発達障害がある子にも多い協調運動の課題、どう支援する?『発達性協調運動障害(DCD):不器用さのある子どもの理解と支援』。支援者向けの専門書

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不器用な子、運動が苦手で辛い思いをしている子。実はこのような子たちには、発達性協調運動障害(DCD)があることが分かってきました。しかし、世間ではまだまだDCDの理解が進んでおらず、適切なサポート方法が浸透していないのが現実です。『発達性協調運動障害(DCD):不器用さのある子どもの理解と支援』は、DCDへの理解を深め、診断基準や特性などを知ることで、実際の支援に役立つ1冊。DCDのある子どもが、より良い生活と将来を送ることができるヒントがたくさん詰まっています。

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DCDとは?適切な支援のためには、DCDについての理解が大切

DCDとは、運動協調が必要な技能に困難がある発達障害のことで、"Development Coordination Disorder"の頭文字をとったものです。

今回ご紹介する新刊、『発達性協調運動障害(DCD):不器用さのある子どもの理解と支援』は、1999年に刊行された『子どもたちの不器用さ―その影響と発達援助』の継承版として、DCDについてもっと深く具体的に知りたいというニーズに対応して企画されました。
発達性協調運動障害(DCD): 不器用さのある子どもの理解と支援
辻井正次 (監修), 宮原資英 (監修), 澤江幸則 (著, 編集), 増田貴人 (著, 編集),七木田敦 (著, 編集)
金子書房
DCDとはどのような状態にあることをいうのか、診断基準として、A~Dの4つが挙げられます。

A:その人の年齢や経験から考えられるよりも、協調運動技能の獲得や遂行が明らかに劣っている。
B:運動技能の欠如が日常生活に支障をきたす。
C:症状の始まりが発達段階早期であること。
D:運動機能の欠如が知的能力障害、視覚障害や運動に影響を与える神経疾患(脳性麻痺や筋ジストロフィーなど)によるものではない。

『発達性協調運動障害』p.3より

また他の章では、早産・低体重児とDCDの関係について、DCDと他の疾患・障害との併存についても言及しています。

“DCDがある子どもは、運動そのものだけでなく、体力の低さや集団生活への消極性、自尊心の低下など、ほかの問題を抱えるケースが多く見られます。それゆえ、DCDの診断はなるべく早期に行われ、早くから支援を進めていくことが望ましく、5歳以前には運動技能の獲得の個人差が大きいこと、評価が安定しないことなどが、その理由である。”
『発達性協調運動障害』p.107より

とされていましたが、近年DCDの早期発見を意識し、運動機能検査の対象年齢が従来の4歳から3歳へと早められました。

本書はDCDにまつわる歴史からはじまり、DCDの研究や検証に基づいてその特性や特徴を知ることで、効果的な支援や介助方法を導き出しています。

DCDの現状や困りごととは?当事者の声も紹介

今現在なにが苦手で、それがどのような苦痛や困難を引き起こしているのか。本書は、まずはDCDのある人の現状や困りごとを知ることが大切だと強調しています。本書の特徴として、保護者や教育・療育者だけでなく、DCD当事者の赤裸々な体験談を紹介している点が挙げられます。DCDがどのような状態にあるのか、日常生活の困りごとなどを具体的に理解することができ、リアルで説得力もあります。

DCDゆえの苦しみや困難がよく理解できる例として、32歳で初めてDCDと診断された人のライフストーリーが紹介されています。

“箸の使い方が下手なため、お弁当を食べる事に時間がかかり、いつも掃除が始まるまでや、母が迎えに来る頃まで終わらなかった。あまりに終わらないため、教室を追い出され、教員室で食べることがあり、それもイヤなことであった。体育の時間は苦痛で仕方がなかった。運動会のかけっこで遅くても、誰にも迷惑はかけない。しかし、リレーとなると話は別だ。チームプレーなので、一人遅いのがまじると、皆に迷惑がかかる。そこでまた、自分で自分がイヤになってしまった。”
『発達性協調運動障害』p.37より

このように、学校でさまざまな動きを必要とする課題があると、個人で苦労するのはもちろん、リレーなどグループ課題になるとほかの人へ迷惑がかかるというプレッシャーも出てきて、苦痛が大きくなり、自己肯定感が低くなることにつながるといわれています。

“そうした泳げない日々がずっと続くなか、私が見た目、一応泳いでいると認められたのは小学校6年生になる頃だった。当時、白い水泳帽に泳げたメートル数に応じた赤線と黒線が与えられたが、私はずっと真っ白なままだったので、最初の15メートルの赤線を一本もらったときの喜びはひとしおだったのを今も覚えている。”
『発達性協調運動障害』p.37より

これは、DCDがある人のポシティブな意見で、非常に貴重な示唆が含まれています。スモールステップにより成功体験を積み上げてあげることで、自分の尺度で「できた」ということを実感することができます。自己肯定感が高まり、経験や体験が人生の糧になっている様子もうかがえます。

