「療育しない、押しつけない、たくさん話をする」。堀内家の子育てにはたくさんのヒントがあった――『ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来』著者インタビュー

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堀内祐子さんは、それぞれ発達障害の診断のある4人きょうだいの母。独自の子育てをまとめた2冊の本、『発達障害の子とハッピーに暮らすヒント』、『発達障害の子が働くおとなになるヒント』に次いで、新刊『ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来』が出版されました。ADHDと自閉症スペクトラムがある次男・拓人さんが大人になるまでの成長の時間を、母と子それぞれが振り返って語る本です。この本の誕生秘話とともに、堀内家の独自の子育てが、たくさんの親子にとって「ヒント」となる理由を探ってみました。

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堀内家の独自の子育てが、たくさんのヒントをくれる――『ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来』が発売

この本は、ADHDと自閉症スペクトラムがある次男・拓人さんが大人になるまでの成長の時間を、拓人さんと母である祐子さんがそれぞれ振り返って語るという構成。成長の節目節目の出来ごとで、子どもが、母が、どういう風に思っていたのかが記されています。そして、発達障害がある拓人さんの言葉や考え方は、光って見えるのです。

どんな風な家庭だったのか、どんな親子関係だったのか――著者である堀内祐子さん・拓人さん親子にお話を伺いました。
ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来~親子でふり返った誕生から就職まで~
堀内祐子 堀内拓人
ぶどう舎

食卓にテレビがない。だから、親子で話をたくさんする

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発達ナビ編集部(以下、編集部)この本に登場する、拓人さんの言葉や考え方が、とても光っていると感じました。普段の会話の中でも、こんな感じなのですか?

母・堀内祐子さん(以下、祐子さん):「次男の言うことは面白くて、記録に残したい、と思っていたんです。そのまま伝わるようにするには、自分で書いてもらうのがいい、と。普段の食事のときの会話も、こんな風なんです。わが家には食事をする部屋にテレビがないんです。親子でたくさん話をしています」

次男・堀内拓人さん(以下、拓人さん):「テレビはあったらあったで、メリットというか素敵なこともあったんでしょうけど、ないから話ができたと思います」

編集部:本を読むと、とても前向きで楽しそうに感じるのですが、実際には大変な「事件」もたくさんあるし、それぞれ特性のある4人きょうだいを育てるということは、親としては大変なことだったんじゃないかと思います。

たとえば、拓人さんは、高校受験を経て最初に入った高校で、次第に自分を追い詰めるようになってしまい、「お母さま、私は死にたいです。」と言い出したときがありました。そのとき、祐子さんは「死ぬことはないよ。道はたくさんあるんだから」と、入った学校に無理に通う以外の選択肢をいくつも提示します。

親として大切なのは情報提供だと思っています。子どもは親に比べたら情報が少ないのです。そのために道が閉ざされたと感じます。そういうときに適切な情報を提供することによって「道はたくさんある」と感じ、生きやすくなります。(P43)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402389
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編集部:子育てでパニックになりそうなことでも、常に冷静に客観的に見て「どうしたらいいか」を判断できるのは、どうしてなのでしょう。

祐子さん:「とにかく複雑に考えないこと、が大切なんです。いつも、ひとつの大きな目的に向かっていると思っています。それは、『この子が幸せな大人になる』ということ。そこに至るまでに起こることは、すべて過程の一コマです。もちろん、そんなきれいごとだけではなくて、パニックになることもありますよ。でも、何かが起きたときでも目的が明確なら、すぐに『今、何をしたらいいか』を考えることができます」

「正しい親ばか」であるということ

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編集部:この本には、拓人さんによる印象深い言葉がたくさん出てきますが、「未来に丸投げする」という言葉、すごくいいなと感じました。

拓人さん:「私はものぐさなので、とりあえずの一歩を踏み出すことがほんとうにできないんです。どうしても動き出せないときに、『未来に丸投げ』することにしたんです。結果が、15分後にわかるなら、その15分後の自分に託すつもりで。

はじめにそれをやってみたのは高1で、郵便局のアルバイトの面接でした。絶対自分にはできないと思っていて、応募することもなかなかできませんでした。なんとか友だちと一緒に応募はしたけど、面接がこわかったんです。何を聞かれるのかわからないからこわい、だからできないと思ってしまう。そのときに、『もうやるしかないから、あとは15分後の未来の自分にまかせた!』と思ったんです。そうすれば、あとは未来の自分がなんとかするって思えたんです」

