なぜリストカット(リスカ)をする?正しい理解と自傷行為のループから抜け出す方法など【松本俊彦氏監修】

ライター:発達障害のキホン
なぜリストカット(リスカ)をする?正しい理解と自傷行為のループから抜け出す方法など【松本俊彦氏監修】のタイトル画像

自傷行為とは精神的な苦痛などを和らげるために、自らを死なない程度に傷つける行為で、多くは10代~20代に見られます。自傷行為には「リストカット(リスカ)」などの方法があり、本人がやめたいと思っていてもなかなかやめられません。この記事では、自傷行為と自傷行動、自殺行為との違いや、自傷行為の理由、抜け出すための方法、自傷行為を見つけた場合の周囲の関わり方などを詳しく説明します。

監修者松本俊彦のアイコン
監修: 松本俊彦
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長
精神科医として、自分を傷つけずにはいられない若者たちの治療・支援を行っている。特に薬物依存症に関する啓発や治療法の開発・普及、ならびに、自傷や自殺予防に関する支援のあり方に関する研究をしている。
目次

自傷行為とは?自傷行動、自殺行為との違い

自傷行為とは?なぜ自傷行為を行うのか

自傷行為とは、ネガティブな気分を軽減する、人間関係のトラブルを解決する、ポジティブな気分になるといったことを期待して自分の体を意図的に傷つける行為です。

自傷行為の代表的な行為のひとつに、リストカット(リスカ)があります。リストカット(リスカ)とは、かみそりなどの刃物で自身の手首を傷つける行為のことです。

リストカット(リスカ)以外にも自傷行為の方法は多数あり、人によって異なります。
自傷行為の例としては、下記のようなものも挙げられます。
・鉛筆や針を腕に刺す
・消しゴムで繰り返し皮膚をこすって、やけどをつくる
・火のついたたばこを皮膚に押し付ける
・自分を叩いたり、頭を壁にぶつけたりする
・薬を過剰に飲む
・治りかけた傷口をこする など

こういった自傷行為は、「構ってもらいたいためのアピール」「誰かの気を引くためにやっている」と誤解されることがあります。しかし、実際には誰かに助けてもらいたいのにそれができずに一人で解決しようとしているのが自傷行為であると考えられています。

また、「自分を傷つける行為」は、10代〜20代に多いリストカット(リスカ)などをはじめとする自傷行為と、中・重度の知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の方が壁に頭を打ち付けるなどの強度行動障害として理解されている自傷行動などがあります。
今回の記事では、前者の自傷行為について紹介していきます。

自傷行為、自傷行動、自殺行為の違い

自傷行為と自傷行動の他にも、自殺行為という言葉を聞いたことがあるかもしれません。まず、それぞれの違いについて説明します。

自傷行為と自傷行動は英語表記では同じで、英語圏ではこれらを必ずしも使い分けてはいません。ただ、それぞれの背景にある病態や対応法が異なるため、日本語表記では現状「自傷行為」と「自傷行動」を使い分けています。

自傷行為:自殺以外の目的で、不安や緊張などの感情から逃れるために自身の身体を傷つける行為。10代、20代に多く見られます。

自傷行動:知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)の方などが行う、強度行動障害中で、自分自身を傷つける行動のことを称して用いられることがあります。障害の特性と周囲の環境がうまくマッチせずに、嫌悪感や不信感を強めた結果、自分を傷つける行動のことを指します。中重度の知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の方に多く見られます。

自殺行為:結果として死に至るか否かを問わず、命を絶つ死ぬことを意図したうえで自身を傷つける行為。

このように、それぞれの行動で原因や目的に違いがあります。
参考:強度行動障害がある人|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000069196.pdf

自傷行為のメカニズム

なぜ痛い思いをしてまで自傷行為をするのでしょうか。

リストカットをはじめとする自傷行為は周囲の関心を集めたり、周囲に自分の状況をアピールしたりするために行われるのではないかと考えがちです。しかし、自傷行為は必ずしも周囲の人へのアピールのために行われているとは言えません。

◇不快感情の軽減のため

自傷行為の一つの要因として、自傷行為をすることによって脳内物質が分泌されて、耐え難い痛みに対する鎮静効果が期待できるからではないかと言われています。

何か解決が困難な問題があり、非常につらい思いや苦痛を感じていたとします。このような時にリストカット(リスカ)などの自傷行為をすると、血液中にエンケファリンや β-エンドルフィンという脳内物質が分泌されます。この脳内物質が苦痛への鎮静効果となることから、身体への痛みがありながらも自傷行為を選択すると考えられています。

