映画『いろとりどりの親子』をルポ!「ちがい」と生きる6つの家族が教えてくれた、幸せの多様性

ライター:発達ナビニュース
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2018年11月17日に公開の『いろとりどりの親子』。いち早く映画をチェックしてきました!さらに、来日したレイチェル・ドレッツィン監督と日本の高校生が語り合う授業への潜入取材や、単独インタビューも。映画の見所から、監督に聞いた映画に込めた思い、高校生とのアツい授業の様子まで、漫画家・イラストレーターのかなしろにゃんこ。がルポします!

取材・文・イラスト/かなしろにゃんこ。

さまざまな「ちがい」がある6家族の日常を丁寧に取材した長編ドキュメンタリー

『いろとりどりの親子』は24ヵ国で翻訳され、世界的ベストセラーとなったアンドリュー・ソロモン氏の原作を映画化した作品です。

ADHDがある息子を育てる、漫画家・イラストレーターのかなしろにゃんこ。が、この映画をルポ。映画の公開に合わせて行われた試写会や、監督来日イベントの様子を紹介します!「ちがい」と生きる家族の幸せの形はそれぞれで、胸があたたかくなる作品でしたよ。
映画「いろとりどりの親子」のシーン紹介
イラスト:かなしろにゃんこ。
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映画「色とりどりの親子」の原作者アンドリューとパートナー、子どもとの様子のイラスト
イラスト:かなしろにゃんこ。
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自閉症、ダウン症、低身長症の子どもやパートナーとその家族、重罪を犯してしまった息子と家族など、6つの家族をめぐるドキュメンタリーです。原作者でプロデューサーのアンドリュー・ソロモン氏も父親と親子出演しています。

アンドリューは、同性愛者である息子を受け入れようと苦悩する両親の姿をきっかけに、身体障害や発達障害、LGBTなど、ちがいのある子どもを受け入れようと苦悩する親たちを10年かけて取材したそうです。

言葉が発せず、パニックになって暴れたり自傷行為に及んでしまう自閉症のジャックと、意思の疎通が難しいと感じる両親。あらゆる療法を試した後、ようやくたどり着いた文字の「タイピング」によってジャックが家族や周囲に自分の想いを伝えられるようになったシーンは、ヘレン・ケラーとサリバン先生を思い出させます。

親友3人と暮らすダウン症のジェイソン。幼少期には「セサミストリート」にも出演し、全米屈指の著名人でした。共同生活を送る3人は、「三銃士」というグループ名までつけて(笑)友情をなにより大切にしています。盃ならぬマグカップを交わして友情を確かめ合うシーンは、中年を迎えた3人がまるで少年のよう!素直で愛しくてキュン♡とすること間違いなしです。ジェイソンが幼いころは、ダウン症児への教育の可能性について全米中を説いて回った母親。一見単調にも見える、ジェイソンと母親の現在の穏やかな生活もまた、胸を打ちます。

低身長症のロイーニが低身長症の人たちの大会「リトル・ピープル・オブ・アメリカ」でファッションショーに参加したり友だちを作っていく姿は母親のような気持ちになって「同じ障害がある友人ができて良かった♡」と応援したくなるし、背中を押したくなる思いになりました。

低身長症の夫婦・リアとジョセフは、知的かつチャーミング。リアは「(低身長症の夫婦から)普通身長の子どもが生まれても大丈夫。だって私は、家族の中で一人だけ違ったけど、大丈夫だったから」と笑顔で語ります。底抜けに明るい二人の姿は、「ちがい」ってなんだろう、「障害」ってなんだろう、と改めて問いかけてくるようでした。

レイチェル・ドレッツィン監督が来日!日本の高校生と映画について語り合う教室に潜入

この映画の監督、レイチェル・ドレッツィンさんが、映画の公開に合わせて来日!さらに、日本の高校生と、映画について語り合う機会があると聞きつけて、取材をさせてもらいました。

東京学芸大学附属国際中等教育学校のIB(国際バカロレア)クラスの高校2年生11名と監督とのディスカッションは、ほぼオールイングリッシュ!で進行。さらに、監督にぶつける質問や疑問は、英語力もさることながら深い共感や洞察力が感じられて、監督も「ワンダフル!」と笑顔でしたよ。
参考:国際バカロレアについて | 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/ib/