祐子さん:「このときのこと、私もはっきり覚えています。この子の不安感が強かったので、私は選んで情報提供しているんです。郵便局の仕分けのバイトなら、この子の特性に合っていると思ったから。ただ、うちは選択の自由を大事にするので、それで息子自身がやりたくないといえば無理に押すことはしません。郵便局のバイトも、最終的には、彼自身が『やってみます』と決めたことでした。

ここで大事な事は、親の不安感がものすごく強いと、全部子どもに伝わるということ。私はいつも、この子は素晴らしい子だから、会社がこの子を選ばないのは、その会社が残念な場所だと考えます。発達障害があるので、不安感は強いけれど、この人はこういう親に育てられているので、先に進めるのだと思っています」

拓人さん:「その面接に受かったのもうれしかったんですが、そのあと翌年も同じアルバイト先に行ったら、『よくまた来てくれたね』と言ってくださったんです。すごくうれしかったです」

祐子さん:「そのこともよく覚えていますよ。あなたが社会に出たら、この礼儀正しさとかまじめさとかは、その会社にとって祝福だと思っていました。ずっと私はそう思っていたけれど、『やっと社会が彼の事を認めてくださった、ということを彼自身が自覚した』という思いかな」

編集部:本にも「親がほめなかったら誰がほめるのか」という言葉がありますが、堀内さんはほんとに「正しい親ばか」なのだと思います。こういう「正しい親ばか」のもとで育ったからこそ、大事な自己肯定感ができ上がったのでしょう。

コミュニケーションする「努力」の根底にあるのは、相手への尊敬や好きと言う気持ち

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編集部:ここまで親ばかになれるということは、見ていてもすがすがしいですが、家族以外の場所、たとえば学校でうまく合わなくて苦労するといったことは、これまでなかったのでしょうか。

祐子さん:「本来、先生と保護者は、社会の財産である子どもを一緒に育てるパートナーだと思います。敵対するものではないですよね。先生はわかってくれない、ではなく、コミュニケーションをとるように努力します。コミュニケーションの底辺にあるのは、相手を好きでいる心です。だから相手といい関係が築けるんです。

私は人のいいところが見えるんです。学校の先生がたは、まんべんなく勉強ができて、それだけで尊敬に値すると思っています。私は相手の方に対して、いやなところよりもいいところにフォーカスします。相手に伝わるんですよね、そういう思いって。『堀内さんはいい先生に恵まれてラッキー』ではなくて、わかり合う努力をしてきたんです。

納得いかなかったら、何時間でもしゃべります。わかり合うまで。そうやって心が通じ合うとうまくいくんです」

編集部:先生と保護者という関係だけではなく、それは親子でも基本となることなのでしょうね。ポジティブな言葉で関係をつくっていくということは、「スイカ割りの理屈」の中に書かれていました。スイカ割りをするときには、目隠しをされている人に向けて、あらん限りの言葉を使ってスイカへと導きます。このときのことを想像してみると、ネガティブワードではなく、ポジティブワードで導いていくことがうまくいく方法だとよくわかります。

(スイカ割りをするときに)きっとあなたは、「何々をしちゃだめ」なんてひとことも言わなかったと思います。あなたが口にした言葉は、きっと、「右を向いて」だったり「前に進んで」だったりと、その人がゴールに向かう言葉だったのではないでしょうか。(P71)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402389

療育はしていない、ただ「話し合ってきた」だけ

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編集部:今、ポジティブな言葉で子どもを育てようということがさまざまな場所で言われるようになりましたが、この「スイカ割りの理屈」をはじめ、堀内さんがしている子育ては、学者が言う「メソッド」ではなくて、堀内さん自身の実感から生まれている感じがします。

祐子さん:「発達障害の子どものための、さまざまな療育方法がありますが、私はどうも頭に入らないんです。私は療育はしていません、ただ親子で話してきただけです。それで十分だと思っています。日々の生活で子どもに何かを聞かれたら教えるということはしているけれど、先々のことを示唆したりといったことはないですね」

拓人さん:「先のこと、お膳立てされて言われたとしても、たぶん自分は聞かない…ですしね」

祐子さん:「『おすすめ』はいいと思っているんです。でもコントロールは絶対ダメ。必ず、『わたしはこう思いますが』と、必ず『アイメッセージ』(I=「わたし」を主語とする伝え方)で伝えています。だから、そうですね、と思ってくれたことはわかってくれるけど、合わなければポイポイ捨てられます」

拓人さん:「心に入ってこなかった言葉もたくさんあったと思います。心に入ってきた言葉というのは、それは理屈を抜きにして、自分の心の命じるままにとる行動と合っていたことなんだと思います。私は自分の心がなんと言ってきたかを大切にしてきました。たぶん、何とも思っていないことについては、何も響かないと思います」

編集部:そういう話を素直に聞けるのは、小さいころからずっと話をしてきたからでしょうか?

