「ママ、20歳になったら胸を取る手術していい?」第二次性徴を迎えたアスペルガーの娘の言葉に母は、

ライター:ヨーコ
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アスペルガー症候群、ADHD、学習障害などといった発達障害のある子どもは、自分が女なのか男なのか、見た目ではわかってはいても、心の中の「自分はこうありたい」という漠然としたイメージと見た目の性別が違っていることもあるようです。だから、思春期になって体の違いがはっきりしてくると混乱することがあります。アスペルガー症候群のあるうちの娘の場合は…。

「ママ、20歳になったら胸を取る手術していい?」

アスペルガー症候群のある娘。彼女の第二次性徴は10歳ごろにやってきました。早くも生理が始まり、体つきがどんどん女性らしく変化していきます。

生理については私自身も人と比べて早い時期に始まったこともり、娘には生理が始まる前にネットで適切な情報を載せているサイトを探し、プリントアウトして手渡すようにはしていました。それは、反抗期がはじまっている娘にとって、そういった話を直接私から聞くことを嫌がっていたからでもあります。

生理が始まったときはすぐ報告してくれたので、手当ての仕方は繰り返し丁寧に教えることができました。それでもよく失敗しましたが、そのときの恥ずかしさは私も身に覚えがあったので、決して怒らず片付けて、余裕ができてきたら自分で処理する方法を教えると、本人も気が楽になったようです。

あと、体毛が生えてきたときなどもびっくりして「こんなの生えてきたけど大丈夫?」と一つひとつ確認してきたのを覚えています。


そんな娘にとっての一番の問題。それは、胸が大きくなることだったのです。娘は変わり始めた自分の胸を嫌悪していました。

「ママ、これ以上目立たないようにしたいからさらし買って」
「胸を小さくするにはどうしたらいいの?」
「どうしてもいやだったら手術を受けて胸取ってもいい?」

本人は真剣です。私もここは真剣に答えるべきだと判断しました。

「あなたが大人になって、よく考えたうえでやっぱり手術を望むのなら反対しないよ。手術したら元には戻せないからよく考えて決めようね。息子になったとしても私は受け入れるから。」

それを聞いて娘はホッとしたように笑顔を見せました。

性同一性障害の子どもたち

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その後、性的マイノリティなどに詳しいソーシャルワーカーにその話をしたら、「とてもいい対応だったと思いますよ」とのコメントをいただきました。

その理由は、身体の性と心の性が一致しない人は、そのことに気付かされたときに最大の精神的危機を迎えるからだそうです。

日本性教育協会が発行している「現代性教育研究ジャーナル」にもこのような内容を見つけました。
性同一性障害(Gender Identity Disorder: GID)とは、「生物学的性」(身体の性)と「性の自己認識:性自認」(心の性)とが一致しない状態であり、心の性は男性、身体の性は女性の female to male(FTM)と、心の性は女性、身体の性は男性の male to female(MTF)とがあります(1-6)。性指向が男性に向いているか、女性に向いているかは問いません。この点では、身体の性と心の性とは一致していて、性指向が身体の性と同じ性に向かう同性愛とは異なります。性同一性障害では自分の身体の性を強く嫌い、反対の性に強く惹かれた心理状態が続きます。
(現代性教育研究ジャーナル2013年No.29 )
出典:http://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_201308.pdf
思春期の MTF 当事者にとっては、ひげが生え、声が低くなることは恐怖です。また、FTM 当事者では、月経時には「自殺したい」「内臓を掻き出したい」などと話す方もいます。自殺念慮の発生も中学生の時期に1つ目のピークがあります。
(現代性教育研究ジャーナル2013年No.29)
出典:http://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_201308.pdf
「自分は何者なのだろうか」「これからどうなってしまうのか」という不安でいっぱいな子どもに対し、「あなたは何もおかしくない」というメッセージを、周りの大人から伝えてあげることが大切だというのです。

また、一時的に自分の性に違和感を持っても、それは性同一性障害とは限りません。成長とともに自身の性への違和感が解消されることもあるそうです。

中には発達障害の場合、性同一性障害と誤診されるようなケースもあると聞いたこともあります。

どのケースであれ、そのときに子どもが自分の性について違和感を持っているサインを出してきたら、決して頭から否定することなく「あなたはそう思っているんだね」と受け止めてあげたうえで、落ち着いて対処法を考えた方がいいのではないでしょうか。
注釈:「性同一性障害(Gender Identity Disorder)」はICD-11では「精神疾患」から外れ、「性の健康に関連する状態」という分類の中のGender Incongruenceという項目となりました。
※2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。

発達障害の子どもたちは性自認で混乱するケースも

発達障害を持つ子どもたちは、「なんだか自分は周りの人と違うようだ」「ここは自分の居場所じゃない」と感じることが多く、「自分がみんなの中に溶け込んでいる」と感じることはあまりないようです。それゆえに「自分は何者か」がわからず混乱してしまうことや、それが自分の性別の混乱につながることがあると聞いたことがあります。

たとえは、特性によって対人関係がうまくいかないことを「同性とうまくやっていけない」という風にとらえて、それが性別違和と思い込んでしまうケースもあるそうです。

私自身、小学生になってからすぐに女子の悪口、仲間はずれなどの洗礼を受け、うまく対応することができず「女は敵だ」と思い込むことによって自分の心を守っていました。

そんな自分の身体が「大嫌いな女」になっていくときの気持ちは屈辱的で、「女なんか嫌。男らしくなりたい。」と切実に願っていたことを思い出しました。

また発達障害の特徴の一つとして、「変化への対応に弱い」ということがあります。思春期の身体の変化はあまりにも早く、定型発達の子どもたちでさえバランスを崩す時期。発達障害の子どもたちには、なおのことつらい時期だといえるのではないでしょうか。

娘は背もあまり伸びず、どちらかというと子どもっぽい外見だったので、胸だけ変化してきたことをとても気にしていました。

「ママ、私の胸もいつかママみたいになってしまうの?」「こんな大きいのは嫌だ」と言われたことを覚えています。

それからどうやらネットで「胸が大きくならない方法」などのキーワードを検索したみたいで、そこから手術する方法などを知ったようです。男装専用下着などの知識も仕入れていました。(ただ、自分自身で情報を得るための行動を起こしたことで、本人にとってのは、それが精神の安定につながったように見ます。)

ただでさえも性同一性障害の診断は難しいと専門家も述べているのを聞きます。発達障害の子どもたちは困りごとも千差万別。だからこそ診断が難しいのでしょう。早々に性同一性障害を疑うよりも子どもの様子をよく見て、必要なようであれば専門家につながったらいいのではと私は思いました。
次ページ「女の子の発達障害特有の思春期の問題」

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