ここで注意しなければならないのが、自傷行為にも「慣れ」と「依存」があることです。例えば、リストカットを繰り返すうちにだんだんと刺激に慣れてきて、頻度が増えたり、より深い傷をつけたりするようになる場合があります。

◇自己懲罰的な自傷行為

また、自己懲罰的な意味合いでの自傷行為もあると考えられています。
例えば、自分の理想や親の期待に対して現実が追いつかないなどうまくいかないときに、「自分はどうしてこんなこともできないんだ」と自分に腹を立てた結果、自傷行為に至ることがあります。
参考:自傷行為の理解と援助|松本俊彦
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140080983.pdf

自傷行為のループから抜け出す2つのステップ

自傷行為をする人の中には、他人に迷惑をかけていないのだからやめなくてもいいと考えている人もいます。

確かに、自傷行為は自殺の意図が含まれていない行為だとされています。しかし、自傷行為を繰り返すことで生じる問題もあります。

まず、自傷行為は一時しのぎの方法であり、抱えている問題の根本解決にはならないということです。そして、自傷行為を繰り返していくうちに、痛みへの耐性ができ、どんどん行為がエスカレートしていくことがあります。

最初のうちは「このくらいなら」と考えていても、自傷行為の連鎖は本人にもコントロールができなくなり、さらにつらい思いをすることになります。そのため、自傷行為のループから抜け出していくことは大切だと言えます。

この章では、具体的に自傷行為をやめるための2つのステップを見ていきましょう。

1.【トリガー分析】何が自傷行為のきっかけになっているか調べる

人それぞれ自傷行為をする状況が異なるため、まず第一にどのような状況になると自傷行為をしてしまうのか特定することを目指します。

自傷行為が日常生活の一環になってしまっていると、どのような状況で自傷行為をしているのか説明することが困難になります。

本人の説明に頼ることなく、トリガー(引き金、要因)を特定するために日々の生活を記録するといいでしょう。例えば、自傷行為日記をつける方法があります。自傷行為をしたタイミングやどこにいたのか、誰といたのかなどの情報も一緒に記録しましょう。

2.【置換スキルの習得】自傷をほかの行動に置き換える

自傷行為をやめるためには、トリガーを取り除くか、心理的な苦痛を自傷行為以外の方法で解消できるようにする必要があります。置換スキルというのは、心理的な苦痛を棚に上げて回避する方法ではなく、一時的に心理的な負担を軽くして根本的な問題と向き合うために行われる方法です。

◇刺激的な置換スキル
身体への刺激を普段の自傷行為からより安全なものに置き換えることで、気をそらす方法のことです。以下のようなやり方があります。

・スナッピング…手首に輪ゴムをはめて、輪ゴムで皮膚をはじくことで、自傷行為の衝動に駆られたときに意識を切り替えます。

・香水をかぐ…刺激的な香水の香りで、気持ちを切り替えます。

・腕を赤く塗る…リストカットをしている方の中には血の色を見ることで安心するとお話される方がいますので、そういった方の場合に有効なことがあります。

・大声で叫ぶ…大声で叫ぶことで、自傷したい衝動を抑えます。

・トレーニングをする…筋トレなどのトレーニングをし刺激を得ることで、自傷行為から気をそらします。

◇鎮静的な置換スキル
鎮静的な置換スキルは、自傷行為の要因となっている不安や緊張といったネガティブな感情そのものを鎮めるようにする方法です。以下のような手法があります。

・マインドフルネス呼吸法
・イメージ瞑想法
・今の気持ちを紙に書く、絵を描く、楽器を演奏する、音楽を聴く など

マインドフルネス呼吸法などは練習が必要なこともありますので、医師などに指示のもと行っていくようにしましょう。
参考:自分を傷つけずにはいられない!─その理解と対応のヒント─|松本 俊彦
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/3/57_409/_pdf
参考:自傷行為の理解と援助|松本俊彦
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140080983.pdf
参考:自分を傷つけずにはいられない!~自傷行為の理解と対応~|松本 俊彦
https://do-hokenkai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/02/%E5%9F%BA%E8%AA%BF%E8%AC%9B%E6%BC%94.pdf

追加する

バナー画像 バナー画像

年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。