レイチェル・ドレッツィン監督が、映画に込めた思いを語る

レイチェル・ドレッツィン監督(以下、監督):「人はさまざまなアイデンティティーを持っています。たとえば映画に出てくるリアは、低身長症ですが、女性であり、母であり、妻でもある。でも、健常者はその1つだけをピックアップしがちです」

そのためには、『ちがい』がある人たちの中に積極的に入り、知ることが大切。それを伝えたかったと、映画に込めた思いを話してくれました」。

高校生からのさまざまな問いに、真摯に答えて…

ディスカッションに参加した11名の高校生は、映画を見て感じたこと、監督にぶつけたい思いを発言。監督は、その一つひとつに耳を傾け、真摯に答えていきます。

今まで生きてきた中で、障害がある人たちとあまり触れ合う機会がなかったという高校生も多く「将来出会ったときに、実際には相手を肯定できないんじゃないか。そんなとき、どう向き合えばいいのだろう」という不安・危惧を口にする学生も。監督は、さまざまな人たちと実際に触れ合うことの大切さを伝えます。

監督:「『ちがい』がある人の近くにいると、親密さが持てるようになります。距離があるから差別が生まれるんです。もしネガティブな先入観があるとしたら、それは親密さが欠けているから」

監督自身も、登場人物の一人であるジョセフと出会ったときはぎこちなくなってしまい、どう握手したらいいかもわからなかったと教えてくれました。でも、2~3回会ううちに、彼が車いすであることも手が短いということも忘れて、レストランで自然にビールを渡していたと言います。

学生からの、「障害がある人への(ネガティブだったり、不幸だと決めつけたりしている)先入観をどう変えられるのか?」という質問には、次のように語ります。
東京学芸大学附属国際中等教育学校の学生とディスカッションするレイチェル・ドレッツィン監督
イラスト:かなしろにゃんこ。
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監督:「多くの人は、身近に『ちがい』がある人がいないから、そういう見方をしてしまう。多くの人は、彼らがつらいんじゃないか、生きたいように生きられていないんじゃないかと考えがち。もちろん、受容が困難な人もいるけれど、多くの「ちがい」がある人たちは、自分のアイデンティティーを誇らしく思っているし、生まれてきた自分自身を変えたいとも思っていない。『ちがい』がある人と親密な時間を過ごしてみてほしい。知らないから恐れてしまう。驚くような何かが待っていると思うから」

学生たちは、疑問に思ったことも率直にぶつけます。

学生:「『ちがい』がある人をあえて(映画の登場人物として)ピックアップすることは、それ自体が差別的なのでは?」

監督:「親子ですら最初はぎこちなく、少しずつ受け入れていくものです。今回の映画では、極端なケースをハイライトしています。映画を通して、多くの人にとって一つのレッスンとして感じてもらいたかったのです」

「ちがい」がある人が身近にいない人も多くいる。飛び込んでいけない人もいる。そんな人たちの気づきのために、見てほしいのだと語ります。また、困難を乗り越えた家族ばかりを取り上げたのでは?という学生からの問いもありました。

学生:「困難を乗り越えている家族ばかりをとりあげて映画化したのでは?乗り越えられていない家族をフィーチャーしなかった理由はなぜ?」

監督:「私はどの家族も乗り越えられたとは思っていません。彼らは、さまざまなシチュエーションに対して目を背けてはいませんが、乗り越えられているわけではないんです。実際、自閉症のあるジャックの母は、いまも辛い日々を過ごしていると言っている。ただ、辛くても、その中に意義を見出すことは可能だと信じている。誰もがこの物語から学ぶことができると思っています」

そして、監督からも学生たちへ質問が投げかけられました。

監督「皆さんの中で、自分のアイデンティティーが日本人の部分が多いという人はいる?」

学生たち:(一同、シーン)

日本の学校で学ぶ、日本の学生たち。周りから見れば「日本人」としてとらえられがちな学生たち。でも、誰一人として自分が「日本人」であることが一番のアイデンティティーであると思っていなかったのです!