また、誰もが知っている興味深い例として、映画『ハリー・ポッター』主演のダニエル・ラドクリフの自伝も紹介されています。

“7歳くらいのときに失行(dyspraxia)と診断された。本人の言葉を借りて説明すると「読字症(dyslexia)みたいなものだが、〔読字ではなくて〕動きの協調に問題がある。検査をすると、言語の問題はなかったが、運動技能が平均以下だった。」現在でも失行のためにフラストレーションがたまることがある。今だに上手に自転車に乗ったり、泳いだりすることができない。普通の靴だと紐がうまく結べないので、紐の結びやすい靴をはいている。”
『発達性協調運動障害』p.33より

スクリーンの中でのアクロバティックな動きからは、とても協調の問題があるとは思えない俳優が、ハンディを抱えながらも活躍している事実が伝わり、読者に勇気や希望を与えてくれます。

DCDを伴うASDやADHDの特性や支援

実際の臨床場面において、DCD単独の相談は多くなく、知的障害やASD(自閉症スペクトラム)、ADHDなどとの併存があり、日常生活や学校生活における不器用さの問題で相談が上がってくることが多いようです。

ASDがある子どもの支援

ASDがある子どもには、「歩き方、走り方がぎこちない」「姿勢やバランスが悪い」「複雑な運動が苦手」などの運動面での課題がある場合が多くあります。身体的不器用さは微細運動から粗大運動まで多岐にわたります。

“日常的にASD児と関わっていると、手先の器用さが求められる場面や全身を使う場面など、幅広い身体活動場面で身体的不器用さが観察される。なお、ここで使われる身体的不器用さは、「日常的な運動技能が暦年齢や知能から期待されるレベルよりも著しく劣っており、それらが生活に支障をきたしている状態」と定義する。”
『発達性協調運動障害』p.177より

このような特性を持ったDCD+ASD児への支援・指導をするにあたって、どのようなことに留意すればいいのか、以下のことがあげられています。

・何が行われるのか、いつ始まりいつ終わるのかなどの見通しを立てる
・抽象的な指示を理解するのが難しいので、分かりやすく具体的に伝える
・その子が「今できる課題」を設定し、スモールステップで成功体験を積み重ねる
・ASD児特有の感覚特性(指導者の大声に驚いたり、教材の感触が気になるなど)を理解する
・ASD児特有の認知特性(全体よりもある部分を好んで見る傾向がある、物への執着が強いなど)を理解する


また、ASDがある子どもたちへの新たな運動発達支援として、「ダイナミック・システムズ・アプローチ」があげられています。運動指導を通して「子どもがどうなったか」ではなく、指導の過程の中で「その子に、その瞬間何が起きているのか」に目を向ける方法です。このアプローチでは、“子ども・そのときの環境・そのときの運動課題”の3つが重要になってきます。この3つがどのように関連しているか、その中でどのような運動パフォーマンス(動作)が行われているかを観察することが、適切な支援につながっていきます。本書では、長縄やボール投げなど具体的な運動に対する研究例をあげながら、DCD+ASD児への支援方法やその効果が丁寧に書かれています。

“今後より多くの運動発達支援においてこのような研究が進めば、ASDやその他の発達障害のある子どもの運動を取り巻く環境が大きく変わるのではないと考えている。”
『発達性協調運動障害』p.192より

ADHDがある子どもの支援

また、ADHDがある子どもの約3~5割にDCDが併存することがわかっています。ADHDのある子どもの特性として、「走り方がぎこちない、書字能力が低い(綴り間違いや脱字)、よくぶつかる」という運動面だけでなく、「いわれたとおりに動けない、思い通りにならないと感情が崩れる、ルールにこだわってトラブルになる」という問題もあがっています。これは、「自分はできない」「自分なんかいらない」という強い自己否定につながる恐れもはらんでいます。

ADHDがある子どもは、運動面で課題を抱えているにもかかわらず、自分の運動能力は低くないと認識する「実際の運動能力とそれに対する自己認識のズレ」があります。このことで、周りからもDCDではなく不注意など別の問題として対応されてしまうことがあります。これでは問題は改善されず、ADHDがある子ども自身も自分に対し不信感を持つことにつながります。

“これらのことから、ADHD児の適応上の様々な問題を検討する際に、本人の認識にとらわれることなく、協調運動の困難さを評価しておく必要があるかもしれない。そして、そこに何らかの問題があったならば、運動面を加えた複合的な発達支援の道筋をたてていかなければならないだろう。”
『発達性協調運動障害』p.199より

また、コンサータなどの薬物療法とDCDの関係や、ADHDがある子ども特有のDCDメカニズムに触れながら、支援の可能性やその課題を探っています。

“ADHD児の運動遂行の困難さは、現在のところ、認知面や情動面、社会性そして運動面のいずれかに特化した問題によって生じているとは言い難く、むしろそれが複合的に関連しながら生じている可能性が考えられた。それは支援において極めて重要な知見である。これまでのように認知や行動上の評価や支援にとどまらず、運動面を含めた複合的な支援への積極的な視座を与える結果となった。”
『発達性協調運動障害』p.214より