拓人さん:「それ以上に、話したときにトゲがないというか。いつでも、話したときにつらい気分になることがなかったということが大きいんじゃないかなと思います」

祐子さん:「いわゆる説教にならないんです。こちらも、子どもが小さいころから、何か話してくれたことには『ああ、おもしろいね、そんな風に考えるんだね』と、一人の人として尊重して、話を聞いてきました。子どもの方も否定されないから、疑問に思ったことを尋ねようと思うのです。そして、意見は『ママはこう思う』として話す。それは小さいころから徹底しています。

拓人さん:「だから、トゲがなく会話ができるんだと思います。自分も話したいと思うし、話すときにリラックスできるんです」

自己肯定感を伸ばすのは、相手を100%信じるということ

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編集部:こんなに風通しのいい子育てをする、祐子さん自身はどんなふうに育てられたのでしょうか。

祐子さん:「子育ては、その子が持っていることを伸ばす、のではありません。つぶさなければ必ず勝手に伸びていくものです。私自身の母が、絶対に人格否定をしない人でした。

母はそういう人だったのに、父は私を否定し続けた人で、180度違う方向性の両親に育てられたんです。父からは、あまりにも『お前はダメだ、お前みたいなのは社会には出られない』と言われ続けて、私はぼろぼろの自己肯定感しか持っていませんでした。でも、母は『ゆうちゃんは私の子だから大丈夫』と言う人。

私がいちばんボロボロで、リストカットを繰り返していたようなときに、母とも3カ月くらい口をきかなかったりしていました。でも、いつも変わらず『ごはんできたわよ』と声をかけてくれました。そして、また突然、話をするようになったときも『なんであのとき、口をきかなかったの?』などといったことも一切言いませんでした。常に同じペースで変わらない人なんです。

もちろん、子どもによっては『どうしたの?』と聞く方がいい場合もあると思います。でも私はほっといてほしかったし、母はそういう私の性格をわかっているから、ほっといてくれたんですね。そして、『この子は乗り越える子』と、信じてくれていたんです。その信頼はすごく大きかったと思います。これが、私の子育てのルーツです」

拓人さん:「本にも書いていますが、私の人生に影響を与えた人、こうなりたいと思った人は2人いて、2人とも家族とは関係のないところで、自分で勝手に見てあこがれた人でした。母が『こういうルートを通ってほしい』ということを教えるのではなく、ルートは自分で手に入れたと思っています。母が言った、『つぶさない』ということはこういうことだと思っています。ただ、母がいつも正解とは限らないと思っています。いろいろな形があると、思っています」

祐子さん:「うちの子どもたちにとって、本人の意思を尊重されることは、あたりまえのことになっていると思います。子どもをコントロールする親を知らないでしょう。だから、そこで特に親に感謝している、とかではないんですよね」

堀内さんの本が、ハウツー本ではないのに、子育てのヒントが詰まっている理由

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編集部:この本は一見、ハウツー本のように見えるけど、そうではありません。あくまで、堀内さん親子が歩いてきた、拓人さんが24歳になるまでの道のりを、母と子それぞれの視点から振り返ったものです。そして、読後感がとてもさわやかです。祐子さんはその理由を教えてくれました。

祐子さん:「私はハウツー本は書きません。これは、子育て本とか、発達障害の本とかではなく、堀内拓人という人の生き方の本です。私はみなさんに、子育てのことをお伝えする役割を持っていると感じています。わが家で何か起こったときには、『この経験はネタになる』と思ってしまうんです。長くブログも書いていますし、講演もしていますが、それは情報提供して、役立ったらうれしいという気持ちが強くあるからなんです。

誰かに何かをしてあげる、という気持ちはありません。そして、○○してみなさいという指示形では決して話しません。こういう方法もありますよ、と情報提供をするだけ。その先それを実行するかしないかは、その人次第ですから」

編集部:子育てのゴールがどこかを見失わないこと、そのゴールに向かっているようなら黙って見守ること、もしもそこから外れそうになったときに「こっちだよ」と導いてあげること。堀内さんの子育てはとてもシンプルです。この堀内さんの子育てに対する姿勢は、読者に対しても貫かれているものだったのでした。

文/関川香織(K2U)
撮影/鈴木江実子

『ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来~親子でふり返った誕生から就職まで~』

ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来~親子でふり返った誕生から就職まで~
堀内祐子 堀内拓人
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