視空間認知とは?発達障害との関連について

ライター:発達障害のキホン
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視空間認知とは、空間の全体的なイメージを把握するための能⼒であるといわれています。なお、「見る力」に関連する「視空間認知」「空間認識能力」「視覚認知」などの言葉は、はっきりとした区別や共通理解の得られる定義はなく、それぞれの分野や領域に応じて使われているのが現状です。
ここでは「見る力」に関連するさまざまな機能や、視空間認知の説明、トレーニング方法はあるか、発達障害との関連などをご紹介します。

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監修: 増本利信
九州ルーテル学院大学大学院 人文学研究科 障害心理学専攻 准教授
公立学校教諭を経て現職。学校現場では通常学級をはじめ特別支援学級、特別支援学校、LD/ADHD等通級指導教室にて支援にあたった。学校生活において困難さのある児童への支援のあり方について現場の経験知を元に研究を重ね、未来の教員を育成している。
目次

視空間認知とは?空間認知能力とは違う?

視空間認知とは、はっきりとした定義はありませんが、空間の全体的なイメージを把握するための能⼒だといわれています。目に入った情報の、空間内での位置や方向、大きさや距離感などを把握する能力のことを指すときに使われます。

目で捉えた映像は、そのままだと「点」「線」「色」などの単なる情報にすぎません。しかし、「3本の縦線」を見ると漢字の「川」であると捉えたり、平面である地図の情報を見て、自分の現在地がどこかを把握し、実際に目的地までたどり着いたりすることなどもできます。これらは視空間認知(視覚認知)の機能によるものだと考えられます。

目の構造や機能は生まれたときにはほぼできあがっていますが、視空間認知は発達とともに育っていきます。この機能は実際にものを見たり触ったり、興味のあるものを目でとらえて手を伸ばしたりと、空間の中で目や体を使う経験により発達すると考えられています。

空間認知能力

視空間認知と似た言葉として、「空間認知能力」があります。

空間認知についてもはっきりした定義はありませんが、目の前にないものも、周囲の状況から頭の中で視覚的なイメージを作り上げることができる、このイメージを頭の中で動かすことができ、という説明がされることがあります。

「見る力」に関連する「視空間認知」「空間認識能力」「視覚認知」などの言葉は、はっきりとした区別や共通理解の得られる定義はなく、それぞれの分野や領域に応じて使われているのが現状です。

視空間認知が成立するまでの「見る」ことのメカニズムって?

そもそも、私たちはどのようにものを「見て」いるのでしょうか。ものを見るためには、さまざまな機能が必要になります。視空間認知は、たくさんの「見る力」のうちのひとつの機能と言えます。

「見る力」と聞いてまず思い浮かべるのは視力でしょう。視力とは、物体の形や存在を捉える力のことで、6歳~8歳ごろまでには大人と同じくらいの視力になります。

しかし、「見る力」は視力だけでなく、「目からの情報を取り込む機能」「取り込んだ情報を処理する機能」「ほかの感覚や運動機能との連動」など、さまざまな力が関連しています。
見る力の図
見る力の図
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「見る力」は、「入力」「情報処理」「出力」という3つのステップから捉えることができます。この3つは関連し合っており、ひとつでも欠けてしまった場合には「見えにくさ」が生じることがあります。

1.【入力】…視力、調節力、眼球運動などの視機能
2.【情報処理】…目で見た情報を脳で処理すること
3.【出力】…視覚の働きと体の動きを連動させること

このうち視空間認知は「情報処理」の部分にあたります。ではこれから、私たちがものをどのように見ているのかのメカニズムを「入力」「情報処理」「出力」の3つのステップに分けてお伝えします。

1.【入力】視機能

【入力】にあたる「眼球運動」の図
【入力】にあたる「眼球運動」の図
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視機能は、外界からの情報を取り入れる入力系の働きを担い、視力、調節力、眼球運動などが含まれます。

眼球運動とは、視線を素早く動かしたり、対象を目で追ったり、目を寄せたり離したりする働きのことです。「入力」の部分にあたり、目の動きが適切に行えることで、目から情報を取り込むことができます。

眼球運動には、主に以下の運動があります。

◇ものを目で追う「追従性眼球運動」
一本の長い線や、本に書かれた文字をゆっくりと追いかける眼球運動のことです。見ているものの動きに合わせて滑らかに、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことです。また、何かに焦点を絞って見つめ続けることも、追従性眼球運動のひとつです。

例えば以下のようなとき、追従性眼球運動が働いています。
・飛んでいる飛行機を目で追う
・書き順を目で追う
・ものをじっと見る

◇視線をすばやくジャンプさせる「跳躍性眼球運動」
すばやく一点から別の一点へ視線を動かす眼球運動のことです。飛び石から飛び石へ視線を移していくというイメージが分かりやすいかもしれません。この眼球運動は、多くのものの中から必要な情報を早く、正確に見つけるために必要な働きです。

