ADHDのある人の暮らしまで支援する診察とは?精神科医・田中康雄先生が語る『ADHDとともに生きる人たちへ 医療からみた「生きづらさ」と支援』が5/30発売

ライター:発達ナビBOOKガイド
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ADHD(注意欠如・多動症)の治療法のひとつに、「薬」による治療法があります。でも、「薬」を投与しただけで症状が改善されるというものでもありません。それはどうしてなの?その理由は、ADHDの特性をよく理解することで分かります。そして、医師がどのようにADHDのある子どもを見ているのかを知ることから、関わりのヒントも得られるのです。精神科医・田中康雄先生の新刊『ADHDとともに生きる人たちへ 医療からみた「生きづらさ」と支援』が伝えていることを見ていきましょう。

ADHD(注意欠如・多動症)の「歴史」を知ることで分かること

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精神科の医師たちは、どのようにADHDのある子どもを見ているのでしょうか。そしてどのように、特性による「生きづらさ」を軽減させようとするのでしょうか。

精神科医・田中康雄先生の新刊『ADHDとともに生きる人たちへ 医療からみた「生きづらさ」と支援』では、まずADHD(注意欠如・多動症)の歴史をひも解くことから始まります。
AMDHDとともに生きる人たちへ: 医療からみた「生きづらさ」と支援
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そもそもADHDは、どうやってその定義が固まってきたのか。ADHDにあたる概念は、ドイツの精神科医のハインリッヒ・ホフマンの絵本「もじゃもじゃペーター」(※)の中に登場します。ひとことで言ってしまえば落ち着きのない子ども。そこからスタートして、ADHD概念のあゆみが語られていきます。

※旧題。現在は「ぼうぼうあたま―ちいさいこどものおもしろいはなしとおかしなえ (子どもの近くにいる人たちへ) 」として発売
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「そんな過去のことよりも、今目の前で困っている子どもと保護者にとって、すぐ役に立つ情報、治療メソッドについてまず知りたい」と思われるかもしれません。でも、ADHDの概念がくっきりと分かるまでの歴史(といっても、まだ概念の登場から100年もたちません)を知ることが、とても大切ということが、読み進むうちに分かります。ADHDの特性が現在のように理解されるようになるまでの間、さまざまな誤解や差別の過程もありました。そのくらいADHDは複雑な要素が絡み合っている症状なのです。

次に、個人が成長するにつれてあらわれるADHDの症状と困りごとの移り変わりについて解説されています。乳幼児期・学齢期・思春期・成人期、それぞれの時期において、不注意や多動、衝動性の問題が、周囲との関係によってだんだんと複雑化していく段階がよく分かります。
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P55より
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実はこうしてかなり詳細にADHDについては分かってきているからこそ、「ピュアなADHDの診断として設定するのは非常に難しいと思っています」(P58)と田中先生は言います。

一見ADHDのようで、ただ単に行動が活発な人だったり、あるいは他の発達障害による症状だったり、といったこともあります。また、虐待によってアタッチメントの形成がうまくいかなかったことによる症状がADHDのように見えるという場合もあります。環境、生い立ち、育てられ方によってADHDと似たような行動・症状があらわれることもあるのです。
成長に伴って症状がなくなっていくというのは、ADHDではないのだろうと思います。ADHD的なハイパーアクティブな方が、年齢とともに常識的な範疇で症状を抑えられるようになってきた、つまりは成長した、ということではないでしょうか。一方、自分の生き方を変えないという方が、症状継続の40~60%、さらに、そのことで虐げられ、自己嫌悪になり、自己評価が下がることによって二次的な問題を生じている方が10~30%として捉えると、ADHDへの対策を考えるうえでのヒントになりそうです。(P63より)
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ただ診断結果を伝えるだけでいいのか?という問題

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診断が困難なADHDは、面接や検査には非常に時間も手間もかかります。だから、保護者としては(あるいは本人も)ADHDではないかと思っているのに、診断が下りない、ということもあります。

