パニック、自傷を「やめなさい!」と制されて――自閉症息子のやり場のない気持ちを、受け止めきれなかった私

ライター:立石美津子
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自閉症の子どもがパニックを起こしたり、自傷しだしたりすると「何とか止めさせたい」。親ならそう思うのでないでしょうか。そうすると、「やめさせたい」スイッチが入ってしまい“火に油を注ぐ”状態になってしまうことがあります。私がそうでした。

でも、本人は自身の精神のバランスを保つためにやっていたのかもしれません…。

ジンベイザメを金魚と言っただけで

『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。
自閉症の息子は、特別支援学校高等部に通っていた頃、学校で制作したこのTシャツを持ち帰ってきました。
特別支援学校でつくったジンベイザメの絵柄のTシャツを着る息子
Upload By 立石美津子
私は赤い魚が描いてあったので、「可愛い金魚だね」と言いました。

すると…
「違う!ジンベイザメだ!違う!違う!」とスイッチが入りパニック!

朝食にいつもは食パンなのに、ロールパンを出した。私が「お薬飲んで」を「お薬食べて」と言い間違えた。そんな些細なきっかけで、パニックや自傷は始まります。

息子は家の床を蹴り、トイレのドアを思い切り「バーーーーン!」と閉めました。

私は「そんなことすると家が壊れて、引っ越しすることになるよ!」と傷口に塩を塗るような言葉をぶつけてしまいました。その朝、息子は折れて黙って登校していきました。

家で禁止された息子、外で自傷を

その夜、腕に酷い噛み痕があることに気づきました。
「この怪我どうしたの?」と聞いたら「登校中、噛んで自傷した」と答えました。


その日の朝、私から「家が壊れるよ」「引っ越しすることになるよ」と脅されたので、おそらくものすごく自分の感情をコントロールして、それ以上パニックを起こさないよう、つとめていたのだと思います。でも、結局外で自傷していました。

私だって悔しくて泣いているとき「泣くな!」と言われたら、気持ちの持っていき場がなくなり、かえって苦しくなります。泣くことで、少し気持ちも落ち着きます。自閉症のある子にとって、パニックはそれと同じように、自分の気持ちを落ち着かせるためにしているものなのかもしれません。

でも、この日の朝、私に強く言われたことで息子は”気持ちの持っていき場”を奪われてしまい…私が見ていないところで自傷をしました。

言葉でうまく気持ちを伝えられないとき

赤ちゃんは、「お腹すいた」「オムツが汚れて気持ち悪い」「暑い」「寝たいのに寝られない」など、不快な状態を泣いて訴えます。

そんなとき、「泣くんじゃない!」と叱ることなく、親はその泣き方から「なぜ泣いているんだろう?」と原因を探り、「おお、よしよし。今、おっぱいをあげるからね」「オムツを替えてやるからね」と不快を取り除いてやります。

この体験を通して子どもは「この人は僕を保護してくれる人だ」と母親を認識し、「この世は安全な場所なんだ」とわかってきます。私は保育園や幼稚園で長年仕事をしてきましたので、こうしたことを理解していたつもりですが、息子にはなかなか対応できないでいました。
次ページ「自傷を禁じることしかしていなかった」

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