監督:「低身長症の女性にとって、自分のアイデンティティーは一つではありません。低身長、女性、母親でもある。でも、私たちは彼女を見たときに『低身長症』だけが彼女をあらわすものだと思いがちです。一つだけのアイデンティティーでその人を決めつけないこと。マスメディアで障害がある人を描くとき、現実は違うことが多くあるものです。ステレオタイプで描いたり、大げさに描いたりしがちです。そのイメージを自分で乗り越える責任が私たちにはあると思うし、そのためには『ちがい』がある人と一緒に過ごすしかないんです。そうすると、彼らの中に、自分と同じ部分をたくさん見出すことができるはずです」

そして、最後に監督から、高校生たちにメッセージが伝えられました。

監督:「あなたがたと話せたことは素晴らしい経験でした!あなたたちは変化を起こせる年齢。いま、人種のるつぼといわれるアメリカでさえ、自分とちがう人に対して喧嘩をしています。今こそ、ちがいがある人を受け入れ、未来に向けて手を携えながら生きていってほしい」

高校生にインタビュー!

映画「いろとりどりの親子」の感想を話す高校生
イラスト:かなしろにゃんこ。
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監督を前に、自分たちの思いや疑問をまっすぐにぶつけていた高校生。キラキラとまぶしい高校生たちに、ディスカッションの授業を終えて感じたことを、聞いてみました!

学生:「小学校のときは、クラスメートに発達障害がある子がいて、時々パニックを起こしていて。でも私たちはそれを“そういう子なのかな”ってちがいをそのまま受け止めてたんです。でも、保護者の中には“授業妨害になる”ってクレーム言ってる人もいたみたい。子どもたちは彼は特別だとか障害があるとかって意識してないのに、大人のほうが“ちがい”を意識しすぎて“ゲスト”はウエルカムじゃないって思ってたと思う。ちがいを前面に出さない、壁をつくらないことが大事なんじゃないかな」

社会の中にもっと、ちがいがある人と触れ合える場所が増えたらいいという提案も!

学生:「日本のマイナス点なんだけど、ちがいがある人と触れ合うのが大切ってわかってても、なかなか積極的に飛び込んでいこうとしない。ハードルが高すぎる。もっと気軽に触れ合えるような、いろんなマイノリティーが混ざっている場所が身近にあれば、受容はもっと簡単になると思う。そういうのが日常、当たり前の社会になったらいいと思う」

授業を終えた学生たちからは、「ちがいがある人たちと一緒にいられる、多様な社会をつくりたい」という、あたたかくて強い決意を感じられましたよ!

レイチェル・ドレッツィン監督に、単独インタビューも

なんと、監督に単独インタビューする機会もいただきました!高校生とのディスカッションはどう感じたのでしょう?先ほどインタビューした高校生の発言を伝えつつ、聞いてみると…

監督:「そう、大人のほうが『ちがい』を意識しすぎている…。教育って、なんのためにあるんでしょう。高等教育を行う場所であると同時に、人間として成長する場でもあるはず。多様性を認めることで、聡明になれるはずなんです。今日ディスカッションした高校生たちには、多様性を広めるプロモーター的存在になってほしいと願っています」

この作品で、それぞれの親子の、“愛と受容”を伝えたかったと、ディスカッション中も口にしていた監督。次のように語ってくれました。
レイチェル・ドレッツィン監督
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監督:「健常な人たちは、障害があると不幸なんじゃないかと思い込みがちですが、そうではないんです。『ちがい』がある子どもを“受容”すると同時に、子どもたちもまた、思っていた自分と『ちがう』ことを受容する。その受容は、毎日の中のさまざまなシーンで起きているんです。そして、思い描いていた形とは違うけれど、そのアイデンティティーはすばらしい贈り物であることに気づいていくんです」

高校生とのディスカッションでも、「ちがい」がある人の中に入っていくことで、さまざまなアイデンティティーに気づけるし、多様性を認められるようになる、と言っていた監督。でも、すぐには飛び込んでいけない人もいる。そんな人には映画を見て、まず気づいてほしい!
次ページ「愛と受容にあふれた日常が描かれる『いろとりどりの親子』。ぜひ観てほしい!」

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