ダウン症の息子を育てる僕が、本当に父親になる日~父の日に寄せて~

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もうすぐ、父の日。わが家には、小学4年生になったダウン症の息子がいる。息子が生まれてから、親として妻とともに歩んできた。ある施設との出会いによって、「本当に父親になる日」について考えたことを書いてみたい。

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父になったことを感じる日

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脩平が小学校へ向かう様子
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もうすぐ父の日だ。父の日は自分が父親であることを感じる日。いつからぼくは父親になれたのだろう?いや、本当になれているのだろうか?

わが家には小学校4年生になった長男、ダウン症のある脩平(しゅうへい)がいる。朝、脩平が元気に家を出て、小学校へ向かう。そんな姿を見ると心からほっとする。

「学校へ行く」そんな簡単なことでさえも、困難な時期があったから。

起きない、着替えない、玄関にしがみつく、泣き叫ぶ…。一体、彼が何につまずいているのか、親として何をしてあげたらいいのか。夫婦でさまざまなことを話し合い、時には迷いながら子育てをしてきた。

わが家の、夫婦の役割分担

妻は出版社に勤務し、書籍の編集者をしている。ある日、取材先から帰ってきた彼女が言った。

「あそこで脩平が働けたらいいな」

妻がそんなことを言ったのは初めてだったので驚いた。というのも、脩平の障害が判明してから、僕と彼女とでなんとなく役割の区分が違ったのだ。

僕は父親として、どちらかというと、子どもの「遠い将来」を考えて活動をしてきた。障害者を取り巻く社会環境を変えたい、将来、自分の子に選択肢を増やしてあげたい。そんな思いから、アクセプションズというダウン症啓蒙のためのNPOに携わっている。

一方妻は、日々の子どもの世話を通して、教育環境を整えたり、地域コミュニティでの理解に尽力している。つまり、子どもの近い将来を考えた活動だ。

と、そんなふうに書くと僕も妻も、なんとも素晴らしい親のように聞こえてしまうかもしれないが、そんなことはない。実のところ、共働き夫婦の僕たちは、目の前の子どもの世話や教育で毎日がいっぱいいっぱい。
とくに妻などは戦場のような毎日で、脩平の将来などまだまったく考えられないし、就労なんて想像さえできないという状態。だから、そんな彼女が突然、口にした言葉に驚いたのだった。

その日、彼女が本の取材で訪れたのは、栃木県足利市にある『こころみ学園』。何がそんなに妻の心を動かしたのだろうか。

妻の心を動かした、こころみ学園とは?

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こころみ学園、ココ・ファーム・ワイナリー
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こころみ学園とは、1969年、栃木県足利市に誕生した知的障害者施設のこと。

当時、中学校を卒業すると行き場を失っていた知的障害のある子どもたちのために、教師だった川田昇先生が私財をなげうって山を購入し、子どもたちとともにぶどう畑を開墾したのがすべての始まりだった。

僕も以前、NPO法人アクセプションズでココ・ファーム・ワイナリー(こころみ学園と併設)へ見学にいったことがあった。こころみ学園では、知的障害のある園生たちが住み込みの形で、ぶどう栽培やしいたけ栽培、ワインづくりをしている。
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アクセプションズで作成した見学用資料
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学園開設当時、「障害があるのだからおまえは何もしなくていい」と親に言われ、「何もやりたいことなんかない」と言っていた子どもたち、白魚の手をしていた子どもたちが、大自然の中で格闘しながら農業をするうちに、たくましく、したたかな農夫へと変わっていったという。

そして、そこで栽培されたぶどうで丁寧につくったワインは、やがて沖縄サミットにも出されるほどの日本を代表する高品質のワインになった。

夫婦の考えを変えた農夫たちの姿

見学に行く前、そうは言っても農業なんて大変だろうと、都会暮らしに慣れた僕は考えていた。でも、そこで働く知的障害のある人々の屈託のない笑顔を目の当たりにして、180度考えが変わった。

妻もまた、別の日に取材で初めてこころみ学園を訪れたわけだが、「それぞれができる仕事を、それぞれが自主的にやる」という学園の自然体な働き方と、そこで働く人々の姿にピンと来るものがあったようだ。

妻が編集した、学園についての本

そして著者との二人三脚で完成した本がこれだ。
ぶどう畑で見る夢は
小手鞠るい
原書房
妻が編集をしたこの本には、学園の創設者・川田先生の言葉が登場する。

人が人間らしく生きるためには、あるていどの過酷な労働は、必要なのではないかと思います。どんなことに対しても『まだできる』とがんばり、これでもかこれでもかと挑戦して、汗を流してじぶんのものを築く。そういうことのたいせつさがわかったとき、ほんものの人間になれるような気がするのです

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4562054948
この言葉は深く僕の心に刺さった。中年サラリーマンである自分、そして、障害のある子の父親である自分に、「働くとは何か」「人間らしく生きるとは何か」とても根源的で大切なことを突き付けられた思いがする。

それは、障害があってもなくても、なんら変わりはない。息子には「人間らしく」生きてほしい。

そのために父親の僕ができること。それは息子に「まだできる」「挑戦したい」という環境を用意することかもしれない。

そして、息子が人間らしく誇りをもって自分の人生を歩みはじめた瞬間、僕はようやく本当の父親になれるのかもしれない。
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