例えば以下のようなとき、跳躍性眼球運動が働いています。
・黒板とノートを交互に見る
・人ごみの中から探している人を見つける
・本を読む際、次の行に移る

◇両目でピントを合わせる「輻輳・開散運動」
普段意識することは少ないかもしれませんが、私たちは両目を使うことにより物の距離感や立体感をつかんでいます。

机の上にあるペットボトルを片目を閉じて握ってみてください。両目で見る時よりも距離感がとらえにくく、素早く正確に握ることが難しいのではないでしょうか。

私たちは、対象物との距離に合わせて、右目と左目の視線を変化させています。つまり、対象物に焦点を合わせるために、近くのものを見るときには両目を真ん中に寄せ、そして遠くのものを見るときには両目を離しているということになります。

これらの眼球運動を含めて視機能が正しく働くことにより、目から情報を取り入れる「入力」という第1ステップが完了します。

2.【情報処理】視空間認知

【情報処理】視空間認知の図
【情報処理】視空間認知の図
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「入力」された視覚情報は脳へ伝わり、「情報処理」のステップへと引き継がれます。情報処理のステップでは、以下のような力が関連しています。

◇形態知覚
先ほど紹介した「入力」がうまくいくと、見たい対象が映像として脳内に描かれることになります。さまざまな形や色などを脳内で組み合わせて、何かの形か?何であるか?を把握することが「形態知覚」です。

◇空間知覚
形態知覚と同時に、脳内では対象の空間的な位置関係を把握する処理も行われます。対象がどのくらいの距離にいて、どのくらいのスピードでどの方向に動いているのか、他のものとはどのような位置関係にあるのかなどを把握していく働きが、「空間知覚」です。

空間の全体像を把握する「視空間認知」は、この情報処理の段階にあたると言えます。

3.【出力】目と体のチームワーク

【出力】目と体のチームワーク
【出力】目と体のチームワーク
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第1ステップで情報を目で見て、第2ステップで脳の中で処理された情報をもとに、私たちは体の動きを連動させていきます。これは、「入力」「情報処理」の次のステップの「出力」にあたります。

「目と体のチームワーク」とは、視覚のはたらきと体の動きを連動させることです。例えば「人とボールを投げ合う」ことを例に挙げて考えてみましょう。

1.飛んでくるボールを目で追いかける(入力)
2.ボールが手元にやってくるタイミングを理解する(情報処理)
3.ボールを目で追いつつ、手を伸ばしてキャッチする(出力)

このように、視覚の情報をもとに体を動かしています。私たちは、これらの一連の動きを普段意識することなく行っています。このような「入力」「情報処理」「出力」を連動させる力は、心身の発達や活動を通して向上していきます。

視空間認知の力が弱い原因は?弱いとどうなる?

私たちは日常生活のさまざまな場面で視空間認知の機能を使いながら過ごしています。学習や集団での行動に困りごとがある子どもの中には、その背景に視空間認知の弱さがあることもあります。視空間認知に課題がある場合には、以下のような姿が見られることがあります。

例えば、

・指をさされたものをすばやく見つけられない
・ぶつかったり、つまずいたりしやすい
・人との距離が近すぎることがある
・音読の際に、読み飛ばしがある
・図形の問題や、表やグラフを理解することが苦手

視力の問題ではない「見る力」の問題は、子ども自身では気が付きにくく、周りもなかなか気付けないことが多いものです。「見る力」の弱さがあるときには、何が原因でどんなことに困っているのかを把握することが大切です。

発達障害との関係

「見る力」には個人差があり、その弱い部分によって、学習や生活上の困りにつながってくることもあります。学習における読み書きや計算などでも、「見る力」は大きく関わっています。「見る力」の弱さから、学習の取り組みに人一倍時間がかかることや、疲れやすくなる場合もあります。

発達障害の一つであるLD・SLD(限局性学習症)は、学習の習得に困難さがみられるものです。

・読むことやその内容を理解することの困難さ
・文字を綴ることや文章を書くことの困難さ
・数の理解や計算をすることの困難さ
など、大きく3つの分類があります。

LD・SLD(限局性学習症)は、その症状から「理解する機能」や「暗記する機能」に困難があると思われがちですが、学習に困難が生じる背景のひとつに「見る力の困難さ」がある場合もあると言われています。

視空間認知に関わる学習の困難さの例として、音読がスムーズにできない、文字の形が整わない、覚えることが難しいことなどが挙げられます。ほかにも「数字の桁をそろえる」が難しいために、2桁や3桁の筆算が苦手なケースなどもあります。
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