ADHDの検査もほかの病気と同様に、まずは診断をつけ、治療方針を立てるためのものです。でも、ここで田中先生は、困っている行動を直し、生きづらさを解消していくために、ただ結果を伝えるだけではない方法をとる、と言います。
君にはこんな知識があるんだね、こういうことを考えていたんだね、こういうことの強さは本当に特筆に値するよという部分と、ここの見落としが残念だよという部分と、自己流のいろいろなパターンで頑張っているし、ペースをつかむのがうまいよね、ということをたくさん入れたうえで、日常に役立つ説明をして、その中で打開策を一緒に見つけていかないと、あれだけの検査をやる意味がないだろうと僕は思っています。
~中略~
面接の中では症状ではなくて生活の中身を尋ねて、生きざまを評価していきます。先入観を持たずに、これまでの人生にあった生きにくさに耳を傾け、今の出会いに意義を与えていく。これはADHDに限らず、臨床の基本中の基本だと思います。(P86より)
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時間も手間もかかる検査・面接ということは、医師だけでなく本人にも非常に大きな負担となるはずです。そこから治療方針を探っていくというだけでなく、この検査・面接そのものも、治療の機会、生きづらさを変えていくための機会と田中先生はとらえていることが分かります。

生活支援につなげるためには、周りでサポートする人の健康も必要

ADHDの治療のひとつに投薬治療がありますが、薬だけでよくなるものではありません。治療や、具体的な周囲のサポートで必要なことと、薬との関係について、田中先生はこう定義しています。
ADHDの理解、環境調整、周囲の支援者のメンタルヘルスへの配慮。この三つがあって、それでもなかなか改善しない場合、薬物療法を提案します。(P101より)
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ADHDの理解と環境調整については、ほかでもよく言及されていることですが、改善していくための三本柱の一つとして「周囲の支援者のメンタルヘルスへの配慮」が必要なのです。本の中では、乳幼児期のアタッチメントの形成(愛着形成)のしかたとADHDの症状のあらわれ方の関係についても書かれています。アタッチメント形成ができなかったというと、保護者の「育て方」に問題があると思われがちですが、そうではありません。

ただ親が一方的に子どもに関わらなかったからなのか、それとも、子どもの育てにくさをどうしていいか分からなかった結果、うまく関わることができなかったのか。もし後者なら、三本柱の一つである「周囲の支援者のメンタルヘルスへの配慮」が十分ではなかった、ということになります。

もしかしたら、アタッチメント形成がうまくいかない保護者の中には、子どもを「育てにくい」と感じながら育ててきたことへの後悔を抱えている人もいることでしょう。でもそれは、「周囲の支援者のメンタルヘルスへの配慮」が足りなかったせいで起こったことかもしれません。

「周囲の支援者」には、保護者だけでなく、保育士や学校・幼稚園の先生も含まれています。周囲の人がADHDのある子どもに実際にどう接したら、彼らが困っていることが「生きづらさ」につながらないようにできるのか。本書では、「注意に対する戦略、衝動性への対応、多動への理解、学校はほめられる場所、自尊心への配慮、整理整頓のサポート、心配事は大きめに見積もる」という項目ごとに、実践的な方法についても語られています。

生活の障害にならなければ、その発達障害の特性はよい特性

発達障害というのは生活の障害だと僕は思っているので、生活の障害にならなければその発達障害の特性は良い特性だと思っています。良い特性になってもらいたいという部分と、一方で、本人が困っている特性に対しては、解決策を一緒に考えていきたいと思っています。
(P93より)
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この言葉は、育てる人にとっても、当事者である子どもにとっても、大きな励ましとなるでしょう。ときどき出会う「発達障害ってすごい才能を持った人のことでしょう?」という誤解とは違います。個人の中にある個性のうち、困っている部分を解決したり軽くしていき、よい部分を伸ばすことができるということです。

この本は、田中康雄先生の講演内容をベースに書籍化されたものであると、「はじめに」に記されています。支援者に向けた専門的な解説を含みつつも、文章そのものは分かりやすく、田中先生が直接語り掛けてくれているような雰囲気があります。

ADHDのある子どもたちとその家族の「生活」を見つめ、支援をし続けてきた医師の言葉には、当事者と保護者がADHDとともに強く生きるためのヒントとエールが詰まっています。

文/関川 香織
AMDHDとともに生きる人たちへ: 医療からみた「生きづらさ」と支援
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