支援・介助の仕方で、生活QOLは向上する

本書では、DCDのある乳幼児期、学童期、青年期、成人期以降の各発達段階における評価や支援・介助方法を、具体的な研究例・支援例をあげながら、詳しく解説しています。そして適切な支援や介助は、それぞれ内容や方法に違いはありますが、運動のスキル水準を向上させ、日常生活を妨げている困難を改善し、生活のQOLをあげることにつながる、とされています。

まず、家庭や保育、学校などの現場で、子どもがどのようなことに困り、どういうところでつまずいてしまうのか、しっかりと観察することが適切な支援に直結するといわれています。本書で紹介されている、DCDがある子どもに対する観察や支援方法をいくつかピックアップしていきます。

[微細運動:ハサミの使用]
ハサミは、3歳ころから使い始める、幼児に最も身近な道具のひとつです。ハサミで紙を切るという動作には、全身のバランス、手首の安定、手の開閉、指の力の制御、両手の協調、加えて腕・手・目の協調が求められます。不器用さがあるDCDがある子どもの困難さを示す動きの代表格でもあります。

小学1年生のDCDがある子ども数名を観察した結果、紙を持つ手(非利き手)の手首に柔軟性がないために、ハサミを持つ姿勢が悪く、ハサミの開閉数が多くなることがわかりました。まずは子どもの非利き手の手首の柔軟性を確認し、柔軟性が高ければ言葉がけやモデル表示で、柔軟性が低ければ柔軟性を高める運動を取り入れるという違った対応が必要になってきます。

“特定の日常的な課題について、子どもの運動を詳細に観察すると、具体的にどういったときに子どものつまずきがあるかが見えてくる。観察の実施や運動の分析に時間と労力を要するという問題点はあるが、観察によって得られた知見は支援に直結しうるため、欠くことのできない評価プロセスといえる。”
『発達性協調運動障害』p.116より

[粗大運動:大縄跳び]
縄跳びにまったく興味を示さない5歳の保育園児(Bちゃん)。まずはほかの園児が大縄跳びをするとき「〇ちゃん、おはいりー」「はーい」と声を出すことで、Bちゃんの興味を引くところから始めると、繩の近くでBちゃんが他児を眺める機会が増えました。次に先生とともに縄をゆっくりくぐる、数回繰り返してから次は一人でくぐることができました。次に、縄の中心に〇を描き、その中に先生と2人で入って補助しながら飛ぶ、少しずつ補助を減らして飛ぶというスモールステップを繰り返すことで、最終的に他児と一緒に順番を待って飛ぶことができました。

先生やほかの園児が「Bちゃん、おはいりー」と声がけすることで興味を持たせモチベーションを維持した、〇を描くことで視覚的にわかりやすくしたことが大きなポイントといえます。

“保育現場での支援を成功させるには、集団の中に身を置くことで生じる活動への興味・意欲を支援に生かすこと、個人の能力に応じた支援と並行して他児からの影響を活用すること、小さな目標の達成を少しずつ体験させること、以上の3点が重要であると考えられる。”
『発達性協調運動障害』p.121より

本書では、青年期・成人期についても紹介されています。青年期・成人期になると、DCDに限らず発達障害の臨床像状況や困りごとは多様になっていきます。その背景として、幼少期・学童期と違い生活している環境の個人差が大きい、過去に受けた支援や治療の差異、家族がどの程度障害を受け入れ、サポートしてきたかの違いなどがあげられます。DCDは年齢が上がるほど診断の根拠や評価方法が難しくなり、どうしてもコミュニケーションや対人関係、ソーシャルスキルトレーニングなどの支援が中心になってくることが分かります。

まとめ

最後に、この本のポイントをあらためてまとめてみましょう。

●DCDの歴史が紹介されている
●DCDとはどんなものか紹介されている
●さまざまなデータや実践内容が掲載されている
●DCDを伴う発達障害がある子どもの支援例が掲載されている
●かなり専門的な内容まで触れられている


DCDのある子どもたちは、運動が著しく苦手だという特性があり、合理的な配慮を必要とします。本書はDCDの子どもたちの不器用さや動作の苦手さに対して、緻密な研究、検証や考察を基に、支援者がどのようにサポートすればいいかを、さまざまな事例を引きながら詳細に伝えています。DCDのある子どもへより細やかな支援を行うため、具体的で有効な示唆を与えてくれる本として、支援に関わる人たちに活用してもらいたい1冊です。

『発達性協調運動障害(DCD): 不器用さのある子どもの理解と支援 』

発達性協調運動障害(DCD): 不器用さのある子どもの理解と支援
辻井正次 (監修), 宮原資英 (監修), 澤江幸則 (著, 編集), 増田貴人 (著, 編集),七木田敦 (著, 編集)
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