アスペルガーの娘が壊滅的に苦手な図形問題。そのワケをひも解いてみた

ライター:GreenDays
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小学四年生になった娘が図形問題でつまづくことが増えてきました。同じような特性を持つ私も図形問題で散々苦労してきましたが、苦手の原因は一体どこにあるのでしょうか?

似た者同士の母と娘、二人揃って図形問題が解けない!

アスペルガー症候群の診断がおりている9歳の娘は、言語IQが150を越えています。日々、ひっきりなしにお喋りをしたり、本を読み続けたり、頭の中にある言葉をパソコンに入力し続けたりしています。彼女の生活は言葉に埋めつくされていると言っても過言ではないほどです。

このような状態ですから、言葉で物事をとらえるのは非常に得意なのですが、一方で算数の図形問題で頭を悩ませることが増えてきました。図形問題にはほとんど文字情報がありませんので、まず見ただけで拒否反応を示します。

そして、1枚のプリントを終わらせるのに1時間以上かかるうえに、間違いを連発してしまうこともしばしばあります。そんなときは、自分を否定する言葉を吐きながら、目に涙を浮かべて問題と戦っているのです。

そんな娘と同じような特性がある私は、昔から図形の問題が壊滅的に苦手でした。算数の計算自体は得意でしたので、図形問題ができなくても、特に成績が悪くなることも問題視されることもなく、なんとかやり過ごしてきました。

私そっくりに生まれた娘には図形で苦労をさせまいと、算数のセンスがアップする!と謳われているオモチャや幼児教育の教材を取り入れてきたのですが、残念ながら娘にその効果が表れることはありませんでした。

私も苦手な分野なので、解き方を上手く娘に説明することができません。夫に「教えてあげて」とプリントを渡すと「え、これは図を見れば簡単にわかる問題でしょ?」と言われる始末。

どうして娘と私は、図形問題をスムーズに解くことができないのでしょうか?

空間認知能力が低いと算数にも影響が出る!?

図形の理解に必要なものの1つに「空間認知能力」が挙げられます。

空間認知能力とは、人や物の位置を立体的に把握する能力のことで、方角・距離・大きさ・広さなどを的確に理解し把握する役割を果たします。地図から目的地までの経路を探すのが得意な人や、山登りのルートなどを俯瞰して理解できる人は、この空間認知能力が高いといえるかもしれません。

逆に、この能力が低いとどうなるのでしょう?

自分と物との距離を上手く測れないため、自分の家の中であっても壁やドアに頻繁にぶつかってしまったり、お店に入って違う出口から出てしまうと帰る方向が分からなくなったりするのです。

そして、勉強の面でいえば、字を枠の中におさめて書くことができなかったり、筆算をする時に桁がずれてしまったり、手本を見ながら線を書き写せない、という問題が出てくるのです。
視空間認知って?「見る」ことのメカニズム・検査・強化するトレーニング法、発達障害との関連についてのタイトル画像

視空間認知って?「見る」ことのメカニズム・検査・強化するトレーニング法、発達障害との関連について

娘は、この空間認知能力の低さゆえに、表に出れば道に迷い、筆算をすれば桁がずれ、図形を見ても上手く全体像をとらえられないという問題にぶちあたっているのです。

問題を構成するひとつひとつの要素は理解できているのです。平行・垂直、同位角・錯覚、三角形の内角の和、多角形の内角の和の求め方。それぞれはわかっているのに、それがまとまった状態で提示されると、途端に混乱してしまうのです。

三角定規の一つひとつの角度は覚えていても、それが重なった状態の問題が出ると、娘の頭はショート寸前となり、自分だけの力で解くには膨大なエネルギーが必要となります。

読字障害で、言葉のまとまりを意味としてとらえることが困難なタイプがあるように、私や娘の場合それが図形で起こっているのかもしれないなと思うようになりました。

さらに気づいた「ワーキングメモリ」との関係

また私たち親子に共通するこの苦手さには、「空間認知能力」だけでなく「ワーキングメモリ」も関係しているのではないかと考えるようになりました。

ワーキングメモリは日本語では「短期記憶」や「作業記憶」と呼ばれています。何かを考えたり、作業を行ったりするときに必要な情報を一時的に置いておく場所であり、この情報を元に人は行動をするのですが、このワーキングメモリには「言語性ワーキングメモリ」と「視覚性ワーキングメモリ」があるそうです。

言語性ワーキングメモリ = 言語化できる情報を保持・操作する場所
視覚性ワーキングメモリ = 言語化できない情報を視覚イメージとして保持・操作する場所

そして、頭の中で映像や画像を思い描いたり操作したり、思考する場所を「視空間スケッチパッド」と呼ぶそうです。

私は医者でも学者でもありませんので、すべてをきちんと理解することも説明することもできませんが、脳の中にこのような領域があるのだと知ったことで、娘の困難さの原因が少しわかったような気がするのです。

おそらく、娘も私も言語性ワーキングメモリの領域は通常よりも多く、視覚性ワーキングメモリの領域はとても少ないのだと思います。

以前のコラムでも書きましたが、私は他人の顔を覚えることができません。大切なわが子の顔さえも、思い浮かべることができないのです。新たに出会った人について記憶する場合は、まずその人の名前を漢字で聞き、頭の中にその名前のラベルがついた文字情報を放り込んでいき、言葉で記憶するのです。
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愛するわが子の顔を思い出せない。それが発達障害の特性だと知り…

娘も他人の顔をおおざっぱにしか見分けられていないようで、「おじいさん」「若い女の人」などのくくりで人を判別しているため、テレビに出てくる人を近所の人だと言い張ったり、逆に道を歩いている普通の人を「絶対にあのドラマに出ていた俳優さんだ」と言ったりします。

これはおそらく、視覚性ワーキングメモリの領域が少ないため、視空間スケッチパッドに人の顔をきちんと展開することができないのが原因ではないでしょうか。

そして、視覚性ワーキングメモリの働きが弱いために、算数の問題に出てくる図形を全体像として頭に思い浮かべることができず、問題を解くための手立てを探すところまでたどり着けないというのが、図形問題が解けない原因になっているのかも知れません。
次ページ「親子で勉強することで生きるヒントが見つかるかも!」

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