいつ必要になるの?

読者のみなさんがICDコードを必要とするのは、書類の提出の際です。ICDコードは、障害年金や障害者手帳の申請の際に提出する診断書に記入欄があります。

また、家族が死亡したときに発行される死亡診断書にもICDコードが記載されます。

その他には、民間の保険会社に提出する診断書にもICDコードが要求される場合があります。
次ページ「どうやってICD-10の原文を見るの?コードの調べ